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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
1章 お金が欲しい
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1話 人のネーミングセンスをからかったら、そんな感じの名前になっていた

 




 産まれてから、だいたい一年ぐらいの時間が経った。

 私の名前はセイジェンド。家族からはセージと呼ばれている。

 自分でもよくわからない事情で前世の記憶を持っている。

 なので、セイジェンドと呼ばれると少し恥ずかしい。そしてセージならそう気にはならないので、たいした問題はない。


 産まれてすぐの頃は、思考に霞がかかっているようで、一日のうちの一時間ぐらいしかまともに自我を発露していなかったと思う。

 これは何と言うかお酒の酔いが深い時に記憶が飛び飛びになるのに似ている。

 もちろんお酒なんて飲んでいないしハイになっているわけでもないのだが、記憶や思考が不連続にはなっていた。


 かろうじて母親らしき人の顔と今の家に引き取られる経緯ぐらいは、うすらぼんやりと何となく憶えていると言えなくもないような気がしていると思わなくもない。

 ……嘘だ。

 嘘を吐きました。

 本当は、よく覚えていない。


 もちろん生まれ変わる前にした不思議な話は覚えていて、魔力感知という技術はちゃんと私の中にあった。

 これはてっきり私の中にある魔力を感じる力だと思っていたのだが、周囲の魔力も感じ取れるものだった。

 これは実に便利で、後ろから妹が襲い掛かってきた時などはとても重宝している。ピキーンという音やエフェクトはしないのだが、感じ取れるのだ。


 その魔力感知を利用して、産まれてから今まで、地道に魔力の利用法を学んできた。

 ただ赤子なので誰かに教わることもできず、独学によるものだ。効率はきっと悪い。


 魔力は私には光の粒子のように感じられた。それが身体の中で漂っている。そして体を動かせば少しずつ減っていき、休んだり食事をしたり、時には妹をかまっていると回復した。


 最初のうちはその粒子を身体の中で循環させた。

 やり方は気合い。

 他に説明のしようがない。気持ちを落ち着けて、血が巡るように、酸素が巡るように、呼吸に合わせて全身を巡るようにコントロールした。

 気合で。


 それが上手くいくようになった頃、私はハイハイを覚えた。妹を三倍の速さで置き去りにし、よく泣かれていた。

 魔力を循環させることによって身体能力が上がっているのだと推論が立つが、単純に妹よりも私の方が成長が早いだけという可能性もある。

 意識のあるうちは魔力の鍛錬と並行して、なるべく体も動かすようにしていたので。


 ただ私の魔力量は当然、妹よりも多く、そして次兄さんにも届く程になっているので、魔力が鍛えられているのは間違いない。


 次いで魔力の放出を覚えようとしたが、上手くいかなかった。体の一部に溜め、そこから一気に飛ばそうとしたのだが出来なかった。

 体の中から魔力を切り離すのは、一つの技術のようなものらしい。


 姉さんや親父殿がたまに魔法を使って料理や風呂焚きなどをしていて、その魔力の使い方を参考にしたいのだが、いかんせんじっくりと見ることが叶わない。

 魔法は危険なので、幼児の近くではあまり使ってくれないのだ。


 親父殿はいつも忙しそうなので、姉さんに『みーしぇ』と、舌足らずな言葉で恥を捨ててお願いしてみたが、抱きしめられただけだった。

 だが収穫がない訳ではない。

 魔力を身体の一部に溜めるのはそれなりに上手くなっていたので、それを使ってなんと私は二足歩行を覚えたのだ。

 ふふふ。未だ四つ足で歩く妹とは違うのだよ、妹とは。

 なんて思っていたら、また泣かれてしまった。


 この一年間ではっきりと結論が出たことは、魔力は消費し、回復することで最大値が上昇するということだ。

 普通に身体の中で漂わせている状態でも、動きまわれば体力だけでなく魔力も消耗するが、意図的に身体の動きに合わせて魔力も動かせば、消耗も早いしキレのある動きになる。

 これは筋肉の働きを意識して体を動かすことに似ているのだろうか。


 また循環させている状態は、どうやら活性化と呼ぶのが正しいようだ。そんな話を親父殿がしていた。

 確かにぐるぐる身体の中で回すだけで魔力の残量が減っていくので、変だなぁーとは思っていた。

 魔力放出を試す過程で憶えた身体の一部だけを集中して活性化させるのは、部分強化と呼ぶそうだ。

 ただそれを話す時の親父殿の態度が、やけに強ばっていたが……。


 まあ、気持ちの悪い子供なのだろう、私は。

 自覚はある。悪いとも思う。自活できるようになったら出ていくから、もう少しだけ面倒を見てくれ。


 魔力以外で分かっていることは、まず何よりもこの家は貧乏だということだ。

 拾われて育ててもらっているのにこう言っては悪いが、本当に貧乏だ。

 ただ日々の生活の糧は不自由なく頂けているので、単純に豊かな日本での記憶が私を贅沢にさせているのかもしれない。


 ところでこれは余談だが、生前は一人称を『自分』と『私』で使い分けていたが、現在は『私』と『僕』にしている。

 まだ舌足らずなので、『僕』とは発音できないのだが、まあおいおいそう自称していくことになる。


 さて話を戻すと、この家のある地域――よく『都市』あるいは『守護都市』と呼ばれているが――は、そもそも紛争地域並みに争い事があり、治安も悪いらしい。

 もっとも未だ一歳児の私には十分な情報が収集できないので、間違った予測であることも十分にあり得る。

 正直、家の外のことはまだよくわからないのだ。


 そして家のことだが、どうやら個人経営の孤児院のようなものらしい。

 昼中は近所の子供がきて、夕暮れ時に親御さんが迎えに来るので、託児所も兼務しているようだ。

 あとは庭の奥の方から大きな声と魔力のうねりが伝わってくるので、大きくなったら覗きに行こうと思っている。

 今は子守という名の見張りがついているので、庭に出ることもできないのだ。

 まあ一歳かそこらの赤子を無監視で放置してくれないのは当然のことなので、今は我慢だ。

 雌伏の時だ。



 魔力を鍛え、体を鍛え、私はその時がくるのをじっと待つ。

 そうやって無駄にシリアスな雰囲気を醸し出していると、妹に頬を叩かれた。

 やるな、妹。

 ちょうど話の締めにツッコミが欲しかったのだ。





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