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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
幕間 浴びるほどに金が欲しい
260/459

254話 日本円換算で350億円になります

※お金の単位を使わずざっくりやるのに限界が来たため日本円換算で説明をしていきます※

 




「ええと、すいません。何をおっしゃっているのか、私には理解ができません」


 嘘だ。ただ脳が理解を拒んでいた。

 ギルドの応接室で、私はソファーに座っている。

 対面のソファーには初対面のギルドマスター、そしてギルド理事長であるスノウさんが座っている。

 アリスさんも同じ部屋にいるが、ソファーには座らず立って控えている。


「まあ驚くのは無理もないだろうな。俺も話を聞いて耳を疑った。

 だが慰霊碑が破壊されたのは間違いのない事実だ。

 ジオ殿には多くの難敵を討伐してもらい、窮地に陥ったギルドメンバーが何度も救われてきた。だがだからといってこれはギルドが庇える範疇を超えている。

 明日の新聞の一面は、この話題だろうな。手の回らなかった芸術都市の方ではもうすでに号外が配られている」


 ギルドマスターが――名前はニルアさん。年齢は初老で、筋骨隆々の分厚い肉体をした女傑だった――はっきりとした口調で説明を繰り返した。


「まだ試算の段階だけど、君の家には損害賠償請求がなされるよ。金額は、そうだね。だいたい――」


 スノウさんも、繰り返して私にその金額を告げる。

 それは日本円換算で350億円という、想像の及ばない大金だった。


 被害の内訳としては、

 壊れた慰霊碑の撤去作業費。

 新たな慰霊碑の設置費用。

 親父が設置した呪いの刀に合わせた外観の再設計、およびその工事費用。

 そして今回の暴挙に心を痛めた英霊たちの遺族への見舞金。

 どれも目を見張るような金額で、それらを合算したのが350億(日本円換算)というとてつもない数字だった。


 端で聞いていたアリスさんは焦点の合わない遠い目をしていた。

 私もきっと、同じ目をしているだろう。


「……よし」

「うん?」

「セージ君?」


 私はニッコリと嗤った。


「事前に教えていただきありがとうございます。

 とりあえず私たちは父との親子関係を解消し、アベル・ブレイドホーム、そしてシエスタ・トートと養子縁組を結んで家を出ようと思います。

 後のことはどうぞクソ親父改、赤の他人のジオレイン・マダオとお話ください」

「お、おい」

「まあ落ち着きなよ、セージ君」


 これが落ち着いていられるか。

 色々と設備投資したブレイドホーム家も良好な関係を築いているご近所さんたちとの繋がりも惜しいが、だからといって破産確実な未来なんてお断りだ。

 損害賠償請求が正式に届く前に、親父とは他人にならなければ。

 幸い守護都市の法で兄さんの成人は認められている。シエスタさんにも協力してもらってさっさと逃げよう。

 グッバイ親父、嫌いじゃなかったよ。


「セージ君。損害賠償請求がなされるのは、ジオさんと、そして君だ」


 ……ほわい、なぜ?


