53話 ジオレインの子、セイジェンドの兄
俺の弟は凄い奴だ。
強いし、頭がいいし、お金を稼いでくるし、料理もできる。
でも俺の弟は変な奴だ。
強いのに喧嘩はしないし、頭は良いけど親父のこと以外は馬鹿にしないし、稼いできたお金はいつも家族のために使っているし、料理だって文句言いながらも作って欲しい物を作ってくれる。
おばちゃんらが弟の事をたまにおかんって呼んでるんだけど、意味はよくわかんない。
まあ変な奴だって事だろう。パスタを箸で食べるし。何を食べるにしても箸を使いたがるんだよ、ウチの弟は。
頭おかしいだろ。
そんな頭のおかしいセージでも、まあ弟だ。
俺はアニキなのでアニキらしくセージが喜びそうなものを探していた。
べつに謝ろうとかそういう事では無く、たまには俺もそういう事をしておこうとか、そんなことを思いついただけだ。
ただこれが思ったより難しい。
とりあえずセージの財布から手に入れたお金でお菓子やらコロッケやら買ってみたんだが、アベルに言わせると。
「いや、それは怒ると思うから渡さない方がいいよ」
「え? なんで?」
「いや、そのお金が……ああ、うん。とにかくあんまりお金を使うようなのは避けた方がいいと思うよ」
どうしろって言うんだろう。よくわかんない上に使えないアベルだ。
「……なんだか今ちょっとイラッときたけど、じゃあセルビアにも相談してみようか」
アベルがそう言うので、アベルとセルビアと一緒にコロッケやお菓子をほおばりながら話し合う。
内容はセージが喜ぶのはなんだろうということだ。
「正直、思いつかないね。そう言えばあいつの好きなモノって何だろう」
「アニキはね、いつもにこにこしてるよ」
「つかえねー」
聞いて損した。
「じゃあカインは思いつくのかな?」
「お、思いつかねーから聞いてんじゃん」
なんか背筋が寒くなってきて、どもってしまった。
「アニキねー、だきつくとうれしそうだよ」
えへへ~と、能天気にセルビアが笑う。抱き付けば喜ぶ……、じゃあ俺がセージに抱き付くのか? いや俺のがでっかいから、抱きあげるのか?
「それはセルビア限定だと思うから、真似はしない方がいいと思うよ」
「む~っ、どうしろっていうんだよ!?」
俺がそう言うと、アベルが呆れたようにため息を吐く。
「素直に言葉で伝えて、あとは家の手伝いもっとやって負担を減らしてあげたら?」
「やだ。地味だし、つまんねぇ」
「くっ、父さんみたいな事を……とにかく、セージのお金で買ったものを送るっていうのは止めてあげなさい」
「あー、わかったよ。ちぇっ」
結局ろくなヒントも手に入らなかったので、解散した。お菓子も食い終わったし。
「……セイジェンドの望んでいるモノ、か」
なんか去り際、アベルが深刻そうな声でそう呟いた。考えて分かんないんだから仕方ねーと思うんだけど、なんか変なスイッチが入ったみたいだ。
セージにしろアベルにしろ、頭が良い奴ってどっか変だよな。
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俺はなんか面白そうなものでもないかと政庁都市に出かけた。そう言えば俺と親父が皇剣武闘祭に行っているあいだ、残った連中もパブリックビームとかなんとかに出かけて、帰りにレストランでおいしいご飯も食べに行ったらしい。
そこに文句は言えないけど、俺も行きたかったというか、やっぱみんなで行きたいと思う。
皇剣武闘祭は終わっちまったから、なんかそんな感じの面白い事がないかと探してみた。
しばらくふらふらと歩いて祭りの案内とか見て、ようやくそれらしいものを見つけた。
花火だ。
花火が何かはよくわかんないけど、絵を見るとすごそうだった。
案内の人に聞くと、空に上がるからただで見れるって言っていた。これならいけるかもと思ってパンフレットを貰って帰ろうとしたらお金がいると言われた。
ただでくれって言ってもくれないから、ペンを借りて手の平に日にちと時間とだいたいの場所をメモった。
