4-12 Gの勲章
東京最高裁判所。厳格なる外観と規律正しい直線美をコンクリートとアスファルトの街に溶け込ませる。今、一人の罪無き男性の判決が言い渡されたその場所は数十人の悲しみによって支配されていた
『以上、被告を懲役5年の刑に処する』
厳格なる声が響き
『閉廷します・・』
前かがみでそそくさと席を立つ裁判長。そそくさとトイレに向かう。カマンベール、チェダー、とはチーズの名称だが、彼は 郷田と言い、通称【G裁判官】として名を馳せている。
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『気持ちよい・・ああ実に気持ちよいではないか。あの無念そうな表情。たまらぬ』
『ごそごそ・・』
『ハァ・・ハァ』
裁判長はトイレに行き、そそり起った自らの権威を『ニヤリ』と露出させた
『(あっぐ・・ふっぐ!!)』
あの男性は間違いなく破滅だろう。家族に見限られ、会社に見限られ、世の中に見限られて死んでいくのだろう。そこがまた・・
『(たまらぬ)』
「シュッ!!シュッ!!!」
終わらせた。私があの男性の人生を終わらせた。なんという充実感なのだ。見よ無様に泣き崩れる様を。あれが人生の終わりだ。滑稽ではないか。
「ハッ・・ハッ・・!」
証拠?知らんな。そんな物は。私は判決を言い渡すのみだ。正義なのだ。私に逆らう事は許され・・ぬ”ッ”!!
「(!!ん”っ!)」
おっと・・危ない。あやうく達してしまう所だ
「シュッ・・・・シュッ・・」
控えめに・・控えめに・・そう、良い子だ・・
「シュッ・・シュッ・・」
牢屋に送り出す瞬間もまた良いのだが・・なんとかアレを生で観たいのだが・・無理だろうな
「ハァ・・ハァ・・」
必至にすがる妻と搬送される罪人。顔をぐしゃぐしゃにして泣き崩れる支援者達。たまらないね・・
「シュッ!!!シュッ!!」
言葉と、紙と、法律で合法的に人を破滅させる。対して、私は決して裁かれない。世の中にこんな素晴らしい職業があるだろうか?いいや、無いね!!
「ヴッ!!」
「ビューーッ!!ビューッ!!」
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最高に幸せだ。私は武器も持たずに何十人・・いや、何百人と同時に屈服させ、ねじ伏せたのだ。この世のどんな格闘家より強いではないか。
「・・・(ふぅ~~)」
どんな戦争だろうと、必ず勝つ側と負ける側が居る。だが私は決して負けない。なぜならば私はそれに参加していないからだ
『・・・(うっとり)』
人を破滅させてカネを得る。なんと言う高みであろうか?
だがこれは 合法なのだ。この世のどんな事よりも最高に気持ち良いでは無いか
『(生きている!!私は活きているぞ!!)』
『ヴッー!!ヴッーーー!』
・・なんということだ、2回も出してしまった・・2回も屈服させてしまった。
「(最高だ)」
・・おっと・・アルコールティッシュの残りがあと僅かだ。買っておかねば
『シュッ!!』
『キュッ・・キュッ・・』
『ガサガサ・・』
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裁判長は『戦利品』をビニール袋に詰めて持ち帰った。多くの人間をなぎ倒した・・・裁いた勲章として、妻に与える為だ。
放っておいても警察や周りが勝手に無理矢理有罪に持って行き、そのどす黒い欲望は満たされる。
この先も彼が望む 判決は、彼自身に非が及ぶ事無く完遂され、人々の無念や涙はこのうえ無い栄養となって知られざる魂を満たしていくだろう。
木材で囲われた独特の間取りや威厳ある装飾もそれらを盲目的に信じ込ませる為の装置に過ぎないのだから。
幸せ人が謳う理想を【正義】と言い 不幸人が謳う現実を【断末魔】とするのが古今より続く世界の法則である。
今ここで、何よりも間違っているのは【どんなに無茶苦茶な判決を裁判官が出したとしても、出した本人に非が及ばない】事ではなかろうか。
法治国家が聴いてあきれるが【裁判官が処罰された話】等、微塵にも耳に挟んだ試しがない(注1)のは事実なのだ
(注1)【補足】
弾劾裁判(憲法64条)
・無茶苦茶な事をしでかした裁判官を裁く裁判の事
・一応、過去に(たった)9件程事例があり、多くの者がクビになったが、半分ぐらい復職できたらしい(笑)
・『いや、復職できたら意味ねえだろ』というツッコミが入ったかは不明




