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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
3章 お金お金と言うのはもう止めにしたい
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72話 たまには心配もする

 




「ねえ、親父……」

「なんだ」

「……やりすぎじゃね?」


 目の前には大きな穴が開いている。真下に掘った落とし穴のような穴では無く、地割れのような縦に裂けた穴だ。

 親父の剣の切っ先が触れたところから、取り敢えず目視できるずっと先まで地割れは続いている。

 穴の奥は暗くて見通せない。


 こんな時に便利な仮神チートの魔力感知だが、どうにもさっぱり機能しない。いや、魔力感知自体はちゃんと機能しているのだが、親父が斬り裂いたところだけはさっぱり何にも見えない。

 こんな事は今までに経験が無いので何とも言えないが、真剣に考えると背筋が寒くなってくるのでとりあえず後で考える事にした。


「ああ、俺もここまで威力があるとは思わなかった」

「……おーい。そんな物騒な技使うなよ。たぶんかすっただけでも僕は死んでるからね」


 私は言葉でこそ親父を責めたが、声に迫力はのらなかった。


 親父は満身創痍だ。

 技を放った剣は塵となって消え、かろうじて握りと柄の部分だけが残っている。

 振るった両腕は内側から血が噴き出して見るも無残な大きな裂傷が生まれた。

 消し飛んだ片足だけではない。魔力感知で親父の内側を見れば、いつもは綺麗に統制されている魔力が不整脈を起こす心臓のように乱れていた。

 それだけの代償を支払う必要のある技を、私に見せた。

 私に見せるためだけに、それだけの代償を支払ってその技を振るった。


 現在は上級の治癒魔法で腕はもとより消し飛んだ片足を含め完全に治癒し終わっているが、魔法によって治された怪我は簡単に再発する。これだけの怪我ならひと月ぐらいはおとなしくさせた方が良いだろう。

 それに右足の呪いも沈静化しているが、変わらず残っている。変わったのは膝下までだったその呪いが膝にまでせり上がっている事だった。

 いつもはバカ親父だというのに、時折こういう事をするから色々と思ってしまうのだが、今はまあ良しとしよう。


「使ったのは今回を含めて二度だけでな。

 天地の断絶を以て、万象の絶離をなす……だったか」

「……?」

「技の名だ。闘魔術であり、魔法であり、儀式魔法でもある。俺も完成には至ってはいないが、これを使ったやつは世界を開闢する神技だと言っていたな」


 ……あー、聞きたくない。そんなデス子の目的とかが関わってそうな話は聞きたくない。いや、まあそんな訳にはいかないんだけど。


「その人は?」

「俺も二度あっただけで、詳しくは知らん。竜に敗れたときと、竜を狩った時の二度だな。

 何かしら関係はあるだろうが、よくわからん奴だったな。

 お前も竜と戦う際は気を付けろ」


 どう気を付ければいいかまるで分らないんだけど。


「どんな人だったの? そもそも人だよね?」

「わからんな。見た印象はそこいらにいそうな男だったが、その印象はまるであてにならんな。自分の勘が信用できないと思ったのはそいつと会った時だけだった。おそらく、お前も会えばそいつだとわかる」

「んー、つまり会ってみないと何もわからないってことだけど、そもそもそんな不気味な人に会いたくも無いけど。

 ちなみに戦ったらどうなると思う? 僕と、親父と、五体満足の親父の全力のケースでちょっと教えて欲しいんだけど」


 親父は少し悩む様子を見せ、答えを出した。


「全て、一撃だな」

「あ、うん、そうだよねー」


 地球割りみたいなとんでも神技使いこなすような相手は、親父でも難しいよね。ア●レちゃんとか野菜の星のスーパー戦士とか呼んでこないと無理だよね。


「誤解するな。一撃で倒せると言ったんだ。今の俺でも、お前でもだ」

「……は?」


 いや無理だろ。

 もしかしてこの神技って、当てるのがすごく難しいとか?

 親父でも使いこなせてないって言ってたし、案外その人にとっても未完成でここまでの威力が無いとか、発動までものすごく時間がかかるとかそんな弱点があるとか?


