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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
4章 主人公はもう兄さんでいいと思う
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151話 やっと私のターン

 お待たせ。戦う少年探偵天使セイジェンドの出番だよ。

 




 さて兄さんの家族を殺した犯人を捕まえると言いましたが、当てなんてありません。

 一応、夢に見た兄さんの殺害現場や犯人を見つけた場所を調べましたが、犯人やその関係者っぽい人は見つかりませんでした。

 その場所は薄暗い路地裏で普通に治安が悪い場所なので、何ヶ月も体を洗っていないのであろう汚いおっさんたちに追い掛け回されたりもしましたが、薄い本みたいな展開もありません。私の体は清らかなままです。


 ……僕は男だって言ってるのに、お尻を見ながら追いかけてくる彼らはなんなんでしょうね。紳士力が高すぎてついて行けません。ついて行きたくもないけど。

 魔力を周囲に同化させれば気配は殺せるんですが、別に姿が消えるわけじゃないんで普通に見つかるのですよ。

 しかも魔力がたいしたことないから襲っても大丈夫とか勘違いされるし。


 とりあえずそんな邪魔も頻繁に入るので、その周辺で待ち伏せもできなかった。

 まあ夢では偶然通りかかっただけで、犯人が現れない可能性も十分にあるのでそう困りもしないのだけど。


 しかしそうなると本当に当てがない。

 今の段階で調べた限りでは、


 ・犯人の男は超強い。おそらく上級上位で、もしかしたら皇剣の弱い人にも勝てるぐらい。

 ・どうもジェイダス家の内紛に加担していたらしい。

 ・でも目的はよくわかっていなくて、ジェイダス家で殺し合ってたから、それに便乗しただけかもしれない。

 ・顔は私と兄さんはわかるけど、似顔絵とかは残っていないし、手配書もない。兄さんのところ以外でも襲撃事件を起こしているらしいけど、犯人の顔を見て生き残った人はショックで記憶が飛んでいて、顔を思い出そうとすると記憶がフラッシュバックを起こしてパニックになってしまうのだとか。

 ちなみに生き残った人っていうのは兄さんと同じか、それよりも幼い子供で、今も生きている人はほぼいない。頼れる身寄りがいなくて、浮浪児として野垂れ死んだのだ。

 ひどい話だ。


 まあこんな感じで手がかりはほとんどない。

 ただ強いのは間違いなさそうなので、とりあえず守護都市の強い人をあたってみることにした。


 ただ私はそれほど顔が広くないので、知ってそうな人に聞いて回る。

 まずは親父。当時は引退してまもなくなので、記憶に残っている強い人を教えてもらった。

 そしたら二百人ぐらい教えてもらった。多すぎるよ親父。

 そしてその二百人でちゃんと固有名詞が出てきたのはラウドさんぐらいだった。

 あとはカナンさんをシャルマー家のジジイと呼んだり、マリアさんを変な女と呼んだり、アーレイさんをエルフの偉そうな奴と呼んだり、アシュレイさんのことを死んだ伯父貴とか呼んだり、誰だか分からない人を一年前に会った奴と呼んだり、ネチネチとした女の皇剣とか、とにかく聞いても誰だかわからないのや、参考にならないのが多かった。

 まあ親父に期待しても仕方がない。親父に聞いた私が悪かったので、大人の広い心でスルーしておいた。


「聞いておいてなんだ、その態度は」


 そして軽く殴られた。痛い。


「ああ、そう言えば伯父貴の息子にも強いのがいるぞ。最近見ていないがな」

「アシュレイさんの息子? 初耳だけど、まあ、夜の武勇伝は親父以上だし、いてもおかしくないのかな」

「……伯父貴のそれは少し違うが、まあ違わないか」


 親父がよくわからないことを言う。その視線は遠くを見ていて、めずらしく昔を懐かしんでいるようだった。


「アシュレイさんは息子さんだけじゃなくて、奥さんもたくさんいたんでしょ。連絡とったりしないの?」

「……どうすればいい」


 ああ、やっぱり連絡をとりたくないんじゃなくて、どうやって連絡をとればいいかわからなくて、そのまま放置か。


「年賀状とか、暑中見舞いとか……いや、そんな文化ないけど、挨拶状とか送ってみれば? ご無沙汰してます。子供ができて楽しくやってます。私はまるでダメな父親ですって。

