3-11 私立サバンナ学園
千葉県木更津市。東京湾を埋め立てて更地にした場所に「私立サバンナ学園」が開設されたのはつい最近である。
都会のの慌ただしい人ごみを嫌い、脱サラした校長が創立したのだが思いつきで始めたものだから学園を運営するノウハウなどは皆無であり、節々によく解らない
勘違いなどが見受けられた。
だが「のびのびと生徒を育てよう」という教育方針は千葉のみならず他の県の保護者などからも絶大な支持を受ける事となり、この不況の時代にして在校者数が増加
する一方という好調ぶりを示していた
「お、スコール!」
「おはよぉ~~!」
クワを持った農作業中の少女が手を止めて男子生徒に挨拶する。上下ジャージ姿だ
「ああ、おはよう」
「今日あれだっけ?部活とかどうすんの?」
金属バットをカリカリと引きずりながらやってきた男子生徒が尋ねる
「いやぁ~。わからん」
「昼ごろ先生に聞いてみんよ」
少女の名前は
大地めぐみ(だいちめぐみ)
サバンナ学園のアプリ坊主部において主将を務めており、その能力である「自然で生き抜く力」を高く買われてこの大会に推薦された
「昼かぁ~。」
「うちはじゃあ、狩猟訓練でもしてっかな」
この少年の名前は
雨宮スコール(あまみやすこーる)(支援アプリ坊主)
名前の通り「雨乞い」の能力志望であるが例によってそれは封印され、今は大地めぐみの支援をしている
「狩猟訓練ってったって、マト忘れてきてんべ?」
大地めぐみが日焼けした顔から笑顔を漏らす
「ああ、やっべ・・」
「・・また校舎まで戻るのだるいな」
雨宮スコールががっくりと膝を着いた周りは見渡す限りの地平線が広がっていた。校長がサバンナマニアの為できるだけ本物に近づけようとしていて、
その為どうしても広大な敷地となってしまうのである。本来ならばライオンなどの猛獣も放し飼いにしたかったそうだが、あと一歩の所で教師達に羽交い絞めにされ阻止されたらしい。
「自由なんだから、そこらへんで休んでれば?」
大地めぐみが提案する。彼女の言う「自由」とは、アプリ坊主部の代表選手達が大会中に自由行動になるソレでは無く、ここの学園の授業科目の事を指す。すなわち「農業」「狩猟」
「家作り」「自由行動」サバンナ好きの校長の趣味と偏見がふんだんに反映された科目が並ぶ。そこからひとつ選んだ上で生徒達は好きに過ごして良い事になっていた。
ちなみに入学試験は「遠視」で、肉眼で遠くにいる動物の種類を当てたら合格という大雑把な物だ。学園側の予算の都合上、試験に使われる動物は大体「犬」なので当てずっぽうで合格する生徒も多い
「もうこれ、敷地内で遭難するレベルだろぅ・・」
硬い地面の上に、大の字を描いて転がる雨宮。敷地というか空き地に近い
「もう~、大げさなんだから」
「ほら、こっからだって、校舎見えるじゃない」
大地めぐみが額に手を当てて遠くを見渡す。よくよく見れば遥か彼方にとてつもなく大きい木がぽつんと生えていた。
「・・校舎っていうか、木だけどね」
雨宮が大の字のままつぶやく
「うん。木だね」
「でもいいじゃない。サバンナっぽくて」
東京湾のドブ臭い風に髪をはためかせながらめぐみが笑顔を振りまいた
「校長これ絶対サバンナとか誤解してるよな・・」
「・・いや、そもそも」
「紙とかペンとか一切使わない高校もどうかと思うし・・」
大の字になりながら金属バットをカリカリと地面に擦りつけると砂煙が立った。その遥か先、同じように砂煙を立てて校舎(大木)に向かって進む一台のジープがあった。
「ヒャッハー!!!」
「サバンナ最高ーー!!」
ねずみ色の探検服で双眼鏡を片手に助手席で立っているのが校長だ。
「校長。シートベルトをして下さい。」
「とっても危ないです。」
「というか助手席で立たないで下さい。」
運転している教頭が冷ややかに注意する
「なぁ君、これでシマウマとか居たら、もっとサバンナっぽくなるとは思わないかね?」
校長はまるで話を聞いていない
「なりません。ここは日本です」
「あと、ちゃんとした校舎を建てて下さい」
教頭のメガネが太陽の光に反射する
「そうかそうか。」
「今でも充分サバンナっぽいものなぁ~。」
ハァハァと呼吸を荒げ腰をカクカクさせる校長。とても気持ち良さそうだ
「いや、そうじゃなくて・・」
「・・・っ」
地面の凹凸段差でずれたメガネを直す教頭。少しカツラがずれたが本人は気づいて居無い。
「・・・むっ。」
「そういえば君は今日、スーツだね?・・なぜ探検服では無いのかね?」
運転している教頭の衣服を指差し、ふるふると震える
「サバンナっぽくない!スーツは大変サバンナっぽくないぞ!!」
「むおおぉ!!」
運転中の教頭に掴みかかり、無理やり衣服を剥ぎ取りにかかる校長
