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⑪―3

 

 

 

 俺も打ちながら叫ぶ。さっきよりも文字数が多く、入力しづらい長音が二か所ある。果たして間に合うか……


『う、うわあああっ!』

 

 俺の入力よりも早くゾンビが住民に噛みついた。

 

『くそっ』


 その後、すぐにゾンビを倒したが、残念ながら助けることができなかった。


『もうっ!』


 その時、苛立ったメメメがキーボードをバンッと叩いた。


『言葉だけじゃよく分からない。初めてなんだからちゃんと丁寧に教えてよ』

『んなこと言われても……じゃあしばらく俺の見てろよ』

『やだ』

『……わがまますぎだろ』


 と、いかんいかん。このままじゃまたいつもの口喧嘩に発展するだけだ。


『じゃあ俺がそっちを手伝う』


 俺は席を立ってメメメの横に移動した。

 そして画面を直接指で差しながら説明する。


『ほら、ここに【ドラゴン(DORAGON)】って文字があるだろ。これをルビに書いてある通りにローマ字で打ち込むんだ。D・O・R・A・G……』


 俺の指示に従って、メメメがキーボードに文字を入力していく。

 打ち込まれた文字は赤色に変化し、そしてすべての文字が赤く染まると、一体のゾンビが緑色の血を噴いてその場に崩れ落ちた。


『おおっ、やった!』

『いいぞ、次は【孔雀(KUJAKU)】だ。K・U……』


 いちいち指を差すのは面倒だが、この方法ならメメメも大丈夫のようだ。


『わっ、今度は幼虫みたいのだが出てきたよ!』

『こいつらは一文字で倒せるから落ち着いて打て。【(KA)】、【(WA)】、【(GU)】、【(RA)】……』


 敵を倒すにつれ、徐々にゲームの方法について慣れていくメメメ。どうやら口で説明するよりも実際にプレイしながら覚えていくタイプのようだ。

 その後も順調に敵を倒していき、気が付けば俺が文字を言う前に入力するほどに成長していた。


『なるほど、もう大丈夫っ!』

『油断するなよ。次はボスが出てくるぞ』


 俺も席に戻り、プレイに復帰する。

 そして道路に横転したバスを吹き飛ばし、首のない巨大な化け物が立ちはだかった。

 

『めちゃくちゃ強そう!』

『ボスは文章が長いから落ち着いて入力するんだ』


 ボスが巨大な鉄球を振り回しながらこちらに近づいてくる。


俺の(ORENO)(IMOUTO)(GA)絶世の(ZESSEINO)美少女(BISYOUJO)なんて(NANTE)ありえない(ARIENAI)


 おー、ボスキャラに似合わないラノベ的文章だな。それが弱点ということなのか? ツッコみたい衝動を押さえ込んで必死に指を動かす。

 しかし俺が文字を打ち込むより早く、ボスが大きくのけ反って後退した。

 ……今のはメメメ?


『確かにさっきより文章長いね』

『いや、でもお前今、やけに早くなかったか?』


 画面には、打ち込むスピードがSランクと表示される。

 ボスキャラ相手に最高のSランクだと?


『そうかな? 普通じゃないか?』


 そして次の文字が表示される。


(IMOUTO)の部屋には(NOHEYANIHA)大量の(TAIRYOUNO)エロゲーが(EROGE-GA)隠されて(KAKUSARETE)いる(IRU)


 だからラノベかよっ! とその文字も一瞬にして消滅。

 文字が赤く変化したのすら分からなかった。

 当然Sランク。


『これで大丈夫なんだよね?』

『あ、ああ……』


 メメメが得意そうなゲームだと予測はしていたがまさかこれほどだとは。

 これだと全クリできるんじゃないか?

 くそっ、俺も負けてられない。


なんだかんだ(NANDAKANDA)言って俺は(ITTEOREHA)妹を(IMOUTOWO)愛して(AISITE)しまっている(SIMATTEIRU)

妹も(IMOUTOMO)まんざら兄(MANZARAANI)のことが(NOKOTOGA)嫌いでは(KIRAIDEHA)ないらしい(NAIRASII)

一緒に(ISSYONI)お風呂に(OHURONI)入ろうよ(HAIROUYO)お兄ちゃん(ONIITYAN)と言った(TOITTA)(IMOUTO)は中二(HATYUUNI)


『この文字を考えた開発者、絶対ラノベ好きだろ』


 ライフがゼロになり、その場に倒れたボスを眺めながら、俺は腕を組んで冷静にツッコむ。


『らくしょー♪』


 喜びのブイサインを俺に向けるメメメ。ちくしょー。そのドヤ顔ムカつくわー。


『メメメのタイピングが早すぎて俺の出番がない』

『ふっふー、伊達にヒッキーしてないですから♪』

『自慢することか』

『いてっ、何で叩く! やっぱり直里はSだ。ドサディスト直里』

『うるさいな、ちょっとトイレ行ってくる』

『えっ!』

 

 それまで楽しそうにしていたメメメの表情が曇る。

 しかしこの時の俺はメメメを冷たく突き放した。


『安心しろ。二、三分で帰ってくるから』

『で、でも……』

『ほら次のステージが始まるぞ』


 がんばれ、と軽く肩を叩いて席を離れる。途中で一度振り返ったらメメメはぎりぎりまで俺の方を見ていたが、やがてゲーム画面の方に身体を戻した。

 

 

 

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