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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
幕間 浴びるほどに金が欲しい
263/459

257話 エンジェルですが、何か

 




 ステージでスカートを翻し、三人の少女たちが軽快な音楽に合わせて歌って踊る。

 ギターやベース、ドラムの音も響いているが、それらの演奏者はステージ奥の暗がりで脇役として演奏に専念していた。

 いくつかの曲が終わって、少女たちは綺麗にまとまって深くお辞儀をした。

 観客の拍手が鳴り響く中、少女たちは駆け足で幕の袖に引っ込んだ。


「はいはい。ありがとうございます。ありがとうございます。

 それでは本日のメインイベント、スイートエンジェルズの新曲発表の準備に入りたいと思います」


 少女たちに変わって、燕尾服に身を包んだ美しい女性がステージに立ち、マイクを持ってそう言った。


「この場にお集まりの紳士淑女の皆様は事前にお聞き及びかと存じますが、改めてもう一度ご説明させてください。

 新曲の主役(センター)はまだ決まっていません。

 今回は運営ではなく、みなさんに決めていただきます。

 そのための投票券はお持ちですよね」


 司会の女性はそこで一旦口上を止めて、間を置いた。


「ええ、そうです。

 グッズ売り場で商品購入の際にお渡しさせていただいた券になります。

 今からスタッフが三つの投票箱を下げて皆様のおそばを回ります。

 投票箱には、可愛いエンジェルたちの名前が書かれています。

 どうぞご贔屓のエンジェルにお手持ちの投票券をお使いください」


 投票箱を持った多くのスタッフが客席を渡り歩いて、投票券を集めてまわる。

 一枚だけ入れるファンもいれば、百枚近い投票券を一つの投票箱にまとめて入れるファンもいた。ちなみにそのファンが背負ったリュックは多くのグッズでパンパンだった。


 今回のライブイベントに参加するだけで精一杯だったクリムは恥ずかしそうに俯いて回収スタッフをやり過ごし、周囲の大きなお友達が鼻息荒く彼女に投票券を譲ろうとして、クリムの両親に追い払われた。