「やめてください!!」
「危ないです!!」
「いや、コレ、マジで危ないから!!」
蛇行運転しだしたジープからネクタイやカツラやらが落下して行く。
「ズザザザッ・・!!ボリボリッ・・」
「むうう??・・・ぼっ!!」
小石を巻き込んだ音と供にタイヤが停止する。教頭がブレーキをかけたのだ。シートベルトをしていなかった校長は車の前方の窓ガラスに軽く打ち付けれられた
「ぐぶっ・・・」
「・・隊員とのコミュニケーションがうまくいかないとは・・」
「・・ふ・・・これもサバンナの醍醐味と言えよう・・」
そう言って校長は満足そうに目を閉じた。
「隊員じゃなくて、教頭です。」
「あと死んだフリやめてください。そんなにスピード出てませんから」
教頭がジープを降りて、散らばっているネクタイとカツラを回収しに行った瞬間
「ザザッ・・ブロロロ・・・」
校長はすかさず運転席に乗り込みジープで逃走した
「あっ!!!校長!!」
それに気づいた教頭はすかさず追いかけるがもう追いつかない。
「ははっ!君ィ~。サバンナを甘く観ちゃいかんよ!!」
「遭難も又、サバンナの試練と思いたまえ!!!」
校長は颯爽と去っていった
「サバンナ関係ないと思うけどな。」
「・・・明らかに人災だろこれ・・」
校舎(ただの大きい木)までここからあと4~5キロといった所か。「何かの運動には丁度いいのかも知れない」そう思いながら教頭はカツラを頭にかぶせ、野球帽を直すように「クイッ」と位置を正した。
「お~、あっちで何かやってんよ~」
そう言いつつ雨宮の隣に座る大地めぐみ
「おまえ、よくそれ見えるな」
やれやれといった感じで雨宮がつぶやく
「まぁね!めぐみ、目ェいいもん♪」
無い胸をぐいっと張る大地めぐみ
「そうか・・」
「それでだな、話は変わるが」
「次の対戦相手だがな・・」
何かを言いかける雨宮
「あっ・・知ってるよ」
「確か・・梵酢高校」
「・・だったよよね?」
大地めぐみは段々自身が無くなりちらりと雨宮のほうを見た
「・・うん合ってるよ」
「あれ、かなり手ごわいぞ・・」
ケータイをいじり、情報を見せようとした雨宮だったが
「う・・ここのホームページ、ケータイは対応してないな・・」
パソコンでしか見れないらしく「パタン」と折りたたむ
「なんでー?」
「またあれだよ、トマトとか食べさせればいいんだよ」
「そいで、キュウリとか茄子とか突っ込めば楽勝じゃない?」
大地めぐみの能力である「自然で生き抜く力」はすなわちサバイバルだ。これまでの試合は相手に野菜を食わせたり突っ込んだりしてどうにかしてきた
「ところが・・」
「今度の対戦相手は相手も野菜マスターなんだよ」
「野菜アイスクリームを人に食べさせる」
「・・それが彼女の能力だ」
考え込む雨宮。同じ方法で野菜を使ったとして「自然で生き抜く力」と「野菜アイスクリームを人に食べさせる」では、どうみても後者(梵酢高校)側のほうが本来の「目的としている」能力に近い。
そうなれば、ポイント差でどうしても負けてしまうのだ
「・・・・!そうだ!!」
大地めぐみがなにかを思いつく
「私の能力は「自然で生き抜く力」だよね?」
「ということは、逃げ回って生き抜いていれば、そのうち相手のアイスが溶けて自爆して勝てないかな?」
ナイスアイディアのように思われたが・・
「ダメだ」
「相手も、自分達の弱点ぐらいは解っていると思う」
「クーラーボックス等、対策はしているはず」
「そうなれば、冷えた 野菜を突っ込まれるのはお前だ」
雨宮が大地めぐみの股間に視線を向けて言い放つ
「ひゃっ!?」
想像してしまったのか思わず股間を押さえる大地めぐみ
「お前確か第二志望の能力「遠くの物を見分ける」能力だったよな?」
雨宮はなにか思いついたようだ。
「う、うん。」
なぜかもじもじしながら答える大地めぐみ
「・・・だったらあれだよ。もう、しょうがないから全力で逃げながら、遠くの物を言い当ててて」
「うちは、なんとか一騎打ちのタイミングを計る」
「残念ながらコレぐらいしか作戦は無い。」
雨宮の出したアイディアは、必勝というよりは妥協案に近い。大地めぐみが考えた作戦と大差無かった
「最初にぶっかけるのはどう?」
大地めぐみが自分の顔を指差して質問する。ぶっかけるとはもちろんオーラの事だ
「多分、間に合わない。」
「めぐみにオーラがかかる頃には、うちらの穴という穴は(相手の)野菜アイスで塞がっていると思う。」
そう言いつつ、自分の尻を押さえる雨宮
「ひゃっ!?」
大地めぐみも釣られて股間と尻を押さえる。
「う~む。・・・どうしたものか・・」
私立サバンナ学園の大地めぐみと雨宮スコール。大した作戦も決まらぬまま、刻一刻と試合の日が近づいていた




