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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
幕間 浴びるほどに金が欲しい
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258話 契約とかその辺を整理しよう

 




 いやあ、盛り上がった盛り上がった。

 臨時ボーナス――借金からすると雀の涙にもならないけど――も払ってくれるとの事ので、言う事はない。

 ホルストさんはロリコンだけどいい人だな。機会があったら騎士に突き出すけど、とりあえず見直した。

 さて紳士でないロリコンを捕まえられなかったのは残念だが、私が持つあのロリコンへの敵意はデス子の夢によるところが大きい。

 現実には姉さん達に何かした訳ではないし、他の子にしても合法な行為しかしていないのならば、見逃さなければならないだろう。

 少なくとも今は。



 さてつつがなくお仕事を終えて、日を改めて報酬の確認&次の仕事探しのために守護都市のギルドに行きました。


「あ、アイドルだ」

「違います」


 アリスさんは酔っ払いみたいな絡み方をしなければならない呪いにかかっているのだろうか。


「聞いたよ。大盛況だったってね。私も見たかったよ」

「僕は一応、警備員として雇われたんですけどね。いえ、分かっていてこの仕事は受けたので文句はないんですが」


 最近は英雄の息子という事だけではなく、幼いながら一端の戦士ということでも注目を浴び始めた。

 イベントの客寄せや盛り上げ要員として使いたいというのは運営からすれば妥当な判断だろう。

 報酬に色も付くし、私としても嫌とは言えない。いや、借金さえなければやらないたぐいの仕事なんだけどね。


「芸術都市の接続はもうすぐ終わるけど、一回だけでも同じことやってほしいって依頼が来てるよ。

 あと芸術都市に降りて専属契約しないかって話も。どっちもギルドの方で断ってるけどね」


 ギルドが私の引き抜きを断るのは妥当な対応だ。

 この手の引き抜きには高額の仲介料がギルド側に支払われるが、上級並みの仕事量をこなし、バカ親父のストッパーである私にはそのお金以上の価値がつけられているだろう。

 私としても芸術都市に住み込んで芸能人を目指す気はない。

 ネームバリューがあるので直近の仕事には苦労しないだろうが、それは長く続かないだろう。収入も安定せず成功の難しい職業だし、したとしても気疲れしそうだしね。

 そもそも高額の借金があるので当面、そう、あと120年ぐらいまでは魔物を狩り続ける予定だ。

 ……竜、本当に来ないかな。


「公演依頼の方も断ったんですか?」

「うん。テロリストの討伐記念の披露パーティー、セージ君は断ったでしょ」


 私は頷いた。

 状況が状況なので金は貰うが、あの男の戦果で大々的に表彰されるなんて真っ平御免だ。

 魔物蔓延る危険なこの国では安心を担保する英雄が求められる。

 そのための高貴な嘘ということは理解できるが、それに付き合いたくはない。

 親父の表彰式嫌いも、案外これと似たようなことに関わってきたからなのかも知れない。


「スケジュール的にはパーティーとは被らないよう向こうもセッティングしてるけど、セージ君は忙しいから出られないって事になるからね。

 ギリギリまで仕事受けるのは、ちょっとね」

「あー……、じゃあもう仕事って受けられないんですか?」

「うん。止めなさいって命令も来てるよ。次のお仕事は荒野に出てからだね。あとパーティー中はなるべく自宅から出ないようにって」


 この様子だと商会の方に顔を出すのもまずそうだ。

 膨大な借金があるのに、お仕事ができないなんて。


「ごめんね。それじゃあギルドカード出して。仕事の完了手続きするから」


 アリスさんに言われて、ギルドカードを手渡す。手続きは事前に準備が出来ていることもあって、直ぐに終わった。

 ギルドカードと今回振り込まれた金額と預金残高が書かれた簡易明細――シエスタさんがギルドに強いた中抜き対策で、最近発行されるようになった――を受け取る。

 二割増で支払われた報酬は、私に話題性があること、そもそも高い戦闘能力を持つ中級の戦士であることから、なかなかに高額だった。

 ただそれでもやはり借金を考えれば微々たる額で、どうしてもため息が漏れそうになる。


「お待たせ。まあ元気だしなよ。

 そうそう兄貴の都合も付いたから、明日にでも一緒に行くよ」

「ああ、ありがとうございます」


 アリスさんの言う兄貴とは、エルフの族長代理のアレイジェスさんこと、アーレイさんだ。

 聞きたいことがあるので時間に都合が付かないかとお願いをしていた。

