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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第一章
5/82

1-05 万南無高校VS雲葛高校 01『リング入り』

「まもなく…アプリ坊主千葉県大会の一回戦、万南無高校(まんなむこうこう)対 雲葛高校(うんかつこうこう)

の試合が始まります」

「参加者の方は所定の場所にお集まりください」


アナログチックな雑音が乱反射し競技場を包む


一回戦参加者、珍海と犬馬はすでに、グラウンドの中央のリング前に移動していた


珍海がリングのロープを上に持ち上げると、そこをまたいで犬馬がリングの上に体を滑らす

続いて、珍海がロープとロープの間を器用にすり抜けて壇上にあがる

二人は赤いコーナーポストのほうに陣取るとウォーミングアップ代わりに、ぴょんぴょんと飛び跳ねて軽く屈伸運動をした



「赤コーナー。万南無高校(まんなむこうこう)代表、珍海&犬馬~~~!」


ワァァァ!と一斉に歓声をあげる観客

審判からマイクを手渡されると


『私の…能力は…』

『犬を散歩させる能力です!!』


犬馬が高らかに申告する。


犬馬の「持ち能力」を聴き「ワァァァァ!」と再び盛り上がる会場

珍海と犬馬は手を振って声援に答えた。そして、コーナーに戻ると、からだの後ろに両手を回してロープをつかみ、

リラックスした姿勢で自分の能力の源である愛犬の「まゆげ」とアイコンタクトを交わす

柴犬のまゆげは大会側が用意したセコンドにがっちりと、抱擁されている。尻尾を激しく振り飼い主を応援しているようだ。



【犬を散歩させる能力】


と聞くとたいしたこと無い能力に感じられる方もいるかもしれないが、少なくともこちらの日本では素晴らしい能力である。

例えばそう、そちらの世界でいうところの、球を投げたり、向かってきた球を打つ、といった価値観に近いのかもしれない。

そちらではそれができれば、何億も何十億も貰えるのでしょう?


スポーツとは皆、大昔の人達が勝手に決めたルールに従い、それをより完璧にこなせる人間が評価されるのだ。

この世界ではたまたま、犬を完璧に散歩させれば何億も貰えるスポーツ足りえる、という事に過ぎない。

生まれた世界によって人間は、必要とされる能力がまちまちであり、周りの反応や評価も違うという事。

何百キロの球を投げようが、それをどんなに完璧に打ち返そうが、【それがどうした】と認められない世界では、なんの意味も無いのだ




「続きまして・・・!」


「青コーナー。雲葛高校(うんかつこうこう)代表、心技&空~~~!」


すでにリング上にあがっていた二人は手を振って声援にこたえた


対戦相手の雲葛高校側のアプリ坊主である、心技(しんぎ) タイ(たい)は立派な体格をしていて角刈りがトレードマークだ。

彼の特徴は、話の語尾に~タイと付けることだが、あくまで口癖であり、方言とは違うので注意してもらいたい


そして、能力者のパートナーである そら翼子つばさこ。さわやかな笑顔が特徴のサッカー少女だ

口を大きく開けたまま鼻の下をこするのが彼女のクセであった。

雲葛高校の2人はサッカー用のユニフォームで試合に挑んだ


彼女は審判からもぎとるようにしてマイクを掴むと、自分の能力をさわやかに宣言した


『私の能力は』

『ボールと友達になることです!!』


ワァァ・・と盛り上がる観客だったが、翼子は左手で「止れ」のポーズを出して歓声を静止すると、そのまま目の前にいる

珍海&犬馬ペアを指差し、マイクに向かって叫んだ


『おまえ達が優勝候補の珍海&犬馬ペアか!!』

『かかってこい!コノヤロー!!!』


翼子は口を開けたまま挑発的な視線を犬馬に向けたが、もともと表情があまり変わらない系の顔立ちをしていた為か、犬馬達は

気づいていない様子だった。

翼子がマイクを審判に返すと、今度は、犬馬が審判からマイクをもぎとった


『あの…』

『なんだっけ…』


犬馬は、大観衆の前に頭が真っ白になってしまったらしく、思いついた台詞を忘れてしまったようだ


「犬馬、飯、飯とわんこ(犬)!」


犬馬とパートナーの珍海はなにか思いつく様にと、話題を提供した。


『おまえ、この…』

『飯とウンコしてる時以外は、いつでも相手になってやる!!』


犬馬はすぐさまマイクに向かって叫んだ


観客席の歓声はピークに達し、会場はより一層の熱気に包まれた

翼子は審判にマイクを返却すると身構えた


「1R(ラウンド)

そう書かれたプラカードを持ったスクール水着姿の少女がリング上で、今から第一ラウンドが始まることを観客席に向かって

示唆した


カーーン!!


