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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
5章 普通が一番
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211話 テロリストの後ろには

 




 山の中を、デイトを先頭にセージとミケルが付き従って進んでいく。

 最初は目指すべき場所を把握しているセージが先導をしていたが、すぐにデイトが異を唱えた。


「歩きも警戒も雑だ。俺が前を歩くから場所だけ教えろ」


 セージの目的はあわよくば背中からデイトを殺せないかという不純なものだったが、とりあえずその言葉には素直に従い、それに倣ってミケルもその後ろを歩き始めた。

 そしてしばらく三人は歩き続け、不意にデイトがその場から飛び上がり、大きな木の枝に乗った。

 セージはそれを訝しみ、ミケルは咄嗟に周囲の警戒をした。


「お前らも上がって来い」


 デイトは言った。目的は分からないが、セージはため息をついて同じように跳んで、デイトとは別の木の枝に乗った。同様にミケルもそれに続いた。


「何のつもりですか」

「しばらくはこのまま木を渡って行く。下には降りるな。あと、魔力も極力漏らすな。特に小僧、お前だ」

「わ、わかった」

「……無駄に体力を使わせる気ですか」

「警戒の範囲内だ。悟られないようにするのは当然だろ。馬鹿か、お前は」


 セージは衝弾の一発でも打ち込んでやろうかと思ったが、デイトの言葉にも一理はあったので自重した。

 それからは木から木へと飛び移って山を登っていった。

 魔力制御に優れたセージとデイトと違い、ミケルには身体活性と魔力の隠蔽の両立は難しかった。

 必然的にミケルは身体能力に頼ってアクロバティックな山登りをすることとなり、セージの懸念通り体力の消耗を強いられていた。


「……ミケルさん、やはりあなたは引き返したほうがいい」

「まだ言ってんのかよ、お前。ここまで深いところまで来ちまったら、行くも戻るも地獄ってもんだろう。

 それともテロリストを放って、お前が帰り道をエスコートしてやんのか」


 デイトとセージの言い争いに、ミケルは歯噛みする。

 木と木の間を跳び続けることで、足の筋肉は悲鳴を上げている。だがついて行けないほどではない。それは二人がミケルに合わせてペースを落としているからだ。

 足手纏いにはならないと言ったのに、テロリストのもとにたどり着く前から邪魔になっている。

 そしてギルドでは軽蔑すらしていたデイト(BB)が、実際には自分よりも確かな実力者だと理解させられて、ミケルは何も言わず悔しさを飲み込んだ。


「……必要ならば。やはり彼をここに連れてきたのは間違いだった」

「それは違う。僕が無理を言ってついて来たんだ。最初に言ったとおり、僕のことは構わず先に行ってくれ」

「はぁ。バカバカしいな。

 実力に見合ってないから安全なところに居させるなんて、どこの過保護な母親だよ。それで死んでも自己責任だろうが」

「配慮のない言葉ですね。この問題に対処できる私がいるんです。ならばここで死んでも無駄死にでしょう。学ぶ機会、成長する機会は他にもあるんです。ここで引かせて、実力を身に付けるのを――」

「ねーよ。命を懸けるって決めたところから逃げ出した奴は、後からどんだけ鍛えてもいざってときに逃げる。

 そんな奴は戦士じゃねえ」


 セージとデイトは、木の上で再び睨み合う。


「そもそもあなたが体力の消耗を強いたのが原因でしょう」

「必要なことだろうが。いちゃもんつけてんじゃねえよ。蹴り飛ばすぞ」

「あ゛?」

「は?」

「ちょっと、止めてくれ、こんな所で仲間割れなんて」


 仲間という言葉にセージの眉がぴくりと動いたが、しかし口に出しては何も言わなかった。


「僕もBBの言い分は理解している。テロリストが潜む山なら罠があるはずだ。それを警戒しているんだろ」

「そんな物があるようには見えませんがね」

「……お前、もしかして本気で言ってんのか」

「は?」


 セージは睨むが、デイトはそれに疲れたようなため息を吐いて返した。


「いや、わかった。まあそりゃあそうだ。

 ……お前、自分の目を過信しすぎだ。歩き方にしても足音が大きいし、足跡を残さないようにって配慮もねえ。荒野ならともかく、山の中でそれは痕跡を見つけてくれって言ってるのも同じだ。周りに敵がいないのが見えてるからって、気を抜くな」

