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いち とりあえず時河此処子は妹をくれてやると言った。(修正ver)

 こんにちは、PNむこーむこです。

 前回はまともにプロット通りに進まず、途中で死んでしまいましたが、今回、ちょっとやり方を変えて再挑戦しています! 目指せ完結……


あー超自信ない(心の声)

 

 

 

「ではもうバスケ部に入るつもりはないんだな」


 学生靴を履いた爪先をぐりぐりと回して、痛みがないか確かめている俺に、寮母の時河コココさんはそう言って弁当箱を差し出した。弁当を包む赤色のナフキンに描かれた美少女アニメのキャラクターと目が合う。『そのシスターズたちが可愛過ぎて商店街が賑わいを取り戻しつつある』という長大なタイトルのアニメのキャラクターだ。寮にいた間にワンクール分全部見せられましたのでよく覚えている。


「授業が終ったらまっすぐ寮に帰ってきますよ。今晩はカツカレーが食べたいな~」


 ナフキンは通学中にそっと外しておこうと脳内メモにぐりぐりと刻みつけながら、まるで旦那のように夕飯のリクエストをする。昨晩のカレーライスの残りがあるので、調理としてはカツを揚げるだけのはずだ。おお、なんて嫁思いの優しい俺。


「私はお前の嫁じゃないぞ、直里。更に言えば母親でもない。ただの寮母だ」

「そんな寂しいこと言わないで下さいよ。これまでも作ってくれたじゃないですか~」

「……怪我で動けないお前を見て一瞬でもかわいそうだと思ってしまったことが失敗だったな」

「あの時は引っかかっていただいてあざっす♪」


 いや~あの時の自分の名演技は我ながら素晴らしかったぜ。入学初日で左足の靭帯を切り、寮でギプス生活を送ることになった俺が、廊下で松葉杖を滑らせた時のことだ。あ、転んだのはわざとじゃないよ。ここはスケートリンクかってぐらいに寮母のコココさんがワックスがけしてたせいです。

 その後、ドサッと倒れた俺を抱きあげたコココさんに「入学式初日に怪我なんてぼっち確定イベント食らったら、俺はこれからどうやって生きていけばいいんですか」と泣いて縋ったのはわざとだけれど。 

涙もちゃんと出しましたよ。マジで俺かわいそうって思ったら自然と出たのさ。こりゃきっと将来大物俳優に、って思うほど自惚れてはいないが、ともかくそれから今日までの二週間、コココさんは足の動けない俺のためにご飯を作ったり、生活の世話をしてくれたのだった。

 ホント天国でした。


「……本当に演技だったのか?」

「いや~高校生にもなって女の前でリアル泣きなんてあり得ないっすよ~。そもそも泣くほど真剣にリアル生きようとしてないですし」

「でも、モテたかったんだろう? 中学時代帰宅部ぼっちだったお前が、異性にキャアキャア言われたいがためにクラブカーストの頂点にあるバスケ部に入ろうとした。それなりに勇気のいることだと思うが」

「いや~若かったですよね。一応腐っても思春期なんで、高校入学をきっかけに『いっちょリア充イベント踏んでみっか』ってドラゴンボール探しはじめたんですけど、ブルマさんに出会う前につまづいちゃいました」


 ドラゴンボールでいう所の孫悟空や孫悟飯、トランクスのような強くて優しい二枚目キャラ。

 もちろん、俺はそんなサイヤ人側にはなれない。「何で俺だけ……」が口癖のクリリンがいい所だ。

 でも知ってるか? クリリンって人類の中では世界最強なんだぜ。あんなツルっぱげのチビの癖して、超美人(人造人間だけど)と結婚して子どもまで作ってるんだぜ。

 なら身長も顔も平凡な俺だってさ、何とかなるんじゃね?

 バスケ部経験者には勝てなくても、努力すれば初心者の中で一番になれたり。

 学年で一番可愛い子とは付き合えなくても、バスケ部だったらまあ普通に可愛いぐらいの子とデートぐらいはさ、ない話でもないだろ。

 そんな現実的で控え目な下心を胸に、俺はバスケ部に入ろうとしたのだが。

 かわいそうなことにリバウンドでボールを掴んで着地した途端、左足の靭帯を切ってしまいましたとさ。めでたしめでたし、ぼうや~よいこだねんねしな。

 と、全然めでたくない昔話の悲劇的結末に感動トリップしていると、コココさんが俺の脳天にチョップした。ぐへっ。


 

「運動不足の人間がいきなりバスケ部と同じ練習をしようとするからだ。事前にジョギングで身体を温め入念にストレッチをしていれば怪我することなんて」

「……まあ、そうだったかもしれませんね」


 実際はジョギングもストレッチも万全で、更に言えば入学までの二週間毎晩それなりに走って準備してたんだけどね。もちろん、そんな恥ずかしい舞台裏を暴露できるはずもなく。


