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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第四章
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4-06 驚雪〈きょうせつ〉

万南無高校が準決勝で敗退してから早3日。国際競技場のVIPルームには連日、日の出まで明かりが灯る。ある者は机にめりこみ、またあるものは選手控え室で寝起きする。すなわち、犬馬のり子の捜索、高校大会の次回試合日程、プロアプリ坊主の表彰式典用意、エメリアの警護、競技場全体の警備、電話対応。

それらに関わる人員だ。これだけの人数を24時間体制で作業させるには、加えて食堂員、清掃員も必要になる。

近隣のスタジアムから召集を掛けてはいるものの、そう都合よく集まる物でも無い。



「―ふう。」


時計の針が午後23時の場所を指し、どっかりと椅子に倒れこむ 珠須(たます) 雪次郎(ゆきじろう)


「珠須様、またあの少年です」


従者の一人がやれやれといった感じに報告する


「また彼か・・・今何時だと思っているんだ・・」

「・・しょうがない、通したまえ」


目を瞑ったまま答える珠須。しばらくして


「おう!会長!こんばんは!」


元気の良い少年が部屋へとずかずかと侵入してきた


「何度来ても変わらない。ルールはルールだ」


目の前の少年に元気無く言い利かす


「だけどよ会長。オラの高校はな、オラ達しか部員がいねぇんだ」

「せっかく 準決勝(ここ)まで来たんだ。少しぐらい融通を利かせてくれてもよかっぺ?」



彼の名は


マジェスティック吉祥寺 三平(マジェスティックきちじょうじ さんぺい)



通称マジキチ三平である。パートナーは


南鷹(なんだか)ピンク という女の子で、特殊能力は『なんだかヒロインぽい』という優れた能力だ。彼らは準決勝第二試合の

選手であり、ここまで来た実力は紛れも無く本物だ。だが、能力を行使する女性がここまでの試合で疲れ切ってしまい、どうにもならない。

かといって部活には彼ら2人しかおらず『中継ぎ』のやりようも無かった。加えて・・・・


「・・さっき医者からさ、言われたんだ」

「彼女、双百万(ダブルミリオン)だっぺ・・」


彼がその言葉を口にした途端。作業場が静まり変える。キーボードを叩く音や通話はそこで不自然に止まり、白色の光とモニターの無機質なわずかな囁きを残すばかりとなった


「そんな馬鹿な・・・!!」


あきらかに動揺する珠須


「あるはずが・・そんな事ある筈が無い・・」

「キミ、それは何かの・・」


そう言いかけた拍子


『バサッ!!』

「これが診断書だべ」


少年が机の上に良く解らない数値等が記された書類と一緒に診断書をぶちまける


「・・・・」


明らかに動揺している珠須は


「そんな・・・そんな・・・」


目を挙動不審に揺らしながら非情の通知に食い入る


本来、双百万(ダブルミリオン)とは引退するプロ女性アプリ坊主に付けられる称号であり、一部を除き「男性パートナーも合わせて引退」という事を意味する。

つまり「可能性が無くなり、願いを叶える事」が出来なくなってしまうのだ。ただこれは、限界まで体力を酷使させた挙句に引退、という物では無く、

あくまで『便宜上』そういう事にしておくケースが多い。なぜかというと、少し余力を残しておかなければその後、出産できなくなってしまうからである。

だがこのケースでは・・


「すまない・・・」


何の遺伝子異常か、神様のいたずらか、彼女は若くしてその機能を失った。完全に使い切ってしまった。もう子供は孕めない。


「本当にすまない・・」


やり場の無い悲しみが心を震わせ、書類の両端が歪む


「・・・いや、オラに謝られても困るべ・・」

「大丈夫だべな・・?」

「彼女、大丈夫だべな・・・?」


震える珠須の両手首をがっしと掴み、少年が問う


「大丈夫だ・・・大丈夫だから安心なさい・・」



振り絞る様に呼吸を共わず老人から発せられた約束は、消え行くロウソクのように儚く蛍光灯の囁きにも勝らぬうめき声であった




『カタカタ・・』

『カタカタカタカタ・・』

『あー、申し訳ございま・・・』


一瞬間を置いて作業場が始動する。キーボードが波打ち、通話が引き潮となり寄せては返す無機質に、ネクタイと体の間に指を入れ刹那の息をつく従業員達。

国際競技場の夜に食堂の香りを残しながら時を稼げと




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