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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
4章 主人公はもう兄さんでいいと思う
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149話 大事なあの子はプリンセス





 シエスタとアベルが話し合ってから数日後、二人はスナイク家を訪れていた。あらかじめ訪問の約束は取っていたので、特に何事もなく応接間へと通される。

 そこでしばし待つと、スノウが現れた。


「やあ、こんにちは」

「こんにちは、スナイク理事長。このたびは急な面会の要請に応えていただき、ありがとうございます」


 シエスタは立ち上がって、挨拶をする。アベルも立ち上がったが、自分がオマケであることは理解していたので軽く会釈するだけで口は開かなかった。


「まあ座って。

 それで、どういう要件かな。泣く子も黙る監査室に目をつけられるようなことをした覚えはないんだけどね」

「ご冗談を。私たちはどこへ行っても鼻摘みものですが、どこへ行ってもこう言われますよ。

こんな所に来るよりもギルドをなんとかしろ、と」

「へぇ……。それはまた怖いね。

僕はギルドの出資者(スポンサー)であって組織の運営責任者はまた別にいるんだけど、もしよかったら具体的な話を聞かせてもらえるかな。

組合長(マスター)とは知らない仲じゃないし、改善を図るよう伝えておくから」


 シエスタとスノウがにっこり笑い合う。


「……シェ、ゴホンっ。――シエスタ?」


 公的な面会なので、愛称を使うのを避けてアベルがシエスタを呼ぶ。その目にははっきりと頼み事をするんじゃないのかと、不信の色が浮かんでいた。


「気にしないでいいよ、アベル君。これはただの挨拶だから」

「あ、はい……。えっと、僕のことを?」

「まあジオさんの子供だからね。それにそちらの怖い怖いお姉さんの大事な人で、新進気鋭の〈ポピー商会〉の秘蔵っ子とも聞いているよ」

「ど、どうも」


 スノウは安心させるような穏やかな笑みでそう言ったが、アベルはかろうじてそう答えるので精一杯だった。

 スノウの表情も態度も穏やかなのに、こちらを安心させようとしてくれているのに、なぜか飲まれてしまう雰囲気の大きさがあった。


「今回は監査室の仕事とは関係の薄い案件です。ギルドに詳しいスナイク家のご当主様に、情報提供のお願いにやってきました」

「ふぅん」


 あまり気の無い様子で相槌を打つスノウに、努めて笑顔を絶やさずシエスタはお願いをする。


「今回お願いしたいのは――」

「ジェイダス家関連のゴタゴタでしょ。それはいいんだけど、なんでセージ君を連れてこなかったの?」

「――、どういう意味ですか?」


 シエスタは意表を突かれ、しかしポーカーフェイス代わりの笑顔は絶やさず、そう尋ねた。


「そのままの意味だよ。君たちが置かれた現状で、守護都市で起きた過去の事件を探るために僕を頼るという発想はわかる。でもそのためにセージ君を連れてこないのは手抜きじゃないかな」

