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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
3章 お金お金と言うのはもう止めにしたい
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86話 たとえ使い古されていると言われても定番ネタは回収していく所存です

 




 どうも、セージです。

 ハイオークの防衛戦を終えて、暖かい出迎えを受けて、それから留置場に連行されました。


 ここに私を連れてきた騎士様は『規則なんです、すいません』といった様子で申し訳なさそうにしていたが、同じく規則で拘束されているはずの親父はさくっと帰ってます。

 その事を騎士様に聞くと『いえ、ジオレイン様にもご協力いただいてますよ』と、さらっと嘘を吐かれた。

 私の魔力感知は拘束されて三十分もせずに留置場を出て行った親父を確認しています。


 まあ親父が騎士様の言うこと聞かずに勝手に帰っていったわけだし、それには女の騎士様に連れられて身奇麗にしたりしていた妹を連れて帰る役目もあったので、親父が帰ったことに文句はない。

 そのポジションはやはり私だったと声を大にしてしつこく言いたいけど、まあ仕方がないので良しとする。

 そしてそれを正直に七歳児の私に教えて、僕も帰ると駄々をこねられると面倒だという勘定が騎士様の中で働くのは理解できるので、おとなしくしていた。


 そして私のようないたいけな少年に嘘をついた騎士様に夕飯は何がいいかと聞かれたので、私は執拗にカツ丼が食べたいと要求した。断られても断られてもエンドレスに要求し続けた。

 守護都市にはカツ丼を出す定食屋がないし、産業都市までは行ってられないという事だった。

 そういうことなら仕方がないと心の広い私は妥協して、材料を買ってきてもらいました。


 いえ、豚ロース肉や玉子、食用油などはあったので買って来てもらったのは漆黒の宝石酒(憶えている人は極少数だと思われますので、醤油のことだと補足しておきます)とみりんだけです。

 調理場の常備調味料リストに漆黒の宝石酒が入っていないなんて、私の留置場への評価はただ下がりだ。


 いえね、何でこんな事に拘るかって言うと、翌日の午前中には解放してもらえるということなのです。

 なのでこの機会を逃すとチャンスは朝ごはんしかないんだけど、朝からカツ丼というのは重すぎるし、だからといって留置場に入れられたのにカツ丼を食べないという選択肢もありえないので、厨房を借りて自分で作りましたよ。


 大量に作りおきができる牛丼とかと違って、カツ丼はおかわりの準備が面倒なので家では作ってなかった。というか、生まれ変わってから初めて食べたけど、満足のいく美味しさでした。

 一人で寂しく食べたから味気なかったけど、とりあえずカツ丼自体は美味しかった。

 親父に次兄さんや妹は好きだろうから、一回作ってみたいな。


 カツを大量に作り置きして、出汁醤油とかも準備して……。

 う~ん、小さいフライパンは家に一個しかないから、カツを玉子とじにするのがやっぱりネックだな。今度買い足すか。

 産業都市には質のいい調理器具が多いし。


 そんなこんなで留置場で一晩を明かして、朝ごはんは普通に食堂で騎士の人たちと朝定食A(ベーグル、スクランブルエッグ、ベーコン、野菜サラダ、オニオンスープ、コーヒーのセット)を食べて、尋問室に通されました。

 そしてそこでは、シエスタさんとスノウさんが待ち構えてました。



 ◆◆◆◆◆◆



「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」


 部屋に入ったセージが挨拶すると、尋問室で待っていた監査官のシエスタと、ギルドの理事長であるスノウが同じく挨拶をして出迎えた。


「さて。中級ギルドメンバー、セイジェンド・ブレイドホームさん。ここに呼ばれた理由はわかりますか?