 エースさんの奥さんもそれくらいはしろって言ってたでしょ。相手方も気が向いたら返事くれるんじゃないかな」

「一言余計だが、ふむ。やってみるか。

 ……それで手紙を出すとして、あいつらは今どこに住んでいるんだ」


 私が知っているわけがない。



 ******



 そんな訳でギルドに行って、アリスさんに聞いてみた。

 アシュレイさんの遺族のこともあるが、ランクの高い人を教えてもらおうというのもある。

 アリスさん自身もかなり強い人だ。魔力量だけで言えばクライスさんよりも高くて、上級相当だったりする。たぶん戦闘技能もそれに見合うものがあると思う。

 そんな訳で、アリスさんから見ても強い人を教えてもらおうと思ったのだが、


「ごめん。守秘義務があるから教えられない」


 と、すげなく却下された。

 上級にもなると資産家からのしつこい勧誘や、よその都市の強者(笑)からの腕試しの挑戦も多いらしく、そういった雑事から守るために正規の手続きをしない限り上級のギルドメンバーの情報は閲覧できないらしい。

 そして私の知らない、アリスさんから見ても強い人というのは業務上知り得た情報に引っかかるので、それも教えられないとのこと。


 いや、たぶん事情を説明して信じてもらえれば教えてもらえるんだろうけど、犯人が凶悪犯罪者なだけにあまり関わる人を増やしたくない。

 ほっといたら関わってしまいそうな兄さんと、そのそばにいるシエスタさんは例外だ。


 アシュレイさんに関してはそもそも昔の人なので、アリスさんは何も知らないらしい。

 お兄さんのアーレイさんは親交があったらしいので、今度聞いてみるよと約束してくれた。


 さてギルドを後にして、私が次に向かったのはマージネル家だ。

 よくよく考えたらこの家が一番犯人に詳しいはずだ。

 だって警邏騎士って警官みたいなものだし。九年前の事件の捜査を担当した人がいるかもしれないし。



 ******



 手ぶらではなんなので、家庭菜園で採れた野菜を持って挨拶に向かう。

 荒野に出るとよその都市からの仕入れがなくなるので、自然と新鮮な野菜がお店から姿を消す。守護都市にも畑はあるので、全くないわけではないがアホみたいに高い。


 そんなわけで守護都市のお宅では家庭菜園を行うのが割と主流だ。まあ一軒家なんてほとんどないから、正確にはアパートのベランダ菜園なんだけど。

 さて、マージネル家は私の家以上に敷地が広いけど、それ以上に住んでいる人の数が多い。そんなわけで敷地は限られていて、家庭菜園の面積は家とさして変わらない。


 そして繰り返すが、住んでいる人間は私の家よりもよほど多く、さらにそのほとんどがよく食べる働き盛りな若い騎士たちだ。

 なので、お野菜のお裾分けはとても喜ばれます。

 いや、ご近所さんとかミルク代表とかもうちの野菜狙っているから、たいした量は持ってこれないんだけどね。



「あらあら、いつもありがとうね。前にも言ったけど、気を使わなくてもいいのよ」

「いえいえ。こちらこそ急にやって来てすいません」


 ほとんど毎度の挨拶のようなことをエースさんの奥さんと交わして、家の中に上げてもらう。

 誰に用があるというわけでは無いのだが、まずはエースさんに顔を繋いでもらった。


「ふむ。そろそろ来る頃かと思っていたよ」

「……え?」


 応接室で顔を合わせるなり、エースさんはそう言った。

 そんなに野菜が欲しかったのだろうか。まあ外縁都市から離れて二週間以上経つし、今の時期はじゃが芋と玉ねぎ、もやしぐらいしか手軽に手に入らない。

 ちゃんと処理をすれば葉の物も日持ちするとは言え、鮮度が落ちれば味も落ちる。これに関しては肉よりも野菜の方が顕著だろう。

 娯楽の少ない守護都市では、食事というのは大事な楽しみなので気持ちは良くわかる。


「ジェイダス家のことだろう」


 あ、違った。うん。そうだよね。ジェイダス家のほうが大事だよね。わかってたよ。冗談だよ。


 ……ジェイダス家って、なんだっけ。


 いや、兄さんの生家の本家で、私が生まれる前に襲撃事件とか内紛とかでほとんどお家がお取り潰しになっているということは知っている。

 ああ、いや、そういえばジェイダス家の人がミルク代表の商会にちょっかいかけているはずだ。詳しくは知らないけど。もしかして割と大事になっているんだろうか。


 兄さんの件で昔の事を調べたり、犯人が見つからないかと探していたりしたので、ここ数日は商会からは足が遠ざかっている。買い物に行っても代表は忙しいようで顔も見れなかったし。