勝負開始を告げるゴングが会場に鳴り響く


アプリ坊主の試合はまず、相手の力量を探るところから始まる

観客を楽しませるショーとしての側面を持つことから、試合開始早々から決着をつけてしまうことはあまり好まれない


各アプリ坊主は所定のコーナーに戻るとセコンドから衣装ケースを渡される。それを自分の横に置き正座をして両腕の手の平をふともものあたりに置き、背筋をまっすぐ伸ばすのが作法となっている。





そして能力者同士は、リング上で相手の技の探りあいをするのである


じりじりと間合いを詰めた両者は、円の動きで時計周りに動き始めた


『(この子…)』

『(強い…)』


犬馬のり子は相手のかもし出す雰囲気に圧倒された


素人目には女子高生2人がただぐるぐるとリングの上を周っているようにしか見えない。

だが、達人同士の戦いとはそういうものなのだ



『(すこし探りをいれてみよう)』


そう思った犬馬は、円の動きを続けながら、さりげなく相手のにおいを嗅ぎにいった。

釣られて、翼子も、犬馬の匂いを嗅ぎ返した。「くんくん・・」とお互いの匂いを嗅ぎあう両者。


「いっ…!いかんタイーー!」

「奴から離れるんじゃああ!翼子ーー!」


ふいに、翼子のパートナーである心技タイが叫んだ。彼は正座をしながら、手元の端末で試合の優劣を決めるポイントを観察

していた。アプリ坊主専用端末だ。

そして、そのポイントがわずかばかり、犬馬有利のほうに傾いたのだ


これはすなわち、「犬を散歩させる能力」が実行され、わずかばかりではあるが世界に認められたということである

そして、世界に認められればアプリ坊主の端末に受信され、ポイントが反映される


この場合は、”相手の匂いを嗅ぐ”という行動が、犬の散歩と関連付けられ、わずかにポイントがはいったのだ

ただし、犬が匂いを嗅ぐのではなくて、飼い主が匂いを嗅いだ為、致命傷にならずに済んだのだ。


とっさに飛びのいた翼子であったが、ハァハァと呼吸を荒げている


『―おかしい』


翼子はそうつぶやき、うしろで正座している心技タイのほうをちらり、と見た。無表情だがパートナーのタイにはあせりの色が見て取れる。


翼子は焦った。自分の能力である「ボールと友達になれる能力」が発動しないのだ


翼子は対戦相手の犬馬を挟んで、じりじりと円の動きをしていたはずである。そして、それはボールと関連付けられ、能力が発動

してもおかしくはない。しかし、ポイントに還元された節もない。

ふいに、心技タイが叫んだ


「翼子ー!」

「それは、ボール(玉)じゃなくて、サークル(円)じゃああ!!」


はっ、と息を飲む翼子。彼女は英語の成績が悪かった。



『心技…!』

『変身だ…!』


不利を悟った翼子はアプリ坊主に支援を求めるべく変身をうながす


「…ハッ!」

「アプリ坊主タイーーーー!」



心技はすぐさまスーツケースを開けて衣装を取り出し叫ぶ




そして最初のパーツである法衣を着るべく、履いていたズボンを脱ぎだした。アプリ坊主の変身には若干のタイムラグを要する。




(能力者もアプリ坊主だが話を解りやすくする為に、能力者、とだけ呼称される場合もある)

(正確には「女性アプリ坊主(能力者)」と男性アプリ坊主(能力増幅者)に分類される)


一方、珍海&犬馬ペアは、追加攻撃を加えるべく、すでに変身の準備段階にはいり始めていた

しかし珍海&犬馬ペアは学生服の為、ワイシャツのボタンを外す動作などが遅れ実質はそこまで変身時間をリードできている訳ではなかった


サッカーユニフォームを着てくるという、翼子&心技ペアの作戦勝ちといった所か。





さて、ここで簡潔ではあるが「アプリ坊主」のルール説明を行ないたい。試合中にもちょくちょく説明はされているが、まとめておいたほうが

分かりやすいと思い、後から追記した物である


1 「アプリ坊主の試合はポイント制であり、相手より多くのポイントを稼いだほうが勝ちになる」


2 「自分の持ち能力をより多く、多彩にアピールすると高得点」


3 「対戦相手のペアに直接攻撃をするとポイントが減算されてしまう」


4 「マイクパフォーマンスも得点に加味される」


5 「世界の無意識下の価値観により、自動的にポイントは集計される」



(例)「色を的確に当てる能力」の場合


水面を指差して「あれは青いです」と答えたとする。正解がどうであれ、無意識下で「青い」と認識する人が少しでも居ればポイントがはいる

ただしこの場合、「あれは透明です」と答えたほうがより多くの支持を得られることになり、大量のポイントが入る



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