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よん 時河此処子は早速俺に仕事を押し付けた。(修正ver)

 

 

 

「直里、VRMMOをプレイしたことはあるか?」


 コポコポと食後のお茶を入れながらコココさんは言った。アニメ美少女の顔がドット状に広がるエプロンをどこで買ったのかは知らないが、どちらかというと大人の色香を放つコココさんには不似合いだと思う。


「いやさすがにないっす」

「では、どのようなものかは知っているか?」

「はぁ、だいたいは」


 といいつつ本当は分からないのでコココさんが洗い物をしている隙にWikiることにした。

 検索ワード『VRMMO』。

 えーとなになに、『仮想現実・大規模多人数同時参加型オンライン』の略称か。

 要はゲームの世界に実際に入り込んだかのようにプレイできるゲームのことだろ。


「VRという言葉は元々、徳、善行という意味の英単語の形容詞から来ている。そして原義は『表層的にはそうではないが、本質的にはそうである』。これがVRの特徴を最もよく表している言葉だ」

「表層的にはそうではないが、本質的にはそうである……」

「現実世界とは別個の法則で呼吸をしている独立した世界。いわゆるゲームの世界とかマンガの世界がそうだな。要は『そこで何が起ころうが現実とは何の関係もない世界』がVRの狭義だ。それを踏まえた上で直里、そのメガネ越しに見える世界はVRか否か。どっちだ?」

「……違う、かな」


 何をしようとも現実に影響がないのがVRなら、このメガネはそうじゃない。

 このレンズを通してみる世界は99%現実だ。ほんと、クラスメイトが動物に見えたり、カマキリ先生が本当にカマキリに見えたりする以外はほんと現実。

 だからメガネ越しに猿に見える相手に「このサル」と言えば、リアル側の人間は怒りの感情を抱く。

 つまりそれはメガネ越しの世界での出来事がリアル側にも影響しているということだ。

 よって、メガネ越しに見える世界はVRではない。証明終わり。


「正解だ。メガネ越しに見た世界を一般的にMR(ミキシッド・リアリティー)と呼んでいる。現実世界とバーチャル世界、それぞれが別個の独立世界として存在するのではなく、二つの世界が融合し繋がりを持ちインタラクティブな相互作用を持ったものとして存在する。その技術を応用すれば、世界を変えることもできる。なぜなら世界そのものの風景を変えることができるのだからな。どうだ、すごいだろう私の妹は」

「……スマホで石切り」

「なにか言ったか?」

「いえ……ははは、すごいっすね……」


 コココさんの話を聞いただけだったら、きっと俺もメメメを多少なりとも尊敬したことだろう。

 しかし残念なことに俺はすでにそのMRとやらを教室で体験してしまっている。

 一年A組の教室をメメメのメガネ越しに見た時の変化を。

 それは一言で言えば「SO WHAT?」(=だから何?)。

 だって聞いてくれよ。

 カマキリのような数学の教師の授業を受けるクラスメイトたち。

 それがメガネをかけると、席に座ってカマキリの授業を受けるサルさんウサギさんキリンさんに変化する。

 そんだけ。

 ……近未来を予感させるようなすげえ技術を使ってなにをやるかと思えば、これかよ。

 まあ初体験だし、人間の姿が全て動物化した世界っていうのはそれなりに面白い光景ではあったが、慣れればどうということはない。

 せっかくの新技術も使い方次第だ。そういう意味で、メメメが作ったこのグラスは、スマホで石切りレベルの超無駄遣いだと思うのだ。


 きゅっ、と蛇口をひねり一仕事終えたコココさんがテーブルに付く。


「中学時代のメメメはほとんど学校には行かず、とある企業の研究所で開発に打ち込んでいた。それは本人も楽しんでやっていたよ。ある時、試作品の一つを社長が気に入り、海外で商品化された。それがそこそこのヒットになってな、一躍、妹はIT時代の天才少女として有名になった。中学を卒業したらぜひウチで働いて欲しいと言うオファーも一つや二つじゃなかった」

「……それ、本当なら凄いっすね」

「本当の話さ」


 と、その時コココさんの表情が曇った。コココさんの妹自慢は今に始まったことではないが、いつもドヤ顔で話すはずの彼女がなぜだかこの時ばかりはうれしそうではない。


「ロ、ロースカツカレーうまかったですよ?」

「ん? いきなりなんだ?」

「いや、何でも……」


 人を励ますなんて高等スキルを俺が扱えるはずもなく、スル―されてしまう。


「でも、それならどうして就職しなかったんですか? そんな就職の裏ルート通るチャンス、なかなかないじゃないっすか」

「それは、私が反対したんだ」


 コココさんがピッとテレビを付ける。32インチの薄型ディスプレイには檻の中の象に餌をやる飼育員の姿が映し出された。

どうやら動物の飼育員の一日を追うドキュメンタリー番組のようだ。結構好きなんだよな、こういう番組。


「お前も会って分かっただろうが、メメメは極度のコミュ症で、家族以外の人間に対する警戒心が非常に強い。元から引っ込み思案な性格だったが、思春期辺りからその傾向が極端に強くなってな。もしこのまま大人になったら、きっと妹は孤独な日々を送ることになると思ったんだ」