 グライ教頭もとい、マイスター・グライは職場の人間や家族にマイスターバレをしないよう小さなグッズを四つ買い込んでいた。

 それは財布に入るサイズのエンジェルたちのサイン入り姿絵で、少女たち一人ずつのものが三つと、三人が集合したものが一つだった。

 マイスター・グライは投票券を三つの投票箱に一つずつ入れ、残った一つは姿絵と共に財布にしまった。

 帰ってから〈騎士の心得百選〉のカバーがされたコレクションアルバムに姿絵と共に収めるつもりである。


 投票券の回収は進む。

 がやがやと雑音と雑踏が響き、退屈をさせないよう、アクシデントが起きないよう、司会の女性も冗談を交えつつ注意喚起をし続けた。


「はい、それではここまで。グッズ売り場には行かないでください。今からじゃあもう間に合わないですよ。

 それでは集計作業に入りますが、皆様の愛があまりに多く溢れてしまったので、少々お時間を頂くことになりそうです。

 申し訳ありませんが今しばらくお待ちください――」


 司会の女性は一度大きくお辞儀をした。


「――とはいえ、ただお待ち頂くのではあまりに段取りが悪いというもの。

 今回はサプライズゲストとして、新たなエンジェルにお越しいただきました」


 その瞬間、新メンバーを期待して大きな歓声が湧き上がった。


「いえいえ、お待ちください。落ち着いてください。

 残念ながらお越しいただきましたエンジェルは、アイドルではありません。

 しかも男の子です」


 観客からは一斉にブーイングが生まれた。

 マイスター・グライは何も言えず、嫌な予感に身を震わせた。


「どうぞ落ち着いて。

 男の子といっても、可愛さはスイートエンジェルに引けをとりません。

 お姉さんも初めて見たとき胸がキュンキュンしました。

 この世界に、それも荒くれ者の聖地と評判の守護都市にこんな可愛い天使がいるなんて信じられませんでした」


 おお、という期待の吐息と、でも男なんだよなと言う諦めの吐息が混じり合って響いた。

 クリムは、えぇ……と、戸惑いがちに零した。


「それではご登場頂きましょう。

 かの天使は英雄の息子。

 次代を担う未来の皇剣。

 テロリストを、ワイバーンを退治した、今をときめく守護天使。

 セイジェンド・ブレイドホームさんです」


 ドラムが小刻みに太鼓を叩く。

 それに合わせてステージ上に深いドライアイスの霧がが立ち込めた。

 ドラムの音はテンポを速め、緊張感を加速させる。

 それが飽和に達した瞬間、霧は一瞬で散り、シンバルが大きく響いて、スポットライトは一点を映す。

 誰もいない、ステージの中央を。


「あ、あれ?」


 司会の女性が困惑気味に誰もいないスポットライトを見る。

 観客はそんな女性に、後ろ後ろと声を上げた。


「え? うし――」

「どうも」

「――ひゃあっ!!」


 司会の女性の真後ろに、セージがいて、女性に気づかれる直前に脇をつついて驚かせた。

 女性が驚いて飛び退くのを横目に、セージはすたすたとスポットライトの中まで歩いていった。

 その手にはいつの間にか女性が持っていたマイクが握られていた。


 セージは静かに観客席を見渡した。

 観客席には何がなんだか分からないといった様子で、不可思議な緊張感が生まれていた。


「あ、どうも。登場失敗しちゃいました。ごめんなさい」


 あははとセージが笑うと、緊張から解放された観客も笑顔になった。


「さてご紹介に預かったセイジェンドですが、今回はお仕事で皆様の警護を仰せつかったんですよね。

 魔物の来ない結界の中で何から警護すればいいのか、子供の僕にはわからないんですが、その上大切なイベントの前に皆さんが退屈しないようにって、こんな所に立たされたんですよ。

 ひどいですよね。

 僕は正直なところ真面目な一市民なので、みなさんを楽しませられる芸なんて持ってないんですよね。

 せいぜい出来ることなんて英雄だなんて呼ばれているバカ親父の馬鹿話ぐらいなもんですよ」


 大勢の視線にさらされながら、セージは言いよどむことなく流暢にそう言って肩をすくめた。

 司会の女性がマイクを返して欲しそうにしていたが、セージはそれには気づかないふりをした。


「さてそれじゃあまずは――」

「セージ君踊ってー!!」

「――え?」


 セージが漫談に見せかけてジオの悪評をばらまこうと意気込んだところに、クリムの声が響いた。

 少女の澄んだ甲高い声は、劇場の中に綺麗に響き渡った。

 純真な少女はセージがいきなり大きな舞台に立たされて困っていると思ったのだ。

 何をしても大きな声で応援するから、盛り上げるから、だから頑張ってとクリムは叫んだ。

 そんな少女の叫びに感化され――


「踊れ」「踊って」「踊れよ」「可愛いよエンジェル」「歌って」「脱いで」「踊れ」「踊れ」「女の子だよね」「踊ってー」「下手でもいいから」「頑張って」「パンツ見せて」「踊って」