あとは帰ってからアベルに相談すれば上手くいくだろう。
そう思って家路につこうとしたら、ソイツがいた。
******
カインが見つけたのは金色の髪の大剣を背負った少女。
新たな魔人。
新たな皇剣。
次代の英雄と期待される、ケイ・マージネルだった。
何故こんな所にいるかと言えば、ケイは精霊との契約もお披露目の式典も終えた後、契約の影響による極端な魔力量の増加に魔力制御のスキルが追い付いていないので、慣らしがてらずっと自宅で静養をしていた。
しかし折角家に引きこもっているのだからと、マージネル家の偉い人に礼儀作法の勉強を強いられたり、それを実践するいい機会だと新たな皇剣に挨拶に来た偉い人たちと引き合わされたり、同じく退屈をしている側仕えのメイド(?)にセクハラをされたりと、実に鬱憤の溜まる毎日だった。
とある奔放な英雄にあこがれるケイは自由を愛する。
その英雄と違ってケイは育ちがいいのでちゃんと我慢もできるのだが、その我慢も日々のストレスで限界に達した。
また日常的な動作であればそう問題なく行えるようになったので、こっそり家を抜け出してやって来たのだった。
そのケイは本屋の前に陳列された雑誌を立ち読みしていた。
その表紙には〈年上の彼に愛されるコーデ特集〉なんて見出しがあったが、それはどうでもいいことだろう。
食い入るように雑誌を立ち読みするケイを店員は迷惑に感じていたが、物騒な大剣を背負っているため注意しようにもできなかった。
ちなみにケイが新たな皇剣だと気付いている者はカイン以外にはいなかった。
パブリックビューイングでケイの容貌を見たものは多いが、荒い画質で顔の仔細までは知られておらず、少女の大剣にしても皇剣武闘祭優勝者の真似をするのは珍しい事では無かった。
そしてそもそもこんな所に、時の人がいるはずがないという先入観も働いていた。
そのケイに、忍び寄る小さな人影があった。
カインでは無い。ただ同じくらいの年ごろの、身なりの汚い少年だった。
少年はケイのお尻のポケットから財布を抜き取ると、全力で走り出した。
そしてカインの横を通り抜けようとした際に、足を引っかけられて転ばされた。
ずさーーっと、華麗なヘッドスライディングをした少年が手放した財布を、カインは拾った。
「お、お前こんなことしてタダで――ひぃっ!!」
少年はまくしたてようとしたが、カインの顔を見るなり悲鳴を上げて、財布には目もくれずその場から一目散に逃げ出した。
「なんだったんだ、あいつ」
いきなり悲鳴を上げられてカインはびっくりした。
ちなみに少年はいつぞやに訓練生三人を誘き出した少年で、その際にキレたカインを見た覚えがあったのだ。
しかしカインの方は記憶の端の方にもなかった。
全くこれっぽっちも浅慮とは言い切れないはずのカインの記憶力は、以下省略なのである。
財布を盗まれたケイはその一部始終を見ていた。
財布を抜かれた瞬間にはそうと気づいていたし、とっさに手を伸ばせば少年の首根っこに届いただろう。
ただ魔力制御の不安――ひいては力加減の不安――からケイは咄嗟にはその手が伸ばせずに少年の背を見送った。
下手をすれば掴むのではすまず、その幼く細い首を握りつぶしてしまう恐れがあったからだ。
咄嗟の硬直から一拍おいて我に返り、追いかけようとしたところで、その一幕を目撃することになった。
カインは余計なお世話だったんだろうなとも思いながらも、拾った財布をケイに渡す。
カインにとってケイははるか格上の実力者だ。
一瞬の隙を突かれたとはいえ、ただの子供に追いつくのも、その身柄を取り押さえるのも容易い事だからだ。
「ほいよ」
「……ありがとうって、言っておくね。一応」
「けっ」
ジオの息子で弟子で推薦なんてされているセイジェンドに色々と複雑な思いを抱いているケイからは素直なお礼など出るはずも無く、カインもやはり色々と心中が複雑で、そんな返しになってしまう。
「……失礼、助けてもらった態度ではなかった。
改めて、ありがとうございます」
挑発とも取れるカインの返事に、しかしケイは恥じるようにそう言った。