 ああ、どうぞ座ってください」


 部屋入ったセージに、他人行儀な口調でそう着席を薦めたのはシエスタだった。


「いえ、実のところよくわかっておりません。

 騎士さんからは今回の事件についての調書を取るということでしたが、それ以外に何かあるのでしょうか」


 セージも同じ敷地で暮らすシエスタに、丁寧な口調で返答をする。それを見てスノウが愉快そうに微笑んだ。


「まあ調書を取るということで間違っていないよ。トート監査官殿は少しばかりセージ君の行動に罰するべき過失があると考えているようだけどね」

「その言い方には悪意を感じますね、スナイク理事長」


 これは失敬と、スノウが表面的にシエスタに謝った。


「さてそれでは護衛任務を受けて課外授業に出て、その護衛対象と離れることとなった経緯から話してもらえますか」

「……そう、ですね。

 父、ジオレインが魔物の襲撃を察知しましたが、情報管制室の方で適切な対応指示がなされる様子がなく、それどころか現状の危機を把握していないようでした。

 そのため護衛対象の避難の時間を稼ぎ、また護衛戦力の充実を図るために哨戒にあたっているギルドパーティーに助力を求めました。

 その後、護衛対象の避難を確認したジオレインによって時間稼ぎのために取り残されていた私が救出され、皇剣ラウド・スナイク様によってハイオーク・ロードが討伐されたことを確認し、守護都市へと帰還しました」


 そう言うと、シエスタさんが質問を投げかけてくる。


「既にある調書と特に矛盾するところはありませんね。

 情報管制室からの調書では管制担当者が独断であなたたち現場の意見を封殺しようとしたと聞いていますが、そちらの点についてはなにか聞き及んでいますか?」

「詳しくは何も知りませんので、それに対し付け加える意見はありません。ただ担当者は上司からそう答えろと命じられているように感じました」


 今度はスノウさんがウンウンと笑顔で頷き、言葉を発する。


「そうなんだ。ちなみに、これは僕の個人的な興味であって調書とは関係ないんだけど、今回の情報管制室の失態はなぜ起きたと思うかな?」

「……修理されたと対外的に発表されている管制機器の修復が不十分でこの状況を察知できず、またそのことを隠蔽しようとしたからではないでしょうか。

 まあ、あくまで推測ですが」


 ちょびっとだけ嘘である。

 管制の今回のミスは結構本気で頭にきたので、昨日のうちに魔力感知を伸ばして状況を把握している。

 私の魔力感知は探査魔法よりも精緻に多くの情報を読み取れるけど、探査魔法と違って見ようとしていることが周囲にバレないというメリットがある。つまるところチートスキルというやつなのだ。


 その魔力感知で見たところ、情報管制室の機器というか儀式魔法の補助システムは表面的には綺麗だったけれど、内部はいまだに所々焼き付いた跡のようなものがあって、回路の所々で魔力がちゃんと通っていなかった。

 私は技術者ではないのでどこがどう悪いかはわからないが、とりあえず不具合が有ると察することは簡単だった。

 そして私が思ったのは、誤魔化すにしてももうちょっとやり方があったんじゃないの、馬鹿じゃないのあのお偉いさん、である。

 いやまあ、壊れた原因の片割れである私が言えた義理でもないのかもしれないけど。


「うん。面白い答えだね。まるでその原因を見てきたようだ」

「セイジェンドさんは留置所から一切出ていませんし、拘留中はごく低位の生活魔法しか使っていないと、報告が上がっていますよ」

「ははは、わかってるよ。それぐらい確信に満ちた感想だったなって思っただけだよ」


 シエスタさんがやりにくそうに僅かに口元を歪める。スノウさんは行儀よく気づかないふりをした。


「さて、管制室のほうは概ねセイジェンドさんの予想通りです。詳細については関係者への捜査が終わるまでお教えできませんが、手抜かりなく厳しい捜査をさせていただきます。

 ご立腹とは思いますがこの件については私ども公的機関にお任せ下さい」

「あ、はい」


 いや、確かに腹はたってるけど捜査の真似事なんてする気はないし、もちろん報復行為なんかもいたしませんよ。親父じゃないんだから。


「それではギルド・パーティーに助力を求めたということですが、セイジェンドさんはSという人物に心当たりはありますか」

「……黙秘する権利はありますか?」

「ないよ。イエスかノーしか認めないし、沈黙はイエスと取るよ。君はわかっていると思うけど、ここで嘘をついて後からそれが発覚した場合は偽証罪として立件されるケースがある。その上で答えてね」

