1-19 帰路 2『試合会場に戻ってみる』
東京湾に到着した珍海とまゆげだったが、かなり沖合のほうで遭難しているらしく、宮崎の姿は見えなかった。
「くーん…」
不安そうに珍海を見つめるまゆげ
「大丈夫だ、まゆげ」
アプリ坊主は、厳しい修行の末、飛翔する術を体得できる場合がある。
珍海はその術を身に着けていたのだ。
「少し、じっとしててな。」
珍海は、先ほどコンビニで買っておいたペットボトルのジュースの中身をすべて捨てると、紐で結びつけ、まゆげのお腹あたりで浮き輪がわりになるように固定した。
「大した足しにならんかもしれんな…」
次に、その場にあぐらをかき、目をつぶり瞑想しだした。
そして、アプリ坊主のお経を唱えだす。
珍宝工 万宝工 毛万項万 穴荒開界 (ちんぽうこうまんぽうこうもうまんこうまんあなあれかいかい)
尿酸値 雲山地 若年壮年 是捨労流 (にょうさんちうんさんちじゃくねんそうねんこれすてろうる )
合力之 矢無宝 万無宝 天気予報 (ごうりきのやむぽうまむぽうてんきよほう)
拙者之 名前派 矢無宝 (せっしゃのなまえはやむぽう)
某之 名前派 万無宝 (それがしのなまえはまむぽう)
二人 合和世手 背供露素騨 (ふたりあわせてせくろすだ)
君人 僕人 出 背供露素騨 (きみとぼくとでせくろすだ)
※
大器名 穴空 小差名 穴間出 (おおきなあなからちいさなあなまで)
動加州 力打 亜振乃 猛出流 (うごかすちからだあぷりのもうでる)
※ 繰り返し
サビまで歌い終えると、股間のTENGOが激しく振動し、「ブーン!」という音と供に珍海の体が、地上70センチほど浮き出した
「おいで、まゆげ」
珍海はまゆげを抱きかかえると、沖合いへと飛翔した
{うぽっ!}
{がはっ…!}
{…万策ぅ~}
クロールで陸地を目指していた宮崎だったが、寄る年波には勝てず、そろそろ走馬灯が見え始めている頃であった。
だが、丁度そのとき、珍海がまゆげを連れて、遭難現場に到着した
「じいちゃん、つかまって…!」
ペットボトルをくくりつけたまゆげを、海に着水させ、自身は空中を飛びながら、端末を操作し、陸地への最短距離を探した。
コンビニで買っておいたゴミ袋も浮き輪がわりにし、およそ40分後、2人と1匹は、最寄りの陸地へとたどり着くことができた
どうやら、そこまでは遠くに行っていなかったらしい
{ふぅ…珍海君には借りができてしまったな}
宮崎は珍海にお礼を述べると、何度もおじぎをして、帰っていった。
「おお!」
端末を覗き込んでいた珍海は、喜びの声をあげた。
人命救助が幸いしたのか、試合に勝利していたのだ。画面の隅に小さく、
「珍海君、おつかれさま by会長より」
と書かれていた。なんだか照れくさくなった珍海だったが
「あ…」
ふいに、置き去りにしていた犬馬の事を思い出し、とりあえず合流すべく珍海は公園へと向かった。
珍海とまゆげが公園に着くと、すでに犬馬の姿は無く、荷物もきれいさっぱり片付けられていた。
「あー…」
「他に何か、忘れ物無かったっけ」
珍海がうろうろしてると、側にいたまゆげが「さっ」、と身構えた
〔会長からです〕
〔とりあえず会場に戻るようにとの事〕
黒服でサングラスを掛けた、会長の従者らしき人物が、ふいに背後から現れてそう告げた。
「ああ、うん解った」
「のり子は?」
珍海がそう尋ねると、黒服は手元の端末を操作して情報を集め始めた
「ああ~…」
「やっぱ、いいよ、ごめん」
のり子の事を把握して無い事を悟った珍海は、制止した
〔では、そういう事で〕
操作しかけた端末をポケットにしまうと、黒服は姿を消していった
「見た目あやしいんだよな~、あいつら」
「…給料どんなもんなんだろ?」