 そしてそれならとアリスさんが『一緒に家まで遊びに行くよ』と、いう話になった。



 ******



 そんな訳で、アーレイさんとアリスさんを我が家にお迎えいたしました。

 わりと人に聞かれたくない話なので、私と妹の部屋に来てもらいました。妹は学校なので、ここにはいません。


「へえ、ここがセージ君の部屋か。そう言えば初めて入ったね」

「そう言えばそうですね」

「セージ君、もしこの部屋から何かなくなったら言いなさい」

「どういう意味。私パンツぐらいしか持って帰る気ないのに」

「いえ、パンツは持って帰らないでくださいね」


 アリスさんの汚れた冗談にはツッコミを入れておく。……冗談、だよね。


「大丈夫ですよ、セージさん。私も見張っていますから」

「……いや、なんだろう。おかしいと思うのは僕だけなんだろうか」


 シエスタさんが私を安心させるように頷き、兄さんは頭をかしげる。

 この場にはアーレイさんとアリスさんだけでなく、この二人にも来てもらった。


 あれから一年、フレイムリッパーという明確な危険が消えたのがいい機会だ。

 高い地位を持つシエスタさんを狙う人間はまだいるかもしれないが、マリアさんの引き抜きにも成功した今、私が常時監視しているのは過剰な対応だろう。

 契約を断ち、シエスタさんの私に対する異常な感情をリセットするべきだ。


 そしてたとえ恨まれることになってもその事を、シエスタさんの精神を歪めたことを、兄さんにも教えておかなければならない。

 そのために、みんなには集まってもらった。



 意を決して、集まった四人に私はシエスタさんと契約をしていることを告げた。



 最初は半信半疑だったが、私がシエスタさんへの魔力供給を見せると信じてくれた。

 他人へ魔力を譲渡するのはとても難しいことらしく、アーレイさんやアリスさんはそういった知識が根拠となった。

 シエスタさんは魔力供給をすると何かしら私との繋がりを感じるらしい。

 兄さんはそんな私たちの様子を見て、信じると決めてくれた。


「それで、契約を切りたいと?」

「ええ。シエスタさんは、その、私に対して強すぎる信用と尊敬の念を抱いています。

 まず間違いなく契約が影響していると思われますので、早めに開放してあげたいんです」


 私がそう言うと、シエスタさんは兄さんを見た。

 兄さんは躊躇いがちに頷いた。私の言葉は嘘ではないと。

 シエスタさんは首をかしげた。


 どうやら自覚はなかったらしい。

 契約というのは危険だな。

 私もデス子と契約をしている。

 いつか私の感情や思考も、精霊に操られたケイさんのように好きに弄られるのだろうか。

 あるいは私が気づいていないだけで、もうそうなっているのだろうか。


「……難しいね、それは。

 魔法学的な手順はさておき、そもそもの大前提として契約は互いの了承によって結ばれる。

 そして契約が切れる条件は大きく分けて三つ。

 契約が果たされるか。

 契約が果たされないと確定するか。

 あるいは互いが契約の破棄を了承するか。

 契約の強度にもよるけれど、第三者の強引な介入はそれぞれの魂に傷を与えかねない。

 最悪の場合、君たちは人間の姿を保つことすら出来なくなる」


 人間の姿を保てない。

 その言葉が意味するところは――


「ああ。察しのとおり、デイトは魂を壊されることで化物へと変化した。

 その原因はおそらく契約だけではなく、竜の呪いによるところも大きいだろう。

 だがそれと同じことが、君たちに訪れるかも知れない」


 ――無理やり契約を切ることで、シエスタさんや私の魂とやらが壊れるかも知れないということか。


「あくまで可能性だけれどね。

 契約とは魂と魂を結びつけるもの。そして君たちの契約は私たち妖精族のものとは違って、場当たり的に強引に結ばれたものだ。

 私たちのように備えがあるとは思えない。

 契約を切るなら、正攻法しかないだろう」

「正攻法と言うと……」

「互いが契約の破棄を求めるか、契約を滞りなく遂行するか」


 なるほど、よくわかった。よくわかったが……。


「それ、どうやればいいんですか?」


「とりあえずトート女史と手をつないで、契約の結びつきを感じなさい。君ならばできるだろう」

「あ、はい」


 そんな訳でシエスタさんとお手々をつなぎます。

 シエスタさんが畏れ多いなんて感情を抱くのを感じ取る。

 ついでに契約の結びつきとやらも。

 うん。

 魔力を送ったり相手の状態を感じ取ったりする繋がりは、契約を結んだ時からあった。

 これを意識するだけなら手を繋がなくても良かったな。


「できました」

「はやっ」

「流石だね。トート女史にそれを伝えて」


 伝える?

