93話 天才と呼ばれる二人
セージは捨て子であるが、血の繋がらない家族からの愛情に囲まれて育った。
ケイは名家の令嬢であるが、血縁者から疎まれ孤独の中で育った。
セージは小さな道場で競い合う相手もなく、父親からの手ほどきで実力を身につけていった。
ケイは生家である名門道場で多くの才気豊かな兄弟子たちと競い合って、その実力を高めていった。
セージはいずれジオと同じ道を歩くと見たクライスから、たった一人でも戦い抜けるように多種多様な技と知識を学んだ。
ケイはマージネル家が持つ豊富な教訓に基づいて最適な学習法をあてられ、戦士として必要な技術だけを詰め込まれた。
二人はどちらも天才とされているが、その経歴は真逆である。
◇◇◇◇◇◇
ケイの大剣がセージの心臓を貫き、意識が白く染まって巻き戻った。
セージは溢れだす魔力を使って、迫り来るであろうケイの一撃を迎え撃つ。
ケイの速度は尋常ではない。普通に考えればセージが対応できるようなものではないが、この瞬間だけは別だった。
直線的に迫って来るそれは、見えた瞬間にはもう当たっている。だがセージはそのタイミングをもう身をもって知っていた。
セージは貫散らしで岩石を砕き迫り来るケイの一撃にカウンターを合わせる。
いつぞやのハイオーク・ロード戦のように打ち勝てると採算があっての行動ではない。
ただケイの一撃を防げる技をセージは持っておらず避けることもできないために、苦肉の策として最高の一撃でもってケイの技を逸らしにかかった。
膨大な魔力がぶつかり合い、反発しあう。
正面から打ち合ったのならセージの末路は先ほどと変わらなかっただろう。
いかにセージの扱う魔力がその身から漏れ出たもの、つまりは死に通じる仮神の神力だといっても、封印というろ過器を経ることでその神力はセージにとって無害な魔力へと劣化されている。
さらに言えば、そもそも溢れ出す魔力はセージに訪れる致死の運命を否定するために発露された残りかすであり、さらにはその残りかすの中でもセージの体に収まりきらなかった分が溢れているに過ぎない。
人間の身からすれば膨大な量の魔力も、しかし上位存在の端くれである精霊と契約し過剰な魔力を与えられたケイとまともに打ち合うには不足があった。
そこまで理解しているわけではない。
それでも自らの身をもって迫る一撃の威力を理解していたセージは、だからこそ打ち合いを避けた。
貫散らしの本来の利用法は切っ先を相手に突き刺し、そこから螺旋状の暴風を巻き起こして相手の体をえぐる技だ。それは槍という武器で体を串刺しにしても簡単には死なない、タフな魔物への対処技としてクライスが生み出したものだ。
その貫散らしを本来の用途ではなく、クライスが一年前にセージを無力化した時と同様の手で、今度はセージが使った。
槍から発せられる螺旋の暴風がケイの大剣を弾く。
人間程度の重量なら簡単に吹き飛ばすその風圧は、しかし膨大な魔力を身にまとうケイに効果は薄い。
だがそれでも大剣は逸れてセージは一命を取り留める。
風圧によっていくらかの体勢が崩れ、さらには特攻同然の突撃を決行したケイは無様に地面を転がる。
そんな姿を見て、リオウたちは背筋を二つの意味で震わせる。
一つはケイの状態。
ケイは全身から、ケイ自身のものではない魔力を吹き出していた。
体に入りきらないほどの魔力を精霊から受け取り、自我を失って暴走していた。
これは精霊と契約した皇剣が最も避けるべき事態だ。
慣れない自分以外の魔力の扱いに戸惑い、加減もわからず精霊から力を引き出し、それに振り回されて混乱してさらに力を引き出してしまう。
これを起こした皇剣はその引き出した魔力に体が壊されて死んでしまう。
上手く気絶させるなりして助かった者もいたが、その人物は命こそ助かったものの、廃人となってしまった。
