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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
幕間 主人公は私だ
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188話 なんだか久しぶりに仕事をする気がする

 




 さて、日をまたいでギルドにやって来ました。

 ただ最初は受付のアリスさんのところに行ったのだが、すぐに別の部屋に通された。

 初めてギルドに登録した日に、親父とクライスさん&アリスさんの3者面談に使ったギルド内にある応接室だった。


「遅いぞ。いつまで待たせる気だ」

「やあ。久しぶりですね、セイジェンドさん」


 アリスさんに案内されたその応接室には、二人の人物が待ち構えていた。

 一人は四十代の男性で、一応は顔見知りの人。名前はリード・ヴァインさんで、一年前の事件で新しくやってきた情報管制室の室長さん。

 スノウさんと親しいらしく、またやり手の官僚さんで管制室の評判は上がってきている。

 もう一人は全然知らない人だった。

 ヴァインさんよりも高齢で、六十歳ぐらい。険しい顔で、どこかのお偉い先生っぽい雰囲気だった。


「失礼しました。人を待たせているとは知らなかったもので」


 本当に知らなかったのでそう言った。指名依頼の説明があるから午前中に来てと言われたので、十時ぐらいに行けばいいかなと、家事全般と基礎訓練に親父との手合わせを終えてから来たのだ。

 もう少し早く来たほうがよかったようだ。


 いや、朝は依頼を受けに来たギルドメンバーで受付が混み合うし、私が懇意にしているアリスさんは人気者なのでさらにそれが割増になっている。

 そんな訳で時間をずらしたのだが、結果として指名をしてくれた依頼者の方を待たせる結果になってしまったようだ。


「若い者が言い訳などするな」

「ガスター教授、それは言い過ぎではありませんか? そもそも私たちは来訪する予定ではなかったのですから」

「ふん。だとしても労働者としての心構えがなっていないだろう。仕事をもらえるのだから、早めに来てしかるべきだ」


 来る予定がなかった?

 指名依頼の説明を二人がしてくれるんじゃないのだろうか。


「どういう事でしょうか?」

「ええとね。二人とも日をまたぐ仕事をセージ君にやってほしいの。しかもそれが学園都市の接続期間中だから、残りの接続日数的にどちらかしか受けられないの」

「つまりこちらのヴァインが諦めれば済む話だがね。君は守護都市在住なのだから、別の都市に接続した際で構わないだろう」

「……ガスター教授。こちらの都合は説明させていただいたでしょう。試験はこの学園都市でやるのが都合よく、その準備も終わっています。

 これはブレイドホーム氏の協力とは関係なく整えられたもので、簡単に行えるものではありませんよ」


 ガスター教授……。知らない名前だけど、どこかで聞いたことがあるような気もする。

 それはともかくこの状況は私が二人の内、どちらの指名を受けるかで競っているようだ。まあ結論は決まっているのだが。


「それは建前で、学会への発表に間に合わせるのが目的だろう」

「それはそちらも同じでは?

