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アプリ坊主  作者: 蚊取TENGO
第一章
10/82

1-10 万南無高校VS雲葛高校 06『鳥羽散』

二度と飴はやらないと。ミニにタコが出来ると。そう言い放つ翼子を軽く一撃締めてから解き放った心技。謎のブラジル人は実家のコーヒー農園をギャンブルで溶かした。

ジャコウネコが大繁殖し、近隣のネズミー達がブラジリアン柔術で対抗したという記録が残されている(適当)

ただ、イタチと相打ちになって海に投げ出されたらしい(真顔)



「(脱線しすぎタイ)」

「さあて…」


そして、手元の端末で試合の優劣を確認したのだが、思わぬことに「やや優勢」であった。これだけ、ボールとの友達話を

誇示してるというのに、大量リードを奪えていないのは、ブラジル人が友達では無かったか、相手も相当のやり手だったかである。


「さすがは優勝候補タイ」


対戦相手である万南無高校(まんなむこうこう)の珍海あつしといえば、超高校級と呼ばれ、すでにプロが目をつけてあちらこちらから入団のオファーがきている大物。

新聞などにも写真つきで掲載され、すでに有名人なのだ。

高校卒業後は、大学でアプリ坊主を続けることも考えられるが、早いうちからプロの空気に慣れておけば色々と成長の機会もあるということで、本人はプロ入りを熱望している。

やろうと思えば美人のフリーアナウンサーとだって結婚できる。不動産には手を出すな。大回転投法は反則です。


「これほど凄い攻撃が効かぬとは…」


端末を見て呆然としていた心技タイであったが、ここはアプリ坊主としてみすみす負けるわけにもいかない


「翼子!次の攻撃じゃああ!!」


気をとりなおして次の攻撃の機会を窺うべく、翼子に声をかけた


自分のかばんの中の飴玉を見てなにやらトリップしていた翼子だったが心技タイから声をかけられると、はっとして動きはじめた

まだ依存症は完治していないようだが、とりあえずは大丈夫なようだ


「あいつらは多分、移動中もポイントがはいっている」



『犬の散歩の能力…』



「そして犬馬のり子と珍海…恐るべし」



この状況を打破するには、一刻も早くポイントを入れねばならない。ところが球状の物が足りない。心技タイの股間に集中線が集まったが、

とりあえずスポーツ用品店でボールを捜そうということになって、会場から出ることを決意する。


ロープをぐいっと持ち上げて、くぐるようにしてリングから降りる

翼子が荷物の整理を終えた頃、端末で地図検索していた心技タイは無事に目的地を探し出し、向かうこととなった





会場の前のバス停で心技タイは端末を食い入るように見つめた。試合の優劣を決める表示は「やや優勢」から「気持ち優勢」に減少していた


さらに、バスが到着したころには「気持ち優勢かもね?」にまで激減していたのである


翼子は表情にすら出してはしないものの、相当あせっていたらしく、バスの整理券を取るのを忘れてしまった

だが、それに気づいた心技タイは、2人分整理券を取ると、入り口ちかくの席に着席し、腕を組んで瞑想に入った。

乗客はまばらだが日曜ということもあって、親子連れもいる


「はいー発車します。」


運転手がアナウンスすると、

「ペー!」というすっとんきょうなバス特有のブザーの効果音とともにドアが閉まった。そして、ゆっくりと動き出す。


『わぁ…』


心技が見ると翼子は、親子連れの席の子供を熱心に指をくわえて見ていた。正確には、子供の持っていたビニール製のボールに興味

を示していた。


『あっ…始めまして、翼子と言います』


翼子がボールに挨拶する。母親のひざの上に座っていた男の子は一瞬、こちらを見たが、きょとんとした顔で母親の顔を見上げた。

まだ自分で状況判断できる年頃ではないらしい


「えっ? あっ、はい」

「私は、食子(くうこ)・・・」

鳥羽散(とばちり)食子(くうこ)と言います」


一瞬、時が止っていた母親だが、我に変えると、自己紹介を始めた


母親が自己紹介している間、翼子は視線をボールから離さず、対話を続けた。


『』うん、うん、そうなんだ、へぇ~。』

『君ってとっても柔らかそうだよね~』

『少し触ってみてもいい?』


そう言うと男の子が両手で握っているボールを、その手の上からやさしく包み込んだ

顔を赤らめて、ハァハァと、息使いが荒くなる。


「だっ…誰か!」


母親は、周りの乗客に助けを求めたが、誰一人として視線を合わせようとしない


『ねぇ…』


と、翼子は体をもじもじさせながら言葉を続けた


『キミの大事なところ、みせて貰ってもいい?』


ビニールボールの大事なところとは、空気を注入する箇所である。ここの加工がうまくいっていないと、空気を入れても、すぐに萎んでしまう。

男の子の持っているボールは新品だが、翼子は念の為、どうしても確かめておきたかったのだ


『あっ・・・! あっあっ!』


翼子が急に痙攣した。

顔を紅潮させ、自分のユニフォームの股間あたりを必死に押さえている。対戦相手が攻撃をしかけてきたのだ。


アプリ坊主は、端末を操作して自分達のポイントを犠牲にして、対戦相手にダメージをいれることができる。試合中あまりにも強力

な連続技などを立て続けに食らってしまうと、すぐに試合が終わってしまうので、緊急回避策として、ポイントを阻害にも還元できる。

これは、アタックと呼ばれる行動で、アプリ坊主戦の基本戦術のうちのひとつである


ただし、あくまで行動を阻害するのが目的なので、アタックを使った側のポイントが減る割りには、使われた側のポイントはほとんど減少しない。

これを連発していても、勝てはしないのだ。


この場合は、「珍海&犬馬」が、「心技&翼子」を「アタック」してきたという事である


「ちょっ・・ちょっとちょっと・・・!」


母親は青ざめた様子で立ち上がろうとしたが、駆けつけた心技タイによって、肩を押さえられえて阻まれた


「待つタイよ。」


心技タイは母親のほうを見ながら言葉を続けた


「子供同士の友情に親が口をはさむとはなんとしたことタイか。」

「ここはひとつ、暖かい目で見守ってやるのが親の務めでは無いタイか?」


心技タイにさとされ、母親からあせりの色が消えてゆく。だが、すべてを許したわけではなかった


「だからといって、あんなに・・・」


少し口篭った母親は言葉を濁して、


「まだ、この子はこんなにも小さいのですよ・・?」

「それをこんな・・・」


視線をバスの窓のほうに背けて話した。

うしろの座席のおやじがこぼしたワンカップ(日本酒)がえげつないニオイを放っていた。





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