だがこの暴走に陥るのは精霊と契約して三ヶ月以内の未熟な者とされていた。
類稀なる才能を持ちながらも、同時に若く魔力制御を不得手としていたケイには半年の猶予期間が与えられており、さらにその後の半年も難度の低い実践を経験させ、まだまだ完全ではないものの十分な訓練を積んでいた。
容易くこんな状態に陥るはずがないし、さらには暴走に陥ればすぐに精霊からの魔力供給を遮断するよう教え込まれていた。
だが初めての殺人に気持ちが入れ込みすぎたのか、実際にケイは暴走に陥っており、それが解かれる様子はない。
もう一つは、セージの実力だ。
ケイの実力は上級に入ったかどうかであり、リオウたちよりも格下となる。
ただしそれはケイが精霊の魔力を持っていなければの話だ。単純な魔力量でケイはリオウたちに伍するものがあり、つまりは同等の身体能力を持つ。
しかしケイは未だに精霊の魔力を完全にコントロールできないため、全力を出せば拙い戦闘技術しか発揮できない。よってもしも戦闘になればリオウたちに分がある。
だがたった今、目の前で起きたこと――奇襲同然に暴走状態の全力の一撃を自分たちが受ければ、無事で済むなんてことはありえない。
あんなものを咄嗟に防げはしないし、そもそも反応することも難しい。
それをセージはやってのけた。
******
土煙が上がる中、セージはリオウたちの様子を魔力感知で把握しながら、しかし意識はケイに集中させていた。
逃げるという選択肢は取れなかった。
隠れようにもセージはケイがどうやって己の居場所を掴んだのか理解できていない。スピードや体力では圧倒的に負けているから、単純に走って逃げるのも論外だった。
「どうしたものかな」
立ち込める土煙の向こうで、ケイが立ち上がる。
その瞳はやはり狂気に染まっており、話が通じる様子はない。それでも一応、セージは声をかけた。
「やあお嬢さん、随分とひどいヒステリーだね。もっと笑った顔を見せてくれないかな」
嗤いながら、からかうようにそう口にしても、
「あぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
ケイの口から発せられるのは、それこそ魔物のような叫びが漏れるばかりだった。
セージはそんなケイの姿を見て、その原因であるだろうケイへの過剰な殺意の供給を感知して、嗤いを深める。
「明日は我が身って感じだね、それ。
いいよ。あなたの事情は知らないけど、付き合ってあげるさ」
そうして、セージは殺された。
大剣のひと振りに呆気なく殺された。
それを屈んで避ければ蹴り飛ばされて殺された。
屈んだところから全身のバネを使って後ろに飛んで蹴りの衝撃をなくせば、飛んでいるところを投げられた大剣に串刺しにされて殺された。
疾空で回避を試みるも、避けきれずに四肢のどれかを切り飛ばされてそのまま殺された。
大剣を貫散らしで打ち払えば、いつの間にか迫っていたケイが弾かれた大剣を手に取り、そのまま切り伏せられた。
ケイが大剣をとった瞬間に爆裂の魔法を放ってお互いの距離をとったが、ケイは大して仰け反ることはなく、すぐに距離を詰めて首を撥ねられた。
セージは何度となく殺された。一秒に一度は殺された。
その度に仮神の瞳は力を振るい、その死をなかったことにする。
秒単位で全快する魔力のおかげでセージは常に最大の身体活性を使うことができ、さらには漏れる魔力も大きなものとなった。
それを使って、セージは一秒ごとの死を覆していく。
霊格が上がり、仮初の死をはっきりと記憶できるようになったセージはその秒単位で成長を遂げる。
セージとケイの実力を分ける最大の差は、保有する魔力量にこそある。
身体能力は七歳と十五歳ということで確かに大きな開きがあったが、二人の持つ魔力は既に常識的な理屈を置き去りにしており、この場でその違いはさしたる意味を持っていなかった。
