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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第一章
21/82

1-21 雲雪〈くもゆき〉

薄暗い居酒屋風の隠し部屋。従業員はおらず、カウンター内のビールサーバーも、ピカピカに磨かれたフォークも、壁に掲げたポスターさえも己の存在理由を失っている。



〔珍海くん。高校を出たら私の所で〕

〔働く気は無いかね?〕



「……」

「ああ、はい、構いませんよ?」

「もともとプロアプリ坊主になるつもりでしたし」



〔いや、選手ではなく〕

〔私の側近として働いてはくれないか?〕



「側近ですか…」

「(ううむ…)」



〔おっとそうだった〕

〔肝心な事を忘れていたよ〕



会長は座ったままの姿勢で、今まで伏せていた自分のオーラを周りに見えるように可視化させると、ゆっくりと消し去ってみせた。



「(…これは一体…?)」

「……!?」

「おわぁぁぁぁぁっ!?」


しばらくの間のあと、珍海が顔を赤らめて、今まで自分に寄りかからせ抱いていた犬馬から飛びのく



「か…会長?」

「これは…!?」


珍海は犬馬を見て、すごくドキドキしていて、取り乱していた


〔安心してくれ、犬馬君は(私が)寝かせてある〕」

〔少し、待っていてな〕


アプリ坊主用の端末を取り出すと、少し操作してから凝視した。


〔さほど影響はないようだな・・〕

〔珍海君、みたまえ〕


端末をテーブルの上に差出し、珍海に見るように指示する


「会長…」

「これは一体…?」


珍海は、犬馬とくっついていた事が、急に恥ずかしくなった事を会長に聞いたのだが、若干、会長と会話が噛み合わなかったようだ。

言われるままに端末を覗き込むと、大きく数字で「99.9998%」と書かれていた。


〔これはね〕

〔自分の能力が完全に行き渡っている人の・・〕

〔割合なんだよ〕


〔私の能力は人を洗脳する事〕


会長はテーブルに深く座ると、顔の前で手を合わせ握り、祈るような姿勢で話を続けた。一見、落ち着いているようだが少しの隙もないほどに珍海の事を注意深く観察している。



〔つまりな、キミ達は、キミ達自身が知らぬ間に〕

〔私の能力の影響を受けていたのだよ〕

〔いや…キミ達、というよりは〕

〔日本人全員だな…〕


会長は話しかけながら目線で珍海に促すように「ちらり」と犬馬を見た。珍海も会長の視線に釣られるようにして犬馬を見た。


〔どうかね?〕

〔犬馬君が、今までと同じく見えるかね?〕


会長は、珍海に犬馬を見るように促した。犬馬はさきほどと変わらない姿で寝ているが、どうも珍海の様子がおかしい


「お俺は…」

「い、いえ、すごく心臓がドキドキしているのですけど」

「なんでこんな?」


珍海は、さきほどまでは取るに足らない事と、気にも止めていなかったのだが、横たわっている犬馬の着ている服はよくよく見てみると、胸元ははだけ、パンツはずり落ち、靴下は脱げかけていた。

自分の胸元には、うっすらと犬馬のぬくもりと、心地よい香りが残っていた。得も知れぬ感情に襲われた。そして、股間を膨張させた。

今までの価値観から言えば、取るに足らない出来事であったが、今は違う。




「…」

「あっ…!!」

「か、会長」

「俺…たった今、犬馬を胸元で抱いていたんだけど」

「訴えられたりしませんかね??」



珍海は呼吸を詰まらせたかのように、自分の胸元のシャツを右手でわし掴みにした。ひどい罪悪感のようなものに襲われたのである。


〔……。〕

〔まだまだこの程度の認識なのだな〕


端末を覗き込み、吐き出すようにしてつぶやく。会長は少し悲しそうな顔をしていた。


〔安心したまえ、「今は」この程度では訴えられたりせん〕

〔私が価値観を変えている〕

〔だが、過去には〕



21世紀初頭、日本は痴漢冤罪問題に直面していた。罪の無い男性が何人も裁かれ、ある者は投獄され、またある者は呪詛を吐き自殺していった。

たとえ無実の証拠があっても、女性の主張が一方的に優先され、男性の言い分は無視された。

警察署に連れて行かれ、”やったことを認めるまでは ”自宅に帰ることも許されない。


中世の「水中に沈められて、浮いてきたら魔女として殺され、浮かなかったらそのまま溺死する」という、魔女裁判のような事がこの日本で行なわれていた。

そして、それは次第にエスカレートしていった。



「触ってないのに触ったことにされてしまう」


という、価値観が「違和感なく国民に受け入れられた」前例がある以上


「実際にやった事ならしょうがないだろう」


ということにされ、今度は、「女性と同じ空気を吸っていたら有罪」という状態になってしまった。もう、明らかに最初の趣旨とずれてきている。

「女性に視線を合わせたら有罪」というのも同時期である。もはやそこに正義はなかった。

面白半分に、痴漢やセクハラをでっちあげ、示談金をせしめる輩が続出し、女性は我が物顔で暴虐の限りを尽くした。


この問題は次第に「主張する女性の年齢が小さければ小さいほど重罪」


となっていき、5歳児や6歳児などの低年齢の女性が、両親にそそのかされ、わけもわからずニセの告発をするケースが相次いだ。

中には自分の娘を風呂に入れて、なぜか「妻に」訴えられ、首を吊る男性も現れた


日本政府は、電子機器メーカーに、あるものを開発させる。


「痴漢防止手袋」


これは、マイクロチップが埋め込まれた手袋で、女性を触ったか触ってないかを判断するのに使われた。パソコンを一台買えるほど高価なもので、これの売り上げの一部は、政府が用意した法人の財布に、「公認料」としてそのまま入っていった。

世の中の男性は、「それさえ付けていれば・・」という事で、渋々それを購入し、着用して通勤したのだった。


夜の電車は、痴漢防止手袋をつけたサラリーマンと、「示談金目当ての女児や、女性」で溢れかえった。

過去に、「おやじ狩り」と呼ばれたいわゆる強盗が流行っていたが、今では「女児や、女性」が形を変えて「おやじ狩り」をする時代となっていった


痴漢防止手袋を付けていない男性はもはや「自殺志願者」などと揶揄され、実際にそうなっていった




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