 リスクの高い治験に医師免許を持たない子供を参加させるなんて聞いたことがありませんよ」


 私とアリスさんをよそに、ヴァインさんとガスター教授はそう言って火花を散らした。


「ええと、それで具体的にはどういう事なんでしょうか?」

「うーん……、ええとね。何て言うか、その。

 お二人とも、とりあえずセージさんに説明をしてもらえますか?」

「それはギルドの仕事だろう」

「私は構いませんよ。ブレイドホームさん、協力をお願いしたいのは都市防衛戦の戦術研究です」

「……ちっ。こちらの依頼は治験だ。臓器再生魔法の実演だ」


 ……何て言うか、想像していたよりも大事(おおごと)を頼まれている気がする。

 どちらを受けるかは決めていたけど、正直なところ責任が重そうでどちらも受けたくない。いや、たぶんそれは許してもらえないだろうけど。


「もう少し具体的に、その、戦術研究というのは何をするんでしょうか?」

「魔物をより安全に門から迎撃できるようにするための、砲戦の戦術研究ですよ。当然のことですが、魔物と実際に戦うわけではないので、危険はありませんよ」


 ヴァインさんはそう言って子細を私に説明する。

 私は新人などの救援要請を受けた際に長距離の魔法で援護するのだが、それは割と異質なことらしい。

 荒野では魔力障害が発生しているので距離が離れれば離れるほど魔法の制御が難しくなり、私のように一キロ以上離れた場所へ十分な威力を維持し、かつ救援対象を巻き込まないよう狙撃するというのは上級の実力者でも出来る人間はそういないとのこと。


 なので荒野で私と同じことをするのは難度が高すぎるが、魔力障害の少ない都市付近でなら実用性が見込めるのでその試験を行うとの事。

 情報管制室のバックアップに加え現場にも観測役を設け、実際に砲撃をする役が遠くの魔物に見立てた的に向けて砲撃をするらしい。

 私は何度か見本として狙撃魔法を使い、また試験砲撃を見て気づいた事を言って欲しいとのことだった。


 私は頷いてヴァインさんの説明に納得しましたと応じて、苛立たしげに待っているもう一人に質問をした。


「治験っていうのは、実験動物(モルモット)にやるんですか?」

「いや。末期患者がいる。君の話を聞いて治験に手を挙げた。心臓を治せ」


 ガスター教授のぶっきらぼうな説明は要領を得ないが、合間合間に質問をすることで要点は掴めた。

 ガスター教授はなぜか私がシエスタさんの心臓を治癒して蘇生させたことを知ったらしい。

 それで一般人に設備も何もない場所でそんな高難度の治療――これはシエスタさんの治療をした後で知ったのだが、あれは成功する可能性がないはずの治療だった――を成功させた件に興味を持って、実演を迫っているようだった。

 その全身に癌が転移していて、臓器を再生させても助かる見込みのない患者を実験体として用意して。


 ……うん。答えは決まってたけど、尚の事その答えは確定的になった。


「ええと、それじゃあヴァインさんの方を受けます」

「ありがとう」

「何故だ!?」


 説明しないとわからないのか。わからないという感情(まりょく)をしているな。この人はかなり我が侭な先生のようだ。


「ええと、ヴァインさんも言ってましたけど、僕は医師免許も持っていなければその道を志しているわけでもありません。

 お金をもらって赤の他人の命に責任を持つことは受けかねます」

「話を聞いていなかったのか。このまま放置すれば死ぬ患者だ。その命を治療技術の向上に使えるなら本望だろう」

「……だとしても、お役に立てるとは思えませんので」


 ギルドで働くようになって三年が経つ。

 その間に多くの魔物を殺しているし、顔見知りが魔物に殺された事もあれば、非情なテロリストに酷い目に合わされた女性も見てきた。

 病気で人が死ぬのを見るのが辛いとは思わないが、率先して見たいとも思わない。

 病気で苦しんでいるらしいその人には可哀想だが、助からないとわかっているのは私にはどうしようもないと思う。


 って言うか、治療がうまくいっても助かる見込みない人を治療しろって何の苦行だ。

 それにシエスタさんの時みたいにデス子が助けてくれる見込みなんてないんだし、そもそもの治療だってうまくいくとは思えない。

 そうなってくると、わざと手を抜いたとか技術を独占する気かといちゃもんを付けられる未来しか見えない。

 余計なトラブルは抱え込みたくありませんよ。


「結論は出たようですね。ありがとう、ブレイドホームさん」

「セージでいいですよ、ヴァイン室長。長いですから」

「そう。それではセージさん。時間はいいかな? 打ち合わせにも参加してもらいたいのだけど」


 私がはいと答えると、それを遮るようにガスター教授が声を荒らげた。


「待て。まだ話は終わっていない。君はわかっているのかね。臓器再生の魔法を個人で、しかも何の設備もない状況で成功させたことの意味を。それも拒否反応のない極めて被治療者に適合した臓器をだ。