「いや、だって、ジオさん踏み倒すから」

「だ、だからって、そんな無法なっ!!」

「それが合法なんだよ。ごめんね。

 一応説明しておくと、君はジオさんの子供で高い水準の所得を持つ社会人だから、保証人という扱いになるんだ。

 そして請求額とジオさんの保有資産を鑑みて単独での弁済は不可能だと判断されるから、セージ君にも既に請求が発生しているんだよ。

 もちろんいきなりこんな大金用意しろって言っても、無理なのはこっちもわかっているよ」

「いや、時間かけても無理なんですけど。利息だけで年収が吹っ飛ぶんですけど」


 だって私の年収は日本円換算で一億円もない。いや、近い額は稼いでいるのだが、それを返済に全当てしても350年かかる計算だ。

 借金という形になれば利息が0.3%超えたら返しても返してもその借金が増え続けることになる。

 うん。こうなれば自己破産の申請をしよう。家とかなくなるけど、仕方がない。

 そうだ。この際だから姉さんといっしょに政庁都市暮らしでもしようか。親父は荒野に捨てて。

 ああ、だめだ。自己破産なんてしたら厳格に資産管理されるから兄さんと姉さんの学費が払えなくなる。せめてあの二人は綺麗な体で社会に送り出さないと。


「大丈夫か、こいつ。頭抱えてるけど。やっぱりジオ殿を呼ぶべきだったんじゃ」

「いや、ジオさん話聞かないし、伝えてもくれないから二度手間になるよ。

 まあそれはそれで楽しそうなんだけど、あんまり遊ぶのも悪いからね。

 おーい、セージ君。帰ってきな。利息はつかないから。ちゃんと返済できるようフォローもするから」


 スノウさんのフォローとか、嫌な予感しかしない。


「うん? じゃあ自力で返済する? 利息無しも条件付きの案件だから、話を聞いてもらえないなら年5パーセントの利息付きになるし、もちろん君たちには破産申請の権限はないよ?」

「あ、聞かせていただきます。私、スナイク理事長様々の忠実なしもべでございます、でへへへへ」

「……セージ君」


 アリスさんが悲しそうに目を伏せているが知ったことか。お金様の前ではプライドなんて犬も食わないゴミでしかない。

 あとスノウさんはナチュラルに心を読むのをやめて。


「まずは君たちの持っている貯金を返済に充ててもらう。銀行預金の9割はなくなると思ってくれ。あと家に置いてある現金もあとで役人が取りに行くから、抵抗はしないでね」

「はい」


 それは覚悟の上だ。というか、全額没収でないだけ温情的だろう。

 私の貯金は1億(日本円換算)とちょっとだが、親父のギルドカードには70億(日本円換算)ぐらいある。これは二年前のハイオーク・ロードと、竜討伐の報奨がそのまま残っているからの額である。

 そして託児所兼道場の、事業所としてのブレイドホーム家の銀行口座にも数千万(日本円換算)入っている。

 ただ家の金庫には正直なところ、そこまでの大金は入っていない。


 それらの9割が返済に当てられるということは、残りは290億(日本円換算)をはっきり切ることになる。

 ありがとう竜。

 おかけで少し希望が見えてきた。

 だから年に一回くらいのペースで来てくれ。全部バカ親父が相手するから。


「さて次だけれど、セージ君はテロリスト討伐の報奨を辞退していたね」

「……はい」

「まずそれを取り消してくれ。報奨はそのまま借金返済に当てるから」


 テロリストとはワイバーンと魔族だ。

 公には私がそれを討伐したとなってはいるが、実際にそれを成したのは、あいつだ。

 あいつの戦果を、私が受け取る?

 嫌だ。

 すごく嫌だ。

 すごく嫌だけど、あいつならこういう時、間違いなく断るよな。実益よりもプライドを優先して。

 あいつと逆の選択をすると考えれば、ギリギリ我慢できる、か。

 まあ、いい。

 まあいいとしよう。


「……わかりました」


 くそっ、屈辱だ。

 地獄であいつにあったら腹いせに指差して嘲笑ってやる。お前の稼ぎはもらっておいてやったって。


「うん。報奨金とは別に副次的な褒章としてランクアップがあるからね。表彰式が終われば君は晴れて中級上位だ。

 実績は申し分ないから、クールタイムが開ければ上級の試験も受けなさい。それで収入は今の倍以上になるだろう」


 あー……やっぱり上級になるのか。いや、仕方のないことだけれど。

 補足しておくと、ギルドで一回ランクアップすると、次のランクアップまで最低半年は期間を空けないといけない。スノウさんの言うクールタイムとはそれの事だ。


「わかりました」

「合わせて、君達が持っている引退後の見舞金と恩給の権利だけど、その先受け取りの申請もよろしく。今回は特例で満額受け取れるよう手続きして、それを弁済に充てるから。それでだいたい……」


 スノウさんが残りの金額を口にする。日本円換算でおおよそ250億円だった。

 40億減だが、これも親父の竜討伐分が大きい。70億円という莫大な報酬とは別に、引退後の退職金と恩給がついていたからだ。親父はもう引退しているので、申請さえすればいつでも受け取れる状況にあった。

 収入が倍になるということを信じれば、一応完済まで130年を切ったな。長生きしよう。


「それで、ジオさんの事なんだけれど――」


 なに?

