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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
2章 お金は大事
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48話 お家に帰るまでがお出かけです

 




 見ごたえのある試合だった。

 正直なところ番狂わせが起きたという事で、三位決定戦の方が内容的にはレベルが高かったと思う。

 ただやはり決勝戦は戦っている二人の意気込みが違うというか、なんというか。技術以上に戦う二人の必死さに感動してしまった。

 一進一退の手に汗握る緊迫した攻め合い。

 お互いに延長戦は考えていないようで、必死に相手の首を殺し(とり)にいっていた。その時が来たら姉さんと妹の目をふさごうと備えていた私としては、とてもハラハラしていた。


 まあその心配は杞憂で、最後は少女の胴を薙ぐ一撃に、年上のお兄さんの方は魔力を集中させ防護壁を作るもそれまでの流れで対応がわずかに遅れ、防ぎきれず少女の大剣に突破された。

 しかし威力自体は減衰して真っ二つになるのは避けた。まあ斬られなかったというだけで内臓は破裂していそうだけど(会場でじかに見ていれば魔力感知で分かっただろうけど、送られてくる映像に魔力感知の向けても魔法の構成ぐらいしかわからない)。

 地面を何度もバウンドして転がるお兄さんに少女がトドメとばかりに突っ込んで、横たわるお兄さんの首めがけギロチンのように大剣を振り下ろしたが、それは審判が身を挺して止めて試合終了となった。

 ファインプレーを見せてくれた審判の人は、上級の実力者っぽい。



 決勝が終わったことで観客は皆出ていく。出入り口が混雑しているので、小さな子供の私たちははぐれるリスクを避けるためにも、しばらく席で待つことにした。

 すると妹が私の服の裾を引っ張った。


「どうしたの?」

「あたしも、あたしもどうじょうにいく」


 えーと、道場で親父の指導を受けたいって事?


「妹は、強くなりたいの?」

「うん。あたしもおうけんになる!」


 妹の目がキラキラしている。

 皇剣は国のトップエイトだ。

 魔法があって喧嘩の強さがはっきりとした社会的ステータスになるこの国で、そんな上位八人に入るのは相当難しいし多分無理だと思うけど……、まあそんな無神経なこと言うのは間違ってるよね。


「そっか。じゃあ親父に頼んでみようか」

「おやじー!!」


 何が楽しいのか妹がそう言って叫ぶ。周囲も決勝の余韻から歓談の輪が騒がしく広がっているので、咎められることも無い。

 鼻息荒く興奮している妹をしり目に、兄さんが声をかけてくる。


「いいの? セージはセルビアにもっと女の子らしくして欲しいんだと思っていたけど」

「そう思わなくもないけど……、やりたいことはやらせてあげたいし、それに大人になった時に自分の身を守れるようになっておいた方がいいと思うから」


 守護都市は治安が悪い。その中で女子供に暴行を加えるようなのは二種類だ。

 一つは上級の一部にいるような血に飢えている連中。

 こいつらは女子供に限らずいつでもどこでも誰とだって喧嘩上等な戦闘狂だが、これは夜中でもなければほぼ出くわすことは無い。ちなみに今は外縁都市で結界防衛に当たっているのでそもそも守護都市にはいません。


 一つは裏路地などにいる浮浪者。

 これはさらに二つに分かれ、片方は親を亡くして盗む奪うの犯罪が生きる術になった子供たち。

 もう片方は夢見て守護都市に来たのは良いけど、実力が足りてなくてギルドの仕事が満足にできず、でも守護都市を降りる踏ん切りもつかずに乞食のような生活をしている大人たち。


 前者はもし出くわしたとしても目を合わせなければやり過ごせるが、後者は弱そうな相手に容赦がなく、特に大人の方はかつて私のバージン(BLな意味)を狙った事もある無節操な変態なので、何かの拍子に標的にされかねない。


