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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
2章 お金は大事
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35話 只今お仕事探し中

 




 貴重品を持ったままなのは怖いので、クライスさんと別れた後はいったん家に帰った。

 武装こそしているものの私は見るからに貧乏な子供だからそうそう強盗の標的になる事は無いけど、それでも守護都市はスリとか置き引きとか多いので用心するに越した事は無い。


 例えば仕事中は必要の無い物はロッカーにしまっておくけど、それにしたって安全とはいいがたい。

 ロッカーには仕事で汚れたときように着換えや、シャワールームで使うタオルとか入れてるけど、そんなのを盗む人もいる。

 そして私のぼろい服を盗んだ犯人は、律儀に新品のおしゃれ着を入れていた。

 しかもどこで知ったのかサイズもぴったりだった。


 ……それだけでも犯人はある程度絞れるんだけど、その日の仕事を終えて守護都市に帰る途中にある引率役の女性が、わあ、危ないセージ君避けてと、棒読みで言いつつも避ける事のできないタイミングで私に変な塗料をかけてきた。

 ベッタベタで変なにおいがしてすぐにでもシャワーを浴びたくなるような不快な液体だった。


 シャワーを浴びる際も浴びた後もいろいろあったが、必死の抵抗もむなしく私はその服を着る羽目になった。

 おしゃれ着の内容はパッツンパッツンでへそ出しのタイトなシャツ、同じくお尻に張り付くようなタイトなホットパンツ、獣耳のフードが付いた少し大きめのパーカー、そしてハイソックスだった。

