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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
5章 普通が一番
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236話 ホルストの貧困救済活動

 




 セージがギルドで絞られる中、マギーたちはクリムと一緒にホルストと共に街に消えた友人たちを探していた。

 放心気味のクリムを放っておけなかったマギーたちが話を聞いて、友達ともう一度話し合おう、そしてホルストはやはり怪しいので、名家の関係者ならばセージ辺りと引き合わせて確認をとるべきだという事になった。


 マギーたちは若い女学生三人を連れた身なりのいい男を見なかったかと、露天商などで聞き込みをしていた。

 見知らぬ人と話をするのがマギーはやや苦手で、クリムも今は気落ちしていたので、その役目は主にカインがやっていた。


「……ごめんね、付き合ってもらっちゃって」

「ううん、気にしないで」


 手持ち無沙汰気味なクリムが謝って、マギーがそれをとりなした。


「ねえ、私、諦めたほうがいいのかなぁ」

「えっ?」

「良い学校に行くのをさ。

 先生もお母さんたちも、良い学校に行ったからってスターになれるわけじゃないって言うし、お金もかかるし、友達にも嫌な思いさせたから……」

「それは、でも、やりたいし、好きなんでしょ」


 マギーは初めて会った時のクリムを思い出してそう言った。ただ今のクリムには、その時の元気と笑顔はなかった。


「うん。わがままだって、わかってるんだけどね。

 我慢できないんだよね。きっと私、子供なんだよね」

「そんなことないよ」


 マギーの慰めに、クリムは首を横に振った。


「いいの。昔さ、デイト叔父さんに会ったことがあるんだよね。

 すごく怖くて、私、小さかったから泣いちゃったんだ。

 三歳か、四歳だったかな。

 よく覚えてないけど、たくさん泣いて、ああ、そう、泣き止んだあとでお婆ちゃんに怒られちゃって。

 見た目が怖いからって泣くんじゃないって、情けないって。

 私はそれでまた泣きそうになって、そしたら叔父さんが泣きたきゃ泣けって。我慢なんてしてもつまんないって。

 怖い顔の叔父さんなんだけど、そのときはすごく優しい顔に見えたの覚えてる。

 ああ、うん。

 我慢しないで好きなことやれるのが一番だって、それが叔父さんの大事にしてることなんだって、後からお婆ちゃんに教えてもらって。

 私も、ずっとそう生きたいなって」

「そうなんだ。自由、なんだね。叔父さんって」

「うん。お父さんたちも面白いやつだって。ああ、そう、ピアノが得意だって言うから、いつか叔父さんの伴奏で歌ってみたいなって。

 ああ、うん。それが理由じゃないんだけどね。アイド――歌手になりたいのは」


 マギーは相槌を打った。


「理由って?」

「大した理由じゃないよ。ステージですごく可愛い子が踊ってるの見て、みんなが歓声を上げて、拍手を贈って。それをみて憧れた。私もなりたいって。

 マギーはないの、そういう事」

「私は……、私は、可愛い子になりたいとは思わなかったな。

 応援したいって、思った」


 セルビアやセージを思って、そう言った。

 ずっと昔に、セージに誕生日を祝ってもらった。

 その頃はケーキなんて贅沢なもの食べられないくらい貧しかったけれど、セージがそれを用意してくれた。

 その時にケーキを包んでいたリボンが宝物だったけれど、セルビアがそれを破いた。

 セルビアが欲しがってたのは知っていたけど、大事な宝物だったからあげなかったら、勝手に盗ってしまった。


 そしてマギーが盗られたことに気づいて、セルビアと引っ張り合って、破れてしまった。

 大喧嘩になって、マギーもセルビアもカインも大泣きして、なんだかわからないうちにその日が終わって、それからもマギーはしばらくセルビアに冷たくしていた。


 お姉ちゃんだからそんな事しちゃいけないと思いながら、それでも我慢できなくてセルビアに意地悪な態度を続けた。

 セルビアは傷ついていたけど、セルビアが悪いんだからと、態度は改めなかった。


 そうしたらセルビアはマギーから離れて、セージと一緒に土いじりを始めた。

 マギーはそれを寂しく思いながらも、冷たくしてごめんねと謝れないでいた。

 そうしてしばらくして、セルビアがごめんねと謝ってきた。セージと一緒に育てたお花で作った、ちっちゃな花束を持ってきて。


 セルビアは元気いっぱいで、いつも前を向いていた。

