4-18 向川高校VS灯之台高校 4『瓦を割って豪華景品が当る!キミも今すぐチャレンジ!』
スポーツにおいては古来より、タマをつつくなり、穴に入れるなり、棒を入れるなり、タマか穴か棒をどうにかしてきた物が多い。
よくよく考えてみれば、我々の住む地球も球状をしており、形をもたぬなにかがこの次元に顕現するその時でさえ、光り輝く球(卵子)を目指すのだ。
あなたがもし、本気で生まれ変わりたいと思うのなら、今際の時にそれを目指して進みなさい。あなたがもし、疲れ果ててしまったのなら、暗い所で少しお休みなさい。
私たちは少なくとも、進むか止まるかくらいの選択は自由なのですから
「三百十一…三百十二…」
「三百…(あれ?いくつだったっけ…?)」
「三百…三十四(ぐらい…だったと思う)」
「三百…三十五!(ドヤ顔)」
都川水の里公園の特設リングに審判のコールが響く。テンカウントを超えた場合の発声言語は自由で、この審判の場合は(解りやすいから)日本語読みとなっているようだ。
今の状況を作り出してしまっている原因である対戦相手はもっぱら遅刻している真っ最中であり、リングアウト判定になっているのでどうにも引き締まらない試合内容となっている
「う~ん、えらい暇だな」
「忙しそうなのはむしろ、売店のほうだぜ」
端末をポチポチとチェックする兄丸。ポイントが微妙に加算されつつはあるものの、例の5分の1補正の為に、このまま仮に放っておいても勝敗が付くまでに一ヶ月以上はかかってしまう。
『食べますか?』
『何か食しますか?』
アケミが財布を取り出す
「待っててもしゃあねぇ」
「一緒に行こうぜ」
リングを降り出す特攻服二人組。
周りの観客達はブルーシートの上を酒まみれにして泥酔していたり、投げ込む座布団の飛距離を競ったりと自由だ。
「おっ、みてみろよアケミ」
「瓦割りがあるぜ」
出店の中に瓦割り屋を発見した兄丸。みなさんの住む日本では聴きなれない言葉かも知れないので補足しておくと、瓦割り屋とは瓦に見立てた砂糖菓子をTENGOで叩き割るゲームで、自分で申告した枚数の瓦を叩き割れれば成功、割れなければ失敗という物だ。
景品は段数が多ければ多いほど豪華になっていくが、1回800円という参加費でゲーム機本体等をぽんぽんゲットされては商売あがったりなので、大抵の場合は何段かに一枚だけ水飴等を混ぜて絶対に割れないようにしてあるのだ。
『誇示しますか?』
『思っていたよりも小さいシロモノを誇示しますか?』
フランクフルトにかぶりつくアケミ
「小さいとか言うなよ!」
「よおし…観てろよ!」
地元の灯台が形取られているTENGOを装着する兄丸。小さいか大きいかは、解らない。先端のほうはLEDライトで光り輝いているが、下腹部に近いほうはドス黒く変色していて、正に灯台もと暗しといった所か。
「おじいちゃん!30段で!!」
自信満万に申告する兄丸。ゲーム機本体を狙っている
{……}
遠くを見つめているおじいちゃん
「ちょっと、おじいちゃん!?」
「(…これはダメな流れだな)」
反応が薄い
「おじいちゃぁーん!」
「もしもーし!!」
必至に呼びかけを続ける
{……ファッ!?}
「おし、帰って来たか」
「はい、800円!」
「ここに置いとくよ」
{……ありがとさん}
800円を受け取ると再び魂を飛ばすおじいちゃん。完全に遠隔操作型である
「いやいやいやいや」
「そーじゃねーだろ!」
「今のは瓦割りの料金だから!」
「あげたわけじゃないぜ!?」
焦る兄丸。流れが良くない
{……ファ―あー!?}
{……ありがとさん}
「いやいやいや」
「絶対解ってねーだろ!」
{……解っておるよ。瓦じゃろ瓦}
{……ええと。コンクリのやつ}
「砂糖ゥー!!」
「砂糖菓子だから!!」
「コンクリとか言うなよ」
