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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
2章 お金は大事
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36話 困ったときはクラえもん

 




 親父が預けたお金を全部使い切るなんてベタなことをしたので、割増しで苦しくなった家計をなんとかするべくお仕事に精を出して二週間が過ぎた。


 ――ごめんなさい。

 嘘です。

 私は嘘をつきました。


 親父が渡したお金を使い切るのは予想していたので、家計が苦しくなったのはこの十日の間に散財してしまったからだ。


 いや、遊んでいた訳では無く、仕事はしていたんだ。

 でもその仕事で色々と政庁都市を歩き回ったせいで、物欲を刺激するあれやこれやが目に入ってしまった。


 ……都会って、物がありすぎて怖い。お祭りの浮かれた雰囲気にも当てられて、いろいろ買い込んでしまった。

 買い込んだ内容は蚊や蠅などの虫を除ける魔法のお香や、台所の黒い悪魔を巣ごと撃退するって言う魔法の薬剤。

 前世ではメジャーでロープライスな商品もこの世界ではレアな高級品だった。


 でも、それでも欲しかったんだ。

 特に黒い悪魔は見敵必殺にしていたが、叩き潰した後の処理はすごく嫌だった。

 うん。

 高かったけど必要な出費だった。

 学園都市で開発されたものらしいから、学園都市に接続する際は必ず買い足そうと思う。


 その他には学習教材。

 難しい魔法書とかでは無く、子供向けの算数や国語、社会の教養書だ。

 簡単な読み書きや計算は今までも教えていたけど、ちゃんとした教材があればやっぱり違うと思う。

 子供のころの勉強って大事なので、いろいろと幅広く買い込んだら結構な値段になった。


 あとは兄さんや姉さん用に資格習得のための教材のパンフレットも買った。

 パンフレットなのに有料とかひどくないと思ったが、大人になってからの事を考えると資格はあった方がいいよねって事で買ってきた。

 兄さんたちが何に興味を示しすかはまだ分からない。


 ついでにこういう選択肢もあるんだよって教えたくて、各精霊都市の有名どころの学校のパンフレットなんかも買った。

 これも買った(・・・)。つくづく嫌なふぁんたじぃ世界だと思う。

 とにかくいろいろお金を使ったが、貯金額はプラスでもマイナスでもない状況で、とりあえず赤字にはなっていない。



 ペリエさんからはあの後、外套を貰った。

 呪錬されており、防御力も高い。

 ペリエさんが使っていたものなので裾が余っているのだが、そこは縫ってあげてある。

 私の背丈が伸びれば、縫い直して使えそうだ。

 内側にファンシーな動物の刺繍がしてあるのでちょっと恥ずかしいが、文句なく立派過ぎるものをもらってしまった。

 ただこの刺繍、ペリエさんが使っていた時は無かったはずなんだけど、なんで追加されているんだろう……。


 それからロックさんやドルチさんからも挨拶と餞別を貰いました。

 うーん、私は何にも用意してないんだけど、いいのかな。

 本当は何かを贈りたいんだよ。

 ただ雰囲気的にみんな受け取ってくれそうにない。


 まあ、いいか。

 守護都市に住んでいれば、みんなが住んでいる都市には自然と訪れることになる。

 落ち着いた頃に新居にお土産持って挨拶に行こう。今はひねり出せる予算も乏しい事だし。


 さてロックさんからは武器を貰った。

 今の私が使っているのは親父が産業都市に接続した際に、ふらっと出かけて貰ってきた呪錬兵装だ。

 私の使う武器なのだからついて行きたかったのだが、気が付いたら夕暮れには帰ると、書置きを残して出かけていた。

 武器のタイプは変わらず鉈。ただ切れ味が抜群に上がっている。鉈そのものの耐久力とかも相当に上がっているらしい。


 話を戻すと、ロックさんから貰ったのは親父の武器の代わりでは無く、サブウェポンとしてつかっていたナイフの代わりだ。

 肉厚な刀身のアーミーナイフだ。

 アリスさんに買ってもらった鉈はメインウェポンの新鉈と同系統になるし、そもそも鉈を二つ持つと重いし嵩張るのでサブウェポンには不向きだった。

 そんな訳でアリスさんのは大事にしまってあります。


 最近になって知ったのだけど、家に置いてあった初期装備ナイフはもともと男性が家を守る女性に贈る護身用のもので、実用品として何度も使うには不向きなのだそうだ。

 まあ確かに刃こぼれも多くてしょっちゅう研ぎ直して使っていたので、そろそろ新しいのが欲しいかなーとは思っていたので渡りに船だった。

 家に置いてあったという事は多分兄弟たちの誰かしらのお母さんの遺品だと思うので、折れる前でよかった。