 魔力供給をすれば繋がりが太くなるから、シエスタさんにもはっきり感じ取れるかな。


「あ、はい。なんとなく、わかりました」

「あとは二人が同時にその繋がりを切り離せば契約の破棄は成立するよ。手を離す感覚で、やってみて」

「「はい」」


 私とシエスタさんが同時に答えて、手を放す。


「どう?」


 兄さんが心配そうに聞いてくる。アーレイさんに魂が壊れるかもと脅されたのが効いているようだった。


「切れてないですね」


 私は答えて、それを証明するためにシエスタさんに魔力供給をする。


「あんっ」


 変な声出さないで。


「もう一回やりましょうか」

「は、はい」

「「せーのっ」」


 もう一回手をつないで、息を揃えて手を離した。


「どう?」


 アリスさんが、ダメっぽいねという口調でそう聞いてきた。

 うん、ダメでしたよ。

 ダメだったけど、さっきは半信半疑だったことに確信が持てましたよ。


「シエスタさん……」

「……はい」

「契約、切る気ないですよね」


 シエスタさんはそっと目をそらした。


「シエスタさんの精神に悪影響があるんですよ。それにプライバシーだって侵害されるし、メリットは魔力供給だけですよ。そんなのシエスタさんの生活に必要ないでしょう」

「……はい、ごめんなさい」

「シェス、謝られてもわからないよ」


 なぜと、兄さんが優しく問いかける。


「だって……嬉しかったから」


 シエスタさんの言葉に、アリスさんだけがわかると頷いた。


「……困りましたね。悪影響を取り除くために契約を切りたいけれど、契約の悪影響がそれを邪魔するんですから」

「シェス、どうにかできないの」

「私だって迷惑になるから、そうしようと思うけど……」


 感情を完全にコントロールできないということだろうか。

 それほどまでに契約がシエスタさんの精神を汚染しているのならば、一刻の猶予もないのかもしれない。

 フレイムリッパー対策なんて甘い考えで一年も放置せず、すぐに契約破棄に向けて動くべきだったか。


「こうなれば契約内容を遂行するべきだけれど、差し支えなければ答えてもらえないだろうか。

 二人はいったい、どんな約束を結んだんだ?」


 契約というものを大事に考えているからか、アーレイさんが遠慮がちにそう尋ねてきた。

 私とシエスタさんが顔を合わせる。


「約束というか、名前を呼んで契約してってお願いしただけなんですよね。たぶんそれがおかしな具合に作用してると思うんですが」

「私も、覚えてないです。ただ――」


 シエスタさんは一度言葉を区切って、考え込んだ。

 あやふやな何かを覚えているが、それをどう表現していいか悩んでいるようだった。


「――とても、綺麗だった、気がします」


 シエスタさんの目から、一条の涙が流れ落ちた。

 シエスタさんの感情は、とても穏やかで、祈りのようなもので満たされている。


「……ねえ、兄貴。契約って、互いが納得していないことで結ばれないはずだよね」

「そう、だね。私たちが知る限りは、ね」

「最初から気にはなってたんだけど、セージくんはさ、シエスタが死にそうになってた時に、見返りなんて求めたの?」

「え?」


 求めてないよ。そんな事を考える余裕なんてなかったし。


「ああ、そういう事か」

「私にもわかったな」

「……そうか、そういう事ですね」


 な、何?

