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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第四章
74/82

4-16 その鎖は幻

※『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

誰もが大多数を分かち合い、(おの)が幸福を信じ、微笑みの中にその理想を夢見る。その 霧中(むちゅう)に在りて夢中にあらざる者。四角く切り取られたその小さき (せかい)を、その庭を誰にも犯されまじと護る番人。

硬き杖を携えしマジョリティの棲む森の、危うきを霧に例へれば『誤理夢中(ごりむちゅう)』と掛ける者也



「よぉー、どうだい?お嬢さん」

「ご機嫌のほうは?」


赤毛の長髪にはところどころ白い物が混ざる


『・・・・』

『・・訴えてやる!!』

『必ずここから抜け出して・・あんた達を』


『一人残らず地獄に叩き落としてやる!!!』


険しき表情狼の如く


「・・・チッ」

「あー、あー、具合良好ね」

「試合の事ならそんなに気にしなさんな」


耳をほじくりフッと小指に息を吹きかけると、暗闇の逆光に粉の舞う牢獄


『違うわよ!!』


『・・・』

『下着を替えてって言ってるの!』


もはや乾き所の無い布の内部からさらにじわじわと染み出るなにかのカケラ達


「ああ、なんだ。そんな事か」

「それなら気にしなくても良い。ちゃんと入れてあるから」

「新薬だ。100%あり得無い。」

「それともあれか?男物のパンツで良ければいくらでもあるぜぇ?」


うすら笑む赤髪


『そういう問題じゃないのよ、女と男を一緒にしないで…』

『・・うっ、、うっ』

『どうして私がこんな目に…』


急にしずしずと頬に粒を流しめる犬馬。


「どうしてかって?それは…」

「そうだなぁ?」

「…おまえが権力者の親類だからかなぁ?」


しばらく考えた後に回答する


『ぐっ・・うっぐ…』

『はぁ?…なによそれ?』


意味の解らない犬馬


「あー、あー、解るわけねぇかぁ」

「いいかぁ?貴様らみたいな連中は何でも散々好き勝手やった挙句」

「それを揉み消すのが得意だろ?」


『…』


犬馬の胸になにかが突き刺さる


「…つまりだな、おまえらは」

「消された人間の墓標の上に笑顔で子供を産んで育てて行く訳だ」


やれやれといった表情


『…だからなによ?』

『今時そんなの普通の事じゃない』


反論する犬馬


「あー、あー、これだから困る」

「どうしてその【普通】がおかしいと思わない?」


首を横に振る赤髪


『おかしいのはあんたの頭よ』

『…おじいちゃんに言いつけて、脳みそを全部ほじくりだしてやる!』

『この…外道が!!』


涙が飛び散っているのか、それとも勢いでそう見えているのか解らない空間に怒りを滲ませる


「誰が外道だ!!!!」


男の、なにかの琴線に触れたらしい


「恋人をカネで買い」

「その母親を死に至らしめ」

「肉欲と洗脳で想うがままに男を操り」

「あげく自分に都合の悪い事を忘れ」

「しまいには開き直りやがって!」


乱暴に鷲づかみに引き寄せられた彼女の頭からブチブチと音をたてて引きちぎられる。2、3回程そのまま前後に掴み回すと、痛みからか

言葉にならない悲鳴と涙が混ざり、ほんのささやかな抵抗は言葉の波に飲み込まれて深い海へと消えて行った。




「ゴッ!!」

「笑止千万、誤理夢中(ごりむちゅう)!」


彼の振り上げた拳の行き着く先は壁。コンテナ内壁であった


「どこが外道か。誰が外道か!!」

「どのクチがそのようにほざくか!!!!」


鋭き眼光がまくしたてる


『ひっ!!・・かっ・・はっ・・あ』


もしかしたら薬が効いてきたのかも知れない。心の大事な部分。その奥を鋭い言葉で突かれ、意識を彷徨わせる犬馬


「・・外道がどこにある?」

「外道が誰にある?答えよ」


かすれた声が犬馬の耳元をかすかに揺らす


「・・・・・」

「ヌブッ!」

「ドポッ・・トポッ・・」


硬直したまま動かないプライドの奥。そこの部屋には錠剤を残しつつも男達の怒りの果てが大量に打ち捨てられていた。


「・・チッ」


死角に紛れ不機嫌そうな表情を隠す


「よく聴け」

「おまえ達のその価値観は幻だ。日本だけの物だ。たとえそれが本物だったとしても」

(こと)()だけで男性を死に追いやる、その対価足りうる物なのか?」

「それほどプライドが大事か」

「本当につりあっている物なのか?」

「どれだけ大事な物なのか?それは男性の命より重いのか?」


指のありかをそのままに深診が諭す


『・・かっ・・は・っ・・』


心の奥底が塗り替えられ呼吸すらままならない彼女


「女性が社会に出てくるのは大いに結構」

「むしろ喜ばしいぐらいだ」

「だがな、そのくだらないプライドで・・・」


(ひと)を殺すな」


薬の溶けた頃合を見計らってゆっくりと指を動かし始める


『う”うっ!!』


今まで無反応だった少女の体が跳ねた


「・・・チッ」


不機嫌さを増した赤髪は


「・・・この指は珍海だ」

「・・・この心は珍海だ」

「おまえは今」

「・・珍海に抱かれている」


その言葉をゆっくりと紡いで行く


『うっ・・・!!あっ・・』

『あっ・・・』


視点も定まらぬ中で涙と共に吐息を荒げる


「ならばなんとする?」

「どう答える?」


赤髪が問う


『あっ・・はっ・・』

『きっ・・・きもちぃ”ぃ』

『ぎも”ぢいい・・よ・・珍海・・』


虚空を見上げる少女


「(・・・)」


「ならば叫べ!」

「ボクの願いを!」

「世界の願いを!!」

「やがて来る結末の (ことわり)を!!!」


一気にたたみ掛ける赤髪


『くあっ・・ぐあっ・・!』

『滅べ!!!滅んでしまえ”!!!』

『みんなみ”んぁ滅んェ”しま”ぇ!!』


『珍み”っ・・・!んェずらヴぃっ”・・!!』


『かはぁっ!?あ”あっ!!』


事が達し、びくんびくんと


『ああっ・・・ああっ・・』

『・・ほろ・・え”』


体を震わせる犬馬


「・・チッ」

「(それぐらい解っているさ)」

「(まともな話し合いが通じるのであればわざわざ・・)」



深診(ふかみ) (ただし)はその後、何事も無かったかのように部屋を後にした。様々な色が混ざり合い最終的に真っ黒になってしまったキャンバスを、拭き取る事もままならぬその心を 何色(なにいろ) かに染めながら。

法律(せいぎ)の中に正義は無く、無法(ふぎ)の中にもまた不義は無く、血で血を洗えば尚の事。()えの乱れは 飢餓(した)へと通ず。




※『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』


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