「お、おう」
返すカインは思わずどもるってしまったが、顔にははっきりと喜色が浮かんでいた。
「たしか、セイジェンドだったよね。その、ジオレインの息子で、弟子の。
こんなところで、何をやってるの」
ケイは顔を少しだけ赤くしながら、カインにそう言った。
カインは何言ってんだこいつ、といった表情になる。
しかしカインは思慮の浅い行動派の子供だが、勘は良い。
ギルドがどうの、皇剣武闘祭に行くはずだったのはどうのという事を思い出して、ケイの勘違いを察した。
察して、腹を立てた。
あの時の馬鹿にするように見下す視線を思い出し、それがセイジェンド・ブレイドホームを見ていったのだと察して、どうしようもなく腹が立った。
「その、もし暇なら……私が稽古――」
「いい気になんなよ」
「――え?」
稽古をあなたのところの道場でつけてあげようか。
そんな好意的な言葉を遮られて呆気にとられるケイに、挑むようにカインは睨み据える。
「新時代の魔人だなんて呼ばれてるみたいだけど、親父の跡を継ぐのはお前じゃねぇ」
「……ふぅん。この前よりましな目つきだけど、実力を弁えて言ってるの?」
カインの怒気にあてられて、ケイの目つきと雰囲気も変わる。
ブレイドホームで浅慮な子の代表をカインとするなら、マージナル家の代表はケイである。火が付くのも爆発するのも早い女の子であった。
「はっ、知るかよそんな事」
「いい度胸じゃない。私を舐めるとどうなるか教えてあげる」
ケイの手が、背の大剣に伸びる。
カインはわずかに身を硬直させるが、自分の言葉を曲げるつもりはなかった。
抜かれれば俺も抜いてやるぐらいの気概だったが、ここは守護都市では無いし、そもそもカインは武器を持っていなかった。
ケイとてここが守護都市では無いとわかっているから武器に手をかけたのだし、守護都市であればワンパンチでカインを沈めて、倒れたところに唾を吐きかけてこの場を去っている。
ケイが大剣に手をかけたのは単純で、こうすればビビッて謝ると思ったのだ。
しかしカインが謝らずむしろ気迫を込めて睨み返してきて、ちょっと引っ込みがつかなくなってしまった。
そして同時に、はっきりと格上のケイに対し退くところのないカインの胆力を見て、初対面の情けない印象を見直しもした。
見直しもしたが、しかしケイは困ってもいた。
大剣にかけた手の持っていき場が無い。
ここで手を下すのは負けた気がするので嫌だったし、何もしていない年下の子を斬りつけるのはもっと嫌だった。
ケイは意を決して大剣を握る手に力を込めた。
カインの首筋ぎりぎりで止めて、後はなんか適当にそれっぽい事を言ってこの場を去ろうそうしようと思った。
力加減に難がある事はとうに忘れている。
ケイは色んな意味で英雄の跡を継げる少女だった。
しかしケイが大剣を抜くより早く、ケイにその気配を悟らせることなく、その手を押しとどめる別の誰かの手があった。
その白く細い指の持ち主は、美貌の口元をわずかにゆがめ、宝石のような目を細め、静かにケイを見つめた。
「市中で何をやっているのですか、お嬢様」
メイドのマリアだった。
「マ、マリア――これは、その」
悪戯が見つかった子供のように慌てるケイを、マリアは静かに見つめ続ける。
「相も変わらずふらふらと、これからあなたは国を守る礎となるのですよ。
正直そんな難儀な立場にわざわざおなりあそばせたお嬢様のパーリーな心中は理解できませんが、このマリアはメイドの中のメイド。
いわゆるメイドオブメイドでございますれば、主人たるお嬢様がいかに狂人でもしっかりとお仕えし、またその意をくんで与えられる職責に見合う堅苦しい人格者に調きょ――もとい、教育してさしあげます。
さあ涙し、感謝してくださいませ、お嬢様」
「するか変態っ!!」
まあ心外ですと、目を大きく開けて驚くマリアだったが、気を取り直して再び口を開く。
「しかし、いただけませんね。
本当に、何をなさろうとしていたのですか?」