ケイはマージネル家で対人戦闘技術を学び、マリアからギルドメンバーが持つ対魔物向けの戦技と彼女が知るジオの技を教わった。
しかし荒ぶる魔力に突き動かされる今のケイにその技術を発揮する事はできず、むしろ技術面ではジオとの立合いで鍛えられたセージに軍配が上がっていた。
魔力の制御技術にしても、子供のうちは魔力を増やしていくことが正しいとされその教本に従って育てられたケイでは、仮神の瞳という精緻な魔力感知を活用して鍛えたセージには遠く及ばなかった。
だがそれでも戦闘はケイが一方的にセージを惨殺し続ける結果となった。
セージの魔力は常にほぼ最大値を維持し、最大の身体活性で身体能力を向上させている。
しかしケイは精霊から与えられる膨大な魔力に身を任せただけの粗雑な身体活性でセージの遥か上をいった。
セージに与えられた加護は魔力を回復させることはあっても、余剰に与えてその最大値を引き上げることはない。
セージの最大魔力量は未だに中級の中位程度であり、年齢を考えれば破格の保有量ではあったが、この場ではそれは慰みにもならなかった。
対してケイは基礎能力で上級下位の魔力量を持ち、さらにそこへ精霊から際限なく魔力を与えられて上積みがなされていた。
たとえ魔力の制御技能が未熟であっても、その圧倒的な魔力量の差はそのまま身体能力の差につながる。
セージが全力で振るう一撃はケイにとって牽制の一撃にしかならず、ケイの振るう一撃は牽制の軽いジャブであってもセージの顔面を容易く砕くし、腕や短槍でガードしても容易くそれらをへし折ってしまう。
セージに勝ち目はない。
そしてケイはセージに対して歩むように近寄り、軽く拳を振るうだけでいい。
上位存在に類する精霊の魔力を纏ったケイの一撃を無かったことにするのは、相応に神力が消費される。
死への信仰と畏怖からその神力を得ているデス子だが、仮神であるがためにその力は完全なものではなく限界はある。
少なく見積もって十万回程度セージを殺せば、ケイはセージを殺し得ただろう。
その為の最適解こそが最小の機動で詰め寄り、最小の威力で攻撃を繰り返すことだった。つまりは歩いて近寄り、無造作に殴ればいい。
そうすればセージは抵抗の機会を得られず延々と殺され続けただろう。
しかしケイは戦いのセオリーに反して常に最大の威力で技を振るい、結果として一秒ずつではあるもののセージに生き延びる時間を与えた。
ケイは常にそうして魔力を全開で消費し続けないとならないと、そうでなければ内側から体が弾け飛んでしまうと、自滅必至の暴走を起こしていた。
******
「何がどうなってるんだ」
リオウは二人の戦いを見て冷たい汗を流す。
ケイがリオウたち上級のメンバーに実戦では及ばないという話をしたが、今リオウたちの目の前で起きているのはその前提をはっきりと覆すものだった。
身体能力に頼った戦いをする者は三流。
どこの武門でもそうした理念はあるが、マージネル家は守護都市の中でとりわけその理念が強かった。
そこには都市の中で暴徒や犯罪者と対峙する――つまりは対人戦の機会が多い警邏騎士としての性質も深く関わっていた。
だが暴走するケイの姿はその理念を大きく覆していた。
リオウたちをして目で追うのがやっとの速さに、余波だけでもはっきり分かる尋常ではない威力の攻撃の数々。
いくら技術的に未熟といっても、あれと正面からやって勝てるとは思わないし、さらに言えば生き延びられるかどうかも怪しかった。
「リオウ、どうするんだ」
呆けるようにケイとセージの戦いを見つめるリオウに、仲間たちが寄ってきて声をかける。
我に返ったリオウはまずケイの援護を考え、すぐにそれを棄却した。あの速度で動き回るケイへの援護は誤爆の可能性が高い。
十分に連携の取れている仲間ならばともかく、リオウたちとケイが組んで仕事をするのはそれほど多い事ではなかった。