 ――堰を切った川のように、観客から踊れコールが湧き上がる。


 セージの登場と同時に前席の観客の後ろに隠れたマイスター・グライも、清水の大舞台から秘蔵のコレクションを抱えて飛び降りる覚悟で身を表し、声を上げた。


 セージは困った様子で、司会の女性を見た。

 司会の女性はプルプルと首を横に振った。こうなったら止められないと。

 セージはお仕事なんで止めてくださいと、にっこり笑ってマイクを返した。


「そ、それでは守護都市のエンジェル、そのダンスをお楽しみください」


 何だとこの野郎と、セージは目を見開いた。

 司会の女性はマイクをセージに押し付けて、そそくさとステージの袖に逃げていった。

 セージは大きくため息をつき、まあいいかと頭を上げた。


「それじゃあすいません、時間まで適当に音楽の方、おねがいしまーす」


 観客から小さな笑いを取りつつ、セージは暗がりにいるバンドの人たちにそうお願いした。

 セージがマイクを司会の女性に向けて放り投げたところで、ドラムスがスティックが打ち鳴らした。



 打ち合わせにない即興のダンス披露ということで、照明や音響等のバックアップは十分なものではない。

 ただセージには己すらも俯瞰して操る不死の心(無我の境地)とそれを補助する魔力感知(仮神の瞳)がある。

 そして無詠唱の魔法で演出面のフォローもできる。

 なので、出来る限るのことはして盛り上げようと、セージは頑張った。



 ドライアイスではない幻影の霧がステージに立ち込める。

 セージは薄暗いその中で体から淡い光を放った。観客の目を惹きつけるその光を纏って、ステージの端に――見栄えを意識して高く大きく伸身の宙返りで――跳んだ。

 文字通り人間離れした跳躍に観客は大きなどよめきと歓声を上げた。


 ステージの逆端では霧が集約してほのかな輝きを放つ。

 それはしだいに輪郭を持ち、姿を表す。

 それはハイオークだった。

 一匹だけではなく、二匹、三匹と、霧の中からハイオークはどんどん生まれてくる。

 単独でいくつもの幻影魔法を複雑に使いこなすセージにマイスター・グライは息を呑むが、専門知識のない観客はシンプルに新手のアトラクションに興奮した。


 セージは竜角刀を抜き、ハイオークも得物を構え、互いにステージ中央でぶつかり合う。

 セージが刀を振るうたびに、ハイオークは両断され、霧へと還っていく。


 セージにダンスの心得はない。

 これから行うセージの踊りは、舞台の殺陣。

 剣の腕はそれなりだと自負しているし、毎日反復練習をしている型に添って体を動かすだけなら、それほど思考のリソースは必要ない。魔法との併用も十分可能な範疇だった。



 ハイオークとの大立ち回りを存分に見せ、音楽の転調に合わせて全てのハイオークを一旦全て切り伏せる。


 これで終わりなのと、観客は息を呑んで様子を伺う。

 セージの目配せを受けて、少しずつ息が合ってきたバンドが音楽を盛り上げる。

 霧がひときわ大きく集まって、ハイオーク・ロードが姿を現す。

 その体格はセージの記憶にあるものよりさらに一回り大きくデザインされていた。


 セージはそのハイオーク・ロードの持つハルバードと、刀を打ち合わせる。

 ダンスには鍵を掛けるという意味でのロックという言葉が有り、ぴたりと動きを止めることでメリハリをつけて魅せる技術がある。

 それを利用すれば剣戟を演出することもできるのだが、セージにそんな技術は当然ない。

 ないが魔法で壁を造って、それに刀を打ち付ける事で無理やり幻と打ち合っているように見せた。


 セージとハイオーク・ロードは何度となく打ち合い、姿勢を変えて攻防を繰り広げた。

 それは五歳の時の記憶の再現でもあった。

 あの時のように一合ごとに間合いを取っているとテンポが悪くなるのでそのままではないが、何度となく夢に見て、記憶の中で再戦をしたそれは即興とは思えないほどのクオリティーを見せた。