「……そっか。たしかに、そうかもね」


 兄さんがそう相槌をうった。


「ねえ、二人とも。そろそろ落ち着いてきたみたいだし、帰りましょう。もう遅くなってきたし、ご飯の準備しないと」


 姉さんに言われて周囲を確認すると、確かに人は大分はけてきた。


「そうだね。でもせっかくだからご飯は外で食べよう。親父たちは後夜祭で食べてくるし、僕たちもちょっとぐらい贅沢しとかないとね」


 私がそう言うと姉さんは頬に手を当てて、いいのかななんて口に出して迷うそぶりを見せるが、顔にはわかりやすく、行きたいと出ていた。


「いつも姉さんには頑張ってもらってるから、たまには姉さんの食べたいものをご馳走するよ。何が食べたい?」

「おにくー! バーベキュー!」

「こら、セルビア。マギーに決めさせないと……ところでマギー、近くにおいしいラーメン店があるらしいんだけど――冗談だよ、セージ」

「あははっ。

 ……えっとね、じゃあシチューが食べたいかな。白い色のシチューじゃなくて、もっと黒っぽくて、名前が分からないんだけど」


 クリームシチューじゃなくて、ビーフシチューって事かな。


「ホワイトソースじゃなくて、デミグラスソースのシチューってことだよね」

「えっと、たぶんそれ。好きだったんだけど、作り方が分からなかったから、諦めてたの」


 もしかして姉さんのお母さんの、得意料理だったのかな。

 もっと早く言ってくれれば、私が作ってあげられたんだけど。カレーやシチューのルーは売ってなかったけど、デミグラスソースは缶で売っているのを見かけたことがあるし、トマトケチャップや赤ワインはもっと簡単に手に入る。でもまあそれはまた今度か。


「うん、わかった。シチューの美味しそうなお店を探してくるから、三人ともここでちょっと待ってて」


 お店を探すだけなら私一人の方が身軽で早いので、そう言って講堂から出ていった。

 みんなでお店探ししても楽しそうだけど、あんまり時間をかけると親父たちが帰ってきてしまう。

 一応、書置きは残してあるので心配をかけることは無いだろうけど、なるべく先に帰っておいた方がいいだろう。



 ◆◆◆◆◆◆



「すごかったな、親父」

「ああ、そうだな」

「最後なんてバコーンて飛んでいって、転がったぞ」

「ふっ、そうだな」

「聞いてんのかよ親父!」

「ああ、聞いてるぞ」


 皇剣武闘祭に来てからも、折に触れてふさぎ込んだ様子を見せていたカインだったが、最終日の試合はおかしな迷いや苛立ちを吹き飛ばせるほどに痛快だったらしく、こうしていつも以上の元気を取り戻してジオの周りではしゃいでいた。


 やはり子供はこうして無邪気なのがいいと、ジオは思う。

 多才なセージよりもカインが好ましく感じる点をあげるとするならば、この快活で自由なところだろう。

 セージはセージで自由人なのだが、あいつのアレは可愛くないので違うと、そう思うジオだった。

 ちなみにこの国で最も自由に生きていると評されているのは、他ならぬ竜殺しの英雄様である。


「元気が出たのは良いけど、もう少し静かにね」


 カインに対し、アーレイが苦笑交じりに注意した。

 三人がいるのは宿泊しているホテルのメインホールだ。チェックアウトはもう済ませ、後夜祭に参加している。着替えなどの荷物はホテルに預けており、帰る際に受け取る手はずになっている。