「……静観する。ケイお嬢様があれを殺して正気に戻ればよし、そうならなければこちらで取り押さえるぞ」
ケイがああなった理由は分からないが、セージへの敵意が関与していると見るのが妥当だろう。
その敵意の大元を殺して暴走がおさまればいいが、そうでなければ取り押さえなければならない。ここでケイを失うという選択肢はリオウたちマージネル家にはない。
理想は皇剣の誰かがこの窮状を察知して助けに来てくれることだが、生憎と後ろ暗いことをしている状況のためこの戦闘は管制の把握の外にある。
望みは薄かったし、助けが来ればそれはそれでまずい事態だ。
「チッ、仕方ないな。確かに放っておくわけにはいかないからな。だがひとつ聞かせろ、あの小僧はセイジェンド・ブレイドホームだな」
共生派のテロリストが攫った子供を洗脳し、魔物をおびき寄せるような危険な仕事に付かせることは時折ある。だが目の前でケイと戦う子供は、その動きは、そんな哀れな子供にはまるで見えない。
そもそも暴走したケイの猛攻を凌ぐ七歳児など、魔人の後継を置いて他にいない。
仲間から問いただされて、リオウはしばらく悩んで頷いて答えた。
そこからなし崩しで、冤罪を適用させて殺そうとしていることも話した。
「何かおかしいと思ってたけど、そんな理由だったの……」
仲間たちは裏切り者に向ける視線でリオウを責め、しかし言葉にしては何も口にしなかった。
リオウがアールに忠誠を誓っていることも、アールがジオレインに深い恨みを抱いていることも、よく知っていたからだった。
「……ところでさ、このままあのセイジェンドが生き延びたら、どうするんだ」
何とも言えない空気を振り払うように、仲間の一人が言った。
あまりに低すぎるその可能性をリオウは考えていなかった。見れば確かにセージはまだ生きていて、ケイの苛烈な攻めに今にも死にそうになっていたが、しかし確かに生きていた。
唐突に、リオウの背筋に冷たい汗が流れる。
リオウは自分の感じた恐怖に、もし生き延びたのなら、仲間たちは彼を殺そうとする己を止めるだろうと理由をつけた。
だがそれは間違いだ。そんな理由ではない。背筋に走ったのはそもそもが恐怖ではない。
ただ感じたものが素直に受け入れ難くて、そんなわかりやすい理由に思考を放棄させたのだ。
リオウは気持ちを切り替えて、二人を見る。
仲間たちと話し合っていたのはほんの数分の間だ。その間もケイが一方的にセージを殺そうとしている。あるいは殺している。その力関係に変化はなかった。
変わったのはその二人の力だった。
それを見てリオウと、そしてその仲間たちは背筋を震わせた。
それは恐怖であり、畏怖であり、感動であった。
******
ケイはマージネル家の対人戦の技術とマリアから対魔物戦の戦技を叩き込まれたハイブリットである。
その技術は暴走状態にあって存分に発揮されることはなかったが、技術そのものを失ったわけではない。
「あぁぁああああああハハハハはははハハハハ!!!!」
狂ったような血走った目で、雄叫びの様な笑い声を上げてケイはセージに大剣を振るう。
供給される暴力的な殺意はケイの体を内側から蝕み、その全身の筋肉をずたずたに引き裂く。
そして同時に精霊の魔力はそれを上回る速度で肉体を回復させていく。
その痛みは想像を絶する物が有り、その痛みから逃れるには目の前の少年を殺すしかないと、与えられた殺意が命令する。
そんな中で正気を保てるはずもなく、ケイは感情任せに力任せにセージを殺しにかかっていた。
その稚拙な動きでは繰り返される死の中で成長を続けるセージがいずれは追いつき、そしてそうなった時にケイは自滅という終わりを迎えるだろう。
だがケイはジオと同格の才気を持つと言われた少女である。
正気を保つこともできない状況で、しかしケイの中にある戦いの技はしっかりと生きていた。
