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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
8章 そうだ。共和国に行こう
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420話 いつまでお金に振り回されるんだろう

 




 12歳になりまして、働けど働けど減らない借金に苦しめられる日々が続いております。

 なんだよ日本円換算1000億円って。

 調べてみたら国家予算のおおよそ十分の一だったよふざけんな。


 理由はね、理解できるのよ。

 私はどこにでもいる善良な常識人だけど、親父が色々と馬鹿だったり英雄だったりするせいで、周囲に少しばかりちょっとだけ人の話を聞かず暴走しがちなところがあると誤解されている。

 私は平和を愛する文化人だというのにおかしな話だが、そんな心配をさせてしまっていることは、まあ理解している。


 ともあれそんな誤解を受けている私が皇翼という権威を得たもので、周囲からは精霊様の威光を笠に好き放題するんじゃないかと危惧されている。

 そんな私はこれまで親父と違って踏み倒したりせず、借金を地道に返し続けてきた。


 これまでの経緯から危ぶまれたのと同じく、その積み重ねは正しく評価されているので、お金を貸しておけば忖度してもらえるとお偉いさんに信じて貰えているのだ。

 そんな訳で母とシエスタさんが共謀して偉い人たちにあえて大きな借りを作ったのだ。


 正直、すごく迷惑。

 いや、わかるのよ。

 黒字経営を続けてる企業が意図的に無借金経営をせず、有事の際の融資が通りやすくなるようにわざと銀行から借り入れをしてる様なものだって。

 借金をすることで交流が生まれるし、信用を得ていくことが出来る。利息はそのための経費だって。

 でもね、1000億円(※日本円換算)の利息なんて払えないんだよ。どう考えても人付き合いを広げる経費の範疇を超えているんだよ。いや、ご温情で超低金利にしてもらえてるけど、それでも毎年1億円(※日本円換算)以上取られるんだよ。


 私は皇翼となった事で疑似的な特級になったのだが、その事で給料が上がったりはしていない。いや、年俸は貰っているのだが、ぶっちゃけギルドの稼ぎで言えば、一日分か二日分しかない。皇剣もそうだが、聖職であり多くの特権を持つが給金だけは少なめなのだ。