 三人揃って変な目で私を見るのをやめて。


「セージ、お前の勘違いだ」

「え?」

「セージ君、つまり君はトート女史の生存を願った。そして、その見返り(・・・)に魔力を与えた。

 そういう事だろう」

「え、ええ。そうですよ」


 私が頷くと、アリスさんが大きくため息をついた。


「ねえ、セージ君。

 そういう時の上位存在は死にそうな人間にね、『生きたいのならば魔力を与えてやる。その代わりに、信仰を捧げろ』って契約を迫るの。

 セージくんの契約、何のメリットもないでしょう」


 え、いや、シエスタさんが生き延びたんだからメリットだと思うけど。

 兄さんも闇堕ちしなかったし、デイトも罪を重ねずに済んだし。


「はぁ……。まあ、うん、いいんだけどね。

 とりあえずシエスタのは契約とか関係なくて、助けてもらったのが原因だから、契約切ったって治らないよ?」

「えっ?」

「加えて言えば、契約はむしろストッパーになっている可能性もあるね。

 セージくんは上位存在というわけではないけれど、それでもトート女史とは比べるまでもなく強い魔力を持っている。

 その差があるのだから、契約は確かに上から下へと流れ、精神に影響を与える。

 ただしそれは契約の内容によるよ。

 相手に生きて欲しいと願った契約ならば、その方向性にね」


 ええと、どういう事?


「契約が切れれば、トート女史は自分の命よりも、セージくんの利益を優先するようになるかもしれないって事だよ」

「え、いや、そんな……そんなわけ無いでしょう。自分の命を軽く見て他人に尽くすとか」


 兄さんがおもむろに立ち上がった。

 何をするのかと見れば、化粧箱から妹の手鏡を持ってきた。


「はい」


 私にその鏡を向けてくる。

 シエスタさんが訳知り顔で頷くのが見えて、少しイラっとした。


「つまりは……」

「契約は切らないほうがいいんじゃないかな。

 トート女史が死ぬまで続く契約だから完遂も難しいし、契約破棄の合意が取れても、内容からして寿命が削れてしまうかもしれないからね」


 何それ怖い。


「ああ、誤解をさせてしまったね。契約を続ければ寿命が延びる、というのが正しい」


 ああ、伸びるはずの寿命がなくなるということか。それぐらいならまあ良いんじゃないかな。


「そして契約を破棄すればその反動で老化が早まるだけだろう」


 やっぱり削れるんじゃないか。

 そしてシエスタさんが目を見開いてこっちを見てる。完全に契約切る気が無くなった。自己利益より私を優先するんじゃないのか。


「その、シエスタさん」

「はい」

「プライバシーとか……」

「気にしません」

「わた――僕、変なものにとり憑かれてるのか、運が悪いし、それに巻き込まれるかも」

「大丈夫。私が力になります」


 あ、そうですか……。

 こうして、私はシエスタさんとの契約破棄を諦めることとなった。

 まあ、何とかなるだろう。

 いつか私が精霊様と戦うにしても、契約してるってバレなければ大丈夫だろうし。

 うん。契約のことは四人にしっかりと口止めをしておいた。

 兄さんもシエスタさんも口が堅いし、アーレイさんとアリスさんは約束を守ることに定評のあるエルフだ。

 きっと大丈夫だ。

 これはフラグじゃない。

 フラグなんかたってない。



 ……しかし、契約が双方の合意のもとでなされるのなら、あいつは最後には死ぬとわかっていたのか。


 親父から竜の呪いが離れてあいつの心臓に飛びついたとき、あいつの中にあった誰かとの繋がりは消え去った。

 そして竜の呪いが、あいつのどす黒く穢れた心臓に噛み付いた時、それこそ魂とも呼ぶべきものが壊れたのを感じ取った。

 あれは助からないと、そう教えられた(感じ取った)

 死にゆくあいつの感情は、そうなると知っているように覚悟を決めて、その上で抗っていた。


 そして精霊が、ケイさんたちとも繋がる魔力が、結果的には化物にしたが、そんなあいつを助けようとしていた。


 ままならないな、本当に。

 精霊様の直轄なら、信頼されていたのなら、もっと上手いやり方はあっただろうに。

 いや、結局はそれも私が無知だから思うことか。

 いずれ精霊様とは相対し、話をするべきだろう。


 ……私のこの考えも、お前の思惑通りか、デス子。

 まあいいさ。

 神様の手のひらにいるのだとしても、踊らされているのだとしても、私は私に出来ることをする。

 それだけだ。


「ところでセージ君、私は妹からお金を無心されるだろうと聞いていたのだが、そちらはいいのかい?」


 現実を思い出させないで。





 作中補足~~契約内容~~


 契約を交わしたとき、セージはシエスタに普通に幸せに生きて欲しいと願いました。

 結果、シエスタは平凡な幸せを望むよう精神の誘導がなされています。

 ただセージへの信仰が魂に焼き付いているので、明らかに平凡じゃない家に嫁入りとかも考えられる状態になっています。

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