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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
3章 お金お金と言うのはもう止めにしたい
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77話 どことなくシンパシーを感じた

 




 日付が変わりまして、親父と一緒にギルドにやってきました。

 私としては新しい武器である短槍を手に馴染ませるため、産業都市接続中に下級の魔物を相手にするのが目的だ。

 一応、道場で親父相手に一通りの動きは試したし、親父も槍を使った経験があったので簡単な手ほどきを受けたが、やはり余裕のある状況で実戦経験を積んでおきたいのです。

 親父の方はギルドに預けてある竜の角を取りに来た。

 別に私と一緒である必要はないんだけど、まあせっかくなので一緒にやって来た。


 いつものように、朝ごはんを終えてすぐにギルドを訪れる。

 今日はアリスさんがお休みのようだったので、空いている受付を選んで簡単な仕事を選んだ。

 その際に親父の要件を伝えたところ、お偉いさんが出てきて親父は建物の奥の方に案内されていった。



 ******



 そして、ひと仕事終えてギルドに戻ってきました。


 さすがに接続中ということで近場のエリアには下級の魔物しかおらず、当然のことながら危機に陥るパーティーもいないので支援要請もなかった。

 私が作ってもらった短槍は、短いといっても全長は私の身長ぐらいある。ただし軽く丈夫な素材を使っているので柄は私が握れる程度に細くなっており、片手での取り回しも可能だ。

 穂先は素槍仕様の簡素な形状だが、三十センチほどの大きさで突くだけでなく斬る動作も可能だ。


 そんな短槍を使って、魔力感知で見つけた魔物を片っ端から殺していった。

 短槍を投げて殺して、突撃して突いて殺して、横薙ぎに斬って殺して、払いでこかして石突で急所を潰して殺してと、まあ色んな使い方を試してみた。

 もっとも正直なところ相手取った魔物と私の強化した身体能力には開きがありすぎて、動く的を相手にした練習にしかならなかった。

 言い方を変えると、弱い者いじめをしてきた気分です。


 いやまあ相手は魔物なので別に罪悪感はないし、そもそもローリスクの実戦で新しい武器を手に馴染ませるのが目的なので、これで何も間違っていない。

 ただし少しばかり消化不良な気分が残ってしまったので、帰ったら道場で親父と汗を流そうかなと思った。


 そしてその親父はギルドにいた。

 時刻は昼を少し過ぎたあたり。今日は訓練目的だったので早めに仕事を終わらせて戻ってきた。

 そしたら、親父がまだギルドにいたのです。

 別にいて悪い訳ではないのだけれど、当の親父はとても機嫌が悪く、チラホラと賑わってきたギルド内には親父の顔色を窺う恐怖の感情(まりょく)が満たされていた。


 こんな雰囲気は良くないですよねー、って事で。

 とりあえず親父にこっそり忍び寄り、後ろからチョップを仕掛け――


「甘い」


 ――投げ飛ばされた。

 親父も別に本気で投げたわけではないのでそう大した勢いはない。私は空中で新体操の選手のように綺麗に宙返りして、しっかりと足から着地した。

 ポージングまで決める私にわずかに歓声とまばらな拍手が起こって、私は笑顔を浮かべてその人たちに手を振り、あらためて親父の側に寄っていく。

 いくらか雰囲気は和らいだようだった。


「受けたね」

「なんで勝ち誇ってるんだ」


 親父の方は変わらずぶすっと不機嫌そうにしている。


「僕を待ってたってわけじゃあないみたいだけど、何があったの?」

「知らん。待てと言われて、今の今まで待ちぼうけを食らっている」

「ふーん。朝のお偉いさんは?」

「さあな。どこかに出て行ったっきりだ」

「……ねえ。親父の預けてたっていう竜の角ってさ――」

「言うな」


 あ、わかってるんだ。まあ多分ギルドの方で失くしたんだろうな。

 いや、預けたのが昔だから探すのに手間取っているだけかもしれないけど。


「……ちっ。呪いに悪影響があるから放しておけと言われて、従ったのが間違いだったな」

「どうどう。落ち着いて親父。あとで人参あげるから」

「アホか」


 親父がジロリと睨んでくる。流石にふざけすぎたので、素直に両手を挙げて降参を示した。ただまあ放っては置けないので声はかけます。


「まあお腹すいてるから怒りっぽくなってるってのもあるだろうし、ちょっとご飯食べに行こうよ」

「……ふんっ。こうして待っていても仕方がないか」


 親父の同意も得られたことだけど、とりあえず今日の仕事の精算が終わっていないので受付に行く。

 お金をもらって、とりあえず今日は帰りますけど、竜の角を返してもらえるまで毎日親父がやって来ますからと、偉い人に言付けを頼んでギルドを出た。



 ******



 そして翌日、今日は……というか、産業都市接続中はもうギルドの仕事をする気はないので、訓練とお弁当作りの練習に励んでいた。

 ちなみに兄さんとシエスタさんがお弁当を作ってくれるのって、期待した目で最近チラチラとこっちを見る機会が増えてきている。

 兄さんは仕事に出るときはパンとスープを詰めた水筒を持って出てそれをお昼にしているので、もっとちゃんとしたものを食べたいのだろう。お金をかけずに。


 シエスタさんはどうも普段は職場の友人と食事をしているようだけど、外食組としか一緒にお昼を取れないので、たまにはお弁当組に混じって女子力アピールをしたいようだ。お金をかけてでも。

