⑪―6
「……そんな」
ショックを隠し切れないまま、振り返ったその時。
二体の小さなリトルグレイ――意味被ってるのでリトルグレイジュニアということにしよう――がメメメを覗き込むようにしゃがんでいた。
「オネーチャン、ダイジョウブ?」
「オネーチャン、スッゲエカッコヨカッタヨ!」
机の下に座り込むメメメの身体を揺らしながら、興奮気味に喋るリアルリトルグレイ。
メガネをずらすと、それは兄弟らしき二人の小学生だった。
「なあ悪いんだけど、」
二人を止めるために声をかける。すると二人は一度こっちを向いたが、その直後にメメメが顔を上げたので、大喜びでメメメの腕を引っ張りはじめた。
「モットオネーチャンノプレイガミタイ」
「ネエ、ツヅキヤッテヨ」
「……続き?」
机の影でメメメの表情は分からなかった。しかしグレイたちの声に反応したのは間違いなかった。
「ウン、オネーチャンノプレイ、マジスゲーカッコヨカッタ!」
「モットミタイミタイミタイ! イイデショ?」
この偶発的で予想外の流れに対して、俺はどうすべきか迷っていた。メメメの状況を考えてガキどもを追っ払うか? それとも様子見で行くか?
「……うん」
俺が動く前にメメメが頷いた。ゆっくりと机の中から出てきて立ち上がる。
ぱっと見、落ち着きを取り戻したようにも思えたが、顔に生気がない。
「ヤッター!」
「ヤッター!」
メメメの表情とは裏腹に大喜びのリトルグレイジュニア。
うーん、やっぱりこのままメメメを外に連れ出した方が……と考えている最中、メメメは俺に近づいて、グッと俺の手をつかむと、TODの席へとぐいぐい引っ張った。
「お、おいメメメ」
「直里も一緒にやって」
有無を言わさぬ一言だった。
「そ、それはいいが、お前はできるのか?」
「……直里が一緒なら大丈夫」
「うっ」
そんな言葉を表情一つ変えずに言うとはメメメのやつ、どうしたんだ? グレイに囲まれたショックで性格がおかしくなったのかな?
一方、ふいを突かれた形の俺は、動悸が高まり、何も言えなくなる。
「……充電完了」
手を離す直前、俺の手をぎゅうっと握ってからメメメが席に着いた。
すると散り散りになった後、遠目で様子を伺っていたグレイが数人こっちにやってきた。
「オネーチャン、ガンバレー!」
「オネーチャン、ガンバレー!」
「うん、頑張る」
そう言って人差し指でキーをパチンと弾き、ゲーム再開。
ラストステージは高層ビルの内部からはじまった。
「行くよ、直里」
「あ、ああ」
考えてみると、メメメがコココさん以外の人と会話するのを見たのはこれが初めてだな。
【立ち上がれ、今こそ戦いの時だ】
【持たざる者から本物が現れる】
【世界の終わりを食い止めろ】
ゾンビと共に現れる決して短くはない文章。
それがメメメの手によって人間業とは思えないスピードで打ち込まれていく。
俺も必死にメメメに食らいつき文字を打ち込むが、全然間に合いません。
「ヤッパリスゴイ。シンジラレナイヨ」
「モーカタテデモラクショウナンジャン?」
あーあー飛び上がって喜ぶな。またギャラリー呼ぶだろうが。
心配しながらジュニアたちを一瞥した目線を戻そうとした時、メメメの口元が緩んでフッと笑った。
「……らくしょー」
左手をだらんと落とし、右手だけをキーボードに乗せるメメメ。
おいおい、乗っちまうんですかい。
【お前たちはただの練習台に過ぎない】
【砕け散れ】
【泣き叫べ】
【この世に生まれたことを後悔しながら死ね】
「後悔しながら死ねーっ!」
「言葉に出すな出すな。危ない人間に思われるだろうが」
そうツッコんでいる間にもゾンビたちが画面の外に吹っ飛んでいく。
さすがに両手打ちの時よりはスピードは落ちたが、それでも判定はAランクを下らない。
っつーか俺より早い。まーここまで圧倒的な力の差を見せつけられると悔しくなんかなくなりますね。いっそ清々しいというか。
「ヤバイヨ、コノネーチャン。ゲームノカミサマダヨ」
「ウンウン、ゼッタイセカイイチノゲーマーダヨ」
ふん、後で更に驚かせてやるぜ。何を隠そうこのお姉ちゃん、TODやるの初めてなんだぜ。っていうか今日がゲーセンデビューだし、もしかしたらゲームというもののプレイ自体もこれが初かもしれないってな。
なんてまるで我が事のように誇らしく思っているうち、ゲームはどんどん先へと進み、そしてついにビルの最上階へとやって来た。
『ディスイズザファイナルバトル』




