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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第二章
31/82

2-09 跳流田高校VS万南無高校 5『海岸の果て』

二時之次と流布がすったもんだしていた頃、珍海と犬馬はまゆげを遠隔操作から呼び戻し、再びリードを付けて散歩し始めていた。東京湾を背景に浜辺を歩いていく。海面を反射した強い光が、逆光となった2人と一匹の影から輪郭をくっきりと

映し出した


「あれだね~、出店とか欲しいね~」


リードの先のまゆげを見ながら元気に犬馬が話す


「食い意地はってんなよ、あんまり遠くに行くなもう・・」


笑いながら珍海がツッコミを入れつつ、


「うん、順調だな」


端末を確認したが、ポイントにかなりの差が出ていて、どうやらこちらは勝利目前のようだ。


「犬馬、見てみ」


立ち止まった珍海が端末のポイントを犬馬に見せる。


「おお、楽勝じゃん♪」


犬馬は寄り添うようにして珍海にひっつき、端末を覗き込んだ


「まゆげ・・こら、ちょっと!」


飼い主を放っぽって、まゆげがあらぬ方向に行きだす。彼女がリードを少し引っ張って静止すると、まゆげはこちらに戻って来て座った


「・・・・・」

「犬馬さ、昨日の事・・」


ふいに珍海が真面目な顔をして話し出す


「・・ぶっ!」

「どーしたの急に?」

「面白い顔になってるよ?」


まるで、にらめっこのような顔になっている珍海を見て、犬馬は思わず噴き出した


「いや・・」

「昨日犬馬寝てたじゃん?」

「あれってさ・・」


どうやら珍海は、昨日のVIPルームの事を言おうとしているらしい。さらに


「あれって、最後どうなったんだっけ?」


珍海が続けた


「え??」

「どうもこうも無いじゃん」

「へんな珍海っ」


犬馬は笑ってスルーしようとしたが


「いいから」

「いいから教えて」


珍海が食い下がる


「もう、」

「会長さん達に送っていってもらったでしょーが」

「その年でボケちゃってまぁ・・」


口に手を当てて不敵な笑みで珍海をからかう犬馬


「・・・・」

「ああうん・・そうだよね・・」

「・・・なら」

「なら、いいんだ・・」


釈然としない。どうも何か大事な事を忘れてしまっている。珍海はそんな気がしていた。コーヒーカップに入れてかき混ぜた砂糖がいつのまにか消えてなくなる様に。すごく怖い夢を見た後に、すぐさま忘れてケロッと生活をしているようなそんな感覚に陥っていた。




「・・・」


犬馬と歩きながらしばらく無言で端末を操作する珍海。画面には現在地がリアルタイムで映し出されている。ここまで離れればもう、アプリ坊主に変身しても二時之次に一騎打ちされる心配も無いだろう。彼は果たしてそう考えたのか、



「・・・・・」

「犬馬、ここでいいかな?」


荷物の中からTENGOを取り出すと「ニョキ」っと犬馬に見せるようにして問いかけた


「ちょっ・・ちょっとどうしたの急に??」

「そんなに(ポイントが)ヤバイの??」


試合中だということをポロッと忘れていた犬馬だったが、それにしても彼の行動は何の脈絡も無いように見えて、珍海に問い返す。今しがた端末を見せてもらったが、危機的状況にあるとはとても思えなかった。

それとも残り少ないオーラを放出してまでこのまま一気に試合を決めるつもりなのだろうか。


「あ、い、いや・・」

「嫌ならいいいんだけどさ・・」


少し慌てて、ポッケに自分のTENGOを突っ込む珍海。入りきらずに半分程はみだしている


「あっ~~、違うの!!」

「そうじゃないよ、そうじゃないの」


まゆげのリードを離し、慌てて珍海にすり寄る犬馬。解き放たれたまゆげはリードをひきづりながらそのまま散歩を続けた


「いいよ、いつでもいいの・・」


犬馬は珍海の胸の中で頬を染めた


「・・・・」


珍海は自分で自分の事が解らなくなっていた。


「じゃあ、ちょっとそこに四つん這いになって・・」


なぜ犬馬に対してこんなにも心の底まで熱くなるのかが。



「・・・・」

「・・・いいよ・・来て・・」


犬馬は砂浜に四つん這いになり、お尻を突き出す構えを見せて珍海を誘った。だが、



「勝利!!」


珍海のポケットの中の端末から、第2試合終了を知らせるボイスが鳴り響いた。規定ポイントに達した犬馬&珍海の勝利だ。


「うっ・・・」


TENGOを装着する暇も無く、珍海は無念とばかりにその場にがっくりと膝を着いた。


端末が遠かったり故障したりして試合終了を知らなかった場合を除き、「勝利後」に男性アプリ坊主が女性アプリ坊主に対してこれ以上何かをするのは、

法律に接触する恐れがある。なぜならこれは「スポーツ」として「ルールの中でのみ許された」行為だからである


そして、珍海と犬馬の生きるこの西暦2058年において「不純異性交遊」は、おおよそ学生同士における「最も重罪な行為」とされた。

例え、本人同士が望んでいたとしても「女性の尊厳を踏みにじった」とされ、男性側が多少一方的に裁かれ、その罪は親にまで追求された。

なんとか改善しようと、世界アプリ坊主連盟の会長が必死に作り変えてきた「価値観」であったが、まだ少し及ばなかったのだ。


「不純異性交遊対策委員会」


国はある時、新たな組織を立ち上げた。各高校や中学校、小学校などに監視カメラが設置され、不純異性交遊を徹底して取り締まった。

なぜこんなことをしだしたのかと言うと、先の回想で説明した「痴漢防止手袋」の撤廃が決まり、役人にお金が行き渡らなくなったからである。

「女性の尊厳が云々」等は屁理屈に近い政府側の言い分であって、要はお偉いさん方の財布の中身を潤すことが目的だったのだ



「犬馬、ごめん・・」

「試合・・終わっちゃったね・・」


珍海は犬馬の体をゆっくり抱き起こすと、


「残念残念っと・・」


肘や膝などについた砂を、ぱっぱっと手で払いのけてあげた


「う、うん・・」


だが犬馬は気持ちの切り替えが効かないらしく、珍海の腕の中でもじもじとしている


「犬馬・・」


珍海は犬馬と正面から向かい合うと包むようにして背中から腰のあたりをやさしく右手でなぞった。


「あっ・・・!」

「はっ・・」


思わず吐息を漏らす犬馬


「次、思う存分しよう・・」

「な?」


抱き合うようにお互いに交差させていた頭を少し後方に下げ犬馬と目線を合わせると、珍海はそっとつぶやいた。


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