4-10 ピクニック(one of, )
※『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
権力の中心からその親族まで一族郎党すべからく日本中に蔓延させた代償として、貧富の差は目に見えぬ形で広がりどうにもならなくなってしまった。
ここの100円均一ショップはそうした時代を象徴する商業施設であり、値段の気軽さからか大衆に絶大な支持を得ている。
その時代を象徴する活気とは、その時代を象徴する闇の裏返しでもあり、気がつかないうちにそこから逃れようとするなにかの表れでもあったのだ。
そこに一台の、つい今しがた買い物を終えた若い男女が軽自動車を徐行させピクニックへの経路に至った
「ガソリンもつかなぁ?」
運転手の名前は 峰輔 粋渡
『もうあとちょっとだし』
『大丈夫大丈夫。行っちゃおう♪』
助手席に座る 西郡 加伊菜はついこの間まで、赤いランドセルを 背負っていた
「良いね。あまり気にしすぎてもしょうがないしね」
「なにか音楽でもかけようか?」
カーナビと信号に目線を行ったり来たりさせる
『もう少しピアノが聴きたかったけど』
『今は外の音がとても綺麗で』
少女が窓を
『とても暖かい春の音を感じていたいの』
全開にする
「そうだね」
「とても暖かいね」
微笑む男性
・
・
厳寒なる凍った音色と 噴出してくる猛暑の音色の中間。そわそわと落ち着きのない音。ふわふわと温かい音。
やがてそれはジャリジャリと小石を巻き込む音に到着を以って楽譜の最後のページと成した
「素晴らしい景色だね」
サイドブレーキを引く男性
『本当。綺麗』
髪を軽く整理し、遠くを見つめる
「はい、リュック。300円のやつだけど」
峰輔が手渡し
『おかしいの』
『値札はもう付いて無いんだし』
『誰にも解らないわ』
加伊菜がクスリと笑う
「そりゃそうだ」
「あっ」
「観て。売店がある。少し寄ってみようよ」
駐車場の隅。案内用の地図ボード
『面白そう』
『行こう行こう!』
少女は男性の手を取るとぐいぐいと引っ張った
「おいおい、そんなに急ぐなって」
「売店は逃げたりしないぞ」
苦笑いを浮かべる
『・・じぁあ、展望台は?』
加伊菜がじゃれつき
「展望台も逃げないさ」
「・・足が生えてなければな」
峰輔が軽く返した
・
・
・
千葉県富津市にある観光名所。1組の若いカップルが売店の隅々まで堪能し、悩ましげにおみやげを品定めしてはしゃぐ。少女にかかった前髪をそっと撫で分ける男性。
・
・
「結局、買ったのって」
チラリと覗く
『うん。これだけだね』
『・・・飲む?』
加伊菜が上目遣いに応答
「・・・いや」
「まだあれだし」
「ほら、周りにもさ」
照れる男性
『・・・』
『そうだね・・』
『あっ!ほら、観て』
雄大な自然。
『綺麗・・』
絶景。
周囲の景色を一望できるその場所は、コイン式の双眼鏡が備え付けられている。しばらくの間その景色を見つめた二人
「あの~すみません」
『ちょっとよろしいでしょうか?』
あとから来た観光客に加伊菜達が話しかけた
・
・
・
『これでよし、っと♪』
満足そうな笑みを浮かべる 加伊菜
「懐かしいなぁ。なんだか」
「二人三脚みたいだね」
峰輔も思わず笑う
『実際、そうでしょ』
「実際、そうだね」
互いの手首を赤い鉢巻で縛った彼ら
「・・・うわ、意外と痛てえ」
『ホントだ、痛いね』
揃えた靴に靴下を詰め込み、100円ショップで買ってきた線香に火を付ける
「おい!」
「おまえら!!!」
「何やってんだ!!」
すれ違った観光客の誰かがふと、気付いたに違いない。慌てた様子の警備員が遠くから怒声をあげながら詰め寄る
「・・・」
「許されじ 恋の年端に」
「人知れず」
それを無視し、器用にも左手でスラスラと筆ペンを走らせ 上句を書いた男性が
「お願い」
少女に色紙を手渡す
『着くそこの 幸せはここにと こころ 展望ぶる』
到着前から考えていたであろう少女もまた瞬時に余白に 下句を書き添える
「・・!」
「ちょっと待て!!」
「おまえらちょっと待て!」
「とりあえず柵の内側・・」
警備員が慌てて静止するも時すでに遅し。きっちりと揃えられた靴と線香と色紙を残して二人はどこかに旅立って行った
・性的同意年齢
刑法176条(強制わいせつ罪)の規定においては、男女ともに性的同意年齢は13歳に設定されている。
刑法177条(強制性交等罪)も、男女ともに同じく13歳とする
一応そう定められている。だがそれらの主張は通らない。なぜならばそれは【誰もやっていない行為】だからだ。マイノリティ(少数)側の恐怖とは時として正当性すら否定される所にある。
もはやこの時代の日本には法律もへったくれも存在しない。もしそれが存在するとすればそれは【強者が弱者に対して制裁を加える】時に申し訳程度に文章の端に記載される物なのだ。
故に【お互いの合意が有るにせよ無いにせよ】少しでも上から目を付けられればこうなってしまうのである。
あなたはきっといつの日か、どこかのニュースでそういう悲劇が報じられているのを知るのだろう
※『この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。』