 ……これは、おしゃれ着と呼んでよかったのだろうか。


 ともかく着替えたその後はミルク代表の元へ強制連行されたので、犯人はギルド内部実行犯も含めて三人だろう。


 そんな私の黒歴史が証明する様に、ギルドで使えるロッカーのカギは簡易的なものなので鍵が無くても開けられる人は開けられる。

 なので高価なものを入れる事は無い。



 家に帰り、さっそくプレミアムなチケット入りの封筒をしまおうと思う。

 だが私の部屋は妹と兼用なので物がよくなくなる。

 なんでかは言わない。

 あと私のプライバシーはあってないようなものなので、封筒が見つかると勝手に開けられる可能性が高い。


 なので開けるな厳禁とメモを添えて、親父の書斎にある金庫にしまっておいた。

 中に入っているのはブレイドホーム家の帳簿と資金だ。

 金庫を開けられるのは私と親父と兄さんだが、親父はほぼ開けないし、兄さんならちゃんとメモを見てくれるので大丈夫だろう。


 さて折角家に帰ったし、時間的にもそろそろお昼が近いので節約のためにも家でご飯を食べよう。

 私がキッチンに行くと、ちょうど兄さんと次兄さんがお昼を作っているところだった。

 もっとも兄さんはほぼ料理をしない人なので、しているのは実質次兄さんだけだ。

 次兄さんがベーコンと卵を焼いて、その合間にネギを刻んでいる。

 その間、兄さんはカップ麺を準備している。

 次兄さんの手際が思いのほか良い。

 性格的に向かないかなと思っていたけど、今度ちゃんと料理を教えてみようかな。


 妹にも教えているけど、いかんせんまだ六歳だから包丁のような刃物を持たせるのは怖い。

 次兄さんならその点、身体活性を覚えてその辺の木の枝も凶器に変えられるようになっているので問題ない。

 いや、それは関係ないか。

 まあともかく十歳なら包丁を扱わせても大丈夫だろう。

 そもそももう目の前で使っているし。


「なんだ、帰ってたのかよセージ。お前の分はつくってねーぞ」


 普段から私の料理を食べているくせにケチくさい事を言う次兄さんだ。


「自分で作るからいいよ。食べ終わったらちゃんと洗い物しといてね」

「ああ、それは僕がやるから心配しなくていいよ。仕事はどうだった?」

「んー、ちょっと考え中。とりあえずご飯食べたらまた出るよ」


 キッチンには昨日買った食材がうなっている。

 昨日は無駄遣いしたなーと反省しつつ、痛みやすいホウレンソウをチョイスし、ベーコンと合わせて炒める。

 とりあえずお腹がふくれればそれでいいので味付けは適当に塩、胡椒とバター。

 自分が食べるだけの時はこういう手抜きが出来るのが良い所だ。

 タイミングを見てカップ麺にお湯を入れて出来上がりの時間を合わせた。


 預かっている子らが弁当を広げているところにお邪魔して、一緒にご飯を食べる。

 子供らの弁当はだいたいサンドイッチなので、私の野菜ラーメンはちょっと浮いているが、気にしないことにする。

 このまま今日はのんびりして過ごしたいとも思ってしまうが、それを振り切って仕事探しに出かけた。

 私の分の洗い物は兄さんに任せる。人にちゃんとやれとか言ってなんだよそれと、文句を言ってきた次兄さんがいたが、それも気にしないことにした。



 ******



 政庁都市のギルドに向かうついでに、少し街中を見て回った。

 遊ぶ意味では無く、クライスさんに参加してみればと言われた武闘大会の様子を見て回るためだ。

 普通に歩いているだけでも二つ、三つ簡単に見つかったので、これはと思い祭りの案内所を探してみた。


 少し時間をとられたが、案内所にはいろんな大会のパンフレットがあったし、おすすめの大会をピックアップしたチラシもあった。

 案内所の人にも大会について話を聞いたが、やはり大会に出て稼ぐのは止めた方がよさそうだ。


 私が出れる中級まで参加可能の大会だと武具の使用オーケーで、死んでも構いませんと言う同意書の署名が必須だった。

 それだけでももう嫌なのだが、参加が中級という事は参加者がみんな格上という意味になる。

 私は親父の七光りで中級下位になった中級ギルドメンバー(笑)なので、勝てるわけがない。

 クライスさんは格上の相手と真剣勝負するのはいい経験になるという意味で薦めてきただろうが、今の私が欲しいのはお金なのだ。


 中級まで参加可能の大会はそこそこ良い額の賞金だったが、昨日見たものより規模も大きく参加者も多いという話なので、どう考えても勝ち目が無い。

 というわけでおかしな夢は見ず、堅実に稼ぐため政庁都市のギルドにやって来た。

 時間的にはそろそろ三時になる。今日はどんな仕事があるか見たら帰ろうと思う。


 ギルドの中にはいろんな人たちでごった返しているが、総じてガラが悪い。

 ただ服装のセンスはまちまちで違うところからやって来たんだろうなと思う。

 そんな中で一番流行しているファッションは上半身裸にジャケットを羽織るような、筋肉を見せる守護都市スタイルだ。


 ただ体が大きく顔も怖いマッチョな彼らは、守護都市のギルドメンバーに比べると迫力(まりょく)が足りていない。

 こう言っては悪いが、コスプレしているみたいに映ってしまう。

 ただしいつぞやの危険な人みたいにピリピリした余裕のなさが共通してあるので、触れると危険な香りはするのだが。


 人が多いという事で、受付の番号札をもらって順番を待ち、そのついでにギルド内を見て回った。

 守護都市に比べると内装などは綺麗で立派なのだが、ちらほらゴミが落ちてたり、落書きや汚れも多い。

 今はいろんな人が入ってくる時期だから、仕方のない事なのだろうか。ちょっと気になって用を足すついでにトイレの個室に入ると、案の定ウ●コとかセ●クスしたいとかのろくでもない落書きがされており、トイレットペーパーも無かった。

