4-19 マラセティ幕張
数々の商業施設が立ち並ぶ幕張の中心区。元々海の底だった場所は終戦を機に埋め立てられ現在の姿に至る
【マラセティ幕張】
21世紀初頭、天下りまみれになった雲天堂と日本政府による国家プロジェクト。
その標的となったのが 天降り坊主(アプリ坊主)である。
それまでの良好な関係を保ちつつ、なおかつ
「今までより、より強大な情報操作を」
「徹底した【日本は素晴らしい】という潜在意識の教育」
「役人の親類一同がより暮らしやすい(金を得る)世の中に」
「不祥事がバレても隠蔽しやすい世の中に」
こういったスローガンが裏で掲げられ、莫大な予算が国民の血から絞り出されてその計画は推進されていったのである。
色濃い歴史を作り上げてきた、人類史上の快挙と言っても過言ではない【天護】
それを解析、機械化するまでに 上り詰めた 雲天堂
マラセティ幕張は歴代数々のTENGOを展示、販売する近代アプリ坊主の巨大な複合施設であり、国民にその権力のニオイを悟られぬようカモフラージュの意味も込めて一般開放(入場制限等無し)されている。
そこに親子が一組、見学に訪れた
「観て、お父様」
「あそこの花壇、植木の花が咲いているわ」
なにかの羽衣のような格好の少女がはしゃぐ
『おいおい、加伊菜』
『入場前からそんなにはしゃぐ物ではないぞ』
ぐいぐいと引きずられる父親
人間の手によって切り取られ、監禁された命は、そこの空間でのみ生きることを許される。
いくら綺麗に手入れをしようとも、その根は日に日に大きくなり、やがて外廓のコンクリートをつき破るだろう。
そしてこれ以上手に負えぬと判断された愛玩品はある日、不要だと言われて無慈悲にも伐採され、水も与えられず、
どこかの廃棄場でその生涯を閉じるのだ
「ねぇ、お父様」
「あのTENGOを見て!」
「私にぴったりじゃない?」
少女が指差したのは、演奏用のTENGO。女性用に作られていてUの字型をしている
『ははは、気が早いな』
『それを着用るのはまだまだ、』
『もっと加伊菜が大人になってからだ』
苦笑いを浮かべる父親
「まぁ、お父様ったら」
「私も来年は中学生です」
「それに、早い子でしたらもうとっくに着けて演奏していますのよ」
ぷんすかと怒ってみせる少女
『うんうん、そうだったな』
「それよりお父様。例の殿方の返事は」
「どうなっていますの?」
少女がかつて手渡されたのは数多の男性のプロフィール付きのお見合い写真。いや、写真集といった物であろうか?
そちらでいう所の卒業アルバム等に少し似ているのかも知れない。
資産がいくらだとか、●●議員の息子だとか、どういう考え方だとかが事細かく記されている。
権力者という人種は、その力を保持する為に、我々の想像の域を超えた努力をしているものである。
『…あ、ああ』
『(すまぬ加伊菜、かのご子息は…)』
『加伊菜の演奏をとても楽しみにしているよ』
『(他の御息女に夢中との事…)』
「本当!?嬉しい!」
『……』
無邪気な笑顔が父親に突き刺さる
「じゃあ、じゃあ、頑張って練習しなくちゃね!」
「ええと…」
「…これなんてどうかしら?」
TENGOを品定めする少女
{お客様、お決まりでしょうか?}
横から声をかける店員
「試着室はどこかしら?」
「…ええと」
{こちらでございます}
『よしなに頼む』
天井は遥かに遠く、未だ無機質な鉄骨をむき出しのままに、少女が仰ぎ見ればさながらの、スポットライトを浴びているが如く空間は、人々のざわめきをその上空へとかき消す。
そのショールームの端の方、白くベニヤ板で囲まれた区域の内側に個別の試着室がある
{ささっ、どうぞどうぞ}
男性店員が個別の試着室へと誘導する。少女は靴を脱いでカーテンを閉めた
「…ちょっと!店員さん!」
「私、一人でできま(着替えられま)す」
{そう言われましても…}
{初めての女性の方には}
{係員か父親が装着指導するように決まっておりますので…}
{ええと…申し遅れました、わたくし、着脱を担当させていただきます}
{峰輔 粋渡と申します}
「…ふぅん~」
チラ観する加伊菜
{それではお召し物をお預かりいたします}
謎の衣をてきぱきと脱いでいき、店員に手渡していく
「ちょっとこれ、上まで全部脱ぐ必要は無いのではなくて?」
{…無いですね。はい}
「ちょっと~!しっかりしてよ!」
顔を真っ赤にした加伊菜がブラジャーをふんだくるようにして掴む
{…それでは、演奏用TENGOの説明をさせていただきます}