 観客はこれが見せものであることを忘れて固唾を飲んで戦いを見守った。

 照明の人もバンドマン達も頑張った。何しろセージの動きは速くてまともに目で追えないし、セージの動きのリズムも即興では掴みづらい。

 だがそれでもプロである彼らは頑張った。

 ショーとしての完璧な仕上がりには程遠くとも、彼らの必死さは確かに観客に伝わり盛り上がりを見せる。



 セージは激戦の末、ハイオーク・ロードの首を切り落とした。その首はグロ配慮のため、血を噴き出すこともなく即座に霧へと還った。



 セージは、あ〜疲れたとでも言いたげな所作でステージの袖へと歩く。

 その後ろで、残っていた全ての霧が集まり、大きな影を作った。

 観客は後ろ後ろと、声を上げてセージを注意した。

 大きな影はワイバーンへと姿を形作った。


 セージはうん? と、可愛らしく小首をかしげて観客を見る。

 ワイバーンはその口に大きな火球を溜め込んだ。

 観客は悲鳴のような必死さで、セージに気づいてと、声を張り上げた。

 セージがワイバーンの方を向くのと、火球が放たれるのはほぼ同時だった。


 セージは慌てて迫る火球を竜角刀で切り払った。

 火球は弾き飛ばされ、観客席の上で花火のように弾けとんだ。

 小さな火の粉がキラキラと舞い散って、それに触れた観客が思わず熱いと悲鳴を上げたが、それに熱量はこもっていなかった。


 ワイバーンは再び火球を作ろうとし、セージはそこに真っ直ぐに突っ込んだ。

 ワイバーンはそんなセージを大きな口で迎え撃った。

 ガチンとそんな擬音が聞こえてきそうなほど勢いよくワイバーンの顎は閉ざされ、セージはその姿を消した。

 悲鳴を上げる観客もいたが、見失った獲物を探すように首を振ってあたりを見回すワイバーンの姿に、落ち着きを取り戻す。


 セージはその間に観客からは見えない舞台の上の、梁の部分で照明の人に『次で終わりです』と囁き、ステージ中央を指さした。

 バンドの方にもハンドシグナルでそれを伝えた。

 そして音楽がクライマックスに向かうのに合わせて、梁から飛び降りた。


 飛び降りてくるセージの姿を見つけた観客が声を上げ、その次に行われることへ期待を馳せる。

 セージはそれを受けて、ワイバーンの首を真上から両断した。


 霧の晴れたステージ上、セージは照明を浴びながら竜角刀を鞘に収め、綺麗に一礼した。

 観客はセージの剣舞に、スタンディングオベーションで応えた。


 ステージの端では、司会の女性が『この後がメインイベントなのに……』と嘆いていたが、それは惜しみない称賛を浴びるセージの耳には入らなかった。



 ******



 投票結果の集計をする間、アイドルの少女たちは控え室に下がって休憩を取っていた。

 失われた水分とカロリーを求めて、クッキーを頬張り蜂蜜とレモンのジュースで胃に押し流す。

 手早く衣装を脱いで、冷やした濡れタオルで汗を拭いて、インナーから着替え、新曲に合わせた新衣装を着込んだ。

 それらすべてを三分以内に終わらせた。

 ファンのみんなを待たせてはいけないというプロ意識が少女たちにはあった。


「準備できました」


 少女が声を上げると、控え室にプロデューサーのホルストが入ってくる。


「結構。素晴らしい出来だ。とても美しい」


 ホルストは新衣装に身を包んだ少女たちを見て、手放しに賞賛した。

 少女たちはそんなホルストを見て、いつも連れているマネージャーや護衛がいないのを見て、互いに目配せをし合った。


「それで、この後なんですが……」

「うん?」


 ファンには投票によってセンターを決めると言ってあるが、それはグッズの売上を上げるための方便だと前もって聞かされてある。

 だがしかし誰になってもいい様に練習をしてきたし、センターが誰かはまだ決まっていない。

 今から、敏腕プロデューサーのホルストが決めるのだ。


「私たち、覚悟は決まっています」

「……え?」

「その、衣装は、汚さないでくださいね」

「えぇ……」


 ホルストは呻いた。

 ホルストの股間はセージの登場でかなりダウンサイジングしていた。

 なにせあの天使は連れ込み宿に押し入って間違いましたの一言ですませ、あげく精霊様の遣い――状況から判断するに、天使はそれを知っていたと推測した――を殺そうとするのだ。

