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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
幕間 浴びるほどに金が欲しい
258/459

252話 テストを受けてみよう

 




「私は家を出て、学校に行きたい」


 姉さんがそう言うと、親父は真剣な面持ちでその目を見つめた。

 親父はマリアさんに告白されたばかりだというのに、それで良いのだろうか。

 結婚について人の事をとやかく言う資格は私にはないが、それはそれとして親父が理解者と結婚できるチャンスなんてもうこれが最後だろうに。


「だめだ」

「なんで。アベルには簡単に許したのに」

「アベルは覚悟がある。準備もしていた。思いつきで言っていない」


 親父が珍しくまともな理屈をこねているが、信用してはいけない。


「親父、本音は?」

「……マギーは女だぞ。家を出て、ろくな目に遭うものか」


 まあ、親父の言い分も理解できる。もしも私にチート魔力感知がなくて、姉さんが一人暮らしする先が守護都市の安アパートだったら、私も絶対に反対する。

 だって間違いなく犯罪者の餌食になるから。


「大丈夫だもん。寮で一人暮らしする人もいるって、それが普通だって、クリムも言ってたし」


 そうだ。守護都市には普通の学校がないため、学校に通うのなら必然的に守護都市を降りることになる。

 まあ通信教育という手段はあるのだが、姉さんは一度家から離れるという決断をしていた。


 さて話を戻すが、この国において守護都市以外の都市の治安は、そこまで悪くはない。

 普通に暮らすだけならそうそう事件に巻き込まれることはないはずだ。

 名家絡みや、あるいはその土地特有の文化の違いで揉め事に巻き込まれる可能性はあるだろうが、その辺はアパートの大家さんや自治会の会長さん――自治会なんてあるかどうか知らないけど、きっと似たようなものはあるだろう――に普通のお菓子を持って挨拶し、あとその都市の名家にも金色の菓子折りを持って親父と挨拶に行けば予防できる。

