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⑥―3

 

 

 

「よし、直里。俺の話を聞け」

「は、はあ」

「茜はホントどうしようもないバカでよー。不器用でちょこっと抜けてておっちょこちょいのポンコツなんだ」


 それ自分で言ってるんだよね……。


「そのくせして無駄に努力家なもんだから、よく空回りして周囲の失笑を買うことが多い。直里もいたから覚えてんだろう、バスケ部の体験入部の時にやった自己紹介を。別に誰も望んでなんかいやしないのに、勝手に暴走して時を止めた」


 もちろんです。

 赤塚富士夫的に忘れようとしても思い出せないのだ。


「昔からそんな感じだから、友達の前でも『こんなこと言ったら周りに変に思われるんじゃないか』とか思ってなかなか自分の本音を曝け出せねえって始末。でも胸にずっとしまっておける心のキャパもねえ。っつーことでかわいそうだからこの俺様がコイツの話を聞いてやってるってわけだ。エヘン」

「へ、へぇ」

「なんだよ、さっきから『はあ』とか『へえ』でしか返事してねえじゃねえか」


 両手を何度も伸ばしながらぷんぷんと怒るうさのん。

 だってそりゃそうだろ。

 お前の話のホントの話者は青野さんなんだから。

 わざわざパペットを使って俺と会話するという状況が異常すぎて話が頭に入らんのですよ。


「……最近、茜が新たな悩みを抱えやがったようだから、早いうちに相談に乗ってやろうと思ってよ。そんで授業を抜け出してここに連れてきたんだ。まあ堂々とサボる勇気はないから表面上は体調不良なんて嘘を付いてだが」


 短い手でびしばしと青野さんの頭を叩くうさのん。

 そのパンチに青野さんがリアクションを取り、いたいいたいと左手でガードする。

 五十年以上コンビを続けてきた夫婦漫才師のようにぴったりと息が合っている。


「さすがに何度もこんなことをするわけにはいかない。せめてクラスに一人でも茜の相談に乗ってくれるやつがいればと思うんだが……」


 ちらっ。


「……どこかにそんな()っとこ前なことができるカッコいい青年はいないだろうか」


 ちらっ。ちらっ。

 腕を組んで悩む仕草をしながら、ちらちらと俺の反応を伺い見る動きを挟んでくるうさのん。サブリミナル効果狙ってんのか知らんが超絶ウザい。長い両耳を固結びして指でグルグルと振り回してやりたい。

 だが直里はジェントルマンな男。あくまでも思うだけ。実際にそんなことはしない。

 遠回しな形ではあるが、これは青野さんが俺に相談したいということでもあるし。


「お、俺でよければ別にいいけど?」


 サブリミナルが無意識に訴えた効果もあり、恋愛フラグの可能性がゼロではないという期待もあり、俺は無責任にも頷いてしまった。


「さすが直里、俺が見込んだだけのことはあるぜ」


 俺の肩を叩きながらうさのんが言う。

 しかし、すぐに青野さんの右手につかまれた。


「こら、私のいない間に勝手に話を進めちゃダメでしょ」


 あんたずっとここにいただろ。


「ごめんね、真也くん。この子が余計なことを……そんなことまで話して欲しいなんて言ってなかったのに……」

「いや別にあはは」


 こんな時、笑ってごまかす以外に思いつかない自分のコミュ力の低さが悲しい。

 それにしても、青野さんはどこまでマジなんだろ。

 うさのんは青野さんが操っているわけだから、その言葉も青野さんの意思で紡がれていると考えるのが自然。というかそれ以外の選択肢がそもそも存在しないんだけど。

しかし、そう考えると青野さんは、うさのんに自分の言いたいことを代弁させる計算高い策士ということになる。

 だが彼女はそうではない。断言できる。

 なぜかと言われてもうまく説明できないがオーラ? 雰囲気的にそういったずる賢さは青野さんにはない。欠如していると言っていいぐらいだ。


「本当にごめんなさい。うさのんの言葉は忘れてもらって全然かまわないカラッ」


 俺が断りやすいように一生懸命に作ったその笑顔はズルい。計算じゃないとしてもズルすぎる。

 ダメだと分かっちゃいながらズルズルと足を踏み入れてしまう中毒性のある笑顔だ。

 ゲーム中毒の俺はこの手の誘惑に勝てたことがない。


「相談に乗るのはいいけどアドバイスとか期待するな。あくまでも聞くだけだからな」

「……直里君っ」


 恥ずかしすぎてソファから立ち上がり、目の前の壁に言った。


「ありがとね……でも」


 青野さんの気配が俺の真後ろにきた。背中に手を置く。


「やっぱり私にはできないと思う。誰かに自分の思っていることをそのまま話すなんて」

「……そうか。でもあまり気にすることはないと思うぞ。俺もできないし」

「またまたーっ。そんなことないと思うよっ」

「そんなことありまくりだ。そもそも悩みを打ち明ける以前に、表面的な話題を交わす相手すらいないからな」

「はっ、確かに!」


 おい、即納得するな。


「あっ、ご、ごめんなさい。ええと…そ、そそそんなことはないっと思うヨ?」

 

 なんで今度は疑問形なんだよ。


「……でもそっかー。直里君、確かに一匹狼って感じだもんね。うん、カッコいいよ!」


 俺の前にやってきて、よしよしと頭を撫でる青野さん。


「偉いねー。あっ、私にできることがあるなら何でもするから、相談してネッ」


 あれあれーおっかしいぞー。

 立場が逆転しているなー。


「ちょっと待ってね。連絡先書くから……」


 青野さんがメモ帳のページを破って、番号と名前を書いたものを俺に渡した。


「うさのんのことがバレたのは恥ずかしかったけれど、でもこんなに自分のことを話せたのは直里君がはじめてだよ。ありがとねっ……あっ、そうだ。そろそろ田中先生のところに戻らないと」


 そう言って青野さんは走り出した。

 去り際、「お前がバスケ部に来なくて茜は残念そうにしてたぜ」とニヤリ顔したうさのん。

 二時間目を終えるチャイムが鳴った。


 神様、これは何のフラグですか?

 

 

 

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