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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
6章 精霊様に感謝を捧げよう
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290話 皇剣武闘祭に出るぞ

 




 今までよりも不鮮明な夢を見て、目を覚ます。

 日曜の朝だというのに、酷い目覚めだ。

 これは親父を救えという啓示か、あるいは親父は救われたという感謝か。

 まあどっちでもいいか。


 精霊様こと至宝の君様によると、アシュレイさんは市井に潜む直属の処刑人で、彼を殺したのはテロリストで、超強かったアシュレイさんが殺されてしまった理由は親父のデバフが原因なんだとか。


 まあなんだ。

 アシュレイさんは女癖が悪すぎてジェイダス家から追い出されたという話だったが、改めて振り返ればジェイダス家はむしろそれを促していた家で、実力と人望に優れる上級の戦士を放り出す理由としては不十分だったよな。

 いや、アシュレイさんのすさまじい女癖の悪さは、追い出されたことをクライスさんを含めたみんなに納得させてたんだけどさ。


 ともかくテロリストに殺されたことも、そもそも処刑人だったことも重要機密だったから、詳細は不明とされていたという事らしい。

 親父たちがそれにたどり着けなかったのは、何でなんだろうな。

 また良く分からない不思議な力が働いたのか。

 それともその件に関しては、親父の不思議な力が働かなかったのか。

 ……スノウさん辺りは全部突き止めて、その上で親父を謀ってそうだけどさ。


 とりあえず親父にはタイミングを見計らって、アシュレイさんを殺した犯人はテロリストだってことを教えておきたいな。

 まあそのテロリストが誰かっていう事は具体的にはわかってないんだけどさ。

 ……一応、今は吹っ切れてるみたいだし、変に蒸し返すよりもそのテロリスト見つけてからの方が良いよな。


 うん、山狩りの仕事を優先して受けていけば、いつぞやの魔族のようにテロリストの強い人と会う機会もあるだろうし、会えなくても当時強かった人を聞き出すチャンスも得られるだろう。

