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⑩ まだ寝足りない俺達はネカフェで仮眠を取ることにした……のだが。(修正ver)

 

 

 

 フッ、空がまぶしいぜ☆

 エレベーターのドアを出た俺はキザったらしく髪を掻き上げ、まだ温かさの残る午後の陽ざしを見上げた。


「素晴らしい快晴だなあ、メメメ」

「そうだねっ、直里♪」


 目をキラキラさせて俺に同調するメメメ。


「はっはっはっ、気持ちがいいなぁ、メメメ」

「うふふっ、気持ちがいいねえ、直里ぉ♪」

「ほら、街を見てごらん。まるで異世界のようじゃないか」

「リトルグレイに侵略された街。地球ヲワタ♪」


 秋葉原の大通りを埋め尽くすぎょろり目の銀色生物たち。映画でしか見れないような、ある種おぞましい光景だったが、別にどうということはない。

 というのも、この時の俺たちは絶賛現実逃避中だったからだ。


「そういえば、なんで俺達ネットカフェに入ったんだっけー」

「そうだねぇ、確か電車で眠足りなかったからだったと思うよー」

「だなー、そんで一時間だけ入ろうって話だったよなー」

「うん、一時間だけって話だったねー」

「で、今は何時なのかなー」

「こらこら何言ってるのー、自分のスマホ見れば分かるでしょー」

「あははーっ、本当だ。俺ってバカだわー。でもなんかスマホの時計狂っちゃったみたいでさー。なーんか三時半とか書いてるんだよねー」

「あははっ、偶然だねー。私のスマホも午後三時半だー。おっかしいなー」

「おかしいと言えばこのネカフェもおかしいぜー。だって二人で六千円って、いくらなんでもぼったくりだよなー」

「うんうん、ぼったくりだよぉー。ちょーっと延長しただけなのにねー」

「ひょっとして店員さんが間違えたんじゃないかなー。そういえばさっきレシートもらったけれど、」


 ネカフェのレシートをポケットから取り出して、二人で覗き込む。どれどれ……



『入店時間 9:07~15:33

 滞在時間 6時間26分

 基本料金   1h  ×  480  ………………480円     

 延長料金 5.5h  ×  480  ……………2640円

(人数 2名)             合計  6240円』


 

 俺の中で何かがばりーんと音を立てて割れた。

 それは俺達の虚構世界が紙きれ一枚によって打ち砕かれた音だった。

 

「…………くっ!」

「おいメメメッ! なぜエレベーターのボタンを押す!」

「いやだっ、離せえっ! もう一回寝るのっ! リセットするの!」

 

 俺の腕から逃れようと必死に抵抗するメメメ。くそっ、本当は止めたくなんてないさ。俺だってこんな現実から逃れたいし、認めたくない。

 でもだからって百三十七億年前に作られたリアルワールドにはリセットボタンは存在しないのだ。

 

「……メメメ、さすがにこれ以上は無理だって」

「ダメじゃないもんっ!」

「……ダメだ。そもそも俺達は電車の中で寝てしまった。本当はそこで止めるべきだったんだ。なのに俺達はそれだけでは飽き足らず」

「お願い、それ以上言わないでよっ、ううう」


 メメメはまだ現実を直視したくないらしく耳を塞ごうとした。しかし俺はその腕を強引に降ろさせる。俺の言葉がメメメを傷付けることは分かっている、だがこれ以上時間とお金を犠牲にしないためにはこうするしかないんだ。

 

「ネットカフェだって一時間だけと言って入った。だが結局は六時間半だ」

「……ううう」

「俺達はもう充分過ぎるぐらい寝た、寝た、寝たんだ」

「……私たち、二人ともバカだったね」

「ああ、そうだな。だがやってしまったものは仕方ない。大事なのは――――ってあれ?」

「……え?」

 

 俺はメメメの説得に夢中で周りが見えていなかった。

 そのせいで今の今まで気が付かなかったのだが、いつの間にか俺達は沢山の宇宙人に囲まれていた。


(サイキンノコーコーセートハオソロシイナ)

(ネカフェデロクジカンハントハ、セイヨクノカタマリイガイノナニモノデモナイ)


 このエイリアンども、いったい何の話してるんだ。性欲の塊って……あれ、ひょっとして……

 

(デンシャノナカデモイロイロシテイタミタイダゼ)

(ソレマジ。テイシャチュウモガタンゴトンテキナヤツカ)

 

 どうやら注目されているのは、エイリアンのとてつもなく途方もない勘違いのためのようだ。

 いくら見た目と声をノットヒューマンにしてもこれだけの視線を浴びると俺でもきつい。っつーか人間じゃない分、不気味さ半端ない。このまま誘拐されそうな気配すらある。

 少女の小さな手が俺の手をぎゅっと握る。


「……メメメ?」

「離脱、」

「えっ? ……わっ、ちょっ!」


 ぼそりとつぶやいた次の瞬間にはメメメは俺の手を掴んだまま走り出していた。


「ちょっ、そんな走るなって!」

「無理無理無理無理無理ぃっ!」


 お前はちびっこスタンド使いかよ……ってあれ? 何だかこんなこと前にもあったような……ああそうか……初めてメメメと会った時もこうやってクラスメイト達の視線から……

 ……あれからまだ二週間か。考えて見ればコイツとはまだ出会って間もないんだよな……なんだかもっと ずっと前から知り合いだったような感覚だよ……

 メメメと二人、人間あらざる者の隙間をかいくぐりながら不思議な感慨に耽っていると、メメメは途中で進路を変え、ビルに挟まれた日陰の細道に入っていき、少し進んだ所で足を止めた。

 

「はぁはぁ、あんなにっ……見られ……なんて無理無理……無理無理ぃ……」

「おま……スタンド使い……かよ……はぁはぁ」

「それ……前も言われ……どういう意味……」

「知らないのかよ……常識だろうが」

 

 少年ジャンプは文部科学省お墨付きの学習教材だろ? あ、でもコイツ小学校もあんまり行ってないから分かんないのか。ったく、日本人の癖にジョジョを知らないなんてスパイダーマンを知らないアメリカ人じゃあるまいし……例えになってねーよ、俺。

 

 

 

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