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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第四章
73/82

4-15 憂刻(ゆうこく)

個人の感情など、たかが知れているものだと僕は思う。知れているからこそ怒り、知れているからこそ嘆くのだ。

なにもかも解らぬままに生涯を終える草木の様に、ただただ波間をさすらう微生物の様に過ごせたのなら、誰も怒り嘆く必要は無いのではなかろうか?




「かと言って」


かと言って思考を停止するのもまた違う。人として生き、人として死ぬのであれば知を求めて己を高めていく事はいわば【(しゅ)としての】命題なのではなかろうか?


珍海(めずらみ)…」


珍海あつし・・。



夕刻前の玄関に友人を見送った小奇麗のレンガに影を落せばそのままの体育座りにて空を眺める。

理路整然とした佇まいも、先程の乱行に比べれば、空の景色でさえ理不尽に染まる


憂刻(ゆうこく)だな…」


あいつの価値観は凝り固まっている。勿論、今の世の中ではそれが正しいし、大多数を占めている事だろう。

別に悪気が在ってやっている訳でも無いのも解っている


「―だが」


珍海の望みは彼女を壊す。しかも取り返しのつかない位に


「おそらく」


のり子さん自身も薄々気付いていたに違いない。望むべく者は異性の友人であり、男女の関係では無いという事を


「でなければ」


でなければ姿を消してまで逃避する理由が他にあるだろうか?



『政一。どうしたそんな所で』


不意に呼ばれる


「あっ…」

「父さん…、いや、なんでも…無いです」

「それよりも、その格好は?」


婚礼用…いや、喪服だ


西郡(にしこおり)議員がな・・』


えっ…?


「あんなに若かったのにですか?」


どういった病気でなのだろうか?脳卒中等であれば若くして・・


『政一。おまえは決して悪くないぞ』

『だから心を落ち着かせて良く聴いて欲しい』

『いいな?』


複雑な表情をしている…


『その…娘さんが亡くなってな』

加伊菜(かいな)ちゃんの告別式だが…』


父さん!ちょっと


「ちょっと待って下さい」

「……」


加伊菜(かいな)ちゃんが…?どうして?


『…』


この前のピアノ発表会の時はあんなに楽しそうにしていたのに…


「(いや、待てよ)」

「…」

「父さんそれは、僕を引っ張り出す為の口実でしょう?」

「本当の事をおっしゃって下さい」


またどこぞの議員のご息女とお見合いとかなのだろう


『…いや』

『……』


目を閉じて首をゆっくり横に振る。これは…


「そんな!」

「…でも、どうして…」


政略結婚の道具にされた挙句これでは…いや待てよ、そもそも前提が何かおかしい。


『……』


僕は悪くないと、言ったけど何故そのような前口上になったのか…


「確かに僕はご縁談を丁重にお断りしましたが…」


『待て!政一!!』

『だから言っただろう!おまえは悪くないと』

『……』


事故でも病気でも無く、僕が関係していそうな所はもう限られている


「…父さん、気遣ってくれてありがとう」

「ではおとといのニュースの少女というのは…」


『…そういう事だ』



ネットのニュースでは誘拐・殺人・容疑者被害者死亡となっていたが、おそらく事実は違うだろう。

【そういう事にしておきたい誰かが】そう印象付けする為に事実をねじ曲げているのだ。

どんな物にもGPS・通報機能が付いているこのご時世で、被害者自らがそれら全てを瞬時に投げ捨てるでもしない限り、そんな犯罪は成立しない。


「…どの子もあの子も」


『ん?』


「…いいえ何でもありません」

「(どうして楽な方に逃げる)」

「(どうして楽な方が正解だと思いこむ)」

「慎んで参列させていただきます」

「(なぜ考えようとしない)」


『そうか。よくぞ決断してくれた』

『良いか?如何なる罵声を浴びせられようとも…』


「解っております」

「(やはり、大元から…)」


「その代わりと言ってはなんですが、ひとつお願いがあります」




彼は【アプリ坊主連盟の会長である 珠須(たます) 雪次郎(ゆきじろう)氏と極秘裏に1対1で話し合いをさせて欲しい】と要求した。だが実はこれはとてつもない難易度のシロモノだった。

普通にアポイントをとるだけでも多少の難しさがあるのだが、問題は秘匿性にある。つまり、議員として申し込めば簡単に会談(・・)できるのだが、事の次第が (おおやけ)になってしまうし、

かと言って【1対1で話し合いをさせて欲しい】と言っている以上、どこの誰かも解らない人との面談(・・)を受けてくれるかという問題だ。

ただし、一度引き受けてしまった以上は彼には父親としても議員としても二重のメンツが在る。御津飼(みつかい) 準造(じゅんぞう)の手腕は如何に。


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