 ある程度は具体的なことがわかってからにしよう。

 暴れられて借金増やされても困るし。


 しっかし親父が神様の子孫かぁ……。

 ありがたみはまるでないけど、理不尽にはた迷惑な辺りは神様っぽいかな。

 そして精霊様はそんな神様の子孫を使って何かをしようとしている。

 夢で見る限りではケイさんや親父がターゲットで、妹は保険と呼ばれてたけど、安心はできないか。


 つまるところやっぱり、精霊様とは話をした方がよさそうだ。

 デス子様の導くままにってね。

 ああ、しんどいなぁ。

 やるけどね、やるけどもね、しんどいよね。

 親父の生い立ちを夢に見て、この十年間一緒に過ごした身としては、さ。


 冗談交じりに全部親父が悪いなんて言ってきたけどさ、悪いのは全部デス子であって欲しかったよ、私は。

 だって親父にはどうしようもない。


 ご先祖様に神様がいたことも、そんな神様の血を引いているから精霊様に目をつけられたことも。


 私も似たような状況だけど、別にいいんだ。

 そもそも前世は幸せだったし、殺されたことも、部下たちの結婚にケチをつけたこと以外はそれほど気にしていない。

 新しい人生は波乱続きだけど、だからこそ充実して楽しいとも感じている。

 認めたくはないけれど、デス子に選ばれたことを感謝すらしてるかもしれない。


 でも親父は違う。

 私のように事前に何も聞かされず、なんの心構えも出来ず、そもそもまともな教育も愛情ももらえず、ただそれを与えてくれる優しい大人たちの死を見て育った。

 それが全ての責任が親父の血にあるとしたのなら、親父が生まれたことに起因するのなら、それはとても、救いがない。


 だから、親父に余計な真実は教えない。

 きっとお前もそう思ったんだろう。

 お前も同じように至宝の君から、アシュレイ(父親)の死の真相を聞かされていただろうに。


 私とお前は致命的に反発しあうが、親父を間に挟めば、案外そうでもないのかもしれないな。

 私が生まれたことで、お前は死んでしまったけれど。


 ああ、本当に何で私を選んだんだろうな、デス子。

 あっちには60億の人間がいたんだ。私以上に上手くやれる人だっていただろうに。



 まあいいさ。

 私は結局、私に出来ることをするだけだ。

 さて、気を取り直して現状報告といくか。



 祝勝会はあの後、滞りなく終わった。

 エルシール家からはルヴィアさんがお世話になったとお礼を言われたり、ケイさんからはあんたなら何とか出来るから上手い事何とかしてと無茶振りされたり、アルバートさんからはこれ以上は言わないが絶対に出てこいと念を押されたり、アールさんがうちの道場で働くようになったりと色々あったが、まあ些末な問題だ。


 ルヴィアさんとは一応は綺麗な形で別れる事が出来た。

 百点満点ではないが、彼女は私の事を吹っ切って前向きになってはくれた。

 自殺などを行う感情にはなっていないし、時間をかけて、きっと良い人を見つけて、ちゃんとした子供を産んでくれるだろう。

 色々と後ろめたい部分はあるが、そう思っておこう。

 少なくともお互いが政庁都市にいる間は、変なことが起きないよう見守っておく。

 そこから先は、私も気持ちを切り替えて彼女を忘れよう。

 彼女はとてもいい人だった。

 私はそれに付け込んで、都合の良い形に落とし込んだ。

 それだけの話だ。



 さて次兄さんと妹は、それぞれ新人戦優勝と四位入賞を果たした。

 その結果次兄さんはギルドランクを中級下位にあげ、妹も下級上位が認められた。

 ただそれらは正式な表彰式の後――簡易的なものは決勝戦のあった日に行われた――で貰えるもので、その表彰式は皇剣武闘祭も終わった後の、勲章授与式などと併せて行われる。


 勲章授与式は前回の感謝祭からの4年間の仕事ぶりを評価して表彰されるもので、内勤スタッフなどと違って外で危険な思いをするギルドメンバーはまじめに働いていれば一個ぐらいは勲章がもらえるものなので、私ももちろんそれに参加できる。


 というか私の実績はかなり高いので、勲章授与者を代表して至宝の君から直接メダルを手渡される予定だ。

 さらに勲章授与式の後は至宝の君も参加する立食会が開かれ、そこに参加する資格も貰っている。

 周囲の目もあるし、まかり間違っても敵認定されるわけにはいかないので下手なことは出来ないが、一言二言探りを入れるぐらいはできるだろう。


 話を戻そう。

 次兄さんはまだ下級下位なのだが、実質中級下位という形で仕事を受けられるようになっており、ミケルさんやレイニアさんとパーティーを組むことにして、仕事を始めた。

 そして妹は騎士養成校から正式に実戦許可が下りて(シード権を取って決勝大会に出ていたので、許可が下りることは内定していた)、次兄さんたちのパーティーに参加している。