「割れねえやつだよそれ」
「せめて水飴にしろよ!」
{……}
{……砂糖ゥになります}
少し隙間を空けた2つのブロックに、砂糖でできた(?)瓦を重ねてセットしだすおじいちゃん。表面はテカテカと光沢があり、あからさまになんかしらの不純物が混ざっている。
「…ストップ」
「あの~、おじいちゃん」
「それ砂糖菓子違うから」
「ていうか普通の瓦だから」
『瓦ですか?』
『割れない瓦はただの瓦ですか?』
横で見守っていたアケミもツッコミを入れる
{……割れるよ}
「いやいや、割れねーよこんなの」
「(コツコツ)」
「吹くだろ。泡吹くヤツだろこれ」
「どうみてもTENGO折れるだろ」
拳で軽くノックする兄丸。そこから響く音はもはや砂糖菓子のそれでは無かった
{……ファー!!}
「おわっ!びっくりした。いきなり大声だすんじゃねーよ」
{……全く。最近の若者ときたら、やる前から}
ごそごそとTENGOを
{……いいか、よく観ておれ}
{……その前に、ちょっとそこのお穣ちゃん}
{…すまぬが、ワシのTENGOをさすってはくれまいか?}
取り出すおじいちゃん。装着できたは良いのだが、完全に萎えぽよの化身と化したソレは、真下を向いてぐったりとしている
『・・わかりました?』
兄丸のほうをチラッと見るアケミ
「はっ?おじいちゃんが割ってみせるってか?」
「やれるもんならやってみせてくんねーか?」
プライドを刺激された兄丸。
『(シュッ・・シュッ・・)』
{…おほっ、おほっ、}
観客の見守る中、老人のTENGOがしごかれていく
『(しぶとい・・)』
{…ほーっ、ほーっ}
{…もっとぢゃ、もっと強く!}
なかなか奮い立たないTENGO
『じゅぽっ…じゅぽっ』
{…ほァァァっ!?}
{…ゆ”っ…ゆぐうううう!!}
業を煮やしたアケミがオクチを使ってTENGOをどうにかする【注意 スポーツです】
{…ほァァァっ!?}
{ポコチーン!ポコチーン!!}
『ぶほっ!!』
『ヴッ!?む”っ』
アケミの体内にビュービューと溢れかえるオーラ
{…ほーっ!ほぉーっ!}
『ヴゥ”--!』
出す気配を感じ取る暇も無く、老人の両腕によってしっかりとホールドされたアケミ
{…金色じゃ}
{…金色のオーラが出た}
アケミの鼻から逆流してきたオーラを見て取った老人がつぶやく
「ワァァァァ!!」
野次馬達が歓声をあげる。金色のオーラなど滅多に出ない
「ハワイ!ハワイ!」
「ハ・ワ・イ!」
一斉のハワイコール。そう、金色のオーラが出たらハワイ旅行がプレゼントされるのだ
『ごぽっ…ぶくぶく…』
特攻服を着た謎の金髪ポニーテールの黒目が白目がちになり、体中の穴という穴から黄金のオーラが溢れる。老人は感極まり、両腕でガッツポーズを作ってむせび泣いた。
「おじいちゃん、やったな…」
「…ついに成し遂げたな」
おじいちゃんのお店の右隣りの店でフランクフルトを焼いていたおじさんが近づく。両手には焼いたばかりのフランクフルトが
{…もぐもぐ}
{…ぶひゅっ!う”まぃ!}
それをそっと口の前に差し出すと、老人はむせび泣きつつも喜びと一緒に噛み締める
「おじいちゃん、俺からはこれを…」
今度は左隣の店だ
{…もぐもぐ}
{…ぶひゅっ!う”まぃ!}
「えっ…?(食べた?)いや、」
「おめでとう」
「……」
さすがにこのおめでたいムードをぶち壊すわけにもいかず、とりあえずの祝福を告げると、左隣りの金魚すくい屋の主人は複雑な表情を浮かべて自分の店へと帰っていった。
「(瓦…)」
観客総出でかわるがわる胴上げされる中、円の外側にぽつりと取り残された特攻服の一人ががっくりと膝をつく。
紙ふぶきがリーゼントにこびりつき、ロケット花火も突き刺さる。
こうして向川高校VS灯之台高校は緩やかな試合展開となっていった。