 注意を受けたカインは背筋を伸ばして固くなった。

 頭の中ではトラウマがフラッシュバックするようにアーレイの〈礼儀作法・テーブルマナー編〉が再生され始めたが、それは他ならぬアーレイが肩を叩いて打ち消した。


「マナーなんてもう気にしなくていいから、楽しむといいよ。美味しいご飯がたくさんあるんだから」


 屈託のないアーレイの言葉に、カインは素直にうなずいた。


「くくっ。なんだ、いいのか?」

「うん。セージ君には悪いけど、君が話の通じる相手だと理解されるには、もう少し時間を置いた方がよさそうだからね」


 茶化すようなジオの言葉に、アーレイは真面目な顔でそう答えた。ジオはいぶかしげに見つめるが、それ以上の返事は無く説明する気が無いのだと伝わった。

 そしてそれはジオとその家族を想ってのことなのだと何となく伝わってきて、ジオは追及する気を無くした。

 息子にしょっちゅう馬鹿だと言われるジオにはわからないことや知らないことが多い。

 これもまあその一つだろうと、そう思ったのだ。



 ******



 この後夜祭がジオと同じ場を過ごせる最後の機会という事で、勇気を振り絞ってくる参加者が十数名いた。

 たいがいは一睨みで撃沈したが、カインと何度か話したことのある子供の親などはその例から外れ、二、三の少ない言葉を交わすことができた。

 彼らの中でも問題のなさそうな人物には、アーレイがそれとなく会話に合いの手を入れたりもした。


 後夜祭は深夜まで行われるが、ジオたちはそろそろ帰る時間という事で席をはずそうと、ホテルのスタッフに声をかけた。

 了承の言葉とともにすぐに荷物は用意され、さらに記念品という事で紙袋を貰った。

 ただその後、荷物と紙袋を持ってきたスタッフに、意外な事をお願いされた。


「あ、握手を、してもらえませんか」

「……? ああ、かまわんぞ」


 特に何も考えず、ジオはそれに応えてスタッフと握手をした。

 そのスタッフはいたく感動したが、ジオは気にする事も無くホールを後にしようとしたのだ。

 しかしその一人を皮切りに続々と私も、私もと握手をせがむ人波に道を阻まれてしまった。


 彼らは他のスタッフであったし、後夜祭の参加者でもあったし、後夜祭には出られなくともホテルに泊まっていた客でもあった。

 せがまれるままに百人以上と握手を交わしていくジオは、何が嬉しいのかと頭を捻りつつもまあ喜んでいるようだからいいかと、思考放棄した。


 アーレイはそんな様子を見ながら呟く。


「他人が喜ぶのを嬉しいとは感じられるのに……」


 なんでこんなにも愛想が悪いのかなと。

 きっと英雄なんて呼ばれているのに、子供に握手をせがまれたことも無いんだろうねと、想像する。


 英雄であるジオには大きな政治的価値がある。彼を嫌うものは多いが、それよりもはるかに多くの人々が彼に敬意を抱いているからだ。


 ジオを信奉する実力者や戦士の道を志す若者は多い。

 武門の名家が彼を引き込めばその看板の価値は一気に跳ね上がるだろう。

 ジオに敬意を向けるものは一般の都市にも多い。

 率先して危地へと飛び込んでいたジオは八年前の竜の襲撃のみならず、多くの都市防衛戦で目覚ましい活躍をしていた。

 彼を抱き込めば、多くの民衆からの支持につながるだろう。

 だがジオは権力者のどんな誘いにも靡かず、どんな脅しにも屈せず、法の名のもと騎士団の剣が振るわれても自身の力だけで跳ね除けてきた。


 大衆に愛され、しかし決して権力者になびかず、そして道理が通じない。

 上流階級の権力者にとって、ジオとは触れてはいけない怪物だった。

 そんな評価が、今日からは変わるかもしれない。

 あるいはセージという異才の子供を拾った日から、もしくはもっと前に幼い少女を助けた日から、変わっていったのかもしれない。


 それは良い事だと、アーレイは思う。

 かつてのジオなら、アーレイは今ほどに気安く接することはできなかっただろうから。

 そして同時に、その変化を危ういとも思う。

 かつてのジオにはアシュレイが殺されその家族が守護都市を去ったことで、守るものが無かった。だが今のジオには、子供たちがいる。


 欲に駆られた人間たちの醜さを、アーレイは良く知っている。

 それこそ一時期、人間を醜い劣等種と思いこむぐらいには知っている。

 ジオの悪評を耳にしたのであろうセージはそれを何とかしたいと思っているのだろうし、そのためにジオに愛想の一つも覚えさせるというのはアーレイも賛成だ。

 しかしそれにはもう少し時間を置くべきではないかと、不安になってしまうのだった。



 ******



 英雄ジオレインの即席握手会は三十分ほどで打ち切られた。

 握手を求める人間がいなくなったのではなく、行列が行列を呼ぶように、英雄を一目見たい、一度でいいから触れてみたいという人々がひっきりなしにやって来て、収拾がつかなくなってしまったのだ。

