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⑧ ぼっちのメメメが秋葉原に行きたいらしく、とりあえず俺がシッタ―役を任されることになった。(修正ver)

 

 

 

 と、溶ける……。

 ゴールデンウィーク初日の午前はドラキュラがぐっと親指を立ててアイルビーバックと溶けて無くなりそうなおそろしい晴天だった。

 人類とドラキュラのクォーターである俺もいつもならまだ布団の中でぐーすか睡眠中なのだが。

 十字架とにんにくのダブル攻撃よりも恐ろしいコココさんの頼みというか命令により、なぜか根岸線にある港南台駅構内のコンビニ前に立っているなう。


 秋葉原に行くのだ。


 そのため、私服は迷わず戦闘服にした。

 無地の白いロンTに薄手の黒いパーカーをはおり、下は黒のズボン、黒のスニーカー。

 あとは黒のキャップを深々と被れば完全に無個性。対人格ゲーで勝利したとしても顔を覚えられることはないので安心してぶちのめすことができるのでございます。しかもコココさんからお使い&シッター代として一万円頂戴しておりますし。うへへ、腕が鳴るぜ。

 まあアキバまでの往復のチャージ代ですでに二千円消えてしまったが。


 ふわぁ。


 それにしてもこっから片道一時間半弱とか軽く旅行だろ。俺は寝るつもりだからいいが、対人恐怖症のメメメが耐えられんのかなーと東京都内の路線図アプリを見ながら不安を抱いていると、すぐそばの道路脇に一台のタクシーが停車した。

 後部座席のドアが開き、ハイヒールがかつんと鳴った。


「待たせたな、直里」

 

 地上に現れた色気むんむんのグラマー美女に、周囲の男どもの目線が吸い寄せられる。

 胸が強調された紫のキャミソールに長い脚にピッタリと密着した黒のズボン。

 腕を通さずにはおっている白の上着がバタバタと揺れ、紫がかった艶やかな髪がなびく。

 へへへ、どうだ。羨ましいだろう。俺は毎日この人の手料理を食べているんだぜ。


「ん、どうした。顔が赤いぞ」

「い、いえ~。あまりにもコココさんがきれいなんで見惚れちゃっただけですよ~あはは~」

「ふん。ぼっちがお世辞を覚えたところで何の得にもならんぞ」


 くっ、せっかく勇気を振り絞って言ったというのに。

 冗談っぽくしか女性を褒められない非リア充の不器用さを察してくれよ。


「……っていうかメメメはどうしたんすか?」

「ん? 一緒に乗って来たぞ」


 別にこのままコココさんと二人で秋葉原コースでも俺は全然構わないんですけどね。

 むしろそっちの方が――――


 ――――その時。コッ、とスニーカーの小さな音がして。

 ビュッ、と水交じりの風が吹いた。


「メメメ、ARグラスの調子はどうだ?」

「……悪くない」


 タクシーからその少女が降りたった瞬間、日差しが一段階強くなるのを感じたのは俺だけだろうか。

 足を付けている地面も若干斜めに傾いた感じがする。

 その時駅前にいた全ての人はもちろん、地水火風全ての精霊すらも彼女の出現に気を取られ、まるでメメメとコココさんを除く世界の全てが停まったかのような――――

 

――――バシャッ。

 

「……あっ」

「ん、どうした直里」


 顔に飛んだ水飛沫で俺は我に返った。

 目線の先で、フラワーショップのお姉さんがホースで水を撒いていた。

 ……なーんだ。偶然か。


「いえ、何でもないっすよ~」


 地水火風の精霊って誰だよ、久しぶりのアキバだからって中二病が復活させんじゃねえと自省しつつコココさんの背後に現れたちっこい少女に目を向ける。

 メメメは思ったよりもいつも通りで、つまり不機嫌そうに口を尖らせていた。

 性格とはま逆な清楚な雰囲気の白いワンピースに美少女アニメの顔でできたぬいぐるみ生地の鞄を肩にかけ、赤いスニーカーを……足もちっこいよな。サイズ何センチなんだろ。

 そんでもっていつものようにメガネ(もちろんARグラス)をしているのだが、頭には赤いリボンを付けていて黒髪によく映える。あーマジで美少女マキシマム。


「……やばいな」

「ん? 何か言った?」

「えっ? いやっ! ……別に」


 って、なーに目を逸らしてんだ俺は。

 相手は子どもだぞ……同級生だけど。

 