口調は変わらず、しかし視線からは冗談の色を消して、マリアは尋ねた。
そしてその冷たい視線はカインにも向けられる。
「こんな性獣に育てられたケダモノの子に何を言われたかは知りませんが、それは剣を抜くほどの事ですか?」
「あ、いや……それは、ここは守護都市じゃあないから……」
「同じです。どこであろうと、戦士であるならば剣は誇りです。誇りなく欲によって振るわれる剣はケダモノの牙。
口を酸っぱくして体に教え込んだはずですが?」
マリアの目が妖しく光る。口を酸っぱくと言いながらも体に教え込んだと言うあたり、ケイがどのように教育されてきたかが良く分かる発言だった。
ケイは背中に嫌な汗をかき口元を引きつらせながらも即座に謝罪の言葉を口にする。しなければ、よりまずいことになるのを身をもって知っていた。
「わかった、悪かった。私もちょっと短気だった。次からは気を付ける」
「……今は、それで良しとしておきましょうか。それで少年、何やら先ほど面白い事を言っていましたね。
親父の――ジオレインの跡を継ぐのはお嬢様では無いと」
その声にカインは息をのむ。
ケイは聞いていたのかと目を見開き、その瞳に入るようにマリアは一冊の雑誌を取り出した。
それはケイが立ち読みしていた雑誌で、カインと揉めている内にこっそりと会計を済ませていたものだった。
マリアはゆっくりと、ケイに見せつけるように〈年上の彼に愛されるコーデ特集〉の見出しを、スーーっと指でなぞった。
聞いていたというか、カインが来るよりずっと前からケイを覗き見ていたマリアだった。
「ああ、言ったぜ。親父の跡を継ぐのはセイジェンド・ブレイドホームだ。お前らじゃねぇ」
「……ほぅ」
羞恥で顔を真っ赤にしているケイをよそに、カインははっきりとそう答えた。
ケイと同じようにマリアもまた、カインのその態度に評価を上向きに修正させた。
しかし同時にカインの実力と才能が、ジオやケイのような特別な化け物には遠く及ばないと見抜いてもいた。
「夢を見るのは、まあ良いでしょう。それもまた若さですから。
ですがその大言、口にしたからには覚悟というものがおありなのでしょう?」
「あ゛? なんだよそれ」
礼儀正しいという噂と違い、やはりケダモノの子はケダモノかと、カインの態度にマリアはむしろ納得して、ケイを見る。
未だ悶えている少女の背を叩き、言い返してやりなさいと檄を飛ばした。
「んんっ!! そんなに言うなら――そう。来期の皇剣武闘祭には必ず出てきなさい。四年後までは名前を覚えておいてあげる、セイジェンド」
「はっ!! 上等だそん時はほえ面かかせてやる!」
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「なーんで次兄さんは人の名前で勝手に喧嘩を売るかなー?」
カインが啖呵を切り、ケイとマリアが去った後で現れたセージは開口一番そう言った。
それちょっと洒落にならないよねーと、笑いながらも結構本気で怒っていた。
セージから漏れる指向性の魔力がカインに結構な圧力を与えていた。
「い、いや、……ははは。わりぃわりぃ。だってむかつくじゃんよ、あいつら。お前だって親父の名前をあいつらが使うのは面白くないだろ」
「全然。悪い事に使ってる訳じゃないし、僕は親父にはなれないしね。たぶん親父だってそんなことは望んでないよ。
それに上辺の肩書なんて、使いたい人が使えばいいんだよ」
「……なんだよ、それ」
カインがぼやいた。
本当の意味で親父の跡を継げるセージがそんなことを言うのは、ひどい裏切りのように感じた。
しばらくの間そんなカインを見つめて、セージは意を決したように口を開く。
「私は親父のように突き抜けた馬鹿にはなれないんだよ。どうしたって周囲を気にしてしまうから。
ああ、変な勘違いはしないでカイン。
私も親父のことは好ましく思っているし、おそらく誰よりも尊敬している。
それでも私は、ジオのようにはなれないんだ」
セージのいつも以上に大人びた雰囲気と声音に、カインは圧倒されるものを感じる。