 一応、絶対に皇剣になるみたいな決意表明とサインもあったが、どっちにしろ迷惑なことしてるなと言うのが感想だ。


 トイレから戻っても私の順番はまだだったので、適当に空いていた椅子に座る。

 すると私の両脇の椅子にドカンと、大きな音を立てて若い兄ちゃんが腰を下ろした。

 若いと言ってももちろん今の私よりも年上で、十五歳くらいだった。


「おいおい、なんでこんなところに子供がいるんだ。

 ここはギルドの人間が仕事を請け負う場所だぞ」


 これは面倒臭そうだと思い、無言で席を立ち、離れたところに座りなおす。

 そしたら二人の兄ちゃんがついて来た。


「無視すんなよ、寂しいだろ」

「はははっ、止めてやれよ。ボクちゃんが怖がってまちゅよー」


 ああ、やっぱり面倒くさい。

 まあ仕方ない。

 とりあえず近くにいたギルドの職員に視線を送る。

 目を逸らされた。おい。


「……はぁ、ギルド内での諍いは厳禁ですよ。

 面倒なので僕を巻き込まないでください。

 お暇なら、そこらの落書きでも掃除されていてはどうですか」

「あ゛? すかしてんなよ、ビビってるくせに」

「そうですね。怖いんで離れてください。あと息が臭いですよ」


 そう言ったら殴られた。

 ちょっとカチンとくる。

 でも怒っちゃだめだ。

 冷静になろう。


「すいません、この人に殴られたんで追い出してもらえますか。ギルドの規約違反でしょ」


 さっきの気弱な職員はあてにならないので、別の職員に近づき声をかけた。

 二人の兄ちゃんズも寄って来て、職員を睨んだ。


「おいおい、俺たちは殴ってなんかねえよ、なあ? そんなところみてねえよなあ?」

「は、はい、見てないです」


 ……アリスさんって、立派な人だったんだなぁと思った。


「おいガキ、お前人をエンザイで追い出そうなんてして、詫びも入れねえのか」

「メイヨキソンってやつじゃねぇの、ちょっとセイイあるシャザイってもん見してもらえっかなぁ、おい」


 ……面倒事は嫌なんだけどなぁ。まあ、仕方ないか。


「おいおい、なんとか――っ」


 親父ほど完璧にはできないが、高めた魔力を収束させて二人に叩きつける。

 コスプレ筋肉が立派なのでギルド職員は怯えていたが、この二人の魔力量は初級か、せいぜい下級下位でたいしたことは無い。

 たぶん登録したての新人さんです。

 口を閉ざし、脂汗を掻きはじめた二人にゆっくり近づく。


「座りなさい」


 命令すると、男たちは床にお尻を落とした。

 いや、椅子に座りなよと言おうとして止めた。

 さっさと終わらせよう。


「これ、見える?」


 そう言って、私のギルドカードを見せる。

 二人の目が見開いたのを確認してから、言葉を続ける。


「君たちハンターでも新人か、下級ってところでしょ。

 背伸びしていきがるのはいいんだけど、人に迷惑かけるような事は慎みなさい」


 男たちは固まったまま動かない。二人への魔力の圧を高めて、問いかける。


「返事は?」

「「は、はいっ」」

「よし、じゃあもう行きなさい。僕は忙しいんだ」


 そう言って魔力を隠ぺいすると、男たちはすぐさま立ち上がってギルドから走り去っていった。

 別にギルドから出ていけって意味で言ったんじゃないんだけどな。

 まあ、いいか。


 残された私に周囲の視線が集まってきたので、お騒がせしましたと、頭を下げて離れた席に逃げた。

 途中でギルドの職員二人に仕事してくださいねと嫌味も言っておいた。

 ……私はちょっと怒りっぽくなっているかな、気を付けよう。



 離れた席に座りなおして、それでも視線が集まってくるので、気にしない気にしないと頭の中で唱えながら十分後、ようやく私の番号が呼ばれたので受付に行く。


「本日はどのようなご用件でいらっしゃいますでしょうか」


 さっきの一幕を見られていたのか、六歳の私にちょっと怪しい言葉づかいで受付の女性が対応してきた。

 これはやっぱり魔力が周りにも漏れていたんだろうなと思う。

 親父なら標的以外には魔力の影響を与えないんだが、私の場合はそこまでの制御力は無い。

 鍛えてない一般の人からすれば怖いんだよね、アレ。


「ここで出来る仕事を見せてもらえますか」


 そう言って、ギルドカードを提示する。

 中級の欄で目を見開き、他人のものだと疑ったのか生年月日を見て、さらに大きく目を開いた。