 「直里、念を押すようで悪いが青野茜の件、大丈夫なんだろうな?」

 

 風に乱れるメメメの髪を押さえながらコココさんが言った。もはやこの光景、ずっと見ていたい。絵になりすぎだろ。

 

「はい、男子寮の前で待ち合わせってことでオーケーのメールもらってるんで……でもマジで頼んますよ? コココさんの指示通り、まだあいつ俺がいないって知らないんで」

「フフ、分かっている。彼女にはちゃんとうまく言っておく。その替わり、メメメを頼んだぞ。間違っても渡した金で変なところに入ろうとするなよ」

「あー入りませんし入れませんし入る気もないっす」

「お姉ちゃん、変なところって何?」

 

 メメメ、そんなつぶらな瞳で聞くんじゃない。

 未成年は入れないド派手なお城のことだよ……

 

「フフ、おまえはまだ知らなくていい所だ。だが注意しろよメメメ。この男、口ではああ言ってはいるが、腐ってもDTのDKだ。強引にどこかへ連れて行かれそうになったら、その時は刺してでも逃げるんだぞ」

「うん、分かった! ちゃんと首の大動脈を狙うねエヘッ♪」


 この姉妹に不足している頭のネジはアキバに売っていないのだろうか。

 これ以上二人に話をさせていたらとんでもないことになりそうだな……


「じゃ、じゃあいってきますね。メメメ、行くぞ」

「はぁっ? 哺乳類が私に指図しないでくれる?」

「じゃあお前はいったい何類なんだよコロポックル」

「うわっ、こいつタヌキの分際で私を小人扱いした! こいつ……ブラックホールの中心に送り込んでぼっち完全体にしてやりたい」

「ふん、浅はかな知識で適当なことを言うな。ブラホはこの現代においても存在すら不確かな天体なんだぞ。落ちたやつだってまだいないのに脱出できないなんて軽々しく決めつけるなよな」

「なっ!」

「フフッ、まさか言い返されるとは思っていなかっただろう? 悪いがSFは俺の得意分野なんでね。そもそもブラホというものはだな、痛っ! 何するんですかコココさんっ!」

「直里、姉のいる前で妹にラブホの知識をレクチャーしようとするな」

「いや、ラブホじゃなくてブラホなんですが……」

「お前にとってはどっちも同じだろうが」


 未知の領域、という意味ではね。

 って、うまいこと言わせないで下さい……

 頬の筋肉がドヤ顔に向けて一直線に突き進んでいくので。


「ほら、さっさと行って来い」

「わ、分かってますよ……」


 俺だって乗車位置に行列ができる前に早く並びたいです。

 ゲーセンで実力を発揮するためにも、さっさと座って一秒でも多く眠らなければ。


「じゃ、行ってくるねお姉ちゃん」

「うむ」

「ほら、さっさと行けタヌキ」

「はぁっ? コロボックルが俺に指図するなよ」

「しっぽふりふりしてるくせに何様だタヌキ」

「くっ、こいつ小人の分際で俺を……って」


 ……いかんいかん。このままじゃ無限ループだ。

 いい加減行かないと行列ができちまう。


「じゃっ、また寮で……」

「うむ、メメメを頼んだぞ。ああそうだ直里、電車で足腰の弱いお年寄りがいたらちゃんと席を譲れよ?」


 ……うっ。


「あ、当たり前じゃないですか~」

「本当か? 今のタイムラグはかなり怪しかったぞ?」

「そ、そんなことないっすよ~。僕、基本他人にはジェントルマンなんで、足腰が弱い人を見たらむしろ率先して譲りますよ~」


 生まれたての子羊みたいな足ガクブルの老婆が相手なら、ね。

 

「まったく……まぁ、どうしても座りたかったら妊娠中のリア充から席を譲ってもらえ。何か言われたら『勝ち組顔してんじゃねえ専業主婦が』と睨みつければ問題ない」

「悪魔の所業だ」


 マタニティーマークって知ってますかと尋ねたいことこの上ないが、これ以上不毛な会話を続けても何の得もないので、必死の作り笑顔でコココさんに手を振り振り俺は改札へと向かうのだった。


 

 

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