{この商品は女性科、Uの字目、打楽器類に分類される型番で…}
「長くなりそう」
「もういいよ。早くして」
{あっ、はい}
{それではまず、そこのベッドに仰向けになり、この下地薬をご自身で塗って下さい}
「…こう?」
「…ん、少しくすぐったいね」
{ええと、もう少し穴の奥の方まで塗って下さい}
「…ぐっ、」
「…ふっ」
小指を使い、入念に塗りこめていく
{良く出来ました}
{それでは…}
店員が次の手順を踏み、TENGOに下地薬を塗る
{いかがされます?}
{まずはご自身で試されますか?}
「うん、ちょっとやってみる」
「…ぐっ、痛”っ」
「いだだだだ!!」
「なんなのこれ!?」
「こんな痛いもんなの???」
「絶対無理だよ」
半泣きの加伊菜
{りきむと返って痛くなります}
{少しお腹の緊張を解いたほうが良いと思います}
{しばらくの間、ゆっくりと入り口からほぐすようにして}
アドバイスを送る店員
「…こう?」
「うっ…」
「…」
「痛”っ」
顔を真っ赤にしながら打楽器を装着しようとする加伊菜
{同じ型のもう少し細い物に変えたほうが良いかと存じます}
{お客様の体に合わせて、ゆくゆくはその太さの物に変えれば良いのです}
「ごめんなさい、そうします」
{それでは、只今お持ちいたしますので少々お待ちください}
「はい…。」
先ほどまでの無邪気さはどこへやら。股間から太ももに垂れ落ちる下地薬をそのままに加伊菜ががっくりと横たわる。
「(まわりのみんなは凄いなぁ…)」
「(こんなに大変だったんだ…)」
「(私も頑張らなくちゃ!)」
加伊菜の友達の中にはすごく太いTENGOを装着している子もいる。出力の関係上、U字の外部分を見れば内部の太さも解るのだ
{お待たせしました}
「…お手数をおかけします」
{いえいえ}
「…じゃ、ちょっと着けてみます」
「…ぐっ、ふっ…!」
「ハァ…ハァ…」
「…い”っ、はいった…けど」
「これ以上…進まない」
{少しスキャンしてみますので少々お待ちを}
{下半身に金属等がありますと正確に映りませんが…大丈夫ですね}
「…あっ、はいぃ、大丈夫です」
CTスキャンが始まり、画像がベッドの横のモニターに映し出される
「…うわっ!グロいな」
{安心して下さい、人間はみんな一緒です}
{…ええと、臓器的に何も問題ありません}
{あとはお客様が、お客様ご自身の壁をつき破れるかどうかです}
「…解りました」
覚悟を決めた少女が真剣に頷く
「ふっ……!」
「~~~!!」
声にならないうめきと共に、最深部へと一気にTENGOを突き入れる。誰しもが乗り越えなければいけない壁。
彼女はたった今、それを文字通りに掛け足で走りぬけ、事を成したのだ。
{(頑張ったね)}
すかさず店員が抜け防止の腰当てを履かせる。少し硬めのパンツに穴が空いた様な物だと思ってもらうと話が早い。
そこに両足と、体外に出ているTENGOをくぐらせてから部品で固定してうまいこと抜けないようにする機構だ。
「う”~~~!」
「う”~~っ」
「(パタパタパタ)」
電源を得たTENGOが反応して乱雑に羽ばたく。Uの字型の最底辺付近に稼動ジョイントがあり、そこを基点として動くのだ
「ちょ…何よこれ…痛っ!!」
「(びったん!びったん!)」
初めてなので制御しきれなくて当然だが、彼女の意思とは関係なく暴走してしまっている。
一応、打楽器なので使用者は痛みの神経を極力減らすようにコントロールしつつ、操らなければいけないのだが、それが出来ていない。
「(びったん!びったん!)」
「痛”っ!!」
「(とめて!!)痛い!!」
痛みの神経を減らすどころか、直通を通り越して、敏感ななにかと完全にシンクロした物を自らの体目掛けて打ち付ける彼女
「ぎゃぁぁぁ!!」
「(びったん!びったん!びったん!びったん!)」
「ぎぃぃぃ!」
「と・め”・で…」
「と…め…」
{(おっと…!)}
泡を吹く直前に店員が、TENGOをはっしと掴む
「あ”…あ”…ぁ」
白目寸止め状態の少女が体を痙攣させ、あるいはヨダレがベッドに絡みつき、顔をめりこませながら足先を震わせる。
変換し損ねたオーラが時折り先端からだらだらと溢れ出ては、少女の香りを部屋に漂わせた
【注 あくまで打楽器装着の様子です】
こうして 西郡 加伊菜はマラセティ幕張にて、ほろ苦いTENGOデビューを飾った。
だが恥じることは無い。この壊れた世界ではそれがごくありがちな出来事であり、人々の常識も又、違う物なのだから