 眼筋の立派な人だな。

 そしてはい、ただいまお持ちいたひましゅと、カミカミのセリフで受注可能な仕事をまとめたファイルを取り出した。


 ギルドの仕事は魔物を狩ることに代表される公的なものと、法的に認可された企業や団体からの依頼を仲介するものの二つがある。

 守護都市では原則として前者が圧倒的に多いが、政庁都市では後者が大多数を占める。

 私が捜している仕事はその中でも日雇いのものだ。


 百万人都市の政庁都市ギルドという事で、日雇いに絞っても仕事の数は多い。

 だが守護都市でもそうだったように中級のランクを生かして高い給金の仕事を選ぼうとすると、年齢とか外見がネックになってしまう。

 警備の仕事だと屈強な体格を持つ戦士やミステリアスな雰囲気の魔法使いが望ましいとか、そんな感じで。


 とりあえず今日の内にできそうな仕事を見つけたので、それを指定した。



 ******



 私が選んだのは製氷のお仕事。

 先方が用意した水を魔法で冷やして氷に変える仕事だ。

 屋台で出すかき氷に使うらしい。

 水から魔法で作り出さないのは、品質を一定に保つため。


「こんな時間に来てどうすんだ小僧?」


 製氷のお仕事は朝からやっていて、仕事の締めは夕方六時。

 私が訪れたのは午後四時なので、冷やかしに来られたと思ってもおかしくは無い。


「出来高制だと聞いたので、二時間だけでも働かせてもらえたらなと思いました。魔法はそれなりに得意なので、邪魔にはならないと思いますよ」


 そう言ってギルドカードを提示すると、恒例のびっくりタイム。

 中級って肩書は凄いんだなーと、推薦してくれた親父たちを見直した。悪く思ってごめんよとも。



 その後は順調に仕事をして、六時きっかりに上がった。

 追加報酬払うからもうちょっと残ってくれ……なんて言葉に後ろ髪をひかれたのだが、かえって夕飯の支度がある。

 いやこの時間だともうおそらく姉さんが始めているだろうが、今すぐ帰れば味付けにリカバリーが効く。

 塩とマヨネーズで彩られた食卓を避けるべく帰ろうとしたところで、


「あらセージ君、変わったところで会ったわね」


 ペリエさんと出会いました。



「そう、クライスからはもう聞いたのね。

 あいつ、毎日ギルドに顔出してたのよ。

 そんなに早く伝えたいならお家に顔出せばいいのにね」


 そう言って、ペリエさんは寂しそうに笑う。

 ずっと一緒に命がけの仕事をしてきた仲間との別れるのはどういった心境なのだろう。

 私には想像がつかなかった。

 それから少しの間、ペリエさんと話し込んだ。

 ペリエさんの次の仕事は物資移送の貨物便の護衛で、仕事内容に保冷用の氷補充(溶けたものの再凍結)が含まれていた。

 その製氷の仕事がどんなものか様子を見に来たらしい。


 そしてその仕事を最後に、ギルドからは引退するとのこと。

 貨物便とペリエさんの最終目的地は商業都市。

 その近くに故郷があるらしく、親に顔を見せたら商業都市にある学校で講師を務めるらしい。


「これでも私、教員免許をとってるのよ。実際に人に物を教えたことは無いから、あっちではまず研修所に通うのだけれど」


 そう言ったペリエさんの表情には寂しそうな色は残っているものの、それ以上に明るい色が宿っていた。


「セージ君はクライスからプレゼントは受け取ったんでしょ。私からもあるわよ、私のお古になっちゃうけど。

 これからの仕事に使えるのを用意したから、期待していてね」


 ペリエさんの浮かべる笑顔を眩しく思いながら、私ははいと、はっきり声に出して応えた。








 ……ところで、私はまだ新しく組んでくれそうなパーティーを紹介して貰えてないんだけど、それもいずれやってもらえるんだよね。

 政庁都市の接続が長いから先延ばしにされてるだけで、荒野に出るまでには良さげなパーティーを紹介してもらえるんだよね。

 これからは独りで頑張れなんて言わないよね。


 …………いや、まあそれでもいいか。


 どうせ荒野に出るころには親父の恩給という安定収入が手に入るし。

 ギルドカードは大人になるまで凍結させて……ってのはもったいないから、外縁都市に接続してるときに簡単な仕事を受けて、年会費やら受注ノルマやらはごまかそう。





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