「スナイク理事長」

「事実でしょ、それとも調書を改ざんする気かな、トート監査室室長殿は」


 シエスタさんが苦虫を噛み潰したような顔をする。


「答えはイエスですよ。Sは私です。救援要請をする際に通信魔法を使いました」

「セージさん!!」

「ははは。お父さんと同じで潔いね。

 でもそれがどういう事かわかっているかな? わかっているよね。だから偽名を使って行いを隠そうとしたんでしょ」

「いえ。ギルド・パーティーの中には面識ある人もいましたので、そういった人たちに余計な心配をかけないように他人の振りをしただけです。犯罪を隠蔽する気はありませんでしたよ」


 スノウさんがニッコリ笑う。私もなんだか楽しくなってきてにっこり笑った。


「スノウ理事長。この場に同席することは認めましたが、あまり越権行為をなさるようなら退席してもらいますよ」

「おやおや、それで二人っきりで調書を作るのかな? 本来この手の調書作成には二人で取り調べを行う、何故か偶然セージくんの取り調べ時間だけ人手が足りなくなって、わざわざ監査室の室長様が直々に一人で執り行うとなったから手伝おうと思って声をかけたんだけど、そういう事なら僕はお邪魔だったかな?」

「もちろんお手伝いいただけていることには感謝しています。ですが、何事にも領分というものがありますでしょう?」

「ええ。僕はギルドの理事長としてギルドメンバーが不当な責めに合わないようにとこの場に居させてもらっています。

 そのついでに真実を調べ、罰するべきを罰する名誉ある監査のお仕事をお手伝いさせていただいているだけだよ」


 この状況はスノウさんに有利なようで、シエスタさんはそこで押し黙った。

 しかしシエスタさんは私を庇おうとして色々と手を回してくれたのか。

 嬉しいけど、負担になりすぎてなければいいな。


「さてと、それじゃあギルドとしての問題について話をさせてもらうけど、勝手に管制を装って哨戒任務に当たっているギルドパーティーに事実上の命令を出すのは、大きな越権行為だね。

 ギルドとしては罰則金と強制労働を課するのが妥当だけど、これはまあギルドとしての判断だからこの場では関係ないね」

「あの場に取り残されればいくつものギルドパーティーが危険にさらされたでしょうし、哨戒が無くなったことによる実害も出ていないのですから、それが妥当とは思えませんが? あくまで第三者の意見ですが」

「そうかい? それではトート監査官の顔を立てて罰則金は免除としましょうか」


 やったぜ。ありがとうシエスタさん。


「さてそれより問題は通信魔法の利用だね。たしか最低でも十年の禁固刑だったかな」

「――刑事罰が当てはまるなら、そうですね」

「今回の件は情報管制室が機能しない状況下での、緊急避難措置だと思いますが」

「セージ君は難しい言葉を知っているね。でもこれは精霊様が定めたことだよ。例外はない。許可が下りていない人物が通信魔法を利用することは重大犯罪だ」


 ずっとにこやかだったスノウさんの目つきが、真面目なものへと変わる。


「それが英雄ジオレイン様の大きな反感を買う行為だとしても、ですか?」

「例外はないよ。無垢な子供でも、強大な力を持つ英雄だとしてもね。うん、許可がないと、使ってはいけないんだよね」


 睨みつけるシエスタさんにそう言って、スノウさんは一枚の書類を取り出した。


「セージ君、ちょっとこれにサインしてくれるかな」


 私がそれを受け取ろうとすると、横合いからシエスタさんが書類を奪い取った。


「何をさせる気ですか。

 ――え? これって」

「うん。通信魔法の技能習得証明書。あとこれが緊急時の通信魔法使用許可証。昨日限定の許可証だから、サインしたら返してね。コピーして役所に出して、原本はギルドで保管しとくから」

「あ、はい」


 さくっと私がサインをして、スノウさんに返す。


「どういう事ですか、スナイク理事長」

「どうもこうもないよ、セージ君は途中から気づいてたみたいだけど、僕は最初っからこのために来たんだし。

 Sを正体不明にして有耶無耶にするより、こっちの方が後々のリスクは少ないでしょ」


 買い被られているけど、気づいていたかと聞かれれば、その答えはノーだ。

 スノウさんからはあからさまに楽しんでいる魔力(かんじょう)が見てとれており、以前と比べて本気さを感じなかった。だから見逃してもらえるとは思ってたけど、こうして助けてもらえるとまでは思ってなかった。

