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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第一章
3/82

1-03 会長と幼女

晴れ渡る快晴の中に観客席を埋めながら、たまに空くも指定席。場所取り済みの指定席。

ぞろぞろとコンクリ階段に列を成し、まだそれほどでもなく緩やかの、陽気に春を感じつつ、シャツになるにはまだ早く


国際競技場で今まさに、アプリ坊主の高校県大会が開かれようとしていた


出場選手の家族や一般客などで会場は満員となり、入りきれない観戦希望者はテレビや端末などを凝視しながら

固唾をのんで見守っている


そしてプロのアプリ坊主や、海外のスカウト達も”将来のエース”をみつけるべく奔走していた


「どれどれ…」


着物を着た白髪の老人が、赤い絨毯が敷き詰められたVIPルームの中から双眼鏡で観客席をぐるりと見渡す


「おう、おう、スカウトも必死だな」


黒いスーツに赤いネクタイ。黒サングラスに、馬鹿でかいポップコーンを片手に持った一目でソレとわかるスカウトに

照準をあわせると老人はそうつぶやいた


「…あんなポップコーンここで売っていたかな?」

「くッ…!やつめ、うまそうに食べおる!」


スカウトは最初、一心不乱にポップコーンを食べていた。ぽろぽろと食べかすが足元に落ちる。その食べっぷりは実に見事だった。

べとべとになった両手をスーツのふとももあたりでぬぐうと双眼鏡を手にとり、ある選手達に照準を合わせた

その様子を遠くで確認していた老人も、合わせてそちらを追う


珍海(めずらみ)君…」

「それに犬馬(けんま)か…」


スカウトと老人の視線の先、グラウンドには2人の高校生がいた

ひとりは、”超高校級”ともてはやされた高校アプリ坊主の選手、珍海(めずらみ)あつし。アダ名はチンカイである

もうひとりは、”不世出の能力者”といわれた、犬馬けんまのり子。犬を連れている


彼らはまだ高校生だが将来を嘱望されている逸材なのだ

アプリ坊主高校部門の試合は、常に男女ペアで行なわれる。主に男性がアプリ坊主で支援にまわり、女性が助けを得て、能力を発揮する事と決められている



「2人供、よく育ったものだな・・」


老人がそうつぶやいて、双眼鏡をおろすと、


『はい…2人供、大きくなられまして…』


そばにいた従者が共感する。続けて反転し


『ポップコーンを買ってまいりましょうか?会長』


ダッシュしかけたその人を


「いや、よい」


老人は右手を軽く上げて制止した。






『ねーねー!』

『おねーちゃんどこー?』


ふいに、背後から現れた幼女が老人の着物をつかみ、ぐいぐいと引っ張る


{みしてー!!}

{それ頂戴ー!}


もう一人、金髪の青い瞳の幼女が、老人の持っていた双眼鏡をせがむ


「ええと、…ちょっと…」

「ああ、ちょっと、おい」


小さな女の子2人に執拗にまとわりつかれ、老人は苦笑いを浮かべた


「すまん、やっぱりちょっと買ってきてくれるかな・・」


振り返り、従者におつかいを頼む。彼は軽く頭を下げるとすぐさまポップコーンを買いに走った


「のぼるなのぼるな」

「おい、引っ張っちゃダメだ!」

「ちょっ…いたいいたい!」


岩山を登るが如く突っ張り出された足が老人の体にめり込む

これまでの人生で疲れ果ててしまったその人には、もはやどうすることもできない


だが、その顔はとても楽しそうで、すこぶる充実していた


{エーの!!}

{それ、エーちゃんの!!}


金髪の女の子がお宝をせがむ。老人が持っていた双眼鏡はすでに黒髪の女の子が略奪しており、今度は黒髪の子と金髪の子で獲り合いだ



『んんんっ・・!!』

『ん”―ー!』


『(ガコッ!)』


黒髪の子は取られまいとして、望遠鏡を振り回したり高く掲げたり暴れる



「ほら、仲良くな」


老人は額を軽くさすった後、そっと2人を包み込むように抱きしめた


『んー?』

{んふふっ!?}


たちまち機嫌が良くなり、どうでも良くなる2人。

これくらいの年齢の子は、当初の目的などすぐさま忘れてしまうことも多い。老人は、子供の純真さに癒されたようだった。




遠くの観客席の青いベンチに座っていた外国人スカウトは視線の先を珍海とポップコーンでいったりきたりしていたが、”会長”と呼ばれていた

老人が目を離した隙にすでにどこかへ消えていた


「(ピィーーーーーー!フィーンーーー!ボッ!ボッ!)」


スピーカーのノイズ音が会場に響き渡る


「これより、開会式をおこないます」

「選手のかたはグラウンドに集合してください」


老人は着物の左手のあたりを、右手でまくりあげ、腕時計を見るそぶりを見せたが、事前にはずしていたのをすっかり忘れていたらしく、そこには

なにもなかった


かわりに部屋に設置してあった壁掛け時計をみてとり従者に告げた


「この子たちを頼むぞ」


従者は一礼し、子供達に寄り添った


この威厳ある老人こそは、世界アプリ坊主連盟の会長であり、そして現役の”永世アプリ坊主名人”でもある、珠須(たます) 雪次郎(ゆきじろう)

その人であった

開会式で、”会長からの一言”を言うために、今、赤い絨毯が敷かれた廊下を抜けて、1階へと続く階段を下りていくところである


『会長、これを』


そう言って従者は歩きながら、スーツケースのような物を差し出した


「うむ、ありがとう」



{…あっ、会長…}


ふいに、ポップコーンを3つほど抱えて走ってくる従者と出くわす


{遅くなりまして…}


従者は恐縮していたが、


「構わんよ」

「エメリア達と一緒に食べてな」


会長は右手を上げて制止し、さわやかに微笑む




彼は別の従者から差し出されていたケースを受け取ると関係者専用通路を抜け、グラウンドに颯爽と姿を現した

















現実の世界にもフィギアスケートなど「男女が薄着で体を密着させてど

うにかする」スポーツは存在します

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