 お菓子の力はいつだって偉大なのだから。あと親父の武勇伝(あくみょう)も。


「だめだ。お前はそこらのハンターにも負けるだろう。自分の身が守れるものか」

「姉さんに何を求めてるんだよ。外縁都市のハンターって、都市の中でも強い人扱いだからね」


 もう私でも指先一つでダウンさせられるけど。


「わかった。じゃあハンターより強くなる」

「ええっ!?」

「セルビアだってもうハンター上級並だって話だし。そんなのすぐなれるもん。それでいいんでしょ」


 いや、そんな簡単にはなれないからね。妹は毎日真面目に訓練してるからね。姉さんは魔力はあっても運動の方はそこそこのポンコツだからね。


「む、むぅ……。だが、女の一人暮らしなんてのはな」


 あ、親父が言い負かされそうになって困っている。姉さんがハンター上級になるとか無理なのに。

 しかしマリアさんは女で一人暮らしなんだけど……。まあ上級の戦士を心配するなんてのは、野暮なんだけどね。


「マギーはどこの高校に行きたいの?」

「……まだ、決めてない」


 兄さんがそう問いかけて、姉さんがバツが悪そうにそう答えた。


「じゃあ政庁都市にしなよ。あそこなら学園都市並みに色んな高校があるから、気にいるのもあるだろうしね。

 どうせ今すぐ高校に入れるわけじゃあないんだから、来年そこで僕と一緒に暮らそう。それでいいだろ、父さん」

「……むぅ」

「えぇ!?」


 唸る親父と、嫌そうな姉さん。


「私、一人暮らししたいのに」

「僕は二年しかいないよ。それで問題がなさそうならそこから一人暮らしすればいいし――」


 姉さんが顔を明るくし、


「――ダメそうなら、無理矢理にでも連れて帰るよ」


 どんよりと暗くした。


「……ねえ、アベル」

「うん? なに、シェス?」

「マギーちゃんとは血が繋がってないわよね」

「う、うん」

「変なこと考えないでね」

「だ、大丈夫。そんな事はしない」


 シエスタさんの妙な気迫に、兄さんがたじろぐ。


「マギーちゃん」

「う、うん」

「アベルが女の子を連れ込むようなことがあったら、ううん、浮気してそうだったら、教えてね」

「うん、わかった」

「あの、してそうってだけで有罪にするのはやめて欲しいかな、なんて……いや、うん。何でもないです」


 尻に敷かれている兄さんが項垂れる。流石ではないです。


「待て。話を勝手に進めるな。俺は良いとは言ってないぞ」

「じゃあ他には。他に理由はないんでしょ。それじゃあ良いじゃない」

「む……いや、そう。セージ。さっきから何を黙っている。らしくないぞ」


 あ、ヘルプコールが来た。


「まあ姉さんには将来の進路を考える時間と機会が必要だとは思ってたから、兄さんが見守って、文化的な都市で学べるなら、それに越したことはないかと」

「なん、だと。お前はそれでいいのか」

「……寂しくないかって意味なら、寂しいかもね。でもいつかはみんな離れていくものだよ。私だって成人したら家を出るつもりだし」



「「「「「「はっ!?」」」」」」



「えっ? なんでみんなハモるの」

「ふざけるなよセージ、お前がいなくなったら誰が面倒事を片付けるんだ」

「お前は家にいなきゃだろ。勝手なこと言うなよ」

「セージさん、何か理由があるんですか。嫌な思いをしているというなら、私がそれを片付けますから」

「なんでよセージ、私が変なこと言ってるから? わがままだから?」

「お前、空気読めよ。今はマギーの話してたところだろうが」

「アニキ、いなくなるの?」


 一斉に喋るの止めて。私は聖徳太子じゃないから。


「将来、将来の話だよ。私が成人したらみんな大人になってるでしょ。

 いい区切りだから、世の中を見て回る旅でもしようかなって、そう思ってるだけだよ」


 あとついでに精霊様とデス子の関係を調べて、穏当な落としどころを模索するつもりだけどね。


「……初耳だぞ」

「まあ、初めて言ったからね。それよりもマ――姉さんのことを話し合おうか。

 ……妹?」


 妹が抱きついてきて私の体にグリグリと頭を擦りつける。頭を撫でろというサインなので、優しく撫でる。

 周りがこっちを見るが、なんだ。


「何?」

「なんでもない。それで、どうせいつか離れて行くから、それで良いということか」

「そんなことは言ってないよ。

 なんて言うかな。人生なんて人それぞれで、それぞれのものでしょう。たとえ寂しくても、そこはどうしたって変えられないよ。

 無理をしてみんながずっと一緒にいると、どこかで絶対に歪んでいくよ。そんなのは見たくない。

 ああ、いや、そんな話がしたいんじゃなくてさ。姉さんは自分の人生を考え始めたんだから、それを応援するよ。

 おんなじ人生を歩まなくたって、関係が変わるわけでもなければ、一緒にいられないってわけでもないからね」

「ややこしい、短くまとめろ」

「……離れてたって、家族は家族だよ。あいつ――」


 咄嗟に脳裏に浮かんだ男を、表情を変えずに追い出す。


「――ナタリヤさんとだって、そうでしょ」

「まあ、な」


 親父が、渋々といった様子を隠そうともせず頷いた。それを見て、姉さんが目を輝かせる。


「じゃあ」

「道場で鍛えろ。それが条件だ」

「うん」


 キラキラした目で姉さんが返事をする。

 うん。親父の説得は一応の目処が立ったが、姉さんにはもうひとつ大きな問題がある。


「それで、姉さん。どういった高校に進学したいの。進学校? それとも専門的な高校?」

「え? いや、それは……」

「うん。じゃあ姉さんは高校を出たあと、どうなりたい?」

「……笑わない?」

「笑わないよ、言って」

「服を、作る人。服だけじゃなくて、色んな可愛いものを作る」

「服飾デザイナーだね。専門学校って選択肢もあるけど、代表からはまだまだ素人だって聞いてるよ。

 いきなり専門知識を学ぶよりは、進学校経由で芸術大学を目指そうか。そっちのほうが色んな経験ができるだろうから」

「う、うん」


 なんでそんなこと知ってるのか、って顔で次兄さんが見てくるが別にこれは前世の知識チートでも何でもない。前に買っておいた学校のパンフレットをひと通り読んでいたから、どんな学校があるか把握しているだけだ。

 ……うん?