 兄さんの家族を殺した犯人はジェイダス家の内紛に関わっているらしいので、彼らと接触をしてみるのもいいかもしれない。

 ついでに商会への嫌がらせを止めるきっかけとかも見つけられれば御の字でもある。まあそのためにもまずは一回代表と話をしようか。


「そうですね。何か知っていればアドバイスをもらえませんか」


 とりあえずエースさんの問いかけに乗っかって、そう答えた。


「ふむ。その前に、ジェイダス家のことはどれくらい知っている」

「……父の恩師であるアシュレイさんが昔、所属していたことぐらいですかね。

 あとは十年ぐらい前から不運続きで内輪もめも酷くて、今は名家とは言えない状況だということぐらいでしょうか」


 兄さんのことは言わない。あえて言う必要もないし、あまりベラベラと人に喋るようなことでもないので。


「八歳の君に教えるようなことでもないが、彼らは非合法の集団をバックアップする家だった。

 違法薬物の取り扱いや人身売買、強引な地上げ等だな。彼らが直接やっているわけではないが、そういったことをするマフィアとの癒着が強い家だ。彼ら自身も高利の金貸しや娼館の運営で活動資金を得て、多くの人から恨みを買っていた」


 ……わぉ。

 アシュレイさんは元893さんでしたか。そりゃ親父の教育も偏るよ。いや、正しくは893と繋がりのある政治家さんの部下なんだろうけど。


「彼らの生業が、人から恨みを買いやすいというのは理解できます。それで、その事がどう関係しているのでしょうか」

「知らないかもしれないが、君と懇意にしている商会の代表であるミルク氏はジェイダス家に在籍していた過去がある。在籍といっても、当時娼婦を束ねて頭角を現し始めたミルク氏をジェイダス家が無理やり暴力で従わせていた形だ。

 ミルク氏は十年以上前にジェイダス家から離れているが、あの商会も金貸しや娼館の運営に携わっているからな。ジェイダス家の残党は、自分たちのものを掠め取ったとでも思っているのだろう。

 強引に援助を迫っているようだが、ミルク氏は当然頭を縦には振っていない。警邏騎士(こちら)でも気にかけているが、本格的な抗争になりそうだな」


 ……あれ、なんだか想像以上に大事になっている。

 私としてはまた嫌がらせが起きたとかそんな感じだと思ってたのに。もしかしてひと月前の殺人って、この抗争が理由か。なんで代表は教えてくれなかったんだろう。


 巻き込まないためかな。でも戦闘になったら私がいたほうがいいよね。

 いや、私よりも親父がいた方が良いと思うけど。


 まあ人殺しとかはなるべくやりたくないから、話し合いに持っていきたいけど……、もしかして心配されたかな。

 人間同士の殺し合いには参加させたくないとか。

 代表は私を基本的には一人前と扱うくせに、たまに子供扱いするときがある。

 例えば娼婦とか、娼館のことが話題になると言葉を濁す等だ。


「警邏騎士は法に則って行動する。抗争が始り、市中で戦闘が起きれば両者の鎮圧に動くだろう。

 可能ならばその前にジェイダス家の残党を潰したいところだ」


 そう言って、エースさんはこちらを見る。何かを期待するような目だった。


「……、何かしらの証拠があれば持ってきてくれ。表向きはそうはいかんが、私たちは君たちの味方だ」


 私が訝しげな視線を向けると、エースさんは少し寂しそうな感情と言葉を返してきた。

 なんだろう。よくわからないんだけど、まあいいか。


「それでは、九年前にジェイダス家の傍流の家がいくつか襲撃されていると思うのですが、その当時の資料を見たり、捜査担当者から話を聞いたりって出来ますか?」

「……当時の担当者はよその都市に降りたものが多いが、それならばまとめてある資料の中にあったな。

 そこが、君の知る始まりかね」


 ……?

 なにか大きな勘違いをされている気がする。これは商会ではなく、元々の目的である兄さん絡みの件なのだが、まあジェイダス家関連の問題といえばそうなので、間違ってもいないのだろうか。

 私はとりあえず黙って頷いておいた。





 戦う少年探偵天使って、ごちゃごちゃし過ぎてるとは思った。

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