⑬ 青野さんはかつて青野さんじゃなかった件について
寮を飛び出した俺は、そのまま青野さんを駅まで送ることにした。
「親には言ってあるのか?」
「……うん、大丈夫。さっきメールしたから」
「そっか」
人気のない夜道には涼しい風が吹いていた。
港高は団地の中にあり、道が狭いので車はほとんど通らない。遠くの犬の声が耳に届くほど静かだ。
駅から自宅へと戻る人影と何度かすれ違いながら、俺は青野さんにぽつぽつと質問していた。
まず確認したのは俺がメメメと出かけている間、コココさんと何をしていたのかについて。
すると返ってきた言葉は意外にも「ずーっとアニメを見てました」だった。
「全話ってことは五時間以上ずっと見てたのか?」
「うん、『そのシスターズたちが可愛すぎて――――』 何だっけ? 真也君も好きなんだよね」
「いや俺は別に……そんなことより付き合わされて大変だったな」
「ううん、面白かったよ。幼馴染のキャラクターがかわいかったなー」
「いっつも主人公の妹二人に邪魔されてかわいそうだけどな」
「だよねだよね! しかも主人公鈍感だから気付かないし……」
「まあアニメの設定だからな」
「……設定」
青野さんが独り言のように言って、ふと目覚めたように周囲を見回した。
「ねえ真也君、こうやって暗い道を女の子と歩いたのってどれくらいぶり?」
「え、えっとー」
おいおい、何てことを聞きやがるんですかあなたは。
そんな経験あるわけないでしょうが。
だが正直に話すとドン引きされそうなので。
「中二ぐらいの時かなあ(二次元で)」
「もっと前にもないデスカ? しょ、小学校六年生の林間学校の時とか」
「急に具体的だな――――ん?」
「……思い出しましたカ?」
「……いや、別に」
まさか、まさかな。
青野さんが俺の黒歴史を知っているはずがない。
「例えば、肝試しとかで女子とペアになった――」
「うわっ!」
住宅地に俺の叫び声が轟いた。
近所迷惑な俺の口を青野さんの手が覆う。
「真也君、ご近所迷惑だよ~」
「なんでそのことを……ひょっとして俺の小学校の同級生のやつから聞いたのか?」
「……やっぱり覚えてない」
青野さんが残念そうに下を向いた。
「もしかして青野さんも横西小なのか?」
「うん」
「でも俺の記憶では青野茜って同級生……」
「実はね、中学校の時に両親が離婚して名字が変わったんデス」
「名字が変わった? ……あっ!」
青野さんの言葉をきっかけに一人の女子の名前を思い出した。
あの時の肝試しで俺とペアになったクラスメイト。
間違いない、あの女子の名前は……
「……北森茜なのか」