 いや、これよりも低い年収の職種も結構あるから、ギルドメンバーの給料がすごい高いんだけどね。


 まあそれはそれとして私の給料はほとんど変わっていない。

 一応ギルドランクも上級中位から上位へと繰り上がった。しかし中級上位から上級下位でははっきり変化のあったお給金だが、上級の中ではそこまで変化はないのだ。


 全く無い訳では無いのだが、それは上級上位に相応しい危険で面倒な仕事をしたときに限られるという条件が付く。具体的には、荒野の奥で上級相当の魔物を狩るとかだ。


 日帰りできないからこれまで避けてきたのだが、家の事も任せられるようになったし妹も少しは落ち着いたので、最近では我がままを言わずに泊りのお仕事を始めましたよ。

 おかげで年収は一応増えました。増えましたが、給料全部をつぎ込んでも借金完済ははるか遠く数百年後の未来です。


 ただそもそもこの借金の全てを私の労働で返していくわけではない。高給取りとは言え労働者に過ぎない戦士が、国家予算の十分の一を稼げるはずもないしね。

 私の借金とは言ったが、正確には私が代表者を務める事業所の借金で、事業収入である程度は回収できる手はずになっている。

 いや、事業を立ち上げた覚えも代表者になった覚えもないのだが、気が付けば就任していたのだ。


 この事業所は守護都市に新しい学校と孤児院の設立と運営を目的として作られたもので、学校では小学校から高校までの基礎学習と職業別訓練を教える予定だ。

 ぶっちゃけなんで私が借金をしてまでそんなものを作らねばならないのだと思わないでもないが、これには公金も投じられるし、運営には多額の補助金も交付される。

 とはいえ福祉施設や学校の運営なんてどう考えても赤字になるだろうから、これの収益で借金を返すのは無理だろう。

 無理だと思うのだが、母とシエスタさんは半泣きの私に返せると自信満々に請け負った。


 どうやらスポンサーを募る形で毎年多額の寄付を募るらしい。

 それなら最初から借金ではなく寄付にしてくれと思うが、やはり前述のとおり私には借金をさせておきたかったらしいし、寄付もまたしがらみを増やす手管なのだそうだ。

 加えてその縁で卒業生たちを他の都市に移住させる予定なのだとか。


 まあギルドや軍がやっているようなことを、戦闘要員ではなく一般の労働者枠でやろうという事だろう。

 今までも商会を通じて教育を施した浮浪児たちで同じことをやっていたのだが、今後はよりしっかりと教育した子供たちを送り出しますという事で約束を取り交わした形だ。

 ちなみに人身売買とか疑われると困るので正式な書面は交わしていない。


 また未来の学生とは別に、ブレイドホーム家の道場の卒業生もすぐに守護都市ギルドで働くわけにはいかない。

 次兄さんや妹が優秀すぎて誤解されがちだが、ギルドに登録する15歳かそこらでは下級下位が普通で、才能のある子でも下級中位ぐらいだ。

 道場生のマックスは15歳で下級上位まで魔力量を鍛えていたが、それは彼がごく一部の天才であるだけだ。そして次兄さんと妹はその天才すら超えた超天才なだけだ。


 そもそも世間一般の常識で言えば、中級に上がれるのは一握りだけで、道場の卒業生が全員そうなれる保証はない。まずは経験を積む意味でも外縁都市のハンターとして経験を積み、自分の才能と向き合う事が必要だろう。

 この子たちは皇剣武闘祭新人戦や本戦での活躍が功を奏して、事業をする前から引き取りたいという申し出がたくさん来ていた。

 事業化してからは寄付をして下さった都市を優先しますという形になっている。


 当然の事ではあるが学生にしても道場生にしても買い叩かれるような条件ではない。

 むしろ普通に就職するよりも好待遇なブレイドホーム家に相応しい(※交渉担当母ルヴィア談)契約を取り付けている。

 加えて私たちがやるのは斡旋までなので、当の本人が嫌がれば強制はしない。

 なのでこれは人身売買ではなく真っ当な人材紹介業なのだ


 ちなみに先ほど例に出したマックスは奨学金の返済もあるので守護都市の軍に入る予定だ。そんな訳でうちの道場に通いつつ士官学校に進学している。

 彼、および前回の皇剣武闘祭で大量に入ってきた道場生は守護都市で働いて、経験と実績を積んだ後にそれに相応しい就職先を斡旋する。

 もっともこれはまだ先の話になるだろう。



 私と借金の話はさて置いて、家族の話をしよう。



 家出というか武者修行というか、荒野で暴れてからの親父は考え込むことが多くなった。

 馬鹿なんだから考え込んでも仕方ないと言ってみたのだが、上の空で殴ってくる事も無い。

 まあそれだけ魔女様にやられたのが堪えたのだろう。

 最強と謳われる親父の過去の武勇伝は決して常勝無敗では無く、むしろ私と同じように何度も何度も苦い敗北を繰り返しながら這い上がってきたものだ。

 だがそれでも、本当にどうしようもない相手に良いようにやられた経験など無いのだろう。


 その魔女様だが、おそらく彼女の願いはデス子と同一ではなくとも共通する部分が多い。だから未来はそれほど暗くはないと思っている。

 もっとも親父たちがそんな風に楽観はできないのも当然の事だ。

 そんな親父に何を言っても、魔女様をどうにかする術が見つからなければ気休めにしかない。

 今の私に出来るのはそんな気休めだけで、精々普段通りの日常を過ごさせるくらいだろう。



 さてお次は19歳となった兄さんだが、かねてからの宣言通りこの2年で大学卒業の必須単位を取っていた。

 ただ欲しい資格や受けておきたい授業が残っているとの事で、半年ほど卒業を遅らせる運びとなった。もしかしたら一年遅らせるかもしれないと、済まなさそうにそう言っていた。

 もっともそれは姉さんを気遣った言い訳である。



 姉さんは18歳となり、受験生となった。

 一応、兄さんは一人暮らしをさせても問題なさそうだとは言ったものの、姉さんはよほど問題を起こさなければ進学できる内部進学ではなく、外部の大学への受験を検討していた。