 ただ妹は所属が騎士養成校にあるので、正式なパーティーメンバーではなく、公欠が取れる際に参加する臨時メンバーという扱いになる。


 ちなみに名門の国立大学の生徒であるレイニアさんは大学に無期限の休学届を出して、お祭りが終われば守護都市に上がるようだった。

 名家のお嬢様がそれでいいのかと思うのだが、スノウさんと話し合いは済んでいるらしく、本格的に皇剣を目指すのだとか。

 それは良いのだが、なぜスナイク家で面倒を見ずに、うちに預けてくるのか、それがわからない。


 レイニアさんは半ば勘当のように扱われて、守護都市でも実家を離れアパート暮らしをするのだとか。

 そしてスナイク家の道場ではなく、ミケルさんと一緒にうちの道場の門下生になるのだとか。

 本当になぜそうなるのか訳が分からない。

 いやまあ、次兄さんもミケルさんも妹も反対してないし、別にスノウさんの娘だからって道場入門拒否とかしないけどね。

 レイニアさんの感情に裏はなく、強くなりたいけど実家にはいたくないからこっちに身を寄せるって感じだから。


 ただスノウさんがそれを応援している感じだから気持ち悪いんだよなぁ。

 あの人は絶対何か狙ってるだろうからなぁ。

 ……まあ、いいけどさ。

 色々と借りのある相手だし。反抗期の娘さん預かるぐらいは、ね。


 さて兎にも角にも次兄さんたちはそんな感じで、ギルドのお仕事を始めました。

 余談とはなるが、二人が仕事に使う装備品は二人が自分のお金で選んで買っている。

 大会の賞金の方も正式な表彰式の後で振り込まれるのだが、祝勝会で来客の方々から少なくないお祝い金を貰っていたので、それを二人に渡したのだ。

 ちなみにナタリヤさんだけは旧ブレイドホーム家で取りまとめたお祝い金とは別に、どこかで見た紙袋に入った、どこかで見たような金額の札束を私に渡してきた。


 二人は祝勝会の開催費用がどうのと遠慮したので、じゃあそれだけ貰うよと言って残りは全部押し付けて、装備を買いに行かせた。

 いやね、お偉いお客様も来るから結構高いお肉やお酒そろえたけど、それでもお偉い名家様からのご祝儀からすると安い金額だったよ。文字通り桁が違ったよ。


 兄さんなんて貰ったお祝い品とご祝儀を見て、次からはパーティーは気軽に来れるのと、偉い人たち向け(めんどうくさいの)の二種類に分けた方が良いかもと言っていた。

 ご近所さんはいつも通りお肉やお酒の差し入れで、こっちとしてはそれで良かったんだけど、他の人の差し入れを気にしていたから、一緒くたにやると負担を強いることにもなりかねない。

 まあ次の機会があれば、名家に詳しいアールさんに相談しよう。


 またまた話が脱線したが、次兄さんたちは唯一お仕事の経験があるミケルさんがパーティーのリーダーになって、当面は簡単なお仕事でとりあえず交流を図るという事だった。

 差し当たってはお祭りのバイトをして、慣れてきたら都市の近くで低位の魔物狩りをするそうだ。

 そして守護都市が荒野に出たら、教育係にしっかりと仕事を教わると。


 ちゃんと考えてくれて嬉しいけど、私としてはやっぱり少し心配なのでこっそり様子を伺おうと思います。

 そんなわけで、私は政庁都市から離れ難い理由が増えました。


 いや、外縁都市で割のいい防衛任務に就くつもりだったんだけどさ、アルバートさんとケイさんのこともあるし、皇剣武闘祭で一獲千金を夢見てみるのもいいかなって。

 いや、優勝出来ても借金の返済で全部消えるんだけどね(※本大会の優勝賞金は日本円換算でおおよそ三億円。ちなみに準優勝で一億円で、新人戦の優勝賞金は一千万円、そして四位入賞は百万円)。