必殺のはずの一撃をしのがれる一秒ごとに、ケイは空振りに終わったその技を今の自分に馴染ませていった。
セージが成長するよりもはるかに速い速度で、ケイもまた成長していた。
この時点でケイの実力はリオウたち単体どころか、パーティーすらをも超えたところに達し始めていた。
単独で上級パーティーをも圧倒する実力。
それは皇剣という称号ではなく、ジオやラウドのように実力をもって上級という人の枠を超えた特級に、わずかながら足を踏み入れていた。
そうして圧倒的な身体能力に戦闘技術が加わることで、セージはなすすべなくケイに殺される――はずだった。
だがセージは学習する秀才であり、その成長限界は天才であるケイにも匹敵する。
そして仮神の加護によってケイの倍以上の経験を得ることで、ケイの成長になんとか追いすがっていた。
ケイが大剣を横薙ぎに振るってセージを両断し殺せば、セージは両断される前にのけぞって回避する。
のけぞったセージを詰め寄ったケイが全力でその下半身を踏み潰し破裂させて殺せば、セージはブレイクダンスでも踊るように体を回転させてそれを避け、逆転を狙ってより深くケイとの間合いを詰める。
大きく踏み込んだケイの重心は崩れていた。しかし近づいてきたセージにさらに踏み込んで頭突きを繰り出し、セージの頭蓋を砕いて絶命させた。
天才と評されながらもまるで違う経歴をたどった二人には、奇妙な共通点があった
セージの戦い方がそうでないように、ケイの戦い方も騎士のものと大きくかけ離れていた。
セージはジオを相手に対人戦のスキルを上げていたが、同時に多くの魔物との実戦経験を持つジオから学んだ技術はまともな武道のセオリーからは外れている。
その動きは良く言えば実践的であり、悪く言えば魔物のようですらあった。
対するケイはマージネル家で騎士としてのあり方を学んでいたが、家の中で鼻摘みもの――特にマリアと出会う以前は――だったため、その考え方にいくらかの反発を覚えていた。
だからこそマリアからギルド・メンバーの技と、彼女が知るジオの技を学んでいた。
ケイはそれらを使って多くの魔物を狩っていた。
それでもケイにとって一番大きな比重を占めているのはマージネルの技だった。
そこには家族たちに認められたいという思いも強くあり、対人戦に優れたその技を鍛えていたからこそ、皇剣の座につけたという事実もある。
だが今セージと戦ったことで、圧倒的に格上のはずの自
分から生き延び続ける姿を見て、かつて幼い頃に見た姿とマリアの話が狂った頭の中によぎって、ケイの学んだ三つの技は綺麗に噛み合った。
その結果、守る側と攻める側の違いこそあれ、ケイの技もまた、まるで魔物の技のようにリオウたちには映った。
天才と評されながらもまるで違う経歴をたどった二人は、しかし互いに父親と同じ戦闘スタイルを獲得していた。
秒単位で爆発的な成長を遂げるケイと、それに追いすがって生き延びるセージ。
この均衡は、しかし長く持つことはなく崩れ始めた。
ケイはこの時、少しだけ正気を取り戻しつつあった。
成長による技量の向上は魔力の暴走にわずかながらに耐性を生み、痛みの緩和をなした。
さらにはケイの天性は精霊の殺意に振り回されていることすら学習し、耐性を身につけ始めた。
そして何よりセージとの戦いと、それに付随する成長の喜びが、少しだけケイにまともな心を取り戻させていた。
そして同時に、セージにも変化があった。
セージは秒単位で死を迎え、それをはっきりと自覚することで成長の糧にしていた。そうやって自覚しなければ、ケイに追い縋れるだけの成長は決して見込めなかっただろう。
だがそれは同時に、セージの精神に死という最大級の負荷が掛かり続けることを意味している。
ここまでのやり取りで、経験した死の体験は百や二百を簡単に超える。
その事がセージの動きに変化を与えない理由は、なかった。