 火炙りにして見世物にでもするの?

 どうせ死なないからどうぞどうぞ。


「――現役復帰をさせてあげられない。

 そもそもそういうルールがあるんだけど、それを別にしても彼を引退させた際に特級にランクアップをさせている。

 ジオさんが現役復帰すれば、皇剣でもないのに特級と言う扱いだ。それを認めるわけにはいかない」


 ああ、それはそうだ。

 何をしでかすかわからない馬鹿に、それが許される特権を与える事になるのだから。


「だからジオさんは普通の仕事は受けられない」

「はい」

「話についてこれているか? ジオ殿はギルドで仕事を受けられない。借金はお前がメインで返していくことになると言ってるんだぞ」

「はい、わかっています――」


 ギルドマスターの言葉に頷く。それは最初の方に聞いたよ。


「――って、そうだよ。なんで私が親父の借金返す流れになってるんだよ。不当にも程があるだろっ!!」

「それは最初の方にやったよね」

「すいません。叫ばずにはいられなくて。

 ああ、親父が仕事受けられないのはわかっていましたが、言いようを考えれば抜け道があるって意味でしたよね」

「む」

「ははっ、そういう事だね」


 スノウさんが笑って肯定した。


「三年前に政庁都市のひよっこ騎士を指導したのは覚えているか。

 ああいったギルドが仲介をする指名依頼ならば問題ない。ただ特級であるジオ殿の場合、仲介手数料がとても高くつくから指名が入ることは少ないだろうがな。

 ギルドを仲介せずに直接お前たちに何か依頼が入ることもあるかもしれないが、それは極力断れ。

 上級相当のお前もそうだが、特にジオ殿の武力がお金で動くと思われれば、良くないことを考える輩が多く出るだろう。そこはギルドで目を光らせたい」

「わかりました。注意しておきます」

「もう一つの抜け道は緊急案件だね。

 例えば都市防衛戦。

 とくに竜討伐は実績のあるジオさんには特に出て欲しい案件だ。その時は特殊防衛指令が発令されるだろう。

 通常のギルド業務とは違って、それらはまっとうに報酬が支払われるよ」


 そうだね。それがあったから借金が大分減ったわけだし。

 本当に竜、来ないかな。私が見つけて親父が狩るから。二人だけでやればたぶん2,3匹で綺麗な体になれるから。

 そして報酬減るから、竜が来た時はケイさんとかラウドさんにはおとなしくしてもらおう。約束とか私、覚えてません。


「ただ気をつけて欲しいのは、ジオさんは基本的にはギルドの仕事を受けられない立場だ。

 緊急と認められない場合、例えば、外縁都市の戦力だけで危なげなく完遂できる防衛戦であれば、首を突っ込んでも報酬は支払われないだろうね」

「わかりました」


 つまり真っ当なギルドメンバーである私なら、首を突っ込んでも許される……もとい、報酬が期待できるという訳だな。


「……ははは。なるべく現地の人たちと軋轢を生まないようにね」

「うん? 何を言っている、スノウ」

「何でもないよ、何でもね。

 さしあたっては以上かな。とりあえずこの後はこまごまとした申請書を書いてもらおうか」


 スノウさんがそう言って、ギルドマスターが頷く。


「そうだな。アリンシェス」

「はい」

「話は聞いていたな。書類を回せ。ジオ殿の署名もしっかりもらっておけよ」

「はい、大丈夫です」

「よし。じゃあセイジェンド、ギルドカードをアリンシェスに渡してくれ。ランクアップの手続きを済ませる」


 私は頷いて、ギルドカードを近寄ってきたアリスさんに手渡した。


「とりあえず話はこれで以上かな。何か質問はあるかな」

「仕事をしていくのは当然として、今後、何かしらの特殊な依頼が出るのでしょうか」

