1-11 万南無高校VS雲葛高校 07『ゴーヤだからさ』
しゃぶる行為というのは飲む動作の代替品であり、決して効率の良い事とは言えない。だが侮る無かれ。生まれたての様々な生物がそうするように、本能として秘められた潜在能力のひとつなのだ。
心技タイが翼子のほうを見ると、彼女は唐突に男の子の指をしゃぶっていた。続けざまにビニールボールを舐める
『ん”ん”っ!』
一瞬、体をびくん!とさせる翼子
『ぴりっとしたっ…ぴりっとした味がしたのっ!』
母親はぐったりとした様子でバスの天井を見上げた。目には涙を浮かべている
『ん”っ!?…そしてこっちっ!』
再び男の子の指のほうをしゃぶる翼子
『こっちにも友達の味がするのっ…!』
じゅぽじゅぽと男の子の指をしゃぶり、またボールを舐める。舌先に2つの異なる物質の絶妙なハーモニーが加わる。男の子の指は今まで持っていたビニールボールの味がかすかにしたようだ
『指っ!!』」
『ん”ん”っ!…』
『友達っ”っ!』
『ううっ!!』
『指っっ!!』
『ハァハァ…』
『どもだぢっっっ!!』
一心不乱に指と友達を交互に舐め尽す。火照り切った体に最後の一撃が加わる。
『ん”ん”っ!…凄いのっ…!』
『凄いの来ちゃうう”ぅっっ~~~~!』
そう言って翼子は体を激しく痙攣させて、男の子の体の中に顔をうずめた。ぐったりとしているが全力を出し切った、とてもさわやかな顔をしている。
そうこうしているうちに、1つ目のバス停を通り過ぎた。
心技タイは端末でスポーツ用品店の場所を確認していたが、ここからあと、2つ先のバス停で降りなければならない
「時間が無いタイ。翼子。」
心技タイは、なるべく翼子を刺激しないように落ち着いて呼びかけた
『…えっ?』
幸せの絶頂に包まれていた翼子は急に現実に引き戻され、男の子の膝の上から、ちらり、と心技タイのほうに視線を向けた。心技タイは、うつむいて首を横に振った。
男の子の母親はぐったりとしたまま、空中を見ていた。
『…嘘だよ?』
現実を受け入れられない翼子は、再び男の子の膝に顔をうずめた。
しかし、タイは翼子を現実の世界へと引き戻す為に、肩を掴むとぐいっと引き離した。彼女の顔は涙でぬれていた
『そんなこと…そんなことってないよ』
『せっかく友達になれた』
『分かり合えたと思っていたのに…』
翼子はまだ未練を断ち切れていない。
心技タイは翼子に決心させる為に、今の状況を冷静に伝えた
「翼子、今試合を逃してしまえば…」
「次は来年タイよ?」
タイがそう言うと、翼子はすかさず
『来年でいいじゃない!!』
と、答えたあと、少し考えて
『来年でいいんじゃない!?』
と言い直して、小首をかしげたが、心技タイはバスのつり革につかまったまま一方の手で、友達の持ち主の母親を指差してこう答えた。
「母親を見るタイ」
翼子が男の子の母親を見ると、母親はうすら笑いを浮かべて白目をむいて、気絶しながら失禁していた。
「次に、男の子を見るタイ」
男の子は、翼子のよだれまみれの指をよそに、きょとんとした顔で放心していた
「みんな、翼子のことを認めてくれているんだよ」
「なのに、キミがそんな状態では友達が悲しむだけタイよ…」
心技タイにそう悟され、翼子はハッと。友達のほうを見た。
友達は、翼子の涙とよだれでべとべとになっていたが、それは泣いている様にもみえたのだ
『わかったよ』
そう言って翼子は、降りる準備をすべく、友達がいる席の前から離れようとした
心技タイも降車口のほうに向かう
その瞬間くるりと反転して、すばやい動きでボールと男の子の指に翼子は吸い付いた。
『ん”ん”っ!!?』
『今度はしょっぱいのぉぉぉぉ!』
『ん”っ!ん”っ!…』
『まままた来そう!』
『す…すぐ来れちゃうのぉぉぉぉ!!』
『く…来るー!きっと来るー…!』
そう絶叫して痙攣して崩れ落ちた。心技タイはすかさず翼子を引き剥がすと、降車口から降りた。
すでに2人分の料金は支払っていた。こうなる事を予期していたのだ
『うっ…うっ…』
痙攣から立ち直った翼子は、心技タイの腕の中でしばらく泣いた。
心技タイも泣いていた。彼の股間は膨らんでいた。
こうしてバスの中のアプリ坊主戦は終わった。非の打ち所のない素晴らしい試合内容であった。
良く解らなかった方も居るだろうが、スポーツとは得てしてそういうものである。
アナに入れたり、穴から出したり、棒をひっぱったり、しごいたりするのになんらかの付加価値をつける。
それを電子決済するのがこのスポーツなのだ。
試合の優劣を決める表示は「やや優勢」にまで回復し、傾いていた