「……」

「理由はそっちの子かな。アベル・ジューダス君」


 アベルが息を飲む。


「別におかしなことじゃないだろ。君は名家に連なる子供で、神童とまで呼ばれた利発な子だ。そして僕は名家の人間なんだから」

「今の僕は、アベル・ブレイドホームです」

「それじゃあ何でトート監査官にくっついてきたのかな。

 知りたかったんだろ。君の家に起きた過去を。家族を失った理由を。

 そのためにここに来た、違うかい?」


 スノウのアベルを見つめる瞳に、怪しい輝きが灯る。それはカエルを睨む蛇や、ネズミを見つけた猫の目の輝きに近い。

萎縮するアベルを庇うのは当然、シエスタだった。


「まるで全てを知っているかのような発言ですね、ご当主様」

「全ては知らないよ。例えば今起きている問題の犯人とかね。でも過去に起きた事件の中身を、君たちよりは深く理解しているよ」

「……アベルの家族が殺された件と、今商会に起きている問題を同一視していますね」


 煙に巻こうとするスノウに、シエスタは食い下がる。


「うん。おおよそ十年前から、この問題は続いている。セージ君と、あのタイガ代表ももう気づいているよ。

どうやら君たちも一枚岩というわけではないようだね」

「……」

「別に責めているわけじゃないよ。互いに思いやる気持ちが本物でも、人はすれ違うものだからね。

 さて、それじゃあ対価を提示してもらおうか。君たちは情報のために、何を差し出すのかな」


 にやりと、人の悪い笑をスノウは浮かべる。


「……現在、ギルド職員の――」

「シェスっ!! 僕がスナイク家で働きます。そちらが望む限り、誠心誠意」

「アベルっ!?」

「いや、どっちもいらないよ」

「「――っ!!」」


 シエスタとアベルが互いに苦渋の決断を示す中、スノウは呆れたような顔になる。


「いやいや、なんでそんな変な顔をするのかな。

 そもそもちょっとした冗談だったんだけどね。まあ見返りは、そうだね。ジオさんの使ってない武器を一つでどうかな」

「あ、はい。それなら問題ないです」

「ありがとう。

それじゃあ長い話になるから、気になったことは後でまとめて聞いてね」


 心からの感謝を告げて、スノウは滔々と語り始めた。

 余談となるが、門外漢であるシエスタは武具の相場は知らず、商会で働くアベルはそれなりに知ってはいたが、貧困にあえいでいた我が家に長く放置されていたものがまさか呪練兵装であり名工の作だとは思い至らなかった。



