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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第一章
12/82

1-12 一日艦長

見渡す限りの水平線。四方八方を曲線と塩の香りで結べばその彼方に良く見知る、一隻の航空母艦の姿が在った。普段はいかつい男達と滑走路と戦闘機で埋められているスペースも、若々しい学生達が集まれば空気も変わろうかという所。

乗艦用のコスチュームに身を包めばさながらの、初々しくも青の瞳とほりの深い顔立ちを、波にと鈍く鉄塊へ。





―珍海と犬馬が駆け抜けた激動の季節から約4ヶ月後




アメリカ国家が鳴り響く中、日傘の無い艦板に何名か船酔いを残したままの少年少女が整列していた。

わが子の成長を見守る大人達のほうがどこかそわそわとしていて、余程落ち着きが無いという物だ



ここに今、クラスメートと共に訪れた一人の高校生が、一日艦長として訓示を発表する所であった




「ええと、みなさん、本日はご多忙の中お集まりいただきありがとうございます」

「みなさま方のご両親は日々、日本を守るという使命を立派に務め」

「今日の様な暑い日ざしにも負けること無く、日々一生懸命働いております」

「パーティーだとかうつつを抜かしている学生連中とは無縁の世界でです」



そこまで読み上げた所で


『(まだ気にしてる…)』


金髪の女子生徒や数人の男子がクスクスと笑う。




「そこでそんな両親達に感謝の意を伝えると共に、その仕事ぶりを観て」

「自分達の将来を…」


「ちょっと、ビフ君、何笑ってるの?そこに横になりなさい」

「…えっ?何するのかって?」

「エロ同人みたいに?…」

「ちょっと何言ってるのか解りません」

「いいから横になりなさい。(一日)艦長命令です」


「いや、もっと平べったい感じです」

「そう、そんな感じ」


「観て下さい、アツアツの鉄板で焼肉パーティーだ!」

「ビィフ君だけにな!!」


クラスメート全員が爆笑の渦に飲み込まれる


{(おまえは…)もう少し真面目にやりなさい}



「はい」


隣に居た(本物の)艦長から軽いげんこつを賜るドボルカイン少年


「ええと、どこまで読んだっけ?」


『焼肉、焼肉』


クラスメートの女子が茶化す


「そうそう、自分達の将来を見据えてやきにく…」

「じゃなかった、…あっ」


そこまで読み上げた所で、強風に煽られてカンペが離艦し、ばっさばっさと太平洋に飛び去った。



「(寝ながら書いたやつだから覚えてねぇよ)」

「…ええと、戦闘機に乗れる方は、あれを拾ってきてください」



よく解らないアメリカンジョークが飛び交う。艦長は苦笑い、他の乗組員達は爆笑していた。

航空母艦に配置されている戦闘機や、戦闘攻撃機は白いシートで覆われており、その隙間から固定用のワイヤーが見て取れる。




「まぁ、あれだ!」

「立派な父親達の姿を観て、勉強しろってこった!!」

「あとついでに、アルコール抜きでパーティーやれってさ!」

「無理にきまってんだろうが!」

「以上、モリーランド付属高校代表、ドボルカインでした!!」


アドリブ全開でヤケクソ気味に締めくくる少年。金髪の女子数名が腹筋を抱えて笑う



「おお痛ぇ…」

「くそじじいが…」



『おつとめご苦労様でぇす♪』

『うふふ…手加減はしてくれた?』



「やあ!エマ」

「セーラー服も似合っているよ」

「…あのじじいに手加減は無理だ」

「それよりその制服、今度のホームパーティーでも着てきてよ!」

「…できればスケスケのやつでね!」


大目玉を食らった少年が頭をさすりながら艦長室から出てくると、廊下にもたれかかるようにクラスの女子が待ち受けていた



『まぁ、ドボルカインったら、節操が無いのね』

『今の日本でそんな事を言ったら重罪よ』



否定しつつも、満更でもないご様子



「ははっ!日本以外ならたいした問題にはならないさ」

「むしろこんくらいでちょーどいーんだよ」