 そして私は良くて準優勝なので、外縁都市の方が確実に稼げるんだけど、まあやっぱりルヴィアさんや親父のことも心配だからなぁ……。


 でもなぁ、やっぱり出たくないよなぁ。

 最初っから勝つ気ないってバレたらアルバートさん本気で怒るだろうし、ケイさんに殺されかねないし。

 でも優勝したら精霊様とご対面なわけで、場合によっては皇剣にならないといけないわけで。

 皇剣なんてなりたくないけど、それを真っ向から言っていい相手じゃないし、そもそも下準備が出来てないから本格的に顔合わせするのは避けたいんだよなあ。


 どうしたものか、さっぱりいい案が浮かばない。

 そういえば私が頭を悩ます大本の原因である親父の姿が見えないな。

 どうせ暇つぶしに賭け試合(武闘祭の予選)でも見に行ってるんだろうけど、人の気も知らないでのんきなことだ。

 そんな事を思って外の気配を探ると、強い雨が降っていた。

 今日は部屋干しだな。





 ◆◆◆◆◆◆





 降りしきる雨の中、守護都市の国立公園の一角である霊園を、ジオは傘もささず歩いていた。

 これより先、英霊墓地と書かれた看板の横を抜けて、一人歩いていた。

 看板には景観を大事にしましょう。ごみは持ち帰り、破壊活動をしないよう心がけましょうと、注意書きもなされていた。

 霊園の中のダストが眠る共同墓地を抜けて、英霊を祀った慰霊碑の前まで、ジオはやって来た。


 四年に一度のお祭りの時期という事で多くの観光客が足を運ぶ、守護都市の数少ない観光スポットであるその場所に、ジオ一人だけがいた。

 英霊墓地は神域で囲われ、一般人はその場に入りたいと思う事すら許されなかった。


 ジオは慰霊碑の前に突き立てられた刀の前に腰を下ろした。

 その手には蒸留酒の瓶が一本握られている。

 ジオは親指で栓を弾くと、一口あおり、そして刀に零す。


「約束だったな。

 俺は忘れていたが、お前は忘れていなかっただろう」


 その酒はアシュレイ秘蔵の一本だった。

 特別な日に開けようと、デイトと約束していた一本だった。


「飲みたいと思う日はあっただろう。

 だが俺が言い出すまで待っていた。

 お前はいつもそうだったな」


 刀に向かってジオは言う。

 返る言葉は、当然ない。


「不味いな」


 ジオはそう言って残った酒を半分飲み、残り半分を刀にかけた。

 立ち上がり、瓶を投げ捨て、刀に背を向ける。


 そして――


「よう、知ってるか馬鹿」


 ――ありえない幻聴が耳を襲う。


 ジオは振り返ろうとした。

 しかし出来なかった。

 そんなはずが無いと知っていた。

 神域はジオの世界。

 その全てをジオは見通す

 だからそこに誰もいないことも、魂すらもない事を、ジオは感じ取っていた。

 だからそれは幻聴なのだ。

 聞きたいと願うジオの弱さが生んだ、幻聴なのだ。

 それを確かめることが怖いから、振り返れなかった。


「罪を許せる愛ってやつが、最強なんだぜ」


 その言葉を聞いて、ジオはゆっくり、どうしても我慢が出来ずに振り返った。

 そこにはやはり、誰もいない。

 物言わぬ慰霊碑と、封じられた刀が鎮座するだけだ。

 それ以外は誰もいない。何もない。

 ジオは静かにため息を吐いた。


「あいつなら、言いそうだな。

 それとも俺は、許されたいのか」


 刀は何も答えない。

 自問したところで、答えは出てこない。


「……帰るか」


 ジオはそう言って、神域を解く。

 それと同時に、周囲に人払いの結界が張られたことを感じ取った。

 その結界の中で、一人の女が姿を現す。

 ジオもよく知る女だった。


「何か用か」


 ジオの問いかけにその女は目を細め、眉を険しくし、棘のある声を発する。

 用が無ければ話しかけてはいけないのか、そんな寂しさを隠して。


「至宝の君から伝言です。

 アシュレイ殺しの真相を教える、と。

 その対価として皇剣となりなさい、と」


 女は、マリアはそう言った。

 そうかと、ジオは頷いた。


「それだけですか?」

「ああ」

「他に聞くことは何もないのですか?」

「ない。優勝すればいいんだろう」


 ジオはそう言って歩き出す。

 マリアは何かを言おうとして、しかし何も言えず、ジオの後ろをついていく。

 近くて遠い、三歩後ろをついていく。


 慰霊碑の後ろに隠れていた男は、ポイ捨てされた瓶に残った酒を舐めながら、不味いと苦い声を零した。

 雨は強く鳴り響き、その声も、二人の姿も隠してしまった。





作中蛇足・サニアちゃんとマリアちゃんのやり取り


サニア「首尾は?」

マリア「問題ありません。ジオは皇剣武闘祭に出ると」

サニア「そう。優秀ね……えっ?」

マリア「どうかしましたか? ジオであれば優勝は確実です」

サニア「そう、そうね。すべては予定通り。私の計画の内」

サニア(何で大会に出るの? 私の所に直接連れて来ればいいじゃない。彼が出ると賭けの興行収入が減るっていうのに。ただでさえ国債の返済で首が回らないのに。ああもう、本当に無能ばかり。デイトの弟子だっていうから期待してあげたのに)

マリア「流石でございます、至宝の君」

サニア「――はっ。ええ、そうでしょう。そうでしょう……」

サニア(……スノウに何とかさせましょう。そうしましょう)

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