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ごのに


「これって……」

「知ってる? 現代の日本の結婚の約四割以上が、学生時代に付き合った相手となの。そして男の価値と言えば、やっぱりコレでしょう?」

「おおっ……マジかこいつ」


 十五歳の普通高校に通う女子が人差し指と親指をくっ付けて、男は金だと言い切るとは、この世界、マジで末世じゃないのか? 最近の女子はみんなこうなのか? だったら俺、生涯童貞守り切るよ。むしろそっちの方が立派な気がする。


「私はね、一生遊んで暮らしたいわけ。理想的には高校を卒業と同時に結婚して、六本木ヒルズのの屋上階で、東京の街を見下ろしながらワインを飲んで暮らしたいわ。うふっ♪」

「未成年はワイン飲んじゃだめなんですよ……」

「馬鹿ね、それはモノの例えよ。で、そう考えるとやっぱり重要なのは本人よりも親の資産だと思うの。でも金持ちの家の息子なんて簡単には出会えないでしょ? だから、こうやって学校全体の男子を調べて、私のメガネに適う相手を探してるのよ」

「……はーっ」

「な、何よ失礼ね。私の前で溜め息なんて」

「いや……つくづく自分が情けないと思ってさ」


 肩から力が抜けていく。

 いくら顔がいいとは言え、ここまで徹底的にクズだと、コミュ障の俺でも気を遣うのが馬鹿らしく思えてきた。


「ここまでクズだとなんだか勇気が貰えるわ。ありがとな」

「え、ええ。よく意味が分からないけど、どういたしまして」

「それで、お目当ての相手はまだ見つかっていないのか?」

「そうね……今のところの有力候補はやっぱりバスケ部の三年キャプテンの芦村さんかしら」

「……ああ、あの人か」


 芦村という先輩なら見たことがある。部活体験の時に、見学に来た俺ら一年の前で挨拶をした人だ。身長高くて、堀の深い外国人みたいな顔立ち。爽やかで、「俺ら全国一位目指すから、付いて来い」なんてカッコつけてやがった。まあ、俺もその時は軽く感動して涙目になったんだけど、それは秘しておこう。


「私の得た情報によると、お父様のご職業は投資家で、出身大学はハーバード。ハーバードよっ! すごくない?」

「あーすげーすげー。でも何でそんなすげえ奴の息子がこんな横浜の辺鄙な私立高校に通ってんだ?」

「そんなこと知らないわよ。それよりねえ、あんたさバスケ部入ろうとしたんだよね?」

「げっ、何でそれを……」

「校内で直里真也って言ったらそれしかないでしょ。入学式初日で怪我して、友達作りの機会を逃した哀れなぼっちだってクラスの子が言ってたわよ」

「……聞きたくなかった」


 これまで以上に教室に入りづらくなったじゃないですか。


「ねえ、直里、協力してよ。芦村先輩の情報が欲しいの。先輩に彼女がいるかどうか。あと先輩の好みとか、好きな食べ物とか」

「いや、それは無理だろ。っつーか、そんな高スペックでフリーとか普通にないだろ」

「別にフリーじゃなくても構わないわ。奪っちゃえばいいんだし」

「……お前、よくそんな性格で友達できたな」

「何言ってんの。クラスの中ではちゃんといい子してるに決まってるでしょ」

「俺の前ではいいのかよ。お前の性格、ばらすかもしれないのに」

「やってごらんなさい。その替わり、あんたが女子の体育の授業覗いていたってばらすから。直里は人望があるし友達も多いからきっと私よりあんたの言うことを信じてくれるでしょうね?」

「こいつ……本当に性格ビッチだな」

「何とでもいいなさい……こっちだって必死なんだから」

「……え?」

「何でもないわよ」


 フンッと俺に背中を向けたのは、まるで俺に顔を見られたくないような素振りにも見えた。

 まあ気のせいだろう。

 それよりも、これはひょっとして俺にとってチャンスなのではないだろうか。


「おい、木科」

「何よ。断るとは言わせないわよ」

「やってやるから、その替わり、俺からも一つ頼みたいことがあるんだが」

「嫌よ。いくら目的を果たすためとは言え、あなたに凌辱されるなんて死んでも嫌」

「俺を何だと思ってるんだ……そうじゃなくてだな、ちょっと名前貸してくれない?」

「名前……何よ、この紙」


 俺が見せた紙を、怪訝そうに見つめる木科。


「色々と事情があって部活動を作るハメになったんだが、部員が三名以上必要らしくてさ。部活動と言っても、別に何も活動しなくていい。名前を書くだけでいいから」

「……別に名前書くだけなら構わないけど」

「よっしゃ!」

「じゃあ交渉成立ね」

「あっ、ちょっと待て。あと一つ」

「何よ、まだあるの?」

「芦村先輩の情報集めってやつ、正式な依頼として部の活動として行わせて欲しいんだ」

「……何それ、意味がよく分からないんだけど」

「いや、これも形式上! 表面上だけでいいからさ。そしたらメメメと俺で情報集めるから。一人より二人の方が情報集めやすいだろ?」

「メメメって、ひょっとして時河萌々女のこと? ひょっとして部員三名の残りの一人って

時河さんなの?」

「……まあ、実をいうとそうなんです」

「風の噂で、あんたが時河さんと仲がいいって噂を聞いたけど、それ本当だったんだ」

「……そんなデマまで流れてんのか。どんだけ噂好きなんだよ、この学校」


 実際は最悪の関係だよ? お互いに相手を人間とは思っていない。


「……ふーん。あんた、ただの変態だと思っていたけど、あんな可愛い子と一緒に部活を作るなんてなかなかやるじゃない」

「そ、そんなんじゃないやいっ! これは契約というか、成り行きというかだな」

「いいわ。時河さんなら私の裏人格見られてもクラスに漏れる心配ないし」

「いや、どっちかというとこっちが表人格だろ」

「うっさいわね……あっ、メール……なんだアケミか。弁当ぐらい一人で食べられないのかしら。じゃっ、私クリアしないと後々面倒なデイリーイベントがあるから。放課後時間ある?」

「あっ、ああ。ありますとも」

「じゃあ、学校が終わったらまたここで。念を押しておくけど、この話、他にバラしたら殺すからね」

「へいへい」

 

 

 

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