 しかもロックさんから頂いたのは呪錬されているもので、魔法の発動を補助してくれる効果があった。

 やっぱり少し高級品過ぎませんかと気後れしてしまうが、それはそれとしてありがたく使わせてもらおうと思う。


 ドルチさんからは靴だった。

 正確には靴屋さんに結構なお金を前払いしてくれていて、しばらくの間、ただで靴を買い替えることができるようにしてくれた。


 仕事で荒野に出ると良く靴が磨り減る。

 私の場合は近接戦闘になるとフットワークが大事になるので、特に消耗が激しかった。

 もしも荒野の大地が体育館のような板張りだったなら、バスケット選手並みにキュッキュ、キュッキュ鳴らすぐらいにはフットワークを使っていた。


 具体的な交換頻度としては最初のアリスさんに買ってもらった靴で三か月、次にケチって買った安物が二週間、ちょっと奮発して買ったもので一月とちょっと、そしてこうなりゃやけだと呪錬された靴なるものを買って、今はまだそれを使っている。


 もっともそれは高かったから捨てられないだけでサイズ的にはもう小さくなっていて、もうとっくに擦り切れていて、親指の付け根とかが歩いていて痛いんだよね。

 とにかく私の貧乏性を察してくれたようで、こまめに買い換えなよというお言葉も一緒に頂いた。



 近況の話としては、あとは新聞をとるようにしたことがある。

 守護都市にも新聞と言うものはある。日刊では無く週刊だけど。

 恩給の制度や税金など、社会の仕組みなど分かっていたつもりで分かっていなかったことを反省いたしまして、でも今までやっていたような本を読んだりいろんな人と話したりだけでは限界があるとも思いまして。

 新聞をとるようにしました。


 前から新聞の勧誘は来ていたんだけど、親父が三秒かけずに撃退していたし、私が前世で新聞とってなかったこともあって、これまではとってこなかった。


 でも前世と違ってこの世界にはインターネットやテレビのような手軽にさまざまな情報に触れられる機器が無いし、自治会の回覧板すらない。

 そもそも私が新聞とってなかったのって、職場で新聞をとっていて社員食堂で朝ご飯を食べるついでに読んでいたので、とる必要が無かったんだよね。

 その辺を考えると、ちょっと迂闊だったなーとも思う。

 少なくともギルドで仕事するようになってからは収入の不安も大分少なくなっていたんだから、早めにとっておけばよかった。



 ******



 シエスタさんと約束した固定資産税の支払いまで三週間を切りました。

 出来る事ならその次の収益税も借金無しで切り抜けたいのだが、お金は全然貯まっていません。

 なので今日も今日とてお仕事に精を出すために政庁都市にやって来た。


 政庁都市も兄さんたちと訪れたときに比べれば多少は落ち着いてきている。

 それでも人通りは多いし、ところかしこでどつき合いの大会が開催されていて、その周辺では様々な屋台が顔を並べている。


 このイベント大会の事も新聞で詳しく特集が組まれていたので知ることができた。

 皇剣武闘祭は本選と新人戦があって、新人戦はギルドに登録して四年以内、ハンターズギルド上級またはガーディンズギルド下級上位までという出場制限がある。

 本選の方は皇剣を選出するための大会で、出場制限は一応ない。


 一応と但し書きが付くのは、出場する人のランクによって優勝までの試合数が極端に違うからだ。

 ガーディンズ・ギルドで下級の人はギルドで推薦を貰えると一次予選から出れる。

 推薦を貰えなかった人はこのイベント大会――予選に出るための予選と言う扱いなので、エントリー大会とか、エントリー予選とか呼ばれている――で、既定の成績を残すと一次予選に参加できる。


 二次予選は一次予選を勝ち残った人と、ガーディンズ・ギルド中級でギルドから推薦をもらった人、そして中級まで参加可のエントリー大会で好成績を出した人が戦う。

 そこまで勝ち残ってようやく最終予選までたどり着ける。


 ここは二次予選突破者と上級のギルドメンバー(もちろんガーディンズギルド)が参加する。

 上級の人は参加表明すると無条件でギルドの推薦を受けられるので、上級向けのエントリー大会は無い。


 この最終予選を勝ち残ると、皇剣武闘祭本戦に出場できる。

 ちなみに親父は早めに申請すれば最初から本戦出場できるというのだから、相当ズルいと思う。


 あとはここに軍と言うか、騎士の人たちも実力に合わせて予選に参加してきて大盛り上がりするそうで、今は一次予選と二次予選のエントリー大会が大詰めに来ている時期だ。


 そんな熱狂する人だかりから離れて、私は通いなれてきた政庁都市のギルドに入る。

 人が多いのは相変わらずで、晴れやかな顔をして手ごろな巡邏警備の仕事を見繕っている人もいれば、どんよりした顔で貨物輸送の護衛のような政庁都市を離れる仕事を選んでいる人もいる。