「足元を見て無理な命令を出すという意味ならばノーだ。

 お前はすでに戦力でも人望でも、ギルドで中核的な立ち位置にいる。お前を無理やり死地に送り込めば、ギルドの信用はがた落ちだろう。

 ただ報酬が高額な、他の戦士どもがやりたがらない仕事は優先して紹介するだろう。自分でリスクを天秤にかけて受けるかどうか決めろ」


 つまりこっちは無茶振りしてないから、報酬に目を眩ませて死んだら自己責任でよろしくってことですね。わかります。


「まあ問題ありませんよ。私は不死身なんです」

「……」

「……っ」


 スノウさんが真面目な顔で黙って、ギルドマスターが目頭を押さえた。

 なんだ?


「なんでもない、なんでもな。そう気負うな。必要ならば、ジオ殿を連れていけ」

「……うん? それはルール違反では?」


 なんだかギルドマスターの態度……というか、向けてくる感情が急に変わった気がする。


「ジオ殿がギルドメンバーの仕事を肩代わりすれば、たしかにそれはルールを潜る行為だ。そんな事をしたギルドメンバーには罰を受けてもらう事になる。

 だが親が幼い息子の仕事を見学するなら、少し手伝うぐらいなら、誰も文句は言わんだろう。ジオ殿も幼い頃にはアシュレイたちからそうしてもらっていた。

 少なくとも俺は文句など言わんし、ギルドは俺が法だ。気にするな。

 ただ大ぴらには言うな。それだけだ」


 熱い口調でそう語るギルドマスターは意外に理解のある人だな。まあ親父に手伝ってもらうっていう選択肢は無いんだけど。

 親父はトラブルメーカーだから連れて歩きたくないし、仕事はきつくなるけど、どうやらこれまでとそう変わらない生活を送れるようだから、そういう意味でも親父には家にいて欲しい。

 色々ときな臭いから、家を守るという意味で。


「他に質問は?」

「いえ、特には」

「そうかい。それじゃあ僕はお暇するけど、手続きが終わるまでゆっくりしておくと良い。お茶菓子もあるよ」

「あ、はい。お手数をおかけしてすいません。ありがとうございました」


 スノウさんがそう言って席を立ったので、私も立ち上がって見送る。


「お前とはもう少し話をしたいが、俺も仕事がある。またな、セイジェンド」

「はい、この度はご迷惑をおかけしました。非才の身ではありますが、今後ともご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いいたします」

「何の皮肉だ、それは」


 ギルドマスターには別れの挨拶を笑われたが、何故だ。

 私はそのまま応接室の上等なソファーで、バターの香るクッキーを食べながらアリスさんを待った。

 帰ったら、とりあえず親父をしばこう。そんなことを考えながら。





セージ 「……」

ジオ  「帰ったか。何だったか」

セージ 「くたばれバカ親父っ!!」

ジオ  「な、なんだいきなり。一体どうしたっ」


シエスタ「ええと、どうしたんでしょう」

マリア 「……セージ様には無体を働く正当な理由があります。そっとしておきましょう」←借金のことを知っている

シエスタ「何か知っているの?」

マリア 「あの子は、とても大変な運命を背負っているのです。私にはどうすることもできません」←貯金はそんなにない

シエスタ「何? なんなの?」


セージ 「ちくしょぉぉぉぉおおっ!!」

ジオ  「くそっ、なんだと言うんだ。俺は何もしてないぞ!!」

シエスタ「ああっ、セージさん」

マリア 「我慢できず殴り飛ばしましたね。本当に最低な男です」

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