「……言ったろう、自分の勘が信じられないと。

 奴がこの技を見せた後でも、俺は奴を恐ろしいと感じなかった。そこいらにいる一般人のように、簡単に殺せる相手としか思えなかった」

「……えーと、つまり、どういう事?」

「だから、よくわからん。そう言う奴なんだ。

 ……少なくとも戦いたい相手では無いな。お前の目なら、あるいは何かわかるかもしれんが……いや、やはりお前が言うように出会わない方がいい相手かも知れんな」


 親父はそう言って、話を切り替える。


「それで、俺の本気を見たわけだが、どうだった」

「いや、どうっていうか、何もできなかったんだけど」


 親父が真剣な目で私を見据える。


「そうだな、今のお前では何もできないな」

「何それ。人を馬鹿にするためだけにそんなに身体張ったの? 馬鹿じゃないの? あ、馬鹿親父だった」


 私が親父を茶化したが、親父の真剣な眼差しは私を捉えたままだった。


「竜を前にしても同じだ。今のお前じゃあ何もできない。無残に殺される誰かを助けたいと思っても、お前にはその力が無い。

 少なくとも全力の俺と戦えるイメージが持てるまで、不用意に竜に近づくな」


 …………。



 ******



 守護都市に帰ろうと、昇降口に辿り着くとなにやら人だかりが出来ていた。

 遠くから興奮した様子でこちらを窺っている彼らはギルドメンバーで、全体的に年齢は高いが、いくらかは若いまだ新人のメンバーも含まれていた。


 少し不味いかもしれない。普段ならともかく、今の親父は戦いが出来るようなコンディションでは無い。

 絶対に無理だという訳ではないが、戦うのならば魔力を開放する必要が出るだろうし、そうなれば竜の呪いは確実に進行する。

 親父を庇うにもこの数を抑えるのは――いや、集まっている人たちの中には明らかに上級と思われる実力者も交じっている。そもそも私が足手まといになりかねない状況だ。

 そんな事を考えていると、私の頭に大きな手が置かれた。


「行ってから考えればいい」


 親父は警戒する様子も無く、集まったギルドメンバーたちの下へと向かっていく。

 私は頭をかいて親父の後に続いた。まあ確かにここであれこれ考えたってしょうがないか。



 親父と私が発着場につくと、集まっていたギルドメンバーたちは脇により道を譲ってくれた。

 もしかしたらたまたま別の理由で集まっていただけで、注目が集まっているのも英雄な親父が子供連れで荒野に出ているなんて、非常識な事をしたからかもしれない。


 ……ないな。それはない。


 視線に篭められた感情(まりょく)は大概が尊敬のようなものだったが、それだけでは無い。

 明確な悪意が潜んでいる者はいないが、敵意に近い畏怖や警戒心は含まれている。

 年若いギルドメンバーは尊敬の割合を強く瞳に宿していたが、上級の、それも歳を経たベテラン程、恐怖の色を強めていた。


 今さらながらに気付いたけど、そりゃああれだけ大きな魔力をまき散らしたら周りも気付くよね。そりゃあ怖いよね。

 でっかい地割れも、視力を強化すればここから見えるほど大きいし、魔力感知伸ばすと地割れ付近では無数の探査魔法が行きかっているし。

 ……帰ったらどんな騒動になってるのかアリスさんに聞いてみよう。うん。被害は人が住んでない荒野の自然破壊だけだから、別に怒られたりはしないよね。


「久しぶりですねえ、ジオ」


 意を決したのか、上級の中でも上位であろう男性が声をかけてきた。

 体格は親父よりも一回り小さく、それほど大柄では無い。

 だが体内に濃縮された魔力量はエルフの族長代行をしているアーレイさんと同程度で、私はその足元にも及ばない。

 ただそんな人間でも、親父に声をかけるのは勇気がいる事らしいと、感情(まりょく)を見てそう思った。


「……む。確か、ベルトだったな。元気そうだな」

「ベルモットですぜ。

 ……変わってねぇようだな。戦えなくなってふてくされて引きこもりになっただの、ロリコンに目覚めただの噂は聞いてましたけどね。

 なんだ、復帰するつもりなのかい?」

「……次に俺をロリコンと呼んだら殺すぞ」


 あ、気にしてるんだ。最初に拾ったのが身寄りのない可愛い女の子(※姉さん)だったから、親父は紳士枠だと思ってたんだけど。


「――セージ」


 私は即座に首を横に振った。ぼくおかしなことなんてかんがえてないよ。


「……ちっ。それでベイト」

「ベルモットだっつてんでしょうよ。速攻で間違えるのは止めて下せえや」

「すいません、馬鹿親父なんです」


 私が愛想笑いを浮かべて謝罪すると、ベルモットさんは変なものを見たような顔で私を見た。


「……なるほど、ロリコンじゃなくてショタ――」


 ベルモットさんは殴り飛ばされた。誰にとはあえて言うまい。周囲が騒然となるが、ベルモットさんは気にするなと言いたげに手を振って周囲を落ち着かせた。


「相変わらず冗談が通じませんねえ。知ってますよ。こいつはあれでしょ、あれだ。噂はあれこれ聞いてますぜ。

 ああいや、そんなことよりも何があったんですかい?

 こんな近くで皇剣級がマジになる事態なんて考えたくもないんですがね」

「ん? 別に何もないぞ?」

「……は? いやいや、おかしいでしょうよ。何にもねぇのに、あんな一撃ぶっ放すとか」


 ふむ、と親父はベルモットさんの言い様に納得したように頷き、答えた。


「何もないぞ」

「おいっ!! ああ、いや、いいっすわ。わかりました。変に(つつ)いておかしな事に巻き込まれたくねえし。

 色んな奴らが探査魔法使ってるみたいだけど、何も見つけられないようですからねえ」


 ベルモットさんは『解散だ、解散!!』と、そう言って集まっていたギルドメンバーたちにそう言った。

 何人かは親父に話しかけたそうな様子を見せていたが、親父は気にせずさっさと昇降口に入っていき、私もその後を追った。


「良かったの? ちゃんと説明しなくて」

「しただろう。話すような事は何もないと。あいつには、あまり気を許すなよ」

「……わかった」


 ベルモットさんはそう悪い人には見えなかった。だが親父は何か知っているようだし、私の魔力感知もベルモットさんの感情(まりょく)にどこか違和感を感じていた。

 今の私は英雄の息子で、最年少の中級メンバー。

 自分の事を大層な人間だとは思わないけど、それはそれとして注目を集める立ち位置っぽいと言うのは、自覚しておいた方がよさそうだった。





 ちなみに後日、地割れ以外にもばっちり被害が出ていたことを教えてもらった。

 馬鹿みたいに高い機材の修理費が発生したとの事だった。

 ただしそれは管制の方で何かしらの失態があったから大きな被害につながったという事で、親父も私も弁済の義務はなかった。


 もっともだからと言って開き直って知らんぷりしているのもどうかと思ったので、親父名義で国防軍情報部情報管制室宛に一筆書いてお見舞い金を送っておいた。

 国防のための大事な装置を直すにはわずかですが、どうぞお役立てください。

 ……本当に、私は一年に一回貯金がなくなる呪いにでもかかっているのだろうか。デス子は枝毛に悩め。





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