 まさしくあの(・・)英雄の息子と納得できる所業だ。

 ホルストのような常人には決して理解のできない常軌を逸した英雄の卵だ。

 警備主任の言葉に納得はしたようだが、うっかりここで行為に及べば、後先考えずに攻撃魔法を誤射してきかねない。


「私たち、決めたんです。みんな一緒がいいって」

「はい、だから誰を選んでも構いません。でもみんなで相手をさせてください」

「私たち、初めてだから上手く出来ないかもしれません。でも、一生懸命やりますから」


 ホルストは吐き気をこらえるのに必死だった。

 最後の言葉はそう言えば男が喜ぶと確信してのものだったが、そもそもホルストは少女たちが処女かどうかに興味はない。

 貞操を、処女を守ろうとしているかどうかが重要なのだ。

 そしてそれを誰かに捧げようと心に決めていれば言うことはない。

 なので経験のある少女の処女アピールは、歪んだ性癖のホルストにはストライクどころかひどいボール球。

 それも頭部を狙う危険なビーンボールだった。

 バッターボックスに立つ勇気すら奪うものなのだった。


「……覚悟を決めるのが早すぎはしないかね」


 少女たちは顔を見合わせた。

 ホルストがまるで賢者のように悟った顔で、少女たちを案じたからだ。


「その、噂は聞いていたから」


 戸惑いがちに、少女が言った。

 ホルストは「噂?」と、オウム返しに尋ねた。


「はい、その、枕営業を……、ごめんなさいっ!!」


 少女は言いかけて、謝った。

 噂や天使の言葉を鵜呑みにして、ホルスト(プロデューサー)のことを悪い方に疑ったのかもしれないと、そう思い直したからだ。

 他の二人も、恥ずかしいことを言ったと顔を赤らめる。

 経験はあっても、豊富ではないんだなぁと完全に賢者モードのホルストは見通した。

 そしてそんな噂があるのなら、もうアイドル志望の子を育てる意味はないのかもしれない。


 ホルストの目的は嫌がる女の子を手込めにすることであって、自分から囲われたがっている女の子を相手にすることではない。

 それなら娼婦の方が手軽でローリスクだ。

 芸術都市に彗星のごとく誕生した敏腕ロリコンプロデューサーはこの日、引退を決意した。


「ははは、構わないよ。それじゃあ集計結果を見に行こうか」

「「「え?」」」

「どうした? センターは投票で決めるといっただろう?」

「え、でも、それは……」

「嘘だと思ったかい。それが嘘だよ。

 私が決めると言ってなければ、君達が稽古をおろそかにしてファンへの投票のお願いにばかり力を入れるかもしれないからね。

 騙して悪かったね」


 ホルストはそう言った。もちろん嘘である。

 投票で主役(センター)を決めれば、アイドル達が愛嬌を振りまくことに専念して肝心の芸がおろそかになりかねない。

 それは事実だが、そもそもアイドルは愛嬌を振りまくのが仕事だ。芸だけを極めたいのならダンサーにでもミュージシャンにでもなればいい。

 少なくともホルストはそう思っている。

 だから本音はすっかり萎んでしまった息子のためだったのだが、そんな事を言っても仕方がない。

 息子はもう勃ち上がる気力を完全に失っているのだから。


「「「プロデューサー……」」」


 アイドルの少女たちが感激した様子でホルストを見つめる。

 ホルストは少女たちを連れて集計場――建前を整えるため、集計自体はちゃんとやっていた――に向かった。



 なお、名家の悪政に慣れきっているファンたちは最初からこの投票を信じておらず、独自のネットワークで投票結果を集計していた。

 彼らが調べた結果と発表される結果に大きな差異がなかったことから、スイートエンジェルズはクリーンなアイドルとして認知されその人気を拡大させていくのだが、それは完全に完璧にこの物語に関係のない話である。





マイスターmob「いやはや、守護都市のsweet angelもすごい逸材でござるな」

マイスターG  「ええ、確かに。素晴らしいダンスでした」

クリム     「ねえ、セージくんの姿絵って売ってないの?」

クリムパパ   「ここにはないようだね」

クリムママ   「セージくんに頼んだら? 一枚ぐらいサイン付きでくれるでしょ」

クリム     「嫌だよそんなの恥ずかしい。ねえ守護都市に行けば買えるかな」

クリムパパ   「それは、ちょっと……、予算が……」

マイスターG  「お話中に失礼。セイジェンド氏は姿絵の販売を認めてはいませんので、守護都市に行っても無駄足になりますよ」

マイスターmob「知っているでござるか、マイスターG」

クリム     「え、おじさん守護都市の人なの」

クリムママ   「クリムっ、話しかけちゃいけません」

マイスターG  「……」

クリムパパ   「す、すいません、妻が失礼なことを」

マイスターG  「いえ、どうぞお気遣いなく。ですが嘘は言っていませんので」

マイスターmob「うむむ、もったいないでござるな」

安エルフ    「話は聞かせてもらったわ」←仕事が終わったあとダッシュでやって来た

マイスターG  「ぶふっ!!」

安エルフ    「このセージくんのファンクラブ創設者にして会員番号0001番アリンシェスが責任を持ってセージくんのグッズ販売を認めます」

マイスターG  「ちょ、ちょっとお待ちなさい。本人の意思も確認できていないうちからそんなことは」

安エルフ    「今なら大丈夫。ギルド・マスターもギルドを上げて金策手伝うって言ってたから。本人にバレる前に販路を確立できるよ。ファンクラブには法律に詳しい人も商売に詳しい人もいるから」

マイスターG  「だから本人の意思を――」

マイスターmob「素晴らしいでござるなコスプレエルフ殿。ぜひ協力させて欲しいでござる」

安エルフ    「コスプレじゃねぇっ!!」

クリム     「……なんだこれ?」


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