珍海は笑いながらまゆげにつぶやくと、ぼーっと昔の事を思い出しながら会場に向けて歩き出した。
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犬馬とは高校のアプリ坊主部にはいってからすぐに知り合った。顧問の先生に紹介され、すぐさま他の部員とともに修行
にとりかかる事となった。
― これはそのときの事。
アプリ坊主は精神修行のフェイズがあるのだが、それはとても厳しいものであった。まず、生徒のアプリ坊主が正座をし、目を閉じて瞑想する。
このとき思い描くのは、晩御飯のおかずの事であったりとか、新しく発売されたゲームの事であったりとか人それぞれなのだが、珍海は「今の日本」の事についてであった。
治安は素晴らしく維持され、さしたる犯罪もおきず、自殺者数も他の国に比べれば、圧倒的に少ない。
外国からは褒めちぎられ、男女は仲良く手を取り合い…
ここまで考えたとき、珍海は何か心に引っかかるものを感じた。
「手を取り合い…」
「手…?」
だが、珍海が作り出した妄想中の男女が、手を取り合った末に、ラブホテルで調合金合体し始めた事によって、頭の片隅に引っかかっていいた物は引っ込んでいった
「ハァハァ…」
興奮した珍海は、代わりに、股間のTENGOが、むくむくとそそり起っていった。― その瞬間
《喝ぅぅぅつ!!》
アプリ坊主顧問の先生の、特大TENGOが珍海の肩を直撃した
「いっ…痛づぅ…!!」
苦痛に顔を歪める珍海。だが、
《喝ッ》
《喝ッ》
《喝ッ》
《喝ッ》
《喝ッ》
《喝ぅぅぅうつ!!》
容赦なく顧問の先生は、様々なポージングを取りながら、珍海のいたるところを特大TENGOでなぶり叩く。
そして、一旦、修行部屋の奥まで行き、走って助走をつけると空中に跳躍し、膝とTENGOを抱えてくるくると回転しはじめた。
このまま空中から、かかと落としのようにTENGOを打ち付ける気なのだ
《食らうが良い珍海!!》
《先生の愛のムチをなぁぁぁぁ!》
己の未熟を恥じ、観念した珍海が目を瞑る。今まさに、TENGOが珍海をとらえようとした矢先、ふいに隣に座っていた犬馬のり子が間に割ってはいる。
そして両手で白刃取りの要領で
「バシッ!!」
という音と供に、先生のTENGOを掴んでみせたのだ
〔おおおおお…!〕
〔どよどよ…〕
すべてのいきさつを固唾をのんで見守っていたほかの部員たちも、思わず驚きの声をあげる
『先生っ』
『…ぐぐっ』
『やりすぎだと思いますっ…!』
犬馬は、先生のTENGOの圧力に耐えながら、下腹に力を入れた声で言い放った
《ほほう》
《では、先生の愛のムチは…》
剣豪同士のつばぜり合いのように、先生のほうも、ぐぐぐ…とTENGOのほうに力を入れる
《どうしてくれるというのかね?》
ぐいっと顔の前にTENGOを突き出す先生に対し、犬馬は
『…』
『……こうします』
と、側面から口にくわえてみせた。
《うっ…!》
まるでハーモニカを吹くように、先生のTENGOをくわえている。先端部分を右手で丸く球を描くようにこすり、余った左手で棒の部分をこする。しかも口は高速で左右になめつくす。
《うっ…うっ…!》
《うわぁぁぁぁぁぁぁ!!》
先生はあっという間にTENGOの先から白いオーラを出し、その場に崩れ落ちた。
『ん…』
顔や体にかかったオーラを手ですくって口に運び、飲み尽くす犬馬。そして
『うわぁ』
『先生早すぎぃ~!…(笑)』
犬馬は、意地悪い笑顔を浮かべながらとどめの言葉を放ち、先生のプライドをへし折ってみせたそして
『ほら、あんたも』
『いつまでもへたりこんでないで』
『しゃきっとしなさいよ』
落ち着いた感じでそう言って、その場に座り込んでいた珍海をそっと抱きしめたのであった
パーツから放出されているのは「オーラ」です




