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⑩―3

 

 

 

『直里、メメメを充分に(・・・)楽しませただろうな?』


 無理だ! 傍点で強調された『充分に』に対して、五〇円では安すぎる。仮に青い羊君を百個買ったところでスケープゴートの役にもならないだろう。

 ……くそっ、仕方がない。ひとまずは現状を何とかするか。

 

『コココさん、アニメの脚本通りです。紆余曲折を経てクライマックスで笑顔になるという王道パターン進行中ですよ~』

 

 うん、これなら現時点で嘘は付いていない。未来に対する期待のハードルを上げてしまうことにはなったが、とりあえず現時点での危険を一時回避できた。さすが俺、冴えてるぜ。ふはははは。

 と、ピロン。

 

『つまりうまくいっていないのだな』

『…………ハイ』

 

 だって仕方ないじゃん。悪いのは俺じゃない。俺の睡魔だもん……そんな言い訳が通用する相手じゃないので言いませんけど。

 すると、ピロロロロロと今度は着信が来た。もちろんコココさんからだ。出ても死、無視っても死。どうせ選べないなら自ら散ってやろうと着信ボタンを押したのは、こんな俺にも日本人魂が宿っていたということかもしれない。

 

「……も、もしもし」

「直里か、どうした? 全次元一かわいい妹とのデート中にしては元気がないが」

「……いえ、べ、別にそんなことないっすよ~、ははは……は」

「声が震えてるぞ。何を恐れている? まさか貴様、本当にメメメを城内に拉致したんじゃあるまいな」

「それはないです」

「確かに今日の妹は超絶かわいい。ジオン軍も恐れる連邦の白い悪魔のようなワンピース姿だからな。だからといって初デートで十八禁展開はさすがに姉として許しがたい」

「……許してもしませんから安心して下さい。つーか、これをデートだと認識しているのはコココさんだけですよ」

「……アニメのおとぼけ主人公でもすぐに理解するであろうフラグをお前はなぜこうも見逃すんだろうな」

 

 スマホ越しだったが、コココさんの呆れ顔が目に浮かぶように想像できた。

 

「な、何かすんません」

「仕方がない。もう一時間だけやるからメメメを楽しませてから帰って来い」

「ほえっ? た、楽しませる?」

「エロスじゃないぞ」

「いや、分かってるわ」

 

 なぜそうあなたはエロスに走るんですかね? 欲求不満なんでしょうか。身分は一人身でも心は団地妻なのでしょうか? でしたらこの直里め、喜んであなたの心のインターフォンを押させていただきますけど。

 

「……フウッ」

 

 げっ、溜息を付かれてしまった。

 

「あのう、俺そんなに見放される」

「……いや、この溜息はお前のことじゃない……ハァ~」

 

 連発ですか。エクトプラズム抜け出てませんか? と心配になるぐらいディープな溜息。コココさんらしくない。なんだか疲れてるみたいだが……

 

「……実を言うと、こっちはこっちで予想外の展開でな。七時過ぎぐらいに帰って来てくれた方が私としても都合がいいんだ。悪いが頼めるか?」

「もしかして青野さんと何かあったんですか?」

「すごいな、うさのんは」

 

 青野さん、あなた何をしているんですか? 常識外での変人偏差値東大越えのコココさんが二の句を告げられないでいるぞ。仮に青野さんがBL命だとして、その情熱を熱く語ったとしても笑顔で受け入れられるほどの包容力の持ち主なのに……

 

「えっと……青野さんはいったい何を」

「説明が難しいが、例えるなら、無理矢理手籠にしてやろうと襲った相手が実は淫乱少女で逆レ――」

 

 ……ツーツー。

 あらあら、イヤだわ。悪寒がして思わず電話を切ってしまったざます。

 と、すぐにピロロロロロ……。

 

「もしもし」

「直里、急に電話が切れたが電波が悪いのか?」

「あー、みたいっすね~。すんませ~ん」

 

 悪いのはアンタの頭蓋骨の中にあるブレーンだよ。真面目なシーンで下種な言葉吐くなんて、脳内メーカーで見たら二次元とエロで詰まっているんじゃないですか。

 

「どこまで話したか忘れてしまったが、とにかく残りの時間で一度でもいい。リアルの世界も捨てたもんじゃないとメメメに体験させてやってくれ。以上だ」

「あっ、ちょっとコココさんっ!」

「なんだ?」

「いや、えーとですね。何と言いますかね。ちょっと言葉が難しいのですが」

「……切るぞ」

「ああええとメメメって何が好きなんですかねっ!?」


 勇気を振り絞って尋ねてみる。わー、むっちゃ胸がバクバクしてるわ。


「……フッ、直里、お前意外とかわいい所があるんだな」


 えっ、今さら気付いたんですか? 俺ってメチャクチャ可愛いんですよ~。もうダックスフンド並みの愛らしさ。クーンクーン、飼って飼って♪


「どうしてそれが聞きたいんだ?」


 うっ、コココさんめ、理由分かってて聞くなんて野暮ってもんでしょうが。


「だから……メメメを楽しませたいというか。趣味とか好きなものとかに関係する場所があるならそこに連れて行った方が喜ぶのかなーとですね」

「……直里、だからお前はリア充になれないんだ」


 うそーん。まさかのキレ味のいい言葉でバッサリかよ。こっちは繊細なお年頃なんだぞ。もうちびっとでいいのでデリケートに扱って下さい……


「いいか、この機会に女心というものを多少は理解した方がいい」


 反射魔法でそっくりそのままお返ししたいものですな。あなたの心はなかなかのメンズですよ?


「女子というものはな、別に自分に合わせて欲しいなんてこれっぽっちも思っちゃいないんだ。逆に俺に付いて来いとぐいぐい引っ張っていくぐらいで丁度いい」

「オラオラ系ですか……」

「そこまで行くと極端だが、少なくともメメメを楽しませるのに好き嫌いを知る必要はない。お前の世界をメメメに教えてやるんだ。あとは自分で考えろ、じゃあな」

「あっ、コココさんっ!」


 ツー、ツー……くそっ、今度は切られた。


「ったく、ンなこと言われたって、どうしろって言うんだよ……」


メメメに俺の世界を、か。

そもそも俺の世界って何だよ、こっちが教えて欲しいぐらいだ。自慢できるような趣味がある訳じゃないし、蚊を摘まむ以外に誇れる特技もない。今の服装よろしく完璧フツーの無個性人間だもん。無印商品で販売されていてもおかしくない。


「……あれ、そういえばメメメはどこだ?」


 

 

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