1-22 忘雪〈ぼうせつ〉
女性の持つ、もっと大事にされたいと思う心の盾が攻撃に転じた時、その盾にはトゲがつき、振り回して男性に致命的な損害を与える。
女性つええも大変結構な話だが、彼女ら6千万人全員が豪傑と化せばこの国はどうなるのか。少し考えてみて欲しい。
その輩がやれ女性の人権だのなんだの騒いでおいて、いざ少子化して滅亡の道を歩んだ時に責任など取るはずが無い。
女性の豪傑がいけないとは言わない。だが全員が全員馬上槍を振り回していては、この国は滅んでしまうのだ。
〔勿論、同じ空気うんぬんは〕
〔今は操作して封印してある〕
「にわかに…」
「にわかには信じられないのですけど」
珍海は会長の昔話に動揺しながらも、自分の意見を述べた
「データなどはどうされたんです?」
「いくら、人々の記憶から消し去っても、パソコンなどのデータには残っているのでは?」
〔…データの改ざんや、消去なども私の能力にはいっている〕
〔追いつかない部分は、他のアプリ坊主に頼んだ〕
会長はテーブルの上に置いてあったおしぼりで手を拭うとぽつぽつと答えた
「…本当に?」
「…日本でこんなことが?」
どうも、「信じられない」といった感じでいまいち実感が沸かない。だが、珍海に取ってそれは無理もない事であった。
法治国家であるはずの日本で証拠があるのにもかかわらず一方的に裁かれてしまったり、「身内」に得体の知れない示談金目的の訴訟を起こされてしまっていたのだから。
「…会長は」
「それでこの国を変えていこうと??」
〔うむ…〕
〔…巻き込んですまんな〕
会長は静かに答えた。犬馬は、何も知らずに気持ちよさそうに寝ていた。少し、はだけていたので珍海は「犬馬に触れないように、慎重に」恐る恐る自分の着替えの予備をそっと犬馬にかけてあげた
「い、今、少しだけ犬馬に触れてしまったのですが」
「風邪をひかないようにと…」
「こんなのもダメだったのですか?」
〔もちろん、ダメだった。そればかりか〕
〔たとえ、合意があったとしても〕
〔あとから訴えられれば、おまえさんは〕
〔一方的に負けていただろうよ〕
会長は真顔で、残念そうに珍海に答えた。
「………。」
珍海は絶句し、言葉を失った。薄暗い、酒場風の秘密基地は、少しの間静寂に包まれた。
「その調子では普段の生活もままなりませんね」
「確かに会長の仰るとおり」
「洗脳で矯正したほうが」
「いえ、再教育し直したほうが」
「得策かもしれません」
「……」
「側近の話、少し考える時間をください」
「あとは…」
珍海は寝ている犬馬のほうをチラリ、と見ながら、
「僕に、会長の能力を再びかけてください」
「このままでは気が散って、試合どころではありません」
「お願いします…」
会長に直訴した。
〔わかった。ただ、私の能力は〕
〔同じ人間に何度も掛け直しをすると、次第に免疫のようなものがついてしまうらしく〕
〔効果が薄れてしまうのだよ…〕
「それでもいいです…」
「この恐怖から、少しでも遠ざかるのであれば」
珍海の言う「恐怖」とは次の事だった
今まで通り、犬馬と接することができるのかどうか?という事。真実を知ってしまい、本当はとてもじゃないが触れて良い生き物ではなくて、それでも犬馬とペアを組んで行けるのかという不安。
次にこの年齢の女性に対して接触すると「全然関係ない第三者に裁かれてしまう」ということ。世の中のシステムについてだった。
〔…安心しなさい〕
「それではお願いします」
〔むぁぁぁぁぁぁ〕
〔んぉぉぉぉ!〕
会長が自らのTENGOを激しく手で擦ると、まるでガスに引火したかのように「ボッ!!」という音と供にオーラの勢いが強くなった
〔アプリ坊ゥゥゥゥ主!〕
そして居酒屋風の部屋に閃光が走った
珍海が目を覚ますと、そこは自分の家だった。隣には犬馬のり子が「全裸」で寝ていた。タオルケットが少しずれ、はだけていた
「ああもう、しょうがねーなこいつ」
「こんな格好で…」
まるで我が子を見るような眼差しで、「やれやれ」といった感じで優しい顔になる。
「…?」
股間のTENGOがそそり起っている事に気づき、
「………」
「さて」
「次の相手は…」
心になにか引っかかる物を感じた珍海だった。が、今はそれどころでは無い
「流布良子」
珍海が端末を操作し、次の対戦相手をリサーチする
「なになに…能力は」
「海賊王になれる能力か…」
跳流田高校の流布良子は「ルフィー」のニックネームで知られる有名人だ。相棒の 二時之次 三時は、かなりの使い手と聴く。
「がんばっていってみよー!」
珍海が「シャッッ!!」と窓のカーテンを勢いよく開ける
『うーん…』
『まぶしいっつーの…』
犬馬が寝ぼけた感じで目を覚ます
「行こうぜ!!」
珍海が思い切りの良い笑顔で手を差し出す
『うん…』
犬馬のり子も愛くるしい笑顔でその手を取った