 結果としてちょっとしたパニックが起きてしまったので、アーレイを中心にホテルの従業員たちが必死にジオと押し寄せてくる人波を切り離した。


「君はカイン君を連れて早く帰って!」


 アーレイの言葉からは、珍しく余裕の一切が消えていた。

 その言葉に従ってジオとカインはホテルを後にする。

 日はとっくに暮れており、月明かりと街灯が家路を照らしていた。

 夜間は守護都市と政庁都市をつなぐ大門は閉ざされているが、小さな昇降口から一応の出入りは出来る。

 騎士団やギルドで使う出入口で強面の見張りがいる事もあって一般の人は使わないが、ジオが利用を躊躇う理由にはならない。


「なんか、すごかったな」

「……ああ」


 寄ってくる人波はジオからすればみな鎧袖一触にできる相手だったが、それをしてはいけないという常識ぐらいは持ち合わせていた。


「でもやっぱり親父はスゲーんだな」

「そうか?」

「だってみんな親父のことソンケーしてたじゃん」


 カインに言われて、ジオは首をひねる。正直なところ集まってきた人波の発する熱意は恐ろしかったので、素直にうなずけなかった。

 カインが不満そうに何かを続けようとしたところで、その少女は現れた。


「お久しぶりです、ジオレイン・ベルーガー卿」


 現れたのは十四歳の少女。

 月明かりに映える金色の髪をなびかせ、豪奢なパンツルックの礼服に身を包み、強い意志を感じさせる瞳でジオを見据えていた。


「……誰だ?」


 ジオはことさらに不信感を抱いていた訳ではないが、その言葉に反応して少女の内から敵意にも近い感情が滲みだすのを察して、警戒心を抱いた。

 それとなく、カインを自らの後ろに隠す。


「見ていてくれたのでは、無いのですか?」


 言われている意味が分からずジオから応えは出ない。しかし沈黙の時間が続くほどに少女から発せられる感情は強くなっていく。

 先手を取るかと悩むジオの上着の裾を、カインがおずおずと引っ張った。


「親父、ケイだよ。ケイ・マージネル。優勝した」


 カインはそう囁いて、ケイの姿を盗み見る。

 闘技場で見たときもそう思っていたが、月明かりの中で立つケイは、とても美しかった。

 顔やスタイルや、ましてや服装だけではなく、立っているその姿の全てに力強い魔力(かがやき)を感じた。


「……ああ、そうか。すまんな。決勝は見てたが、顔は覚えてなかった」


 顔を赤らめながらもケイから目を離せなくなっているカインをしり目に、ジオは得心が言ったとばかりに頷いた。


「……私は、久しぶりと言ったんだけど?」


 対するケイは静かに問いかけたが、その口調には隠し切れなかった棘が混じっていた。

 この国で最も治安のよい政庁都市で、今夜は四年に一度のお祭りのクライマックスともいえる夜。喧騒は夜通し続き、人通りが絶えることは無い。


 ただし何事にも例外というものはあり、三人がいる守護都市に続く大門前の大通りがそれだった。


 敵意を増していくケイに対し、ジオもはっきりと臨戦の構えを見せる。

 何故という疑念は、ジオの中から消えている。考えてもわからないことはわからない。

 気にくわないと殴りかかってくるなら、相手がどこの誰であれ殴り返すのがジオの流儀だ。


 マージネル家の天才にして最年少の皇剣ケイと、竜殺しの英雄にして天衣無縫の魔人ジオ。

 人によっては親を質に入れてでも見たいと願う新旧皇剣武闘祭優勝者の対決が今、始まろうと――


「祝賀会を抜け出して、何をしているのですか、お嬢様」


 ――しなかった。


「マリア。どうしてここに?」


 現れた第三者――メイド服に身を包んだ妙齢の女性――に、ケイが質問で返した。


「……どうして? どうしてでしょうね。

 もしかしたら私がケイお嬢様の専属メイドで、その行動スケジュールを管理監督する義務があって、明日の精霊様とのお目通りの前に身を清めねばならないお嬢様が雲隠れをした事に、責を問われているからではないでしょうか」

「ご、ごめんなさい」

「いえいえ、私はしがない一介のメイドでございますれば、そのような過分なお言葉はよろしゅうございます。

 しかしながらもしも、万に一つもあり得ないことでございますがもしも、お嬢様のその筋肉質なお脳みそ様に反省という単語が入っておりましたなら、どうぞ御当主様に事の経緯を仔細にご報告いただきとうございます。