 ******



「まず事の始まりはジオさんにある。

 もっともジオさんが何かをしたというよりは、ジオさんの持つ力に魅力がありすぎるという理由なんだけどね。

 もともとジェイダス家は娼館や金融を手がけ、黒い噂の絶えない家だった。

 そして彼らの黒い噂の中に、こんなものがある。

娼婦の中に血統の優れたものを紛れ込ませ、ジオの血を取り込んでいるってね」


 ちらりとスノウはシエスタを見た。彼女の頭の中にはマージネル家の、ダックスとカレンの話が思い出されていた。


「どこかで聞いた話だね。でもこれはもともとジェイダス家が始めたことなんだよ。

それを模倣した――と、いうわけでもないんだろうけど、彼らの行いが理由で、カレンが思い至る噂が生まれた。

そして結果として生まれたケイ君が類まれなる才能を発揮し始めたのを見て、再びそれをやりだした。

 それが約十年前。ジオさんが引退し、次世代の英雄が望まれ始めた時期だよ。

 ジェイダス家はもともとジオさんの恩師である故人、アシュレイ・ブレイドホームの古巣でもある。ジオさんと隔意の少ない名家だったよ。

 でもおそらくはそれが理由で襲撃事件が引き起こされた。あの家は女性の扱いというものが悪辣でね。

ジオさんと関係を持たされた女性の中には、本人や家族の、恋人の意思を無視して強要された者もいたということだから、犯人たちの動機としては怨恨の線が濃厚だね」


 アベルはこの時、もしかしたらと考えていた。

自分の家族が殺されたということは、つまりは恨みを買う理由があり、それは自分や弟に流れる血に理由があるのではないかと。

 もしそうであれば嬉しいと思う反面、遠い記憶になってしまった両親の仲睦まじい姿が嘘であったかもしれないという気になって、複雑だった。

 もっともその感情は、すぐにスノウの言葉で正されることになる。


「さて、そうしてジオさんの子供を生んだジェイダス家に従う家が次々と一族郎党皆殺しにされると、ひとつの問題が起きてくる。

 後継者問題だ。

 当時はまだ多くの力を持っていたジェイダス家の実権を継げるというのは大きな魅力でね。まあ早い話、内紛が起きたんだよ。

 アベル君の家族が殺された理由はこっちだね。こちらの主犯は捕まっていないけど、殺されずに生き延びた人間が何人かいる。そして彼らは犯人の名前をこう証言した。

ジオレイン・ベルーガー、と。

 おそらくアベル君も犯人にそう名乗られたんじゃないかな。もちろん君のお父さんは犯人じゃないとわかっている。

 でも本当の犯人は捕まらなかった。一応その犯人にはフレイムリッパーというコードが与えられたよ」


 アベルの脳裏に浮かぶのは幾度となく夢に見た過去だ。

あいつは自分と同じことを、他の人間にもやっていた。

それは決して許してはいけないことだった。


「当時はまだジェイダス家は健在で、当主一家も無事だった。でもそれがいつまで続くかわからない。そしてフレイムリッパーの正体は分からず、とても強い。厳戒態勢にある家の防衛を嘲笑って襲撃を成功させるくらいにね。

 そしてジェイダス家の当主殿は――ああ、言い忘れていたけど当主殿は女性で、僕と同年代でね。当時は三十代前半ぐらいだったかな。

 その当主殿は子供を産んでいてね。

 まあ、なんだ。詳しいことは情報が隠されていて分からないんだけど、まず間違いなくジオさんの子供らしい。

 そんな訳でフレイムリッパーを筆頭に、恨みを持つ襲撃者と、跡目を狙う襲撃者から本家は狙われていた。

そして子供は生まれたばかりで、守りきれないかもしれない。彼女はそんな不安を日夜抱いていたんだ。

 そんな訳で、守護都市で最も危険な男に守らせようと画策した。それが八年前だよ」


 危険な男。八年前に預けられた、生まれたばかりの赤子。

 シエスタとアベルの頭の中には、すぐに二人の子供の顔が浮かんだ。


「そうだね。その推測は正しい。

 でもジェイダス家に生まれた子供は双子じゃない。

 生まれた子が男の子か女の子か僕は知らないけど、セイジェンドとセルビアンネのどちらかは、間違いなくジェイダス家の直系、正当な後継(あとつぎ)にあたる。

 八年前から五年前の三年間、君たちの家には差出人不明の寄付金が送られていただろう。あれはジェイダス家が保有する会社を経由して送っていたものだよ。

 本家は七年前ぐらいに襲撃を受けて、当主殿も含めて皆殺しにあっているんだけどね。

あらかじめ大金を預けられていた会社は継続して寄付を続けていたんだけど、その会社は不運続きで潰れちゃって、五年前に倒産してそれっきりだよ」


 スノウは肩をすくめた。

 それらを調べるには相応の苦労があった。

特に会社の倒産は誰かの陰謀かと疑いたくなる状況なのに、本当に不運が立て続けに起きたとしか思えず、それが正しいと確認するために相当な徒労を重ねることにもなった。

 ただそんな苦労は微塵も感じさせず、スノウは話を締める。


「そんな訳でセージ君とセルビア君。そのどちらがジェイダス家の後継か、僕も彼らも知る由がない。

 まあ才能を受け継いでいるって点から、ジェイダス家の残党はセージ君こそが後継だと信じているようだけどね。

 そして彼らはセージくんを旗頭にお家の再興を目論んでいる。

ただそのためにはトート監査官。君とタイガ代表が邪魔なんだよ。君たちが才能あふれるセージ君の、あのジオさんの子の手綱を握る保護者として見られているからね」


 スノウはそう言ってシエスタを見た。狙われているのはお前とミルクだと、その目がはっきりと語っていた。





セルビア「あたしお姫様!!」←名家直系でかつ血筋が証明されれば当主継承権第一位

セージ 「僕も、一応そうだね」←名家当主の孫

アベル 「僕は親戚みたいなものかなぁ……」←下級貴族のようなものだが、色々あったので当主継承権で言えばセージよりも高い

カイン 「おお、まじか。俺スゲェ」←こっちも同じ

マギー 「えっ、じゃあ、私は……?」←普通の女の子

マギー 「……えっ?」←普通の家の普通の女の子

マギー 「……」←ごくごく普通の普通すぎる女の子

セルビア「あたしお姫様――痛いっ!!」←姉にほっぺをつねられた名家のお姫様

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