 でも前世がないと学校を調べるって発想は出ないかもしれないから、一応知識チートになるのか?

 まあ、どうでもいいか。


「それで進学校に進むのに何が必要か、姉さんは知ってる?」

「え? お金でしょ」

「うん。それは問題ない。問題なのは別だよ」


 私の言葉に兄さんとシエスタさんが苦笑し、ほかの面々が首をかしげる。


「高校に入るには、受験に合格する必要があるんだ」



 ******



 そんな訳でみんながお休みの日曜を待って、模試をすることになりました。

 兄さんが使っていた参考書(高校卒業資格を取るために使っていたもの)と、妹が使っている参考書(新人戦で推薦を受けるために使っている騎士養成校のもの)を利用して、シエスタさんがテスト問題を作ってくれました。


 そのテストを受けるメンバーはブレイドホーム家の子供全員だ。

 兄さんは復習ついで。

 妹が養成校の試験に備えて。

 そして次兄さんが参加することになったのは、姉さんがヒヨったからである。

 最初は兄さんが高校卒業資格を簡単にとったことを思い出して、


「入学の試験なんでしょ。そんなの簡単じゃない」


 そんな事を言っていたのだが、いざテストに備えて勉強を始めてみて頭から湯気を出し、普段から勉強している二人と一緒にテストを受けるのが怖くなって、半ば無理矢理に次兄さんを引っ張ってきたのだ。

 ちなみに私は妹に誘われたので参加します。


 さて、テストは全部で五科目だ。

 数学。

 国語。

 理科。

 社会。

 魔法学。

 それぞれ100点満点で、合計500点満点となる。


 テストなんて久しぶりだなーと思いつつ、早々に終わらせて寝る妹、答案用紙に落書きをする次兄さん、顔を赤くして唸る姉さん、のんびりと見直しをして時間を潰す兄さんなどを感じ取りながら、私も久しぶりの答案を仕上げた。


 シエスタさんが採点をさくさくと済ませて、結果が発表される。


 一位は流石の兄さん。

 数学100点。

 国語98点。

 理科100点。

 社会95点。

 魔法学98点。

 合計491点。


 二位は困ったことに妹に取られた。

 数学80点。

 国語82点。

 理科75点。

 社会83点。

 魔法学88点。

 合計408点。


 三位は私。

 数学95点。

 国語100点。

 理科78点。

 社会92点。

 魔法学40点。

 合計405点。


 四位は空気を読まない次兄さん。

 数学45点。

 国語82点。

 理科35点。

 社会58点。

 魔法学64点。

 合計284点。


 そして最下位が、姉さん。

 数学21点。

 国語65点。

 理科42点。

 社会35点。

 魔法学38点。

 合計201点。



 うん。親父も受けさせれば良かった。

 涙ぐむ姉さんを見ながら、そんなことを思いました。





 作中蛇足~~魔法学のテスト~~


 問 次の説明に誤りがあれば×を、正しければ○を書きなさい


 1 大気中の魔力には属性があり、相反する属性の魔法には使用できない。


 カイン (よくわかんないけど、○だろ)

 マギー (○だよね)

 セルビア(○だ。教科書に書いてあった)

 セージ (ひっかけ問題だね。使いづらいだけでできなくはないから。×っと)

 アベル (養成校卒業ってことは初歩的な定説だから、○っと。……セージは間違えそうだな)



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