 ついでにきついお叱りを賜ってくださいましやがれば、卑小な私といたしましても幸いにございます」


 肩を震わせ小さくなるケイと、それを冷たい目で見降ろすマリアはどちらが主人かまるで分らない有様だった。

 呆気にとられるカインだったが、ジオはなつかしそうに目を細めた。


「変な恰好(コスプレ)をしているが、変わってはいないようだな」

「あらいやだ話しかけないでくれませんか妊娠してしまいますこの強姦魔」


 冷たい目は変わらず、マリアはワンブレスでそう言い切った。


「……本当に変わっていないな。だが今は息子がいる。変な事を言うのは止めてくれ」


 言われたマリアは、目を瞬かせて感情を表した。


「ベルーガー卿は変わりましたね。生意気に服を着ていますし」

「……」

「おっと、上等な服と言う意味です。変な意味ではありませんよいやらしい」


 ジオは大きくため息を吐くこととなった。


「さてお嬢様、このような性獣と話していてはそれだけで貰い手のない純潔が汚されてしまいます。お早く屋敷にお戻りになって、その身を隅々まで清めましょう」

「待てマリア、私は彼に話が――」

「ありませんよ、話なんて。ベルーガー卿には常識も記憶力も節操も甲斐性も無いんですから。お嬢様がお話になる事なんて、何もありません」


 そう言ってマリアは目線を鋭く冷たいものに戻して、ジオを一瞥した。


「どれだけの誇りや思い出を踏みにじっても、これは何も感じないんですよ。殺す殺されるしか興味のない不感症の変態ですよ」

「ちょっとおばさん、親父を馬鹿にすんなよ」

「あ゛!?」


 カインは即座にジオの後ろに隠れた。


「……ふん。そう言えば、皇剣武闘祭を見に来ていたみたいですね。連れてきた息子がその子ですか」

「それがどうした」


 今回、ジオが皇剣武闘祭を観戦するという事で、何かよからぬ目的があるのではないかと勘繰った者も多い。

 そうして調べて分かったことは、ベテランのギルドメンバーが面倒を見た子供の昇級祝いに、観戦チケットを贈ったという事だった。


 マリアはそこで改めてしげしげとカインの姿をその目に入れる。

 脳裏によぎるのはあのジオが子供を拾って育て、その中の一人を中級のギルドメンバーに推薦したという、マージネル家が得た情報。

 ギルドや管制を経て得た情報ではその子供は六歳だか十六歳だという話だったが、目の前のカインは十歳前後に見える。聞いた話を足して二で割ったぐらいの歳だった。


「……マリア、その子がどうかしたの」


 ケイに尋ねられ、マリアはあれの弟子ですよと言葉少なく答えた。

 皇剣という栄誉を手に入れたケイだが、マージネル家内での序列に関してはそう高くは無い。

 現当主の孫娘であり間に一世代またいでいるのもそうだが、頭脳面で優れた兄弟も多く戦闘技術を磨くことに専念してきたケイは、政治的な情報を聞かされてないことも多かった。

 ただそれでもジオに弟子がいて、その一人が子供ながらに中級に推薦されたという話はおぼろげながらに聞いていた。


「ふぅん……」


 ケイの目が、カインを捉える。カインはびくりと背を震わせた。


「さあ帰りましょう、お嬢様。お家の方は今大騒ぎになっていますよ」

「ええ、そうね」


 勝ち誇ったように胸を張って、十四歳と言う年齢にふさわしいつつましやかな胸を張って、ケイはマリアを連れてその場から去っていった。


「……むなしくありませんか、お嬢様」


 腕を組み、豊満な一部分を強調しながらマリアは憐みのこもった声でそう言った。


「何の話っ!?」


 見方によっては楽しそうに話しながら、二人は去っていった。一方で、残されたジオは、


「なんだったんだ、あいつらは……」


 珍しく呆気にとられていた。

 そしてカインは――ケイに品定めするような目で見られ、そしてその目の色が嘲るものに変わったのを見たカインは――強く拳を握りこんで、俯いていた。





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