4-05 万南無高校VS梵酢高校 3『プレイ』
万南無高校保健室。普段はそう多くの利用者が居る訳では無いが、試合終了直後という事もあって報道陣やら関係者やらでごったがえしている。
担当の医師は、早々と全員を締め出し施錠した
「・・・あれ・・?」
「あたし・・、どうして・・?」
しばらくした後、目を覚ました 焼豆が天井を見てつぶやく
「キミ達は良く頑張った」
「だから、もう少し休んでなさい」
医師が優しく声をかけた
「はい・・」
「(あたし・・負けちゃったのかな・・?)」
「・・・」
「・・大ちゃん・・小屋鳩選手は無事ですか・・?」
か細く質問を切り出す彼女に
「・・安心して、そこだよ。キミほど体力は消耗していないようだ。」
笑いながら顔で指し示す医師。小屋鳩はカーテンを跨いだ別のベッドの上に寝かされていた
「・・よかった」
彼の無事を確認し、再び気絶するかのように眠りに就く焼豆
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瞬間的な耳鳴りの後、急に周囲から音が無くなる。自身が風を切る響きすら感じ得ず、その視界はただただ白きを増して無地のキャンパスへと染めていく。
考える余地すらない刹那の時に出会いの記憶を垣間見る
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「ドッ!!」
焼豆の体勢が崩れ
「うぼっ!!!!」
小屋鳩の腹部付近に着地する
「う”~いてぇなぁ~~」
「!!!」
「目良美!!!」
「しっかりしろ!!目良美っ!!!」
慌てた小屋鳩が
「先生!!中止です!!」
「き、棄権しま・・」
周囲を見渡すと、
「ほら、おまえらどいたどいた・・」
教師と医師が手際よくタンカと共に到着。事の次第を見守っていた全員が『試合続行不可能』を悟り、行動に移していた。
『・・・X』
教師とアイコンタクトを取った生徒が立ち上がり両手でバツ印を作ると、それに呼応した生徒が、大会本部関係者に棄権を申し入れる。
何のドラマも無く、休憩時間中に試合終了。実にあっけない幕切れだが、現実とは得てしてそういう物。
この時代においてはもはや都市伝説レベルにまでなってしまった 鉄紺色のブルマと、その中に仕込まれた豆。
それらをチラ見させられて正気を保てる男性が果たして居るだろうか?
相手側の反則負けも誘う二重の作戦であり、焼豆が奥の手として残しておいた必殺の布陣は『調整不足』という敵に敗れ去ったのだ
―ラウンド2開始予定時刻より約30分経過後―
「大会運営本部からお知らせです」
「試合中断が続いており、まことに申し訳ありません」
スピーカーから雑音混じりに
「只今の試合、万南無高校の選手が体調不良を申し出ており」
「試合続行不可能と判断した為」
「梵酢高校の勝利となります」
「繰り返しお伝えします・・」
音声が響く
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『???』
どういう経緯があったのかは解らないが、仮設テントで 葱沼にネギを突っ込んでいた茄子乃が
「(なんですって・・?)」
思わず振り向く
「ヴッ!!ヴッ!!?」
口にボールギャグを咥えさせられていた葱沼も続けて振り向いた
「うおおおお!!!」
「バンザーイ!!」
「パオーーン!!」
なにかのプレイに夢中になっていた2人を尻目に周りの関係者が万歳三唱
「(マズったな・・)」
喜ぶタイミングを完全に逃してしまい、そっとネギを引き抜き
「(うっわ・・くっさ・・)」
とりあえず嗅いでみる茄子乃。彼女はつい先ほど『茄子こそが最強宣言』した事を
「(タイミング悪いなぁ・・)」
思い出し、困惑した様子で引きつり笑顔を見せた。と、その時
「パシャパシャッ!!」
「放送席~!放送席~!!」
「本日のヒーローインタビュ・・・あっ」
新聞記者と実況が入り乱れて梵酢高校側の仮設テントになだれ込む
「ギャアああァ!!」
悲鳴とも絶叫ともつかない声を上げて、とっさに体の反対側に
「ひ・・・」
「・・・・」
「肥料です・・」
茶色くなったネギを隠す茄子乃。みるみるうちに顔は真っ赤に
「え・・・・?」
言葉の意味がよく解らず、硬直するアナウンサー
「だ、だから!!肥料なんですってば!!」
「野菜には肥料が必要でしょ!!!」
怒っているのか、照れているのか、泣いているのか解らない彼女
「あっ・・はい、そうですね!」
なんとか話を合わせようとするアナウンサー。企業努力の賜物である
「いいよ~!とってもいいよ~!」
「茄子乃ちゃぁ~ん!!目線頂戴!」
「パシャパシャッ!!」
「カウントいきま~す!5!4!3・・」
その後、適切なインタビューなどが執り行われ、その日の試合は終了した。ちなみに次の日のスポーツ新聞記事の一面タイトルは
『野菜には肥料が必要』
机の上に四つんばいになった葱沼と、複雑な笑みを浮かべてモザイクのかかったネギの匂いを嗅ぐ女子高生の姿が印象的である




