⑥ 俺の癒しスポットが癒しキャラの青野さんに占領されていた。(修正ver)
ホラーゲーム恐怖の包丁さんからのリアル襲撃を目の当たりにした俺は、命の危険を感じ、すぐさまラボの扉から脱出した。
向かった先は、先日発見した新たな癒しスポット。
ラボとは反対側にある、今は使われていない焼却炉のある一角である。
そこには応接室にあるような豪華なソファが体育館の壁に沿うように置かれていた。
おそらく粗大ごみとして捨てられるはずのものを管理人が休憩用に利用していたのだろう。雨風を避けるブルーシートに覆われ、灰皿が置かれていた。
昼休みまでソファでごろんとするか。
そう思って、癒しスポットへと足を運んだのだが。
まさかのまさかのまさかさん。
先客がいた。
「なっ、」
壁のでっぱりに身を隠し、陰から様子を伺う。
「そうかそうかー大変だねえ」
一人の女生徒がソファに浅く腰掛けていた。
周囲に人はいないようが、誰かと会話をしている。
電話中か。
「うんうん、分かるよー」
会話の相手がそばにいるかのように相槌を打っている。
俺の嫌いなヤンキー様ではなさそうだ。
しかし授業中にこんなところにいるのだから、真面目な生徒とも言い難い。
「あははっ、何ですかそれー」
女生徒が顔を上げて笑う。
その笑顔を見て思わずはっとする。
俺は彼女のことを知っていた。というか毎日顔を合わせている。
同じクラスの青野茜。
バスケ部の体験入部に参加していたマネージャー志望の子だ。
『中学三年生の時のあだ名は“置くだけさん”です』
体験入部の自己紹介で青野さんはそう言い、みんなの時間を停めた。
異変に気付いて『青野茜』→『あおあか』→『ブルーレッド』→『ブルーレット』→『置くだけさん』なのだと説明して、再び地球は回りはじめたが、全員の脳内メモに「青野さん=顔はかわいいがへんな人」という記憶が刻まれたのは言うまでもない。
ただ、その辺りの飛びっぷりが男心を鷲掴みにすることも多いんだよな。
若干、俺も鷲られた。いや見た目もそうだけれど、性格も優しそうだしさ。
「大丈夫、私、頑張るからね!」
両手にこぶしを作って、えいえいおーと左手を高く挙げる。
育ちがよさそうな優等生だが、真面目すぎてちょっと変。
そんな印象が強まるばかりだ。
授業中に教室を出て電話をしているのだから、本来真面目とは言えないのだろうが、それでも彼女が俺と同じおサボり様キャラだとは思えない。
あっ、電話に夢中でチャイムに気が付かなかった! なんてマジで言いそうだなと思いながら青野さんの様子を伺っていた時、俺は意外なことに気付いて目を細めた。
スマホで通話中だと覆っていたのに、彼女の両手にそれらしきものがない。
替わりにウサギのぬいぐるみ? のようなものを左手に持っていた。
それを見て俺の中に一つの考えが生まれたが、さすがにそれはないだろうと即却下しました。
いやだって高校生にもなって……
「うーん、そろそろ行こっかなー。あんまり長くいたら田中先生に心配されるかもしれないし」
青野さんが立ち上がる。
おそらく百五十センチ前後であろう背の低い身体がすこしだけ空に伸びた。
俺の知る限り“田中先生”は保健室のあの人しかいない。
なるほど、俺と同じ王道の仮病パターンを使ったわけか。
今から保健室に戻るとすれば必然的に俺のいる場所を通るだろう。
見付かる前に一度ここを離れるでござる。
壁側に背中を向けたまま、忍者気分でその場を後にしようとする。
しかし、青野さんの一言で俺は足を止めた。
「それにしても直里君、どこに行ったんだろ」
なぜここで俺の話題が出る。
「田中先生も教えてくれなかったし。ひょっとしてもう帰っちゃったのかな」
僕はここにいるよ。
なんてぼっちの魂の叫びを吐くわけはないが、とりあえずマズイことになった。
青野さんがこっちへ向かってきていた。
今から忍者スキルを使用しても青野さんに見られてしまう。
……隠れていても同じことか。それならいっそ。
「……えっ、直里君?」
「よ、よお」
突然、目の前に現れた俺に青野さんは目をパチクリさせた。
「嘘、なんで……あっ」
はっと気付いたかのように後ずさり、ウサギのパペットを背中に隠す。
「み、みみ、見たっ?」
よほど見られたくなかったのか、耳まで真っ赤にして俺の方をチラチラと覗く青野さん。
まあ、今さら嘘を付いても仕方がないな。
「……わるい。見た」
「ぎょぎょぎょっ!」
君は魚くんか?
「……あの、もしかして直里君もこの場所に休憩に来たのデスカ?」
目をきょろきょろさせながら青野さんが尋ねた。
クラスメイトに敬語使わないでもらえませんかね。逆に距離を感じてしまいますので。
「ま、まあ……青野さんもこの場所を知ってたんですね」
「は、はいっ。すみません……勝手に使ってしまって……」