 何が狙いだろうと考えていると、シエスタさんが直球で尋ねた。


「見返りは?」

「セージ君の強制労働と、あとは恩を売っておくことかな。セージ君は義理堅そうだから。

 そもそもね。セージ君はその身を投げ出してハンターを助け、違法行為と知りつつ通信魔法を使って他のギルドパーティーに危険を知らせて、その上さらに単身でハイオークの軍勢を足止めしてるんだよ。

 二人共、忙しくて今朝の号外なんて見てないだろうけど、セージ君は次代の英雄だってもてはやされてるんだよ。皇剣をとっただけで何の戦果も出してないケイ君とは違って、国を守るために尽力している本物の英雄だって。

 そんな新しい英雄をルールだからと罰しても、僕にはメリットがないんだよね」


 号外が出てるのか。面倒くさいことになりそうだな。


「スナイク理事長にメリットがないと言うことは?」

「他の二家にはあるね。ケイ君のところはせっかく上り調子だったお家の評判にケチがついたし、陰険姫は成果のためにルール違反するのは嫌いだし。まあ本人は結構あくどいことやってるんだけどね。

 今回はギルドパーティーを助けてもらった恩があるし、陰険姫をだしぬけたから助けに来たけど、今後は通信魔法を使うときは、細心の注意を払ってね」

「はい」

「いえ、セージさん。そもそも使っちゃダメですからね。十年も刑務所に入るってすごく大変なことですからね」


 スノウさんはハハハっと笑って、席を立った。


「それじゃあ用は済んだから僕は行くよ。管制室の方をどうにかしないといけないしね」

「どうにかなるんですか」

「うん? まあね。産業都市の方の機材を融通してもらって、なんとかかな。代わりに産業都市の方の情報管制に不具合が出そうだから、防衛任務でギルドからそれなりの人数を派遣させるって条件で交渉中。

 ちなみにその防衛任務が君の強制労働になるから、一週間ぐらいお泊りするってジオさんに許可を取っておいてね」


 どうにかなるような問題なのに管制室のお偉いさんは修理ほったらかしてたのかと思ったが、スノウさんの言葉で結構な無理をして修理するのだと察した。ご迷惑をおかけします。


「情報機器の修理が終わるまで、産業都市との接続を続ければよいのではないですか?」

「うん。それができればいいんだけどね。実は救援要請が隣接する都市から来てる。

 公式発表はまだだけど、精霊様から竜が来るってお告げもあったから、魔物が活性化してるんだよね。救援要請でてんてこ舞いになる前に急いで片付けないといけないんだよね」


 ……竜、来るのか。親父が余計なことを言ったせいだな。間違いない。


「現状では分析も不十分だし、精霊様のお告げでもどこが襲われるかまだわからないんだけど、さしあたって救援要請が出てる所を回って、結界の保全を優先させないといけないんだけど――っと、おしゃべりが過ぎてるね。