 エーテリア女子第一高等学園は女子第一大学の付属高校だが、高校の時も高額だった学費は大学に行くとさらに跳ね上がる。

 ぶっちゃけ借金の額からすれば微々たるものだし、借金した分は資産になるので生活苦でもない。なので金銭的な理由で大学進学を諦める必要はないのだが、相変わらず姉さんは色々と気にしているようだ。


 そんな姉さんを気遣って、進学先が見つかって落ち着くまでは同居を続けようと兄さんは考えていた。



 次兄さんは産業都市の修行から戻っていない。ただ共和国には興味があるのでそれまでには戻ってくると言っていた。

 ちなみにパーティーから無断で長期離脱し、私も特にフォローしなかったので産業都市に接続した際はミケルさんとレイニアさんからガチ目に怒られていた。



 妹はブラコンを悪い方向に拗らせている感があったのだが、去年ぐらいからは割と安定してきた。

 ただオリジナルな必殺技で殺戮工程(ビクトリーロード)を覚えたと言ったので、ブラコンは厨二病に変化しただけかもしれない。

 良かったねと褒めてあげたら殴ってきたし。

 兄離れしてきたのは良い事なのだが、反抗期にはならないで欲しいなぁ。



 母は保育士さんと一緒に小さい子供たちの面倒を見ながら、割と楽しそうに日々を暮らしている。


 最初は私が母と呼ぶことで妹をはじめとした子供たちに悪い影響があるかと思ったが、私たちの親子関係が当たり前の物とは違う事もあって特に騒動の種にはならなかった。

 私はあんまり母に甘えないし、母も目に見えて私を贔屓してくる事は無いからね。

 母は配慮力が高いんだよ。


 ただそんな母はたまに私と同じ年頃の女の子を見て、悲しそうな顔をしている。

 たぶんだけどそれは、エメラを思い出しているからだろう。

 エメラにはその気は無かったのだろうが、私を捨てた後の母にとって心の支えになっていたらしい。

 そんなエメラは、生家であるエルシール家を失っている。オルロウの悪事とそれを見逃していたことが原因だが、私と母が処断のきっかけとなったことは間違いない。


 エメラ本人は大した罰を受けていないとはいえ、財産を没収されてはこれまで通りの生活は送れないし、エルシール家という家名も奪われ、政庁都市で監視付きの窮屈な生活を強いられていると聞く。

 そして彼女が懐いていた祖父――私にとっても血縁上の祖父で、母の父親でもある――ダイアンは処刑される事が決まっている。

 日取りこそ決まっていないが、それはそう先の話ではないだろう。


 守護都市は近いうちに共和国へと赴くことになる。

 もしかしたら、帰ってきたときには刑は執行されているかもしれない。

 母のケアという意味でも、彼が隠していたことを知るという意味でも、共和国に行く前に一度話をするべきだろう。



 あと家族の事とは関係ないのだが、アリスさんはギルドの受付嬢を首になった。

 詳しくは知らないし知る気もないんだけど、去年の騒動で身辺調査されたところテロリスト幇助の犯人とお泊りデートした事があったらしい。

 さすがにアリスさん自身はテロリストとは関わってないので刑事罰とかは無いんだけど、ギルドのトップが売国奴認定されたこともあって、少しでも怪しいのなら切り捨てる事にしたらしい。


 幸いと言って良いのかどうかわからないが、ギルドはいつぞやのマルク氏が逮捕されて以降、綱紀粛正が図られていたので首になる人は少なく済んだらしい。

 そんな中で数少ない懲戒解雇の一人となった事でアーレイさんがたいそうご立腹したし、本人もこれから母国に帰るのに無職とか恥ずかしすぎると泣いていた。


 ……まあ、なんだ。

 それを知った時はさすがに可哀想なので食事とお酒を奢って愚痴に付き合ったんだけど、酔ったふりをして体をべたべたといやらしく触ってきて面倒だったので酔い潰して娼館(女性向け)に放り込んでおいた。

 翌日いくら何でも扱いがひどすぎると怒られたけど、血色は良くなっていたのでリフレッシュにはなったと思う。

 というか娼館のお代(面倒な酔っ払いの介抱をお願いする関係でチップも弾んだので結構高かった)も奢ったのだから、そもそも怒られる謂れは無いと思うのよ。





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