 意地っ張りな自分とは違って、ちゃんと謝れる子だった。

 可愛くない自分とは違って、みんなに愛される可愛い子だった。

 セルビアになりたいとは思わなかった。

 ただ可愛くて、大事な妹だと思った。

 セルビアが騎士じゃなくて、クリムのように歌手になりたいと言ったら、マギーは全力で応援しただろう。


 セージのことも、何かしてあげたいと思っていたが、あの子は何でも出来るから何も必要としていなかった。

 何かしてあげるどころか、空回りして迷惑をかけるばかりだった。


「そっか……。うん。それもありだよね」

「え?」

「マギーはそういう道に進みたいんでしょ。

 頑張る誰かを応援するお仕事に」

「……」


 マギーは言葉を返せなかった。

 大事な子達の役に立ちたいと思っていても、何も出来ていないのが今のマギーだったから。

 そんな沈黙に、クリムは力強く頷いてみせた。


「そうだよ。服飾科目指してる子がおんなじこと言ってたもん」

「服飾科?」

「うん。高校で専攻できるんだよね。今は裁縫部で頑張ってるよ。私の衣装とか、小物とかも作ってくれたりするんだ」

「そ、そうなんだ」


 マギーの顔色と声音が上向きになったことを感じたクリムが、自分が落ち込んでいたことも忘れて笑顔を向ける。


「興味ある?」

「……ううん。守護都市にそんな学校ないもん」


 クリムの笑顔に釣られて、マギーもかすかに笑顔を見せた。


「そんなの関係ないじゃん。他の都市に行けば。

 寮のある学校なんてたくさんあるし、そうでなくたって田舎の子はアパートから通ったりするっていうし」

「お金かかるし、私はもう大人だから」

「は? 子供じゃん」


 なんの気負いもなくそうはっきり言われて、マギーは脳天に稲妻でも落とされたかのように驚いた。


「おーい、いつまでも駄弁ってないでいくぞ。

 さっきのロリコン、ホテル街に行ったってよ」


 硬直するマギーとそれを見て驚いたクリムに、聞き込みを終えて頃合を見計らっていたカインがそう声をかけた。



 ******



「ちょっと話が違うんじゃないの」


 防音性の高いホテルの一室で、少女が声を荒らげた。

 人目につきたくないという言葉を信じてついて来て、そこでルームサービスの食事をとりながら話をし、試験だと歌と踊りを見せて、服を脱げと言われて憤った。


「何も間違っていないさ。

 君たちは私に芸を見せる。

 私は君たちに対価を払う。

 さて、これが何かわかるかね」


 騙されたと、はっきりとした軽蔑の眼差しを向けられて、ホルストは背筋をゾクゾクと震わせた。

 ホルストは幼い少女の冷たい眼差しが大好きなのだ。

 そんなホルストが少女たちに見せたのは、高額紙幣の札束だった。

 それも一束ではない。無造作にカバンから札束を積んで見せた。

 見たこともないその大金に、ごくりと、少女たちは唾を飲んだ。


「君たちが私の望む芸をしてくれれば、これは君たちのものだ。破格の値段だろう。

 そしてこのお金が有れば君たちの問題は解決だ。

 私はなにか嘘をついたかね」


 ホルストが積み重ねたお金はまっとうな会社員の平均年収に迫る額だった。

 当然ホルストにとっても安い金額ではないし、少女三人を買う金額としては相場の百倍を超えている。

 もちろん少女たちがその体をホルストに許せば、このお金は少女たちに与えるつもりである。

 ホルストは少女に軽蔑されながら組み伏したい性癖の持ち主だったが、頑張る少女たちの支援もしたいのだった。

 そしてやっぱり軽蔑されたいし、エロい事が大好きなのでやる事はやるのだ。


「……帰ろう、二人とも」


 少女の一人、アーニーが他の二人のジルとケイトにそう言った。

 ジルとケイトは、しかし大金に目を奪われて動かないでいた。


「……ねえ、アーニー。こんなチャンス絶対にないよ」


 ジルの暗い声に、アーニーは目を見開いた。


「アーニーだってわかってたでしょ、こういうのかもって」


 同じく暗い声で、ケイトが言った。その目が、アンタも逃げるのとアーニーを責めていた。


「……二人とも。

 私は、……私は、嫌だからね。こんなの」

「言っておくが、私が芸を見せて欲しいのは三人そろってだ。一人でも欠けるのなら、この話は無かったことにしてもらう」


 その言葉に三人が一様に驚いた。

 繰り返すが、ホルストは嫌がる女の子が好物で、ここは後腐れの無いよその土地だ。

 少女たちの嫌がることは全力でやっていくつもりだった。


「ちょ、おじさん、待って。アーニーは彼氏がいるの、だからっ」