 これが体系化されれば多くの病人を救えるのだぞ。君にだって最初の一人として十分な栄誉と報酬が与えられる。この国に大きく貢献もできる。

 天使などと呼ばれているくせに救いを求める声を無視するのか!!」

「……あんまりその二つ名、好きじゃないんですよね」

「なっ」


 ガスター教授は絶句するが、私は別に天使なんて二つ名が似合うような立派な人間ではない。

 まあ家族の目があるのである程度は背筋を伸ばした生き方をしたいし、一応趣味が人助けだけど、何でもかんでも助けようなんて思ってない。

 ましてやまるでそれが義務のように言われればやる気も起きませんよ。

 いや、この人の依頼を受けたくない理由は他にもあるんだけどさ。


「ガスター教授、この国への貢献ということならこちらも同じですよ。現状、守護都市に救援を求めない外縁都市単独の都市防衛戦では、中級の魔物を相手取った場合には少なくない犠牲が出ています。

 彼らを治療する医療機関の発展には確かに力を入れるべきですが、しかしそもそも犠牲が出ないよう防衛戦の効率化を図ることも重要な使命です。

 そしてセージさんはギルドで働く、こちら側の人材です。ご理解いただきたいですね」


 ヴァインさんがそう言って追い打ちをかけ、ガスター教授が項垂れる。ただその感情は諦めたというには黒いものが強く、憤怒を堪えているといった様子だった。


「あー……。次の接続の機会に、その、人間じゃなくてモルモットとかの失敗しても心が痛まない相手を用意して頂ければ善処しますので」


 私としては同じ都市に住む偉い人で、ついでにいつでも私を死地に送り込めるヴァインさんを優先させるのは当然のことだが、学園都市の偉い人に喧嘩を売りたいわけでもない。

 学会への発表とやらには間に合わなくなるかもしれないが、時間があるときには協力しますとささやかな誠意を発揮しておいた。

 ただそれはガスター教授のお気には召さなかったようだ。


「――っ!!」


 ガスター教授は勢いよく立ち上がると、手に持っていたコーヒを私に思い切りかけた。

 ヴァインさんとアリスさんが驚くが、私はその行動が読めたので反射的に魔法を使ってそのかけられたコーヒーを焼いた。コーヒーは私に届く前に蒸発し、インスタントコーヒーの粉みたいなものが少しだけかかった。

 私は座ったままその粉を払い、立ち上がったガスター教授を見上げる。


「ふん! もういいっ! 知性も理性もない守護都市のガキがっ!!」

「あなたその言い草は――」

「いいですよ、アリスさん」


 ガスター教授は肩をいからせて応接室を出て行った。アリスさんが怒って呼び止めようとしたが、私はそれを遮った。

 まあお偉い先生様のようだし、私のような幼い子供が言うことを聞かないのも、同情されるのも気分が悪いのだろう。


 ……あ、思い出した。

 あの人たぶんシエスタさんの元彼の言ってた、名門ランブリア大学の、名教授ガスター先生だ。

 教え子共々、迷惑な人だな。


「どうかしたんですか、セージさん?」

「いえ、世間って狭いなぁと思って」

「うん?」

「いえ、こちらの話です。それじゃあ手続きに入りましょうか。アリスさん?」


 指名依頼の契約ということで手続きをしようと思うのだが、それをしてくれるアリスさんは応接室の出口を睨んで鼻息を荒くしていた。


「……うん。わかったよ。でも嫌な人だったね、あの人」

「悪い人ではない……事もないんですが、とりあえず癇癪持ちではありますね」

「ヴァイン室長のお知り合いですか?」

「学園都市に勤めていた時期がありましたからね」


 ヴァインさんは詳しく話す気はないようで、やれやれと肩をすくめた。





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