 なお次兄さんは料理屋さんのまかないで美味しい昼ごはんを食べているので、特に必要としていなかった。それはそれで腹が立った。

 結論としては毎日お弁当を作るのは面倒くさいので、二人の期待をどうスルーしようか悩んでいます。


 まあそれはさて置き、試作のお弁当をワンプレートにして今日のお昼ご飯にして、洗い物を親父がやっている間に私は家庭菜園の草むしりに精を出す。

 来客があったのは、その時分だった。



 やって来たのは身なりが良く、優しい顔立ちの渋いおじさんだった。

 そのおじさんは普通に正門から入ってきた。最初に気づいたのは預かっている子供のひとりで、外に居た私に来客があることを教えてくれた。

 そうして出迎えた彼の持っている魔力量は私よりもやや低いくらいで、この都市ではそう大したものではないけれど、その彼を見た瞬間私の背筋は総毛立った。


 正確にはおじさんでは無く、おじさんが持っている化粧箱に入っているものを知覚して、私は自分でコントロールできないほどに気持ちを乱し、無遠慮に警戒心をぶつけた。

 しかし優しそうなおじさんは気にした様子を表には出さず、ニッコリと私に笑いかけて声をかける。


「初めまして、セイジェンドくん。お父さんに取り次いでもらえるかな?」

「……はい」


 そして親父に声をかけて、おじさんを応接室に通しました。


 少しだけ待ってもらって、洗い物を終えた親父がエプロンをしたまま応接室に入り、姉さんが紅茶とお茶菓子を持ってくる。


「ありがとう、可愛いお嬢さん」

「あ、いえ。たいしたものじゃないですから」


 おじさんは優しい笑顔で、応接室の内装やお茶やお茶菓子の質を値踏みしている様子など全然ない優しい笑顔で、姉さんを労った。

 姉さんは顔を赤くして小走りで応接室から去っていった。私はもちろん同席しています。

 しかしなんというか、やりにくいおじさんだなーと思ってしまう。


「うちの娘に色目を使うな、スノー」

「誤解ですよ。あと僕の名前はスノウですよ、ジオさん。

 スノウ・スナイクです。よろしくね、セイジェンドくん」

「初めまして、セイジェンド・ブレイドホームです。セージと呼んでください」


 私がそう頭を下げると、スノウさんはニッコリと笑った。

 スナイクというと、どこかで聞き覚えのある家名だ。

 たぶん新聞で読んだ気がするんだけど、詳しいことが思い出せない。


「さて、まずは本日の急なご訪問に応えて頂き感謝します。

 ジオさんは回りくどいのはお嫌いでしょうから、早速本題に入りますね。ああ、その前にこちらを。あとで子供たちと食べてください」


 スノウさんはそう言ってお菓子の詰め合わせを差し出してくる。魔力感知は透視能力では無いので丁寧に包装されたそれの中身を把握するなんて事はさすがにできないが、見た目からしてどうもチョコレートの詰め合わせっぽい。

 それも預かっている子供たち全員に振る舞えるぐらいにたくさんの量が入っていそうだった。

 この国では農業都市で砂糖の大量生産がなされているが、カカオは芸術都市で採れ、その量はけっして多くはない。

 端的に言えばチョコレートは高級菓子に分類される。


「これはどうも、ご丁寧にありがとうございます」

「もらっておく。だが本題はなんだ。さっさとしろ」


 とりあえず親父の太ももをつねっておいた。親父は抗議の視線を向けてきた。


「はははっ。

 ――ああ、失礼。では本題を。

 まずはこれを」


 そう言って、スノウさんは化粧箱を応接室の机の上に置き、私たちに差し出した。

 スノウさんに促されて親父は無言で化粧箱の包を開いた。

 そうして開かれた箱の中身を見て、私の心臓はドクンと大きな音を鳴らした。


「竜の角か……。俺の戦利品ではないな」

「ええ。これは九年前の竜のものではなく、そのひとつ前、二十年前に我が兄ラウドが狩った竜の角になります」

「……」


 ふたりの会話が耳から耳へすり抜ける。大事な話だからちゃんと聞かなければならないという理性は働いているのに、どうしようもなく感情がぐらついてしまって、それを押さえ込むことに意識が奪われてしまう。