「じゃあ、あいつが高校にいるのはコココさんに言われたからですか」

「ああ。地元の高校に行き友達を作る。そんな他人と繋がる経験をさせるべきだと思ったからな。しかし当の妹は友達よりも研究を続けたいと私の意見を受け入れてくれなかった。何日も話しあって、結局、学校に研究所を作ってもらうという契約で互いに了承した」

「また契約ですか。よくもまあ学校側が受け入れてくれましたね」

「まあ、それもひとえにメメメの才能の力だ。といっても、正直、港高の校長が私達の親族でなければ厳しかっただろうが」

「ちょっと待て」


 当たり前のようにさらりと言ってのけたコココさんの一言を、俺は聞き逃さなかった。


「校長が親族って……それリアル?」

「以前、話さなかったか? 港高の現校長は私の祖父だ」

「ええええええええっ!」


 おどろきもののき二十世紀……って何のギャグだったっけな。ああそうだ子どものころにオヤジがよく言っていたやつだ。ったく、あまりの衝撃に十年以上前の無駄な記憶が蘇ったじゃないですか。


「そんなチートずるいっすよ……そりゃあ出席免除も許されるわ―」

「ま、待て。入学に関してはともかく、待遇に関してはあくまでもメメメの研究を評価してのことだ」

「いやいや何言ってるんですかー。ジジイが孫に対して抱く愛情なめちゃいけんですよ。我が身よりも大切にするんすよ? お小遣いあげるために腎臓売るレベルですよ~」

「いや、さすがにそれはないと思うが……」


 うん、さすがにそれはないか。

 ……ん、待てよ。

 俺もメメメの助手な訳だから、メメメと同様に授業を受けなくても出席を免除してもらえる可能性があるんじゃないか。

 うん、あるんじゃないかな♪


「あの、コココさん」

「それは無理だ」

「いや、まだ何も言ってないんですけど……」

「顔を見れば分かる。どうせメメメの助手という立場を利用して校長に取り入ろうとでも考えたのだろう」


 この人……化け物か? 心を読むなんて二次元世界では誰かが必ず持っているスキルだが、どこでそれを……ひょっとして大量のアニメをシャワーのように浴びることで自然とそのスキルが身に付いたとでも言うのか?


「ところで、明日の夕飯は何がいい?」

「と、唐突になんですか」


 なんだかイヤな予感が……


「妹との契約時に約束した特権は、先程も言った通りメメメの研究を評価した上でのことだ。しかし、入学して一か月になると言うのに、あいつはまだ一つも新しい製品を開発していない」

「そりゃ一か月じゃそこらじゃ無理でしょ」

「せめてコンセプトや方向性だけでもまとめてもらわなければ……それも今のようにラボに引きこもったままではアイデアを出すのは難しいだろう。そこでお前に早速仕事を頼みたい」

「……仕事、っすか。報酬はいただけるんでしょうか」

「もちろんだ」

「五万」

「五万っ! やりますっ! 何でもやりますっ! 何だったらコココさんの生足ナメさせてもらいますっ!」

「なんだそれは。お前にメリットしかないではないか」

「冗談です。で、何ですか。仕事って」

「金がかかると真剣だな。まあいい」


 まあ頭の中は大量のゲームソフトでいっぱいですけどね。あっ、ゲームアプリダウンロードして課金しまくるのもいいなー。五万もあれば、最初から最強パーチが……


「学校で何かに悩んでいたり問題を抱えている生徒を探して、メメメに引き合わせるんだ」

「引き合わせてどうするんですか?」

「VR技術を使ってメメメにその悩みを解決してもらおう。そうだな……いきなり個人と個人を引き合わせようとしても難しいか……そうだ、部活にしよう。直里、部活を作れ」

「はっ? 部活?」

「生徒の悩みを聞く部活。どこぞのアニメにも似たようなのがあった。そうすれば部の活動だからという表向きの理由ができ、生徒も相談しやすい。どうだ、私の名案は」

「まあ、おっしゃることは分かりますが……その」

「何だ、何か反論でも?」

「いえ……やりますっ! やらせて下さいっ!」

「……そのやる気、何だかあやしいな」

「べ、別にそんなことは……」

 

 くそっ、口笛がうまく吹けない。

 コココさんの提案の中には根本的な問題が一つ存在するのだが、なぜかこの時のコココさんはそれに気が付かなかったようだ。

 気付いたら最後、計画が一発で破綻する大問題なのだが。

 そうなると五万円もらえなくなることを恐れた俺は、敢えてこの時口にはしなかった。失敗してくれた方が俺にとっては好都合だし。


「まあいい。やる気になってくれるのは有難いことだからな。では頼んだぞ直里」

「サー、イエス、サ―ッ!」


 

   

  

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