 だから帰らせてあげてというジルの言葉に、ホルストは淡々と言葉を返す。


「ふむ、その彼氏には体を許しているのかね」


 アーニーは怒りと羞恥で顔を真っ赤にした。


「して、ませんっ」


 ホルストはカバンからさらにひとつ札束を取り出し、重ねた。

 そして目だけで、どうすると聞いた。

 こいつはクズだと、アーニーは思った。

 その目を見て、ホルストはポーカーフェイスを保ちながら、興奮していた。


「わか、りました」

「アーニー……」

「ごめん」

「あいつには、黙っててよね」


 ポロポロと涙をこぼすアーニーを見て、ジルとケイトも涙を流した。

 間違った選択だということを、少女たちは理解している。

 逃げてしまうべきだと思っている。

 それでも足が外に向かわないのは、お金が欲しいから。

 その惨めさが、少女たちに涙を流させた。

 そんな少女たちに向けてホルストはたった一言を告げる。


「さ、脱ぎたまえ」


 その言葉に動揺は見せず、死んだ魚のような目で、つまりはホルストの大好物な目で、まずはアーニーがその服に手をかけた。


 ポーカーフェイスのロリコ――もとい、ホルストは少女たちに気づかれぬように、ゴクリと喉を鳴らした。

 少女たちが望まぬ形で身体を許そうとする瞬間は、腰を振っている時とはまた違う悦びがある。

 この瞬間はホルストにとって至福の時間と言えた。



 そしてだからこそ、この瞬間に邪魔が入るのはお約束であった。



 コンコンと、ノックが響いた。

 服を脱ぎかけたアーニーがびくりと体を震わせた。

 あともう少しだったのにと、ホルストは苛立ちを押し殺して扉の向こうに声を上げる。


「誰か」

「俺だ。入るぞ」


 返事になっていない返事をあげて、その男はドアノブを鍵ごと砕いて入ってきた。

 昨日も腰を振る方の良いところで似たようなことがあったなと、ホルストは思った。


 壊した扉から入ってきたのは天使と呼ばれる美少年ではなく、騎士風の装いに身を包んだ――少しだけ目つきの悪い――貴公子だった。

 王子様が助けに来てくれた、ありふれた物語に夢を見る少女たちはそう思った。

 だがその王子様はホルストが積み重ねた大金と、服を脱ぎかけているアーニーを見て、軽蔑の眼差しを向けた。


「おっさん、昨日の今日でおいたが過ぎるんじゃないか」

「お前はわざわざ邪魔をしに来たのか」


 ホルストに不機嫌そうに声をかけた貴公子は、アルバート・セルだった。


「そんなところだな、当主様がお呼びだ。すぐに帰り支度をしろ」

「後でいいだろう。夜には戻ると伝えてくれ」


 昨日も天使のせいで消化不良だったのだ。こうも滾っているのに御預けをくらうのは我慢がならなかった。


「当主命令をなんだと考えている。急を要する案件だ、否というなら力尽くで連れ帰るぞ」

「……それほどの事態かね」


 アルの言いように、ホルストは考えを改めた。

 どうも単純ではない問題が発生したらしい。


「ここでは詳しく話せない。ともかくさっさと出るぞ」

「わかった」


 ホルストはそう言って積み上げた札束を一瞥した。

 これを与えないのは格好悪くて紳士ではない。

 ホルストは何も言わず立ち上がって部屋から出ようとした。


「おい」


 アルは苛立ちも交えてそう声をかけた。

 ホルストは仕方がないかと、鞄に札束を直し始めた。

 それを見て慌てたのはジルだった。


「ちょっと、それ」

仕事(・・)はしてないんだ当然だろう」


 抗議を上げようとしたが、先んじてアルがそう制した。

 その声音と目付きは、はっきりと少女たちを蔑んでいた。


「いや、時間を取らせたのは事実だ。約束よりは少ないが、学費の足しにしてくれ」


 ホルストは一束を机の上に残して、鞄を抱えた。

 アルはその一束をおもむろに手に取って、


「良い趣味してるぜ、おっさん。こんな売女どもに大金恵んでやるんだからな」


 ジルに向けて、ゴミを捨てるように放り投げた。

 そうしてアルはホルストを連れて部屋を出る。

 ジルは札束を抱いて膝から崩れ、アーニーとケイトがその肩に寄り添って、一緒に泣いた。


 泣いて泣いて、泣きつかれて、なんだか腹が立って、少女たちは立ち上がった。


 あの嫌味な貴公子の顔面を札束でひっぱ叩いて文句言ってやると、意気込んで。

 ぎらついた目つきの少女たちはアルたちを探そうとホテルを出て、その姿をすぐに見つけた。

 彼らは何故か喧嘩別れしたクリムと、さらにおまけ二人とにらみ合っていた。





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