「そんなんだから少子化しちまうんだぜ!」



そう言いつつ肩に手を回し、艦長室から死角になるように廊下へと誘う



『それもセクハラよ』


「…セクシャルなエスコートさ」


『…ふふっ、はいはい』


見詰め合う二人。と、そこに



「(どんっ!)」

{あいたっ!}


不意に現れた黒髪の幼女


『ちょっとお嬢ちゃん、一体どこから…』


ぶつかられたエマが問う


{わかこも!わかこもえすこーとしてもらうの!}


駄々をこねる幼女


『…え、、?…ええ。そうだったわね』

『あなたも…えすこーと…してもらうと良いわ…』


魂の抜けたようにフラフラと立ち去るエマ


「…えっ?おおい~!」

「ちょっとエマ?」

「カム~!カムバック!!」



がっくりと膝をつく少年


{えへへ…}


少年にひっつく私服の幼女


「(なにしてくれちゃってるのこの子は…)」

「(完全に変な誤解されてるじゃねーか…)」


「…ワカコちゃん」

「かくれんぼが得意なのは解るけど」

「これがバレたら大変だよ?」


いつもより若干厳しい口調



{かくれんぼじゃないもん!}


「ハイハイ。解ったからこの中(艦長室)へ行こうねー」

「くそじじいと遊ぼうねー」



{ヤダ!あっちー!}



反対方向へとぐいぐと引っ張る


「はいはい、あっちね…」



『…あっ!わかこいたー!』


「これはこれはお姫様。ご機嫌麗しゅうございます」



廊下の端からひょっこり顔を出すもう一人の幼女。正装とはいえ、サイズがサイズなので、幼稚園の制服にしか見えない


『着替えー!』

『着替えもってきたの』


紙袋を差し出す


「…ええと?」

「ああ、ワカコちゃんのやつか」



小さい布切れをひらひらさせる少年


「ん?…待てよ」

「どうしてエメリアが」

「彼女の着替え(正装)を持ってきているのかな?」

「…こっそり乗り込んでいたのを知っていたのかな?」


『う”っ…』


顔を赤くして下を見つめる幼女


『…にげた』


「うんうん、逃げたね」

「…ぬっ?」


わか子は一瞬の隙を突いてどこかに去ってしまった


「…あわ、あわ」


『あわぁ?』


「…あわわわ、」


『きゃははは♪』


少年とのやりとりで爆笑しだす幼女




「笑い事と違うねん。重大な事案やで」


『へんなのー♪』


「えらいこっちゃやで…」





いまだかつて航空母艦に部外者が潜入した話など、聴いた事が無い。これがもしマスコミ等にバレれば、横須賀基地全体は勿論の事、本国と日本との国際問題にも発展しかねない。




「良いかい?エメリア」

「(好き勝手やっていいのは、キミ達の庭だけだよ)」

「ここは、いつもの庭とは違うんだ」


『…うん』

『ごめんなさい』



「いい子だね♪」

「…まぁ、これを言わなくてはいけない相手は、キミじゃないんだけどね」


「さ、エメリアは正式に招待されているんだ、そんな顔してないで」

「あっちに食べ物がたくさんあるから行っておいで」



『お兄ちゃんは?』

『お兄ちゃんはいかないの?』




「お兄ちゃんは仕事を済ませてから…あっ」

「ちょっといいかな?」



『…うん』

『え?艦長?』

『エメリアが?』



「たのんます!!」

「今度一日中肩車してあげるから!」

「ハイ!コレ、乗車券ね!」



その場でメモ帳にサインし、手渡す



『わぁい!!』



なんとも格好がつかなくなってしまったが


「失礼します!」

『しつれぇいします♪』



一日艦長のたすきを装備した幼女と共に艦長室に乱入したドボルカイン少年を最初は何事かと見つめていた(本物の)艦長であったが、事情を話すと


「…そうか」


とだけ頷き、なにやら書類を訂正し始めた。




その後『水陸両用託児所』と名誉ある異名に変更されたドボルカイン少年は無事にその役割を全うし、その日の任務を終えた



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