ただセージの言葉で、先ほどまでの悪い感情は綺麗に消えていた。セージが親父を尊敬していると聞けて、ただ純粋に嬉しかった。
「そっか」
「うん、まあそう言うもんだよ」
セージはいつもの様子に戻って、カインのつぶやきに相槌を打った。
そう言えばと、カインは思った。ジオもアベルも、何となく似たような感じの事を言っていたような気がしないでもないと。みんな同じなんだなーと、そう思った。
「そうだな……、そういやあお前、なんでこんな所にいんだよ?」
「えっ? ああ、なんでだろう?」
聞かれても自分でもよくわかっていないので、セージは頭をひねるばかりだった。
「まあうん、次兄さんが財布持ってるのが見えたから、かなぁ……」
「なんだよ、それ。俺が盗みでもやったと思ったんじぇねぇだろうな」
けけけと笑って冗談を飛ばしたカインから、セージは高速で目を逸らした。
「――おい」
「……いや、なんていうか、つい」
はっはっはと、笑ってごまかすセージだった。
カインはこの野郎と怒るが、ごめんごめんと平謝りするセージに簡単に毒気を抜かれてしまう。
「俺がそんな事する訳ないだろ――その、俺はお前のアニキだぞ!」
やや顔を赤くしながら、カインは胸を張った。
そんな彼にセージのえ? それ何か関係あるの? という視線が突き刺さった。
ちなみにセージに悪意は欠片も無いのだが、カインは顔の赤みの色合いを超強くさせた。
「――くっ! 俺が盗むのはお前の金だけだ」
「なんだとこの野郎!!」
セージは反射的にパンチした。咄嗟に出たその拳は的確にカインの顎を捉え、脳を縦に揺さぶる。
魔力強化こそしてなかったものの、その完璧な一撃はカインを簡単にノックアウトした。
地べたに倒れ伏したカインを見て、つい手が出てしまったセージはハッとした。
「あ、やっちった」
セイジェンド・ブレイドホームは、ジオレイン・ベルーガーの息子である。
◆◆◆◆◆◆
「それで、結局仕事は普通につづけるんだ」
やっぱり無駄になったよねーと、兄さんが言った。
次兄さんが起きるのを待ってから一緒に帰って、兄さんと親父にギルドの仕事を続けると言ったらこの反応ですよ。
「ちょっと釈然としないけど……まあ、ね」
落ち着いて考えると、次兄さんの発言はまあそういう事だろうから、ちょっと背筋伸ばした生き方と言うか、上辺ぐらいは立派な真人間やっておいた方がいいような気がいたしました。
…………馬鹿げた話かもしれないけど、変な夢やらおかしな電波やら、最近ちょっとおかしなものに出くわして、それがどうもあのデス子に関わっていそうで気味が悪いと感じている。
魔力を鍛えればそれだけで良いと言ったデス子の言葉を、私は正直なところ信じていない。
ただ手の届かないところにいる相手の事で真剣に悩んでも胃が痛くなるだけだから、今まではなるべく考えないようにしていた。
デス子は私の心を読み取っていたのだ。
私がデス子の言葉を信じていないことも見通していただろう。
その上で何も言わなかったのだから、魔力を鍛える以外で私がデス子の意図しない方向に生きていっても私に落ち度はない。
だが責任が無かったとしても、それで誰かが死んでしまうのならば意味などない。
気味悪く感じる根拠はもう一つある。それは魔力感知だ。
純粋な性能としては親父すらも超え、探査系統の魔法すら超えた精度を持つ魔力感知は、確かに魔力を鍛えるうえで役に立ってきた。
だがそれは明らかに必要性能を大きく超えた力だ。
そしてこの力は、この一年間の戦いの場において大きく私を助けてきた。
もしもの話だが、弟が死んだのは私がデス子の望んだ成長に達していなかったからと言う可能性も考えられる。
また次兄さんが死ぬような光景を見たのは、あるいは見せられたのは、私がギルドでの仕事を躊躇するそぶりを見せたからとも。
「僕はもっと強く、立派な人間になった方がよさそうだから」
弟が死んだときのような思いは、二度と御免だ。
だから正直ちょっと面倒臭いけど、平和な生き方はずっと先の事になりそうだ。