 まああんまり人を盗み見るのもマナーが悪いので切り上げて、自分の仕事選びに専念する。


「いい仕事はありますか、セージさん」


 ほぼ毎日訪れることで、最初のような警戒心剥き出しの接客をされることは無くなったが、未だに敬語敬称付きで接客をされる。


 ……いや、向こうも仕事なんだからそれで正しいと思うんだけど、守護都市で働いているときは背伸びして頑張っている子供という扱いなので、ちゃんと一人前扱いされるとちょっと背中がむず痒い。


「うーん、何か高額の仕事ってないですかね。危険なのでもいいんですが」

「それは、難しいですね。

 この時期、危険な仕事や高度な技量と経験を必要とするお仕事は自然と守護都市の方に流れていきますから……」

「そうですか……」


 その守護都市だと受けれる仕事が無いんですよねー。


「やっぱりお前だったか、セージ」


 おいしい仕事は諦めて素直に今日も日雇いの仕事を物色していたら、聞き覚えのある声がかけられた。

 クライスさんだった。


「よう。

 最近噂になってるぜ、守護都市で中級なんて持ってるちっこいのが、毎日毎日地味な新人向けの仕事してるってな」

「良いじゃないですか。僕だって新人なんですから」


 噂になってたのか。暇な人が多いんだな。

 受付で話し込んでは邪魔になるので、その場から離れて適当な椅子に座って話し始めた。クライスさんはどうも私を探してやって来たようなので。


「まあまだ登録して一年だけどな。

 つっても祭りが来てんだから、新人は卒業だろ。

 それより、アリスがぼやいてたぞ、セージ君が来ない。セージ君が足りない、ってな。たまには守護都市の方に顔出せよ」

「それなんですけど、受けられる仕事がほとんどないんですよ。貯金も(誰かさんのせいで実質的には)無いので、ちょっとお金に困ってるんですよ」


 気心の知れたクライスさんという事で、正直に話した。別にお金を無心するつもりはないし、そこまでは困っていないのだが、ちょっと愚痴をこぼしたかったのだ。


「あー、まあ大変だよな。

 ……つーか、お前すごい大変だよな」


 なんだかしみじみと、可哀想な子を見るような目でそう言われた。

 いきなりなんなんだろう。止めて欲しいんだけど。


 よくよく聞けば、親父が恩給の申請をしたときに色々と話をしたらしい。

 私がギルドで働いていたのは生活費のためで、それ以前から街中で手伝いのようなアルバイトをこなしていたことや、それ以外にも家の手伝いや家事をこなしていたことなどだ。

 親父はその時、これで苦労を減らしてやれると言ったとかなんとか……。


「金ぐらい欲しけりゃやるんだが、お前プライド高いもんな。

 ……ああ、もしかして、最近ジオさんが税金払ったってニュースになってたけど、それもお前が払った……んだよな。

 恩給はまだ先だしな……」


 なんで知られているんだろう。

 しかし税金を払っていなかった事より、税金を払った事がニュースになるのか。

 嫌な英雄だな。

 まあいいけど。

 でも税金未払いは隠したかったんだけど、上手くいかないなぁ……。


 しかし頼めばお金をくれるのか……覚えておこう。

 いやいや。

 家族の問題だから家族内で片づけたいし、実際そこまでせっぱつまっては無いから頼む気も無いけど。それはそれとして、うん、覚えておこう。


「……あー、いいか。

 ほんとは黙っとくつもりだったんだが、あれだ。

 守護都市のギルドに行けよ。

 実はもう新しい仕事についててな。

 これが結構面倒で、鼻っ柱だけは立派なおガキ様に手を焼いててな。

 ギルドに仕事依頼出してんだよ。

 内容が内容だから、弱そうに見える奴にこそ受けて欲しい依頼でよ。

 まあそう言う訳だから、ちょっとお前受けろよ」

「……良いんですか?」


 飛びつきたくなるのをこらえて、私はそう尋ねた。

 こういう言い方をするという事は十分な報酬が得られると簡単に想像できるのだが、黙っておくつもりだったという言葉が気にかかった。


 あくまで私の想像だが、お役所勤めになってある程度予算を動かせるようになったクライスさんには、守秘義務みたいなものとかあるんじゃないのだろうか。

 こう、公共事業における不正入札防止の観点とか、そんな感じで。


 守護都市の中級ギルドメンバーで私以上に弱そうに見えるのはいないから、顔なじみに公金を使った仕事を斡旋したとかで、クライスさんの新しいお仕事に支障がでるんじゃないだろうか。


「ぁん? そりゃ良いに決まってんだろ。

 つーか、ホントは最初からお前を指名しようかと思ってたくらいなんだが、相手が騎士だからな。

 面倒臭いかと思ってよ」


 ああ、指名とかできるんだ。

 そうか。よくよく考えればそうだよな。

 これまでギルドの一線で働いていたクライスさんなら人脈も見る目もある。

 そういうのも込みで採用されているんだろうから、裁量権があっても全然おかしくない。

 どうやら考えすぎたようだ。


「そういうことなら是非やらせてもらいます」

「おう。早くアリスんとこ行って来い」





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