 ドクドクと、心臓が他人の物のように高鳴る。意識が冷たくなり、同時に火が(たぎ)る。

 スイッチの切り替わりだ。他人の目を気にする偽善者の皮が剥がれていく。

 お偉いお客さんが目の前にいるという事実が理性を働かせるが、どうしようもなく感情が昂ぶってしまう。


 ポンと、背中を叩かれた。

 親父の大きな手が、私の背中を叩いた。


「悪いものでも憑いているような顔だったぞ」

「……うん」


 毒気の抜けた私は、そう応えた。たぶん悪い死神(仮免許中)にとり憑かれていたからだろう。今は理由を深く考えるまい。

 親父は私の様子を注意深く眺めたあと、差し出された竜の角に手を伸ばした。

 私が改めて竜の角を眺めれば、先程のようなおかしな感情の昂ぶりは起きず、冷静に観察することができた。

 親父は竜の角に魔力を通そうとしているが、中々上手くいかなかった。親父の魔力と竜の角は確かに通じ合っていたが、しかしそれは反発しあうものだった。

 親父はそれを力ずくで屈服させようとし、竜の角に残された回路はそれに抵抗していた。


「親父、力を通すんじゃなくて自分の体に魔力を通すのと同じように、自分の手が伸びてる感覚でやってみたら」

「……ああ、わかった」


 親父は私に何を聞き返す事もなく、素直に頷いた。

 切っ掛けを得ればそこからは早く、親父は竜の角を完全にコントロール下においた。


「相変わらずだね、ジオさん。あなたと接していると僕の中の常識が簡単に壊れてしまう」


 にこにこと笑ってスノウさんはそう言った。それに君にもと付け加えて、私に値踏みするような視線を見せる。

 私は困った笑顔を浮かべてスルーした。


「これはあくまで謝罪のための品です。ジオさんの戦利品である竜の角が見つかれば当然お返し致しますし、その際にこちらを返していただく必要もありません。

 ただ、その、申し上げにくいのですが現状ではジオさんの竜の角が見つかる可能性はとても低いと言わざるをえません」

「そうか」

「その、(くだん)の品はジオさんの最後の戦利品ということで多くの好事家が狙っていましたが、それだけにこちらとしても最大級の警備体制で保管をしていました。

 ですがなぜ失われてしまったのか、そもそもいつ盗まれたのかも不明なのです。

 いえ、定期的に金庫の中を点検していますし、少なくとも前回の点検には僕も立ち会っていますので、この数ヶ月の間に盗まれたことには間違いがないのですが。

 今は盗品オークションの元締めやコレクター達を探っていますが、この期間に大金が動くような事態もありませんでしたので、調査は難航しているのです」


 ……親父とギルドに行ったのって昨日だったよね。

 ちゃんと探しておいてくださいねって頼んだの昨日のお昼だよね。

 それから今の間までに報告内容まとめあげて謝罪の用意してきたんだよね。

 もしかしてこうなると想定していて事前に準備していたんじゃないかと疑って、私は改めてスノウさんの内側を魔力感知で精査する。


 スノウさんはいわゆるやり手の交渉人だ。

 ごく自然な表情や仕草はその実、高い計算に裏打ちされている。表面的なものを見るだけではそれが本心なのか、そう印象づけたいだけなのか見抜けないが、感情を直接読み取るこの魔力感知なら見通せないものはそんなに無い。

 うん、そんなには無い。

 だから少しはある。


 つまり何が言いたいのかといえば、スノウさんの感情はよくわからなかった。

 普通とは違うというか、独特というか。感情が読み取れないのではなく、色んな感情がごちゃまぜでどの感情が一番強いのかはっきりしていない。

 私が探るように見ているのに気づいたのだろう。

 スノウさんがニッコリと笑顔を向けてくる。私もニッコリと笑顔を返した。その間も、スノウさんの感情は一定のリズムでごちゃまぜチャンプルし続けた。


 魔力感知でははっきりと確信を得ることができなかったが、しかし私の勘からしてスノウさんの言葉に嘘はなく、たぶん準備とかはしてなくて、単に仕事が物凄くできる人なんだろうなぁと思う。

 少なくとも情報のくみ取りが上手いのは確かだと思う。

 うちの親父みたいな面倒なのと揉めるかもしれないって内容って、現場の人間からすると上役には正直に報告しづらいものだけど、ちゃんと報告があったからこうして対応できてるんだよね。

 人望とかもありそうだ。


「見つかるにこしたことはないが、これがもらえるならいい」

「そう言ってもらえると助かります。何かあればすぐにお知らせいたしますので、それでは僕は失礼させていただきますね」


 スノウさんはそう言って、お茶菓子を口に放り込み、お茶で流して退席した。

 出されたものを残さない姿勢と、きっと忙しいんだろうなぁと簡単に想像できてしまう上流階級の人に似つかわしくない所作に、不覚にも前世のサラリーマン時代を思い出してしまった。





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