 本当に行くよ。あ、そうだ。守護都市はすぐにでも出立準備に入るからセージくんはすぐにギルドに行ってね。

 仕事の説明を聞いて準備とかしたらそれなりに時間かかるでしょ。

 あと今回の件で特別報奨が出るけど、手続きの関係ですぐには渡せないからそれは産業都市から帰ってきてから受け取ってね」


 まじか。特別報酬っていうからには期待していいよね。スノウさんいい人だな。


「スナイク理事長、私の話は――」

「悪いけど、忙しいからまた後でね。君とはもう少し対等な場所で、ゆっくりと話をしたいしね」


 シエスタさんが引きとめようとするが、スノウさんは聞き入れずに尋問室から出て行った。


「――ふぅ。

 一方的に借りを作っちゃたな。セージさん、あの人は怖い人だから、あんまり気を許しちゃダメですよ」

「……まあ、そうですね。でも利害が一致してる間は信用できそうですよ」

「そうね。でも利害が対立しても変わらない笑顔で話しかけてくるような相手ですよ」


 ああ、そう考えたら怖いな。気がつかないうちに対立してて背中からアゾットされるとか勘弁だし。

 でも嫌いになれないんだよね、ああいう人って。


「……はぁ。これは重要な機密情報だからまだ教えるつもりはなかったんですけど、セージさんの給料って、不正に天引きされてるんですよ」

「――え?」

「ギルドでのお仕事って明細書が発行されないでしょう。

 だからそれに付け込んで本来支払われるはずのお金を懐に入れている職員も多いんですよ」


 まじか。アリスさん最低だな。

 お金が無いなら相談してくれればいいのに。

 アーレイさんが保証人になってくれれば無利子で貸してあげられるのに。


「言っておくけど、受付のアリンシェスさんは無関係でしたよ。関係が疑われるのは救援要請を出していた管制と、それを給料に反映させる内勤のギルド・スタッフでしょうね。

 この辺りは前々から調べを入れていたんですけど、今回の件で一気に片がつけられそうなんです。ただどうもスナイク理事長もこの件は知っていて、厳しく取り締まると仕事のモチベーションが下がるからと放置していた節があるんですよね」


 ああ、そうなのか。とりあえず、アリスさんごめんなさい。


「まあこの都市だとそれも仕方ないんでしょうね」

「む~、それを言われると私の仕事が無駄なものになるじゃないですか」

「ああ、すいません。そういうつもりはないんですけど。っていうか、こんなに喋ってて大丈夫なんですか」


 嫌味を言うわけじゃあないけど、話の流れからしてスノウさんだけじゃなくシエスタさんも忙しそうな感じだけど。


「……まあ色々と根回しする必要がなくなっちゃったからね、予定は少し空いちゃったかな。昨日から徹夜だったから仮眠室で寝ようかなって思うんだけど」

「えっと、ご迷惑をおかけしました」


 徹夜した理由も根回しも私のためだろうから素直に頭を下げると、シエスタさんは照れた様子で慌てて手をブンブン振って、気にしないでと言った。

 場違いな感想だけど、デキる女の見本みたいなシエスタさんがそういう仕草をするとすごく可愛い。


「私も仕事だからいいですよ。それにちょっと今回は大捕物になりそうだから、休める時に休みたいってだけだし。

 それじゃあセージくんは帰っていいですよ。あ、夕飯はちゃんと食べるので用意しておいてくださいね」

「え、僕は帰らないですよ?」

「え?」


 シエスタさんが頭に疑問符を浮かべる。


「いえ、今からギルドに行って説明を聞いたら、すぐに産業都市に行こうかと。ちょうど装備品は一通り持ってますし」


 正確には留置所の保管室にあるが、ここを出るときに受け取れるのだから同じだ。


「細かいギルドの規約はちゃんと覚えてないんですけど、たしか強制労働の場合は最低限の報酬だけでホテル代なんかの必要経費は支給されないんですよね。

 とりあえず安いホテルを探さないといけませんし、防衛戦に参加するのなら一通りの消耗品の買い足しや武具の手入れも必要ですから」

「で、でも一度帰って顔を出しておいたほうがいいんじゃないかな。ジオさんたちも心配してるだろうし」


 うん。まあそうなんだけど、ちょっと妹と顔を合わせづらいんですよね。


 一晩たったら妹も落ち着くだろうなんて軽く考えてたけど、一晩たったら私のほうが不安になってしまった。

 顔を合わせた途端に悲鳴を上げられて逃げ出されたら、私は泣く自信がある。


「まあ上手い事言っておいて下さい。あと親父に勝手に帰るとかひどくない、って」

「えぇっ!? それは気が重いですよ。ちゃんと帰りましょうよ」


 言いたいことはわかります。でも私はもっと気が重いんです。


「お願いしますよ。産業都市から帰ったらなんでもしますから。ほら、お弁当も週一でいいならつくりますから」

「んー、何か理由がありそうですし、そこまで言うなら週二で手を打ちましょう」

「む。まあ今回は色々とご迷惑をかけてますので、分かりました。それでいきましょう」


 そうして私は産業都市にプチ家出することになった。

 まあ期間は一週間ぐらいらしいので、それぐらいなら問題ないだろう。

 ……うん、大丈夫だよね。

 なんだか妹にもギルドの仕事してるのバレたし、新聞に載ったのなら姉さんにもバレそうだけど、一週間ぐらいなら兄さんがうまいことフォローしてくれるよね。

 親父もおかしなことはしないよね。

 なんだか不安要素が満載だけど、めいびーきっと、大丈夫?





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