「……ちっ」


 セージは舌打ちをした。言われた内容には確かに心当たりもあったからだ。


「お前はバカの――英雄のように、隠れて生きていた時期がないんだろうよ。そのための訓練もしてない。

 ついでに言えば、人間を相手にした経験も十分じゃねえんだろう。

 テメエの目はどうやら魔力以外には鈍い。だから簡単なトラップも見落とす。

 魔力を用いないトラップなんて、人間は当たり前に使うぞ。魔物の中にも使うやつはいるがよ」


 デイトの言う対人戦とは、一年前に商会を襲った犯人との真正面からの戦闘等ではなく、荒野の魔物を狩るように人間を追いつめ殺すことを指しているのだろう。


「あなたは随分と経験豊富なように見えますね。一体今までどれだけの人を殺してきたんですか」

「……殺した数を誇るのが馬鹿らしくなるくらいさ」


 デイトはそう言った。その物言いが、いや一連のセリフが、セージには諭すように聞かれて口元を不快に歪めた。


「……僕はやはり付いていく。君達を二人きりにはさせられない。

 セージさん、今はテロリストの潜伏先を調査することのほうが大事なはずです。彼の言ったように命を懸ける覚悟は出来ています。

 どうかこれ以上、僕のことを心配しないでください」

「ほら、言われてるぜ。テメエの言ってる事はただの侮辱だってな」

「BBさん。あなたが実力者なのも、相応の経験を積んだ戦士であることも認めます。ですが挑発的な物言いはやめてください。年長者でしょう。

 パーティーの不和が何をもたらすかはよくご存知のはずです」

「お、おう……」

「それでは行きましょうか」


 ミケルはそう言って晴れやかに前を見る。


「なに、ただの筋肉痛ですから。敵から逃げる時は身体活性を使ってすぐに治しますよ」


 未だに心配そうに自分を見るセージに、そう言って笑った。

 セージは少しうつむき頭をかいて、『あー、もう』とボヤいた。


「セージさん?」

「管制へ連絡。こちら守護都市派遣の中級ギルドメンバー、セイジェンド・ブレイドホームです。テロリストのアジトを発見しました」


 セージはミケルには応えず、唐突に管制と通信を始めた。デイトとミケルが呆気にとられる中、セージはすでに魔力感知を伸ばして発見していたテロリストのアジトの、詳細な位置を管制に伝える。


「草木で偽装されていますが、そこが洞窟の入口です。中は深く、探査魔法への妨害がなされています。詳細は不明ですが百人近い武装した集団と、上級――ハンター基準ではなく、守護都市基準で上級の魔物も潜伏しています。洞窟周辺には罠も仕掛けられています。

 これより調査のため洞窟に向かいますが、応援の必要を具申します」


 管制とのやり取りを終えたセージは、デイトを睨む。


「これでしばらくすれば守護都市から相応の実力者が派遣されるでしょう。逃げるなら今ですよ」

「……僕は――」


 セージの言葉はデイトに向けられたものだったが、ミケルはそれが自分に向けられていると思った。それほどまでに邪魔だと思われているのかと。

 確かにミケルは守護都市では下級相当であり、本当に守護都市で上級と言われるような魔物がいるなら邪魔にしかならない。

 だがここで逃げるのは嫌だと、ミケルは歯噛みしていた。


「はっ。つまんねえこと言ってんなよ。他のやつに獲物を取られる前にさっさと行くぞ」


 デイトはしかし、ミケルの勘違いにもセージの忠告にも気付かぬ風に、そう言って笑い飛ばした。


「ええ、行きましょう」


 ミケルは力強く頷き、セージは訝しむ。


 セージは山の麓ですでにテロリストのアジトを発見していたし、その奥に何が隠されているのかも見抜いていた。

 だがそれを馬鹿正直に管制に報告すれば、テロリストの一味であろうBB(フレイムリッパー)は仲間にそのことを教え、自身もこの場から逃げるだろうと踏んでいた。


 もしそうなった場合、フレイムリッパーと洞窟に隠れ潜むテロリストと上級の魔物の両方を捕まえるのは難しい。守護都市からの応援が速やかに来ればいいが、上級の魔物とそれを使役するテロリストを制圧するとなると上級のパーティーか皇剣の出動が必須だ。


 守護都市には有事に備えて緊急出動できる人材が待機しているが、セージの報告だけでそれに踏み切るかどうかは怪しい。

 おそらく管制がセージの報告を確かめるだろう。

 そのタイムロスはフレイムリッパーを逃がす時間に、あるいは上級の魔物が結界内で暴れる時間につながる。

 そしてどちらと戦っても、ミケルは高確率で巻き込まれて死ぬ。


 だからテロリストのアジトを発見したことを、セージは意図的に報告しなかった。

 報告しないままアジトに近づけばフレイムリッパーは何かアクションを起こすだろう。それが仲間との連絡であれば即座にセージも管制に報告するつもりだった。


 結果は同じだが、せめて出来うる限りアジトに近づいてそれを起こせばセージの発言も管制に信用されやすいし、さらにテロリストたちとフレイムリッパーの距離が近ければ同時に対処が可能となる。