「でもこれがずっと受け身で生きてきた俺の運命なんですよ。今さらリア充なんてキャラ変は認められないんです。これまで通り流れに乗って生きるしか」

「……直里」

「ちなみに今の流れは『年上の美人さんに養ってもらいながらイチャる』なんですけどね」

「私に年下のガキを養う趣味はない」


 二ッと笑ってみせた俺に、コココさんは強がる子どもを見るような優しい目で俺を見つめた。

 おい、言っておくけど本気で希望してるからな。


「あ、カツはロースしか食べないんで、お願いします」


学校生活は捨て時間にして寮母さんとお色気たっぷりの三年間。それはそれで悪くないな、と思いながら寮を出ようとすると「ちょっと待て」と鞄を掴まれた。


「どうしました? もしかして、いってらっしゃいのチューでもしてくれるとか」

「何でそうなる。いや、直里に妹のことで頼みがあるんだ」

「妹……ああ、俺と同じA組でしたっけ」


 コココさんの妹については、寮にいる間に色々と教えてもらった。

 時河萌々女。誕生日は七月七日の七夕。身長一四六センチのAB型。

 知能はずば抜けて高いらしく、学年で三名しかいない学費免除の特別推薦枠で入学したらしい。 


「妹はその非凡さ故に他人とコミュニケーションを取るのが苦手でな。学校生活がうまくいっているか心配なんだ。気にかけてやって欲しい」


 なるほど、つまりぼっちなのね。


「別にいいですけど」

「意外だな。てっきり断られるものだと思っていたぞ」

「これでも二週間面倒見て貰った恩義は感じていますからね。それぐらいの恩返しはしますよ」


 それにコココさん曰く、背は低いものの容姿は『全次元一可愛い』らしいし。

 年上のお姉さんも捨てがたいが、クラスメイトという王道の響きも嫌いじゃない。


(直里クン、クラスのみんなには内緒だよっ)


 とか付き合ってるの秘密にしたりとかマジ青春。アニメの見過ぎかな。いや、見せられ過ぎか。アニオタのコココさんに付き合わされて、この二週間でだいぶくわしくなったよ。


「なるほどな。流れに乗って生きるなんて言いながらも恋人イベントは欲しいわけか」


 フッと口元に笑みを浮かべるコココさん。失敬な、そんなつもりは毛頭ない。

 そんなつもりは毛頭ない。


「そんなつもりは毛頭ないっ!」

「……どうして三回も言うんだ」


 やべ、声に出てた。「連呼する=嘘」の方程式を見付けられる前に、口を押さえてオートリピート機能をオフにする。


「フッ、まあいい。お前になら私の妹をくれてやろう」

「ゴフォッ!」


 平然と言い放ったコココさんの暴言に、止めていた息を唾交じりに噴き出してしまった。


「なんだよ急に咳込んで。汚いな」

「すみません……ってココ子さんが悪いんでしょうが! 『妹をやろう』なんて急に言い出すから」

「私が妹との交際を許可したのは直里、お前が初めてだぞ。光栄に思え」

「光栄につったって、いくらコココさんが許可しても本人の承諾がなければ意味がないでしょうが」

「もちろん、あとはお前の努力次第だ。しかしこれならオマエも寮に引きこもろうなんて考えずに、学校に行きたいと思えるだろう。なんといったって私の妹はアニメの美少女よりも可愛いからな」

「き、期待しときます」


 こんなに美人で胸も大きくて面倒見もいいのに恋人がいないのは、この性格のせいだろうな。

 二次元のキャラクターとリアル少女を同次元で比べるって発想が超人すぎる。


「じゃっ、行ってきますね」

「待て直里」

「何ですか? やっぱりチューしたくなりました?」

「行く前に、『ラボに入る』と言ってくれないか?」

「はっ?」


 おっしゃっている意味が分からないのですが。


「これは私の家計に代々伝わるまじないのようなものでな。これを三回強く唱えてから出掛けると、その日一日無事に過ごせると言われているんだ」

「……へ、へえーっ」


 まじないって、どんな家計だよ。


「もちろん、心の底から信じているわけではないが、入学式初日で怪我をしたお前だ。私を安心させるためだと思って頼む」

「ま、まあそこまで言うなら」


 俺は戸惑いつつも、コココさんの言う通りに従った。


「もっと強く、もっと心をこめて!」

「ラボに入るラボに入るラボに入るーっ! ……ふぅ、これでいいですか」

「ああ。これで安心だ」


 にやりと笑うコココさん。あれ、ひょっとして俺、何か騙されている?


「あの~、コココさん、今のは」

「ほら、何をしている。さっさと学校に行け」

「は、はあ」


 胸には違和感がこれでもかというぐらい膨らんでいたが、超人の細い手にしっしっと追い払われ、俺は追い払われるように寮を出た。


 

 

 

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