捕まりました
……
…………
……何だか、寒い。
それに、濡れてる?
あれ?私、どうなったんだっけ?
確か、変な穴?みたいなのに落ちて、それで……。
「ん……」
恐る恐る目を開けると、視界に広がるのは緑。緑、緑、緑、緑。青々とした葉が生い茂る森の中だった。空からは雨も降っている。
森?え、何で森?あれ?私、住宅街の中にいたよね?それで、穴に落ちて……何で森なのっ!?
身体を起こすと、さっきまで着ていたスーツ姿で、でも持っていた鞄などは何もない。辺りを見回しても、広がるのは鬱蒼とした森。本当に、さっきまで私がいた住宅街と同じ場所とは思えない。
頭痛い……雨は冷たいし、スーツは泥で汚れてるし……って、あぁ!!最悪!破れてる……。
スーツのスカートの部分が、落ちた衝撃か何かで3センチほど破れていた。
「もう、最悪……」
私はショックで頭をがっくりと落とした。静かな森に私の呟きとため息だけが聞こえる。
「っていうか、本当にここ、どこなの……?」
この状況が現実とは信じられずに、しばらく放心していると地鳴りのような何かの足音が遠くに聞こえた。
足音?この音は……馬?
それも一頭ではない。聞こえる範囲でだが、多分十数頭はいる。その足音達は、だんだんと大きくなり、私に近づいてくる。そして、次の瞬間。
「何っ……!?」
たくさんの馬たちが、私の目の前に飛び出し、一気に私を取り囲んだ。馬には中世ヨーロッパの時代の人達が着ているような鉄の鎧を着ている騎士風の男達が乗っている。
[そこの女、動くな!動くと直ちに斬るぞ!]
私の前にいた色白の頬がこけてぎょろ目の骸骨のような男が剣を抜き、剣先を私の喉元にに向けた。少しでも動かされると、頚動脈を斬られて死んでしまうだろう。
その前に、だ……。
「なんて言ったの……?」
日本語でも英語でもない。少なくとも私の知っている言語ではない。何と言ってるいるのか分からないので、私もどう返事をすればいいのか分からない。
まさかここ……異世界、っていうやつ?
異世界なんてマンガや小説でしか聞いたことがない。まさか自分が、異世界に飛ばされるなんて思いもよらなかった。しかし、このおかしな男達や言語が通じない状況などから見て、そう考えた方がいいのかもしれない。
っていうか!本で読んだけど、異世界に飛ばされたなら普通は王子様とかが、助けてくれるんじゃないの!?実際、飛ばされたら変な人達に捕まるとか聞いてないし!
一人でそんなことを考えていると、骸骨男(勝手につけた)が私を舐めるようにジロジロと馬の上から見回した。
[怪しげな光と共に現れたこの女……城に連行する!この女を引っ捕えろ!]
「は!?ちょ、ちょっと!何すんの!?」
骸骨男が、何かを叫んだ途端、周りにいた男達が馬から降りて、私を捕まえ、そしてあれよあれよと言う間に縄で身動きが取れないように縛られ、そのまま馬に乗せられてしまった。
え、私捕まっちゃったよ!?ちょっと待ってよ!何にもしてないのに、いきなり捕まえるとか無くない!?痛い!痛い痛い!鎧に当たって痛いよ!レディなんだから、もうちょい、丁重に扱ってよ!
適当に手と腕を縛られ、鎧を着た男の前に座って、決して逃げられないように馬に乗せられている。
「お父さん、お母さん、お姉ちゃん、お婆ちゃん、お祖父ちゃん……」
半泣き状態で今は亡き家族のことを想う。
大好きな私の家族。天国で見ててくれていますか?真面目に働いていた筈なのに、今はおかしな世界でおかしな人達に捕まってどこかに連れていかれるみたいです。
男達は何かを小声で話しており、チラチラと私を見ては難しい顔をして何かを言い争っているみたいだった。
私、どうなるのかな……まさか殺される?でも、殺すならさっき殺せば良かったんだし……。
そうして、2時間ほど馬に揺られていると、森が開け、街のようなものが広がっていた。
そして、雨のせいで少しわかりにくいが、街の中心部には一際高くそびえ立つ、真っ白なお城。どこかの物語などに出てきて、金髪碧眼の王子様が出てきそうなお城だ。
[下ろせ]
骸骨男の一言で、私は一緒に乗っていた男に下ろされ、荷物のように抱き上げられた。
痛い痛い!鎧、痛いよ!
今度は目隠しもされ、何も見えない状態にされる。良く分からないけど、多分この男たちは私のことを敵だと思っていて、お城の内部を知られないようにするためにしたんだろう。
敵じゃないし!本当、いい迷惑だよ!
何も見えないので、どうなっているのか全くわからない。それより、スーツが破れていることがショックだ。
高かったのに……。
やっと目的地に着いたらしく、私を担いでいる男が足を止めた。そして、私を本当の荷物のように投げ下ろし、乱雑に目隠しを解いた。
「痛っ……」
本当にこの世界の男達はレディの扱いを弁えてないな!女性を投げるとか、普通に考えてしちゃダメでしょ!?
落下の衝撃でお尻と背中を打ったが、後は特に怪我はない。目立った外傷がなく、ホッとしたその瞬間、私は固まった。
顔をあげたその先には、厳格な面持ちで私を見つめる王様がいたからだ。