 それは危険が倍になることを意味し、ミケルの死がより確実なものとなるのだが、それは仕方のないことだと割り切っていた。


「……なんだよ? 言っとくが、俺は共生派のテロリストなんかじゃねーぞ」

「共生派の、という事は、精霊様の排斥を狙う人間主義の、という事ですか?」

「違う。うざい揚げ足取りすんなよ。ま、精霊なんて怪しげなもんを排除しようって考えには大賛成だがね。それはそれとして、連中とは反りが合わねえ」

「違うという割には、彼らのことをよく知っている口ぶりですね」

「ああ、さんざん殺したからな」


 何でもない事のように、デイトは殺人を語った。

 そこには気負いもなく嘘もない。

 その感情を見通して、セージは眼光を鋭くする。


「さて、それじゃあ派手に行こうか。

 おい、小僧ども。降りていいぞ」


 デイトはそう言うと拳に魔力を溜めた。攻撃系の魔法を使おうとしていることにセージは訝しんだ。

 使おうとしているのは火の魔法。範囲は広い。しかし威力は低い。雑草の一つも燃やすことの出来ないであろう火力だ。

 何をするのかと注視していると、デイトはその魔法を地面に向けて放った。

 派手なエフェクトの炎が地面を走るが、木も草も何事もなかったかのように風に揺れている。

 だがしかし、炎は何も燃やさなかったわけではなかった。


 ドスンドスンと、地面が爆音を響かせて吹き上がった。


「な、何が……」


 ミケルが木の上で驚いた。セージの魔力感知は炎が地中に埋まる何かに反応したことを捉えていた。だがその何かは今までに見たことのないもので、何の魔力もまとっていなかった。


「地雷だよ」

「じら、い?」


 何でそんな物が。地雷という言葉に聞き覚えはある。だがそれは今生ではなく前世の知識によるものだ。

 そんな魔法があるのか。

 いいや、炎に反応したものは、魔力を持たない物質だった。ならもしかしてと、セージは混乱しながら考えを巡らせた。

 正解は、ほどなくデイトの口から語られる。


「火薬ってやつを埋め込んだ罠さ。魔力探知を警戒して身体活性せずに踏んじまったら足の一本が持っていかれるぜ。

 ま、火薬ってのは見ての通り抗魔力を持ってないから、安っぽい魔法で簡単に無力化できるんだがな。

 呪鍊して抗魔力を持たせてんのはテメエの目で見れるだろうから、そっちはそっちで気を付けておけ」


 デイトはそう言って地に降りた。それに続く形でセージとミケルも地に足を付ける。


「火薬……」

「花火ぐらいは見たことあるだろう。あれを軍事利用したもんさ。

 さっきも言ったように呪鍊しなきゃ使いもんにならない半端な兵器でしかねえから、大昔に廃れちまったらしいがね。帝国の方じゃあ細々と使われてるらしいぜ」


 半ば混乱するセージの言葉に、デイトは獰猛な顔で応えた。

 言葉を発しながらも、足はセージが教えたポイントに向いており、その速度は次第に上がっていった。


「おい、お前、それは――」


 デイトは駆け出し、時折魔法を使って地雷を潰し、あるいは衝弾や衝烈斬を使って矢や丸太を放つ罠を作動させ、無駄打ちさせる。

 罠を見破りながら、それを無効化しながら駆けるデイトにセージは何とか追いすがり声をかけた。ミケルは当然のようについてこれず後ろを走り、次第に距離を空けられていった。


「なんだ? ああ、共生派のテロリストは裏に帝国がいるらしいぜ。俺も詳しくは知らねえがな。

 ただ上級の魔物を結界の中に引き込めるってんなら、案外帝国の大物が見れるかもな。

 くくっ。魔族ってのは人間よりもエルフよりも戦闘に特化した種族だって聞くぜ。

 なあ、おい。魔族がいたらそれは俺がもらうぜ。魔物の方は譲ってやる」


 血に飢えたデイトの言葉はセージが欲した答えではなかったが、しかし耳の惹かれる話でもあった。

 だがそれについて詳しく聞く時間も存在しなかった。

 矢よりも鋭く疾く駆けるデイトは、瞬く間にテロリストの待ち構える洞窟までたどり着いたからだ。





 作中補足~~テロリストについて~~


 共生派

 魔物には知性があるので共存できると唱える団体。

 穏健派と過激派があるが、この国ではどちらも摘発対象。二章の幕間でゴブリンを繁殖させていたのはもちろん過激派。

 ただし結界内の世代を重ねた魔物は人に害意を持っていないものも多く、穏健派はそういった魔物の生態を調査し、具体的にどういう行動をとれば魔物が攻撃的になるかを広め、危険の予防に努めている。

 そんな穏健派を隠れて支持する国民もいる。そういった人たちももちろん摘発対象。

 普段は良識的な国民である彼らを摘発することで政治不信も生まれているが、摘発の手は緩むことはない。

 だって穏健派にも他国の工作員は潜んでいて、適性のある人間を過激派に勧誘しているから。



 人間主義

 作中にはまともに登場していないテロリスト集団。

 精霊様の排斥を謳っているが、元々は精霊様には象徴存在として君臨してもらって、政治は人間主導で執り行っていこうという考えが元となっている。

 ある程度その考えが広まり、まっとうな政治団体として組織力が高くなったところに他国の工作員が入り込み、精霊様を完全に排除するべきという過激な思考を持つようになった。

 尚、精霊様がいなくなれば結界がなくなるので、平和ボケした